第194話『亜空の一矢、汽炎の猛進』
シリーズ第194話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
フランボワーズ王国を守るための戦いに挑まんとする彩りの義勇軍一行。鰯青の蛮族モリスティアからの情報提供を受け、マルベリー王国には多くの彩りの戦士達が将として控えていることを知る。道を違えた彩りの戦士達と刃を交えることを不本意に思いながらも、目の前に迫る戦いへの決意を新たにしていた。
「向こうの一門にも御紋を持つ輩がたくさんおるんじゃのう…ワシらも気合い入れて臨まんとなぁ!」
「…はい…えっと…わ、私も頑張ります…!」
「その意気よ、リデルちゃん。私もスプルースの大自然の力でフランボワーズを守ってみせるわ!」
「ええ。たとえ理由があれど隣国の安寧を脅かすなど断じて許されません。我らアザレアの戦士達も力を尽くして参ります!」
「よっしゃ、気合い入ってるじゃん!アタシも最高のキラーチューンを聴かせてやるぜぇ!」
紫電の彩りの詩人ヘンドリックスが高鳴る心に委ねるままにエレキギターを掻き鳴らし、一行のボルテージも自ずと高まっていく。皆が戦いに向けて中、モニカ、ルーシー、ビアリー、ヴィオ、ミルティの5人は軍議室にて今度の方針を話し合っていた。
「まさか…志を同じくすべき祝福の証の戦士が、あたくし達の運命を歪める悪となってしまうなんて…」
「ああ…避けなければならぬ戦いだったが、始まってしまったものは仕方ない。戦意有りと奴らにみなされた以上、私達はもう小細工は不要だろう」
「ええ。わたくし達は全員で1つのスクラムを組み、状況に応じて散開して戦いましょう。フランボワーズ王国の兵の方々とも連携して兵力差を補っていく必要がありますわ。いつでも出撃出来る体勢を整えましょう」
「では、私が夜間警備の兵達を手配します。いつ出撃となるかはわかりませんが、それまでゆっくりお休みください」
「ミルティ、ありがとうございます。私達の最善を尽くし、フランボワーズ王国を守りましょう!」
フランボワーズとマルベリー、両国の情勢が緊迫する中、コンクリートの障壁が聳える国境付近にフランボワーズ王国兵が列を成して警備するなど厳戒体勢が敷かれる。しかし、結局、この日マルベリー王国の侵攻は早朝の一度きりであった。フランボワーズ王国の夜は穏やかに更けるが、隣国の脅威はいつ迫り来るとも知れず、一行には束の間の安息に浸る猶予もなかった。
翌日、マルベリー王国。マルベリーパープルの彩りの暗愚王ナモ率いる彩りの戦士達は既に戦いへの意気を高めており、勇んでフランボワーズ王国へと攻め込まんとしていた。
「では、行こう。マルベリー王国の正義を体現する我が同志達よ!」
「あいよ。アイツら目にもの見せてやらぁ!ヒャヒャヒャヒャッ!」
「うん、勝利に向けて全力疾走だね!がんばろ~!」
「そうだねぇ、ハドソン。ホームグラウンドの海じゃないけど、アタシもちょいと気合い入れていくか!」
一方、フランボワーズ王国。マルベリー王国の侵攻が即座に伝えられ、彩りの義勇軍も玉座の間に集結する。皆の緊迫感は最高潮に達し、カラフルな闘気が王城全体に充満していた。
「伝令!マルベリー王国がフランボワーズ王国領へ向けて進軍を開始しました!」
「了解。では、私とフレッサは玉座の間でビビアン様をお守りします。皆様、御武運を!」
「ええ。この戦い、断じて負けるわけには参りませんわ!あたくし達の運命を弄ぶ悪を討つのです!!」
「不本意ですが、私達の歩む道を切り開くためには戦うしかありません!みんな、いきましょう!!」
『祝福の証の彩りのもとに!!』
ビアリーとモニカの号令を受け、改めて全員が想いを1つにする。フランボワーズピンクの王妃ビビアンを守るフレッサとミルティを残し、彩りの義勇軍はフランボワーズ王国の兵達と共に勇んで戦いへと踏み出していった。
両国の国境線――冷たい灰色のコンクリート打ちっぱなしの分厚い壁は2つの王国の冷えきった関係を如実に表している。両軍は哀しき障壁の前で睨み合い、彩りの力を交えんとしていた。
「ごきげんよう、誇り高きフランボワーズ王国の戦士諸君。これから皆々様を永遠の悪夢へとご案内しよう!」
「フッ、やれるものならやってみろ。その幻想ごと貴様らを切り刻んでやる!」
「幻想を現実とするのが我らの持つ“力”よ!貴様らフランボワーズ王国を此処で打ち砕き、我らマルベリー王国の掌中に収めるのだッ!!」
「…たとえどんな理由があったとしても、侵略なんてさせません!いざ、尋常に勝負!」
「…そうかい。ならば此方も手加減は無しだ!いくぞ~ッ!!」
『おおおおおおおお~ッ!!』
兵力で大きく勝るマルベリー王国が蛍光マゼンタの邪術士マグノリアの号令を受けて雪崩れ込み、カラフルな絆を以て立ち向かうフランボワーズ王国が毅然とした意思を携えて迎え撃つ。国境で隔てられた2つの王国が真っ向から衝突し、戦いの火花を散らす。
「でやああぁぁ!!」
「うおおおおあッ!」
「負けはしません…ブライトエッジ!!」
「燃えろ!ロアッソフレイム!!」
