第195話『莓桃の王妃、桑紫の女王』
シリーズ第195話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
美しき花薫るフランボワーズ王国に隣国マルベリー王国の侵略の魔の手が迫り、彩りの義勇軍は毅然とした意思を携えて守るための戦いに挑む。マルベリー王国軍の一小隊長であるシグナルレッドの彩りの戦士ハドソンは橙色の彩りの角力格闘家ステラと真正面からぶつかり合い、激しく火花を散らしていた。
「ハァ、ハァ…お前さん、なかなかやるのう…」
「貴女こそ、強いね…ハァ、ハァ…」
「ごっつぁんです!良い一番になったわい…こりゃ勝たねばのう!ぬううぅおおおッ!!」
「アタシだって!うあああぁぁぁッ!!」
一方、ステラとハドソンとは対照的に両軍の弓兵は静かに火花を散らす。仇為す者を空間ごと消し飛ばす能力を持つ白藤色の彩りの弓兵サラは妖しく微笑み、涼緑の狩人フェリーナ率いる彩りの弓兵達に対して鏃を向けていた。
「貴女…たしかサラだったかしら。貴女の精霊の力はいったい…?」
「…それを聞いてどうするつもり?」
「質問を質問で返すんじゃねぇ!先にフェリーナが聞いてるんだから答えろ!」
「…私の力…暗き亜空を顕現して操るの。根源たる力は冥の力よ」
「冥の精霊の力!?貴女もリタ達と同じ…!」
「あら、心当たりがあるの?同じ根源を持つ縁、その方々もパーフェクトに討ってみせる…どいてもらうわ!」
物静かなサラが闘志と敵意を剥き出しにして弓と矢を構え、全身に白藤色の闘気を纏って対峙する。初めて顔を合わせる彩りの戦士が敵対勢力の一員――スポーツマンシップのもとに戦ったビンニー国の闘技大会とは異なり、サラ達マルベリー王国軍の将達は純然たる敵意を突き刺す。灰色の障壁で隔てられた王国の間で彩りの力が哀しみと憂いを帯びて交差していた。
一方、かつて一行と対峙した彩りの戦士達もマルベリー王国軍の将として立ちはだかる。パンサーブラックの格闘家ジャンヌは勇んで戦乱という名のリングに飛び込み、彩りの義勇軍の待ち受ける一帯に飛び込んでいった。
「この前はよくも僕達を騙してくれたね…許さないよ!」
「フン、騙される方が悪いんだよ!テリー・フェルナンデスを倒すついでにお前らもブッ飛ばしてやる!」
「貴女がジャンヌか…アタシの拳でギャフンと言わせてやるからね!」
「カチュア、その意気だぜ!ウチの毒の拳もたっぷり味わわせてやる!」
「うおおおッ!みんな闘魂燃えてるッス!正義の拳を叩き込んでやるッス~!!」
「フン、やれるもんならやってみろ!稀代の天才格闘家ジャンヌ・パンサー様にひれ伏せッ!!」
テリー班とジャンヌ小隊が拳を交えるその同じ頃、キャンディオレンジの彩りの戦士コーネリアはライバルであるアミィと相対する。マルベリー王国に集っていた腕利きの傭兵達を従え、したたかにアミィを追い詰めていった。
「アミィちゃん、あ~そぼ♪キャハハハハッ!」
「うええっ…アカン、前より強くなってるやん…」
「ヘヘッ、今日はアミィちゃんと遊びたいお友達をたくさん連れてきたピョン♪みんなで楽しく――」
「そうはさせんわぁ!アミィ、小生らが着いてるでごわす!」
「一緒ならきっと大丈夫。私の毒の力で援護するよ!」
「アミィ、我も参るぞ!我が刃で消し炭にしてくれるわ!」
「ヴァイン姉ちゃん、オトロヴァ姉ちゃん、ミネルバ姉ちゃん…おおきに!みんな頼りにしてるで!」
