第201話『リモーネ傭兵団~前編~』
シリーズ第201話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
フランボワーズ王国とマルベリー王国の国境線の最南端、隣り合う2つの王国を跨ぐように聳える世界樹の最奥部の樹の神殿を訪れた彩りの義勇軍一行。若草色の少女リデルが樹の精霊ユグドラシルの試練を乗り越え、世界樹の恵みを体現する者として新たな一歩を踏み出した。
「リデル、見事でした!貴女の強い想い、皆が受け取りましたよ!」
「モニカさん、ありがとうございます。でも…ミュゲさんが助けてくれたから、乗り越えられました」
「えっ、ミュゲが…?どういうことなの?」
「はい…私が腐った土に呑み込まれそうになった時、ミュゲさんが心だけの姿になって助けに来てくれたんです。ミュゲさんもナモさんも、みんな私達を待っているって…」
「そっか~、きっとリデルの想いがミュゲの心に届いたんだね~!」
「うむ。世界樹の恵みがあればナモ様とテラコッタの騎士様方を救うことが出来るだろう。では、マルベリー王国に戻ろうか」
斯くして一行はマルベリー王国へと帰り着く。ツェンソー山脈へ挑まんとして息巻く者も少なからずいたが、既に空は青からオレンジに移ろおうとしており、マグノリアに案内されて王宮に隣接する客人用の宿舎へと通された。
「なんやかんやバタバタしてもうたなぁ…もう夕暮れやな!」
「うむ。ツェンソー山脈は険しいから、夕方から越えるのは難儀だろう。今日はマルベリー王国で1泊し、向かうのは明日としよう」
「うん、そうしましょ!その方がまあ、あたしにとってもいろいろとアレだし、うん…」
「ん…?リモーネ、何かあったのか?」
「な、なんでもないわ!さ、明日に備えて休むわよ!」
一行はマルベリー王国王宮前宿舎に拠点を構え、束の間の休息をとる。次なる一歩を踏み出すべく彩りの義勇軍の皆が意気を高めていたが、何故かレモンイエローの傭兵リモーネはただ1人曇った表情を見せていた。
一方、魔空間~艶麗~。噎せかえるほどの妖気が立ち込める中、涼やかな表情のまま静かに佇む薔薇の貴公子ベガのもとへ配下の青年ラストが焦燥を滲ませながら駆け寄ってきた。
「ベガ様、あの御一行様の中に世界樹の恩恵を授かった方がいらっしゃるとのことです」
「ふむ…世界樹の恵みか…それは捨て置くわけにはいかないな」
「はい。世界樹の恩恵は我らに対抗し得る力…由々しき事態かと思われます」
「そうだね。しかし、世界樹の恩恵を授かった娘も気掛かりだが、最も優先すべきは我らの旗印たる“あの娘”だ。我らの理想郷が近付きつつある今、より気を引き締めてかかるように」
「承知しました。ベガ様の理想郷の実現のため、力を尽くします」
翌朝、一行は次なる目的地であるゴギョウ国へ向けて踏み出そうとしていた。皆が前へ前へと歩みを進めるエネルギーに満ち溢れている最中、リモーネは前日と変わらず落ち着かない様子を見せていた。
「モニカ、点呼終わったよ!み~んな集まったってさ!」
「ありがとう、コレット。うん、みんな揃いましたね。出発しましょう!」
「うん…さあ、今日も…が、頑張っていきましょ!」
「リモーネ、どうした?お前、昨日から何か変だが…まさか、この期に及んでこの軍への謀反など企んでいるのではあるまいな?」
「そんなわけないでしょ!失礼ね!いや、本当に…な、なんでもないんだってば…でも、その…ちょっと――」
「リモーネッ!リモーネェェェェッ!!」
「あっ、あの声…来た!シーダ!!」
リモーネが振り返ると、傭兵らしき武装をした1人の女性が大慌てで駆けてきた。挙動は慌てているが、ダークブラウンの瞳は眠気でぼんやりしている。寝癖の付いた黒い髪を無造作に伸ばし、青い服の上に赤い軽装鎧を着ている。リモーネからシーダという名で呼ばれる女性は一直線にリモーネのもとへ駆け寄っていた。
「シーダ!遅かったじゃない!」
「ごめんね~。魔物に襲われたり賊を退治してたら時間かかって遅くなっちゃった!」
「うん、ほとんどシーダが首突っ込んだからなんだけどね!相変わらず困ってる人がいるとほっとけないんだから…」
