第202話『リモーネ傭兵団~中編~』
シリーズ第202話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
カラフルな絆を紡ぎ合う彩りの義勇軍一行は魔族七英雄の1柱である薔薇の貴公子ベガに囚われたテラコッタの騎士達とマルベリー王国の女王ナモを救うべく前へ前へと歩みを進める。次なる目的地である偉大なる賢人の待つ地ゴギョウ国へ向けて想いを1つに旅路を歩んでいた。
「おお…すごいッス!みんな闘魂燃えてるッス~!」
「本当に見事な腕前ね。きっと傭兵として相当な訓練を積んだんだと思うわ」
「ああ、戦いぶりを見てても参考になるよ!あたいのいた自警団に1人ぐらい欲しいねぇ!」
「彼女達の精霊の息吹、とても力強いわ…幾多の戦いの中で精霊の気が強くなっているのね」
「さすがだな、リモーネ。お前の腕…頼りにしてるぞ!」
手練れの戦士達による洗練された戦いぶりは後方で見守る一行を自然と安堵させる。リモーネ率いる彩りの傭兵団は戦士としての決然たる意思を見せ、一行の前に立ちはだかる悪漢の一団に果敢に立ち向かっていく。武骨なフェアソー山脈の岩肌をカラフルに彩り、華やかに飾った。
「レディバグスウィング!…お願い、シンシアちゃん!」
「うん、任せて!ストームクラッシュ!」
「ぎゃあああッ!!」
「うん、良い調子ね。シンシアちゃん、ありがとう。貴女のおかげよ♪」
「イエーイ!セルジュさんも絶好調だね!このまま一気にやっつけちゃおう!」
瑞々しいキャンディグリーンの紋様を耀かせるシンシアは彩りの疾風を纏ったメイスを振るい、優しいテンダーピーチの紋様を煌めかせながら斧槍を巧みに操るセルジュと鮮やかな連携を見せる。緊迫した戦いの最中に仲睦まじくハイタッチを交わす2人の姿は実に微笑ましい。
一方、別の一帯。朝の澄んだ空気が紡ぐ淡い色彩に一際映える朔の夜の紺碧――ムーンレスナイトブルーの紋様を妖しく煌めかせるのは黒いワイシャツを着て上下揃いの黒いスーツに身を包み、青紫の髪を長く伸ばした暗器使いインバースだった。目にも留まらぬ俊敏な暗器捌きを見せつけ、瞬く間に悪漢を斬り捨てていく。更に後衛にはフレンチグレーの狙撃手ミレディが控えており、表情を変えることなく得物のライフルを以て無慈悲な連射を見舞った。
「うおらああぁぁ!」
「…遅い!ヤーピスダガー!」
「グフッ…つ、強い…!」
「あら、もう終わり?それじゃ、さっさと片付けてしまうわよ。ミレディ、後ろはお願いね」
「…インバース…了解よ」
一方、華やかなマゼンタのワンピースに身を包み、亜麻色の髪を外巻きカールにしているフロリーナは華やかなロゼシャンパンピンクの彩りを煌めかせ、サラマンダーレッドの双斧使いミネルバとパステルピンクの刺突剣士エストの2人と共に戦う。術具であるペンダントにロゼシャンパンピンクの彩りの闘気を込め、華やかなる色彩の術を紡いでいった。
「参ります!ブロッサム・インフィオラータ!」
「何いいぃぃッ!?」
「うむ。フロリーナよ、百花繚乱の術、見事なり!」
「わぁ、ありがとうございます!ミネルバさんに褒められるなんて嬉しいです!」
「みんな強くなってたんですね…わたくしもフロリーナさんに負けませんからね!」
「はい♪エストさん、ミネルバさん、頼りにしてます!」
フロリーナの言葉にエストは微笑みながら頷き、ミネルバは親指を立てて想いを示す。彩りの傭兵団は互いに実力を認め合い、信頼を言葉にしていく。それは社交辞令でもなければおべっかでもない。絆が紡ぎ合う確かな信頼関係なのだ。
その後、数多の色彩を耀かせるリモーネ傭兵団は優位に立ち、フェアソー山脈を牛耳る悪漢の一団を次々と制圧していく。付け焼き刃ではない修練の賜物である奮戦は後方で見守る彩りの義勇軍に介入する余地が無いほど鮮やかで美しい。
「こちらは片付いたわ。案外楽勝ね」
「インバース、さすがね。こうしてまた全員揃って戦えて嬉しいわ」
「だよね~、パオラ!やっぱりアタシ達が全員揃えばなんでも出来るよね!さて、残りもさっさと片付けてゴギョウ国に――」
「ほう…姉ちゃん達、なかなかやるじゃねぇか!俺様が直々に相手してやる!」
「アンタがならず者の頭目ね!おとなしくここを通してもらうわよ!」
悪漢達を率いている一際目立つ巨躯の男が辺りに地鳴りを起こしながらリモーネ達の前に躍り出る。彩りの傭兵団の首領リモーネと副首領シーダが剣を構え、自らの歩む道を切り開く意思を携えて立ち向かっていた。
「さて、覚悟しなさいよ!どいてもらうわ!」
「図体だけの奴に負けないよ~だ!くらええッ!!」
「ガッハッハ!元気なこった!2人まとめて捻り潰してやるぜ!そらよぉ!」
「うわあぁ!?」
「クッ…!」
悪漢達の頭目である大男は丸太のように太い右腕で前方を薙ぎ、リモーネとシーダを軽々と吹き飛ばす。火を見るより明らかな体格差はリモーネ傭兵団の前に文字通り壁として立ち塞がる。しかし、カラフルな絆が一番の武器であるリモーネ傭兵団の面々は怯むことなく、想いを1つに躍動していた。