両軍がそれぞれに火花を散らす中、薄墨色の勘違い東方戦士シンディは相変わらずのマイペースぶりを見せる。他の小隊が戦っているのに目もくれず平原に蓙を敷き、自軍の兵達のみならず目の敵にしていたクレアを筆頭にアルボル、グラーノ、リヒト、リンドにも東方の茶を振る舞う。敵であるクレア班の面々はもちろん、味方である小隊の兵達も開いた口が塞がらない。
「な、なんなんだべ…これも作戦のうちだべか?」
「うん、シンディはこういう人なんだ…なんか面白い人なんだよね…クスクス…」
「うん、イケるイケる!普段飲んでるお茶とは違う味がするけど、ところ変わればお茶も変わるってわけだね~。きっとこれも東方の――」
「No!作法がなっておらぬZ!茶の席で足を崩してペチャクチャ喋るなど、無礼千万Death!!」
「それにしても…なんでみんなが戦ってるのにお茶なんてしてるんだろ?変な感じがするな~…」
「クンクン…苦イ匂イ、渋イ匂イ…クンクン…」
戦いの場だろうとお構い無しに茶の席を拵えるシンディには驚くばかりだが、サバンナグリーンの彩りの猛獣使いカチディスの戦局は更に輪をかけて酷い。戦いのために訓練し躾していた獣達がことごとくリデルとタンガに懐いてしまった。リデルの若草色とタンガのライムグリーンが獣達の闘争心を和らげ、見違えるように穏やかにしていた。
「おい!おいッ!ソイツらは敵だぞ!?私の言うことを聞くんだ!」
「ク~ン…クウゥ~ン…」
「よしよし、いい子ですね~!みんな可愛いですね、リデルちゃん♪」
「はい…そうですね、タンガさん。フフッ、舐めたらくすぐったいです…」
「アハハ、すご~い!みんなペット同然だね~♪」
「獣達が完全に戦意喪失してるわ…こんなことってあるのね…」
「あれだな~…きっと2人の持つ天性の才能なんだな、うん」
「な…なんでこうなるんだよぉ~~~!!」
カチディスの悲痛な叫びをよそに、ビクトリアとヴィオがタッグを組んでハンターグリーンの狙撃手マチルダとハンティングピンクの狂戦士ガンズの2人と激しくぶつかり合う。ビクトリアは時にぶつかり合い、憎まれ口を叩き合いながらも絆を紡ぐヴィオと想いを重ね、元同僚であり好敵手であるマチルダとその相棒ガンズを撃ち破るべく、深紅の彩りの力を解き放つ。相棒ヴィオも静かに闘志を燃やし、コーヒー色の彩りの刃を振るった。
「そこだ!アリーヴェデルチ!」
「グッ…ガウウゥゥッ!」
「ブッ飛びな!ロックランサー!」
「ヒャヒャヒャッ!相ッ変わらずスッとろいねぇ!あたしゃ目ぇ瞑ってても避けられるよ!」
「チッ、相変わらずの減らず口じゃないのさ…ヴィオ、頼りにしてるからね!しっかり頼むよ!」
「了解。さて、仕事するか…まとめて切り刻んでやる!」
一方、マルベリー王国陣営の中核では妖しい闘気が充ち満ちていた。マルベリー王国軍の陣頭指揮を執る蛍光マゼンタの邪術士マグノリアは紋様の印された左手でグズベリーグリーンの彩りの斧使いスグリの喉元を鷲掴みにして握力だけで締め上げ、妖気を迸らせる。蛍光マゼンタの妖気は仇為す者に無慈悲な牙を剥いた。
「フフフ…くらえ、サイコバスター!」
「うわあああぁぁッ!!」
「スグリ!これが常闇の竜の吐息か…なんて威力だ…!」
「リタ御姉様も一撃で討たれた悪魔の力…ああ、恐ろしいですわ…」
「フフッ…さて、次はどなたが吹き飛びたいのかな?まあ、殺しはせんから安心するがいい。“あの御方”の御慈悲が――」
「マグノリア~~ッ!!」
「な、何ッ!?この声は…ナモ様!!?」