「まあまあ、無事に合流出来たから良いじゃないですか。リモーネさんもみなさんもお元気そうで良かったです!」
「うん、ティアモもスミアも元気そうで安心したわ!ったく、いつまで経っても合流出来ないから心配してたんだからね!」
緩やかなウェーブをかけた濃い茶髪を背まで伸ばし、可愛らしいピンクの服を着たスミア――長い銀髪をポニーテールに結い、白い服の上に紺色の軽装鎧を身に纏うティアモ――更に彼女達に続いてリモーネの同僚と思われる武装した者達が次々に現れる。彩りの義勇軍一行はポカンとしながら迎えていた。
「うん、リモーネのことだからきっと心配してると思ったわ。貴女は誰より仲間想いな人だから、私も心配だったのよ」
「あ~、疲れた~…フェアソー山脈前で合流するって言うから今朝4時起きだったんだからね!ふわ~あ…眠いなぁ…」
「まったくだよ。付き合わされる僕達の身にもなって欲しいな…」
「セルジュ、シンシア、ジェローム…それにみんなも…」
濃いピンクの服の上に白に近いほど薄いピンクの鎧を着て、長く伸ばしたブロンドの髪で右目が隠れているセルジュ――爽やかなミントグリーンの服を着て明るい茶髪を肩辺りまで伸ばしたシンシア――男性ものの黒い法衣に身を包み、薄紫の髪をベリーショートに切り揃えたジェローム――その後にも追従して傭兵達が次から次へと一行の前に現れ、シーダから数え始めて合計13人。傭兵達がズラリと立ち並ぶ姿は壮観だ。
「リモーネ…みんなをこの軍に引き入れるために呼び寄せてくれたということなの?」
「その通り!念のため言っておくけど、全員もれなく紋様を持っているわよ!」
「なるほど。リモーネ殿の様子が変だったのは、なかなか現れぬお仲間の身を案じていたということか…これで合点がいった」
「そういうことか。やれやれ、最初から素直に言えば良いものを…」
「ヴィオ…アンタには言われたくないわよ…」
リモーネが照れ隠しに憎まれ口を叩く中、一行は新たに加わった面々と挨拶を交わす。彩りの義勇軍一行は13人の彩りの傭兵達と新たな絆を紡ぐことを嬉々として歓迎していた。
「それにしてもさぁ、リモーネもまた随分とたくさん呼んでくれたもんだねぇ…」
「まあね!ほら、旅は道連れって言うでしょ?みんなあたしの仲間だから、一緒に来てもらおうって思ったの!それに…ベガの騎士に対抗するなら傭兵がたくさんいた方が良いでしょ?」
「騎士に対抗…ああ、そういうことか…」
「はい…私達はテラコッタの騎士様達と戦わなければいけませんものね…神よ…」
「ネイシアさん…私もこの運命に向き合わねばならないのは辛いわ…でも大丈夫。貴女には私が…この軍の皆がついてるわ」
アメジストパープルの戦士ニュクスが優しくネイシアを慰める言葉にヴァレンタインが無言で頷き、リタは物言わずネイシアの肩を抱く。斯くしてリモーネ傭兵団の別働隊の13人を加え、総勢132人となった彩りの義勇軍は次なる目的地ゴギョウ国を目指して堅牢なフェアソー山脈に挑む。フェアソー山脈の登山を楽しみにしていたクレアが軽やかにスキップを踏みながら前に飛び出し、先頭に立って快活に皆を引っ張っていく。
「さあさあ、みんな頑張って!ゴギョウ国目指して張り切って行こ~!!」
「あっ、クレア!あんまり離れすぎないでよ~!」
「クレア殿は登山がお好きなのだな…この地を繁栄させた世界樹の精霊ユグドラシル様もきっとお喜びだろう――」
「うわああッ!た、助けて…!」
「クレア、どうした!?…お前達、何者だ!」
一行の前に悪漢の集団が立ちはだかる。一行を先導していたクレアを追って来たらしく、握り締めた棍棒を乱暴に振り回している。クレアは辛うじて一行のもとに逃げ延びたものの、悪漢達は一行に対して敵意を剥き出しにしており、一帯には俄に緊張が走る。
「テメェら!俺達のシマで好き勝手やってんじゃねぇぞコラァ!」
「好き勝手はしていません。私達はゴギョウ国に行きたいだけです」
「ほう、そうかい。それなら通行料払え!通行料!!」
「そうだな…そこの緑の嬢ちゃんを通行料代わりにいただくか!若いし良い体してんじゃねぇかよ…グヒヒッ!」
「ふえぇ…た、助けて!」
「貴様…コレットに手出しはさせん!この私が相手に――」
ドンッ!!
