第198話『贖罪』
シリーズ第198話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
鮮やかな蛍光マゼンタの彩りが煌めく左手は哀しく虚空を泳いでいる。フランボワーズ王国とマルベリー王国の戦乱の真相を突き付けられ、混乱の淵に陥れられる。テラコッタの騎士18人とマルベリー王国の女王ナモが人型のブーケに姿を変えられ、ベガの居城へと消えていった。
「マグノリア…アンタ、いったいどういうことなの!?」
「実は…“あの御方”の謁見の際は兵は全員玉座の間から出払い、“あの御方”とナモ様のお2人だけが会談を執り行っていた…私達は謁見で話し合われて決まったことをナモ様から知らされるだけだったんだ…」
「なるほどねぇ…あの女王様なら掌で転がせると思ったんだろうな…」
「マグノリア様、それでもなんとか暴けなかったのかよ?あんたほどナモ様の近くにいる人なら、その辺りに気を回すぐらい造作も無いだろ?」
「…すまない、ジャンヌ。“あの御方”とナモ様の会談内容は重要国家機密とされていて、私にも会談に介入する余地は無かった…それに……知らなかった……」
「えっ?」
「知らな、かった…“あの御方”が、魔族だなんて…知らなかったんだ…知らなかったんだよおおぉぉ!うっ、うううっ…!」
「マグノリア様…」
マグノリアは罪悪感に溺れながら力無く泣き崩れる。魔の瘴気の中に消えていく寸前、自らに向けられた主君ナモの笑顔を思い返す度に涙が溢れてはこぼれ落ちる。主君を守れなかったことへの無力感がマグノリアの心に影を落とした。
「知らなかった、で済む問題ではない。お前には償う義務がある」
「…そうだな…私は主君を守れなかった…取り返しのつかないことをした罪人だ…!」
「いいえ、取り返すことは出来ます。償おうとする尊い意思があれば貴女の業は必ず精算されますよ」
「ネイシアの言う通りじゃわい!ほれ、お前さんもワシらの一門で巡業するぞい!」
「何?私が貴女方と…?」
「昨日の敵は今日の友、っていうもんな。俺達と一緒にナモ様を助けに行こうぜ!」
ステラとリタの言葉を受け、マグノリアは暫し無言になる。マルベリーパープルの女王ナモを一途に想い続ける不器用ながらも真っ直ぐなマグノリアの想いが結論を出すのに多くの時間を要することは無かった。
「…わかった、謹んで貴女方に同行しよう。他の者はどうだ?」
「ハッ!あたしゃコイツらと組むなんざまっぴらさ!御免被らせてもらうよ!!」
「右に同じ。失礼する」
「マチルダ…ガンズ…」
「ポルポ、残念だが致し方無い。では、明後日の朝までにマルベリー王国軍の者で皆様に同行する希望者を募ろう。強制はしない。各々ゆっくり考えてくれ」
「では、私達も一度戻って態勢を建て直しましょう。ビビアン様もお疲れになられたようですし…」
「そうですわね、ミルティさん。わたくし達にも時間が必要ですわ。今後の方針についても一度話し合う必要もありますもの」
「…ということさ。まあ、互いに時間が必要みたいだねぇ…」
「では、明後日の朝、この場所で落ち合うことにしましょう。マグノリア、よろしいですか?」
「承知した。では、また明後日希望者を連れて伺おう。皆様もゆっくり休んでくれ」
その同じ頃、魔族七英雄ベガの居城である魔空間~艶麗~――噎せかえるような奇妙な妖気が充ち満ちる中、ベガとラストは自らの傀儡となったテラコッタの騎士達とマルベリーの女王ナモを優しく愛でていた。
「フフフッ…美しいよ、ナモ。君の笑顔、君の可憐さ、全てが私の傍に在る…この上無い幸福だよ」
「ニャハッ…ベガ様ァ…」
「ラスト様…どうか貴方様の愛を…」
「ああ、もちろん良いよ。エーデル、僕の愛をたっぷり注いであげるからね…」