マグノリアの闘争心にブレーキがかけられ、彩りの義勇軍に刃を向けんとしていた動きが静止する。マルベリーパープルの彩りの暗愚王ナモが姿を現し、マグノリアに抱き着いてきた。呆気にとられる側近マグノリアを尻目にナモは無邪気に笑っている。
「ナモ様…何ゆえに?」
「ん~?せっかくパーティーやってるのに見てるだけなのは寂しくて…わたしもまぜてよ~!」
「承知しました…全軍に告ぐ!我らがナモ女王様が陣中見舞いにお越しくださったぞ!!必ずや勝利を収めるのだああぁぁ!!!」
『おおおおぉぉぉぉ~ッ!!』
君主の姿にマルベリー王国軍の士気は俄に高まり、地鳴りのような鬨の声が響く。先ほどとは打って変わって兵達の意気が高まっており、彩りの義勇軍もじわじわと気圧されていった。
「アイツがマルベリー王国の女王ナモ…ガキみたいな奴だが、ヤバそうな奴なのは間違いないな!」
「ふええ…兵隊さんがいっぱい来る…怖いよぉ…」
「コレット、あまり前に出るなよ。誰が来ようとお前は私が守ってやる!」
「ゼータ…ありがと♪じゃあ、わたしはゼータを頑張って応援するからね!2人で一緒に――」
「見て!あれってまさか…ビビアン様じゃない!?」
カタリナの言葉を受け、彩りの義勇軍の視線が一点に集まる。視線の先に立っていたのは間違いなくフランボワーズピンクの彩りの王妃ビビアンだった。玉座の間でビビアンを守っていたストロベリーレッドの剣士フレッサとブルーベリーブルーの槍術士ミルティが追従しているものの、その表情はげんなりとしている。
ナモの登場に沸き立っていたマルベリー王国軍とは対照的に、フランボワーズ王国軍と彩りの義勇軍は唖然呆然としている。フレッサとミルティの表情を見るに、ビビアンがどれほどの様相でフレッサとミルティを退けて国境線に現れたのかは想像に難くない。
「ビビアン様…!?」
「モニカさん、お待たせしました♪フレッサとミルティがなかなか許してくれなかったんですけど、ようやく来られましたの。さあ、一緒に参りましょう♪」
「…国王女王両陛下、どうかお許しを…」
「すみません、モニカさん…私達だけでは止められませんでした…お手数おかけ致します…」
「…わかりました。では、参りましょう!私達の想いをビビアン様に見届けていただくため、勝利のために力を尽くすまで!!」
フランボワーズピンクの王妃ビビアンとマルベリーパープルの女王ナモ、両軍の旗印たる色彩が戦場に現れ、事態は風雲急を告げる様相を呈している。守る戦いに臨む彩りの義勇軍とフランボワーズ王国軍、侵略の牙を剥くマルベリー王国と将として戦う彩りの戦士達――両軍が散らす火花は益々強く燃え上がる一方だ。
そんな中、戦いどころではないという者がいた。山吹色の皇騎士マリーを首領とするテラコッタ・ソシアルナイツの18人だ。彼女達は戦いの最中に突如として苦しみ始め、既に思考さえも蝕まれている。生気を失った瞳は焦点が定まっておらず、歩様も奇妙なほどにフラフラしている。辛うじて自我を保っている皇騎士マリーが必死に呼び掛ける中、彩りの騎士達はただただ主君の名を口にしていた。
「バジル!エーデル!ミュゲ!おい、しっかりしろ!」
「ベガ様…ベガ、様…」
「ベガ様…私達の、主君…」
「愛しい主君…ベガ、様…」
「みんな、しっかりしろ!なんとか…この戦いを勝利、せねば…!グッ、ううっ!…頭が、痛い……ベガ…様……ベ、ガ、サ、マ……」
To Be Continued…