一行の先頭に立つモニカは相棒である赤き蛮族王エレンと心を合わせ、マルベリー王国兵に立ち向かう。モニカの金色とエレンの赤が織り重なり、ダイヤモンドのような輝きとルビーのような煌めきを放つ。旅の始まりから紡がれ続ける2人の絆は2つの王国の間で美しく耀いていた。
一方、マルベリー王国軍の暴走機関車が猪突猛進の勢いで彩りの義勇軍に迫っていた。シグナルレッドの紋様を爛々と耀かせる少女ハドソンだ。彼女は武器らしきものは持っておらず、鍛え上げた己の肉体を武器として戦うらしい。彼女の全力疾走の躍動はしなやかでありながら力強く、見る者を圧倒していた。
「く、来るのである…スカルシェイド!」
「ソニックブーム!」
「うおおおああぁぁッ!うりゃりゃりゃりゃああッ!!」
「嘘っ!?2人の術を受けて平気だなんて…計算外の推進力だわ!!」
「うおわわ…兎神脚!…って、がふっ…!!」
ハドソンの猛烈な突進はカシブとケイトの術を受けても止まらず、赤く燃える疾駆を以て容赦無くラパンを吹き飛ばす。尚も勢いは衰えず、このままでは一気に強行突破を許す危険性がある。が、彩りの義勇軍も黙って見過ごすことは無い。
「くらええぇッ!ニトロタックルッ!!」
「させんぞい!どっせええぇぇいッ!!」
「おわわっ!?あたしを素手で受け止めるなんて、なかなかやるじゃん!」
「おう、ワシも伊達に稽古しとらんぞい!どれ、がっぷり四つの力比べといくかのう!」
「オッケー!絶ッッッ対に負けないからね~!!」
橙色の角力格闘家ステラは鍛え上げた筋力と胆力でハドソンを受け止め、自らの力を以て仇為す者を退けるべく彩りの闘気を一気に昂らせる。ステラの橙色とハドソンのシグナルレッドが生み出す熱気は彩りの義勇軍も敵軍も呑み込み、更にヒートアップさせた。
「ステラさん…頑張ってください…!」
「エスト、アタシ達もがんばろ!1人1人が役割を果たせばきっと勝てるから!」
「うん、カチュアの言う通りね。私達には絆の力がある。一緒ならきっと――」
『発射ッ!!』
「キャッ!な、何よ!?」
「ぬうう、奇襲か…リモーネ、怪我は無いか!?」
「大丈夫よ。ありがと、ミネルバ…後衛の援護射撃が始まったみたいね…まったく、抜かり無くやってくれるわ…」
敵陣営の後方から彩りの義勇軍に向けて矢の雨霰が降り注ぐ。白藤色の紋様を静かに煌めかせる孤高の弓使いサラ率いる小隊だった。サラは感情を発露させることなく静かに標的を狙っており、奇妙な緊迫感を醸し出していた。
「私達も応戦しましょう。精霊の力を侵略に使うなんて、止めなければいけないわ!」
「おう!ウチの毒の矢でギタギタにしてやらぁ!!」
「私も行くわ。フルウム自警団で鍛えた弓の腕が一国の兵達にどこまで通用するか…大きなチャレンジね!」
「絶対に負けない!フランボワーズの地はアタシが守る!!」
フェリーナを筆頭にペソシャ、ヤンタオ、フラゴラが集結する。彩りの義勇軍の弓兵達が集い、サラ率いるマルベリー王国弓兵部隊に相対した。クランベリーレッドの弓兵フラゴラが我先にと駆け出し、彩りの力を解き放った。
「フランボワーズ王国のために!レイズルシュート!」
「オラァ!ピトフーイスラッシュ!」
「当たれッ!ヤンタオ・リューフェン!」
「精霊よ、導きたまえ…ウインドカッター!」
フランボワーズ王国の弓兵フラゴラがクランベリーレッドの紋様を煌めかせ、愛する祖国への想いを込めた彩りの一矢を射る。皆もこれに続き、サラ小隊に彩りの矢を立て続けに見舞った。
「うわあぁッ!」
「クソッ…サラさん、アイツら強いですよ…!」
「…そうね。では、こちらも…バニシングシュート!」
次々に彩りの矢が射られる中、サラは動じることなく白藤色の闘気を纏った一矢を放つ。妖しくも柔らかな彩りの闘気は静かに燃えるサラの闘志を体現しており、フェリーナ達は再び表情を引き締める。
「向こうも射ってきたか…喧嘩上等ッ!」
「彼女の矢…いったいどんな精霊の力が――」
「Banish!」
ガオンッ!!
「なっ!?何がどうなってるの!?こんな能力を操るなんて…!」
「フランボワーズ王国を守らなきゃ…でも、怖くなってきたかも…」
「な、なんてRockな攻撃しやがる…こいつはヤバい…!」
「私達の矢を空間ごと消し去った…なんて恐ろしい精霊の力なの…!?」
目の前で起きた現象に彩りの弓兵達だけでなく普段は冷静沈着なフェリーナさえも錯乱する。Banishというサラの一声に呼応するようにして炸裂すると、フェリーナ達の矢を巻き込んで一瞬にして消し飛ばした。サラは得意気に微笑みながら敵対する彩りの弓兵達が戦慄する様相を見つめていた。
「…パーフェクト。次は貴女達を消し飛ばすわ!」
「うわわっ…や、ヤバいかも…どうしようフェリーナ!?」
「…やるしかないわよ、フラゴラ。私達には為すべきことがある!」
フェリーナはサラの宣戦布告に臆することなく、凛とした眼差しを突き刺す。遂に幕を開けた2つの王国の戦争――牙を剥く新たな彩りの戦士――果たして彩りの義勇軍はマルベリー王国の脅威からフランボワーズ王国を守ることが出来るのだろうか?
To Be Continued…