一瞬だった。ゼータがビームソードを構えるよりも早かった。コレットに迫ろうとした悪漢に向けてフレンチグレーの閃光が放たれる。リモーネ傭兵団の狙撃手ミレディが無言のまま得物のライフルを見舞い、一撃のもとに悪漢を退ける。
「……」
「やりやがったな、クソガキ!もう許さねぇ…全員ボコボコにしてやる!!」
「みなさん、ここはわたくし達リモーネ傭兵団にお任せを!全員集合のフルパワー、お見せ致します!」
「エスト…わかりました。リモーネ傭兵団のみなさん、お願いします」
「そう簡単にいくかよ!姉ちゃん達、負けても泣くんじゃないぜ!」
「法に代わって我らが貴様らを裁く!悪は灰塵に帰すべし!!」
「ミ、ミネルバに先越されちゃった…いざ、尋常に勝負だよ!」
「フフッ、シーダは相変わらずね…さあ、みんな!気合い入れていくわよ!!」
『リモーネ傭兵団、出撃ッ!!』
リモーネの号令で彩りの傭兵団が悪漢の一団に相対する。首領のリモーネを筆頭にシーダ、ミネルバ、パオラ、カチュア、エスト、ティアモ、スミア、シンシア、セルジュ、ジェローム、インバース、ベルカ、ルッツ、フロリーナ、ミシェイル、ヒース、ミレディと次々に雪崩れ込む。切り込み隊長シーダがチアフルレッドの紋様を耀かせ、得物の大剣を猛々しく振るった。
「くらえええっ!」
「うぐっ!ぐうぅ…!」
「シーダ、やるじゃない!腕は落ちてないみたいね♪」
「リモーネ、ありがと!さあ、派手にブッ飛ばすわよ~!」
一方、別の一帯ではアイスグリーンの重装兵パオラとガンメタルグレーの巨斧使いベルカが堅守を見せ、蛍光オレンジの彩りの魔術師ルッツとガーネットレッドの棍術士ミシェイルが勇んで飛び込み、目の覚めるような鮮やかな連携を見せる。蛍光オレンジの電光とガーネットレッドの猛打は筋骨隆々の屈強な男達をいとも簡単に蹴散らしていった。
「いっけえぇぇ!サンダーブラスト!!」
「ブッ飛べ!岩砕轟撃襲!!」
「ルッツ、ミシェイル、さすがね。2人の連携は見てて惚れ惚れするわ」
「フフン、ウチとミシェイルは無敵のコンビだもん♪それにパオラとベルカが攻撃を受けて踏ん張ってくれたおかげだよ!マジサンキューね!」
「…どういたしまして。さあ、次に行きましょう!」
一方、メルローパープルの紋様を持つジェロームは傭兵団の中でも後方支援――殊に治癒を担当する。得物の杖でメルローパープルの法力を練り上げ、血気盛んな面々の戦いの傷を癒す優しい彩りの力を紡いでいった。
「カチュア、無理しないでよね…ファーストエイド!」
「ジェローム、サンキュー!さ~て、ガンガンいこうか、ヒース!」
「おう!正義のために、気合い入れていくぞ~!!」
「あっ、ヒース!?キミはまだ治療していないじゃないか!ちょっと待ってってば!」
逸る気持ちを抑えきれぬ蒼き戦士2人が制止を聞かずに突進していくが、彼女達にとっては何も驚くことはない。いつも無茶をするカチュアとヒースの2人が敵に向かって駆けていく背中をジェロームがやれやれと呆れながら見送る光景は日常茶飯事なのだ。
リモーネは自らも悪漢に挑みつつ、共に戦う彩りの傭兵団の仲間1人1人に視線を送る。戦いの中で信頼を築き合い、カラフルな絆を紡ぎ合う18人の彩りの傭兵達が鮮やかに躍動する。彩りの義勇軍の歩む道を切り開くため、リモーネ傭兵団の戦いは続く!
To Be Continued…