一方、フランボワーズ王国城軍議室。彩りの義勇軍全員が一堂に会するものの、テラコッタの騎士達が座っていた席はぽっかりと空いており、空気は重くどんよりと沈んでいた。
「まさか…テラコッタの騎士達がこんなところで…」
「…奴らは以前にもベガに操られていた。私はこうなるかもしれないとは思っていたが…やはりにわかには信じがたいな…さて、これからどうする?」
「街で聞き込みしたんですけど、山を越えた先にあるゴギョウ国に偉大なる賢人様がいらっしゃるとのことです。何か力になってくださるかもしれません」
「ケイト、ありがとうございます。では、明後日にはフランボワーズ王国を発ちましょう」
「アタシ達も一緒に旅するよ!彼にフランボワーズ王国を戦場にした罪を償わせるわ!」
「あの…わたくしもご一緒させてください!わたくしも騎士様方とお隣のナモさんを助けに行きたいです!お願いしますわ!」
「…ビビアン様…承知しました。ですが、危険な旅になりますゆえ、ゆめゆめ我々から離れませぬように」
翌日、一行は束の間の休息をとる。訓練に励む者、息抜きをする者、軍の雑務をする者――それぞれに限られた時間を過ごす中、モニカ、ビアリー、エレン、コレットの4人が王城前の庭園で花々を見ながら静かに語らっていた。
「なんか昨日一昨日でバタバタしちゃったけど…私達が頑張って、テラコッタの騎士達とマルベリー王国の女王様を助けなきゃね!」
「ええ、あたくし達自身で運命を切り拓きましょう。たとえその先にどんな結末が待ち受けていようとも…」
「…うん。エーデルがいなくなっちゃったの寂しいけど、わたしも頑張るね!」
「コレット…貴女は強いですね。私もコレットを見習って、前を向いて戦います!」
コレットはニコニコと微笑み、僅かに翳りを残していたモニカの心を癒す。彩りの義勇軍の1人1人が新たな使命を胸に抱き、美しき花々薫るフランボワーズ王国から歩みを進める決意を固めていた。
更に翌朝、一行はマグノリアと約束した国境線に集結した。程無くマルベリー王国の方角からマグノリアが同行者を連れて歩み寄る。彩りの義勇軍一行とマルベリー王国の面々が再び向かい合うが、両者は敵としてではなく、味方として顔を合わせていた。
「マグノリア…おはようございます!」
「モニカ殿、同行希望者を連れて来た。こちらの4名が同行を申し出てくれた」
「よっ!天下無敵の武装商船団長ポルポ様が来てやったぜ!」
「いたた、噛まないで…っと、おはようございます!」
「わほ~い!フルパワーニトロでファイヤー!!」
「フフッ、朝から元気ね…まあ、私も最善を尽くすまでよ」
マグノリアに連れられ、オクトパスレッドの武装商船団首領ポルポ、サバンナグリーンの猛獣使いカチディス、シグナルレッドの快活少女ハドソン、白藤色の弓兵サラが集った。残念ながらジャンヌ、コーネリア、シンディ、マチルダ、ガンズは同行を拒否して去って行ったが、4人が新たに絆を紡ぐべく名乗り出たことは悲嘆に翳った一行に一条の光を灯した。
「ポルポ、カチディス、ハドソン、サラ、一緒に歩む道を選んでくれてありがとうございます。どうぞよろしく」
「ま、丘にあがったついでだ!おたくらの手伝いしてやるよ!」
「うん、いっちょ気合い入れていこうか!アタシのペット達ともどもよろしく!」
「いぇい!仲間入り出来て嬉しいよ~♪ガンガン突っ走っていこうね!」
「どうぞよろしく。任務はパーフェクトにこなしてみせるわ」
「テラコッタの騎士様方を救うため、ナモ様への贖罪のため、不肖マグノリア、共に歩み、共に戦う!」
蛍光マゼンタの邪術士マグノリアを筆頭に、ポルポ、カチディス、ハドソン、サラが彩りの義勇軍に加わる。テラコッタの騎士達が離脱し、総勢119人となった彩りの義勇軍はベガを討つための旅路を踏み出そうとしていた。