「まあ、だいたい予想はついてたけど…図体に違わぬ馬鹿力ってところかな」
「…私は図体がデカいだけの三下だと思っていたわ…油断の出来ない相手ね――」
「ディバインアロー!」
「エールバレット!」
「グッ…がはッ…!」
先ず後衛の2人が仕掛ける。ストロベリーシェイクピンクの紋様を可愛らしく煌めかせるスミアが弓矢を、アイオライトブルーの紋様を凛と耀かせるティアモが拳銃を構え、大男に向けて2人が同時に射る。矢と銃弾をまともに受けた大男はバランスを崩し、地響きと共に地に膝をつく。更に畳み掛けるように彩りの力は紡がれ、交差していった。
「輝けッ!サンダーブラスト!!」
「…悪は討つ!メタルストライク!!」
「ぐはっ!ク、クソッ…コイツら、まさかこんなに強いなんて…!」
目映い蛍光オレンジの電光に続き、重厚なガンメタルグレーの刃が容赦無く打ち据える。矢継ぎ早に紡がれては解き放たれるリモーネ傭兵団の彩りの力は大男に次々に襲い掛かり、態勢を建て直す猶予さえ与えない。が、大男も簡単には屈しまいと持ち前の胆力を見せつけ、我武者羅にリモーネ傭兵団に抵抗する。
「クソッ…好き勝手させるか!うおおああッ!!」
「クッ、すごい怪力ね…インバース、援護頼むわ!」
「了解。ヤーピスダガー!」
「こっちもいくよ~!ストームクラッシュッ!!」
「ぐえっ!ぬうぅ…おおらあああッ!!」
パオラが身に纏う分厚い鎧で攻撃を受け止め、インバースとシンシアが軽快な連携を見せる。代わる代わる迫り来る彩りの力を真正面から受け、大男は焦燥と苛立ちに駆られながら腕を乱暴に振り回して叩き付けていた。
大男が前衛に気を取られている間、陣形の両端からカチュアとエストがフェアソー山脈の岩の合間を縫って駆ける。爽やかなファウンテンブルーと柔らかなパステルピンクがXの文字を描きながら交差し、彩りの力となって大男を襲う。
「負けません!マジカルサーベル!!」
「アタシも1発!タイドナックル!!」
「があああッ…!!」
「よ~し、私だって頑張ってみせるよ!ミネルバ、援護をお願い!」
「御意。悪は討つまで!」
シーダとミネルバが心を合わせ、彩りの魔方陣を紡ぐ。シーダのチアフルレッドとミネルバのサラマンダーレッド――彩りの傭兵団の2つの赤が織り重なり、仇為す者を無慈悲に焼き払う業火へと昇華していった。
『悪を焼き尽くせ、灼熱の炎竜の牙!レッドブレイズ・ドラゴンファング!!』
「ぐぅあああッ!!」
大男はシーダとミネルバが紡ぐ彩りの業火に焼かれ、岩肌に全身を打ち付けて敗れた。我が物顔で振る舞っていたホームグラウンドをリモーネ傭兵団に制圧され、大男は煤にまみれながら拳で地面を叩いて悔しがっていた。
「クソッ…この俺様が負けるなんて…!」
「残念だったわね!まあ、こっちは戦闘のプロ集団だもの。相手が悪かったんじゃない?」
「ねぇ、僕の気のせいなら良いんだけど…親分さん、さっきから顔色が悪い気がするんだ。どこか具合悪いのかい?」
「はあ?俺様は生まれてこのかた風邪1つひいたことねぇ超健康優良な男だぜ。でも、言われてみれば…は、腹が…あがっ…うがが、があ…ああ、ぁ…ぁ……」
「お、親分!?ひいいぃッ…コ、コイツは…!?」
「体から…魔物が!?」
ジェロームの予感は図らずも的中していた。目の前の光景に一行は戦慄し、絶句する。蔦の塊の姿をした魔物が悪漢の親玉である大男の体を食い破って現れた。魔物は岩肌を這い回りながらみるみるうちに増殖し、フェアソー山脈の大地を魔の彩りの黒紫に染める。親玉の予期せぬ凄惨な最期を目の当たりにさせられた悪漢達は恐怖に震え上がり、四方八方に散り散りになって逃げ去っていった。
「やっぱり…血の気が多いわりに妙に顔が蒼白いと思ったんだ…!」
「いつかはわからないけど、魔物がコイツの体に寄生していたということね。きっとこれもあのベガという人の仕業だわ!」
「応。諸悪の根源たる彼奴を討つため、悪魔の花を焼き尽くす!」
「ったく…せっかく勝ったと思ったのに、とんだ邪魔が入ったわね…みんな、もう一仕事やるわよ!」
息つく間もなく次の敵が現れ、リモーネ傭兵団は大慌てで陣形を整える。首領リモーネの号令でテキパキと臨戦態勢に入るものの、悪漢達との戦いの直後ということもあり疲労の色は隠せない。
「アイツら…ベガの配下の魔物達か!」
「やはり凄い邪気なのである…あんな奴が人間に寄生することが出来るなんて、恐ろしいのである…!」
「リモーネ…みんな…!」
リモーネ傭兵団が思いがけぬ連戦を強いられ、後方で見守る彩りの義勇軍一行にも不安が滲み始める。果たしてリモーネ傭兵団は想いを1つにベガの刺客を退け、ゴギョウ国への道を切り開くことが出来るのか?彩りの傭兵団の戦いは続く!
To Be Continued…