「さて、総大将モニカ殿、我々はどこに行くんだ?」
「ゴギョウ国を目指すことにしました。深き叡知を持つ賢人がいらっしゃると聞いたので、何か情報があるかと…」
「ゴギョウ国か…ならばマルベリー王国から西へ進み、フェアソー山脈を越えて――」
『ヴオオオッ!!!』
フランボワーズ王国とマルベリー王国の戦いの名残が僅かに残っている大地から植物の魔物が次々に這い出て来た。魔の花々はフランボワーズ王国に咲き誇る可愛らしい花々とは似ても似つかない禍々しい姿だった。
「うわわっ!じ、地面からいきなり現れた…!」
「この魔物…ベガと同じような邪気を感じるのである!」
「ベガの邪気がこの地に留まって魔物を生み出したのね…恐ろしいわ…」
「あの男…どこまであたくし達の運命を弄べば気が済むのかしら…!」
「さあ、参りますわよ!全軍、陣形用意!!」
軍師ルーシーの号令を受け、軍議で示し合わせた通りの陣形を素早く組む。新たに加わったマグノリア、ポルポ、カチディス、ハドソン、サラも自然に陣に加わり、果敢に彩りの力を振るっていった。
「サイコハルバード!」
「オクトポーデサーベル!」
「ニトロタックル!」
「バニシングシュート!」
「ギャアアアッ!!」
「みんな、すごいわ!よし、アタシだって…ネロ、噛み付きよ!」
新たに加わった彩りの戦士達が彩りの力を叩き込み、魔物達をじわじわと駆逐していく。彩りの義勇軍が順調に攻勢を構築していく中、マグノリアは息を潜めて静かに陣形を移ろっていた。
「…よし、この陣形で…むむっ!?」
「キャッ!マグノリアさんでしたか…すみません…」
「ルーシー殿…失礼、背中を拝借する」
マグノリアは北側の陣営を指揮するルーシーと背中合わせになり、南側の陣営に指示を送る。かつて敵対していた両軍の軍師が互いに背中を預け合い、勝利という共通の目標に向けて心を1つに合わせていた。
「パオラ殿、サンディア殿、前に出てくれ!…よし、後衛、掃射!」
「マグノリアさん、さすがですわ!戦局を見通す広い視野、的確な状況判断力…わたくしもご教示願いたいですもの!」
「ルーシー殿…お心遣い、痛み入る。私は贖罪の身、ナモ様に報いなければ…!」
マグノリアは一国の軍師としての経験を生かし、ルーシーをサポートしていた。2人の見事なゲームメイクで魔物の群れは瞬く間に数を減らしていき、早くもとどめの一撃を見舞わんという状況に展開していく。
「よし、決めにかかろう…ルーシー殿、援護してくれ!」
「承知しましたわ。この戦い、わたくし達の一手でチェックメイトと致しましょう!」
ルーシーの水色とマグノリアの蛍光マゼンタが重なり、彩りの魔方陣を紡ぎ出す。マグノリアは主君ナモへの一途な想いとルーシーと紡ぎ合う絆を織り合わせ、美しく昇華した彩りの力を解き放った。
『受けよ、我らが思念の波濤!サイコウェーブ・スプラッシュ!!』
ベガの思念が生み出した魔物達は蛍光マゼンタと水色のサイコパワーの波に呑み込まれ、跡形も無く消えていった。彩りの義勇軍の指揮を執る2人の軍師を中心に輪が作られ、皆で勝利の喜びを分かち合った。
「よっしゃあ!さっすがマグノリア様だな!」
「ルーシー!いつものことだけど、今日も冴えてるわね!いつもお疲れ様、私達の軍師さん!」
「良かった…私も力になれるのだな…これからも共に勝利のために力を合わせようではないか、ルーシー殿!」
「フフフッ…はい♪」
得意気に親指を突き立てるマグノリアに応え、ルーシーは優しく微笑む。一行はマルベリー王国軍の5人と新たな絆を紡ぎながら薔薇の貴公子に囚われた彩りの騎士達と桑紫の女王を救うための一歩を踏み出した。
To Be Continued…