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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter7:ベガ篇前編
192/330

第192話『新雪の幼子ソリン』

シリーズ第192話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

フランボワーズ王国を守る戦いに挑むもパンサーブラックの拳闘士ジャンヌの罠に堕ち、不本意ながら戦争の意思有りと見なされてしまった。が、蛮族四天王に頭が上がらないサーディンブルーの蛮族モリスティアとカタリナが連れてきたアイスバーグブルーの幼子ソリンを新たに加え、新たな彩りの絆を皆が紡いでいく。カタリナが自らの胸に抱き抱える小さな彩りの戦士ソリンを引き入れた経緯を一行に説明していた。



数時間前、マルベリー王国との国境線――カタリナはサルビア、スラッジ、リボン、アイラを連れてスクラムを組み、マルベリー王国の脅威に備える。5人は平和への想いを1つに、守る戦いに挑まんとしていた。



「早朝ゲームかぁ…眠いけど気合い入れていこう!」


「はわわわ…大変です…みんなで頑張りましょう!」


「おう、フランボワーズ王国のシマでマルベリー王国に好き勝手させねぇぞなもし!絶対にフランボワーズ王国を守るぞなもし!」


「ええ、必ず守り抜きましょう!テラコッタの騎士として、悪を許すわけにはいかないわ!」


「あっ…来たよ!みんな、気を付けていこうね!」


「オラァ!テメェら全員カチディス様のペット達の餌にしてやるぜ!」


「グルルルルゥッ!!」


「ギギギッ!アイツの左手、祝福の証ぞなもし…!」



カタリナ班に相対する敵小隊を率いる将はカチディスという女性だった。日焼けした小麦色の肌にレモンイエローの瞳、ブロンドの長い髪をポニーテールに結い、ダークグリーンのレンジャー服を着ている。鞭を握る左手にサバンナグリーンの祝福の証を印す猛獣使いは見るからに獰猛な獣達を率いていた。



「フフフッ…お前達、朝飯の時間だよ!目の前の連中、骨まで喰ってしまえ!」


「ガルルルルウウゥッ!」


「ひええっ!こ、怖い…!」


「リボン、怯まないで!どうにかやり過ごすのよ!」



傍目には躾の悪そうな印象を受ける猛獣達は驚くほど従順な態度でカチディスの指示に従い、一糸乱れぬ俊敏な動きでカタリナ班に襲い掛かる。対するカタリナ班の5人が必死に攻撃を受け流す中、左手にサバンナグリーンの紋様をギラギラと煌めかせるマルベリー王国の彩りの獣戦士は大きなカプセル型の檻を後方から取り出し、不敵な笑みを浮かべた。



「ぬうぅ…ここは通さねぇぞなもし!」


「この獣達、よく訓練されてるわ…でも、好き勝手にさせるわけにはいかない!」


「ふむ、なかなかやるな…ならば切り札を使わせてもらうぞ!お前達にはどいてもらう!!」


「切り札!?リリーフエースの登場か~…よ~し、かかって来い!」


「そう来なくちゃなぁ!行けぇ、ソリン!まとめて叩き潰してやれ!!」



敵将カチディスが大きなカプセル型の檻から繰り出した小さな戦士ソリンがカタリナ班の前に立ちはだかる。丸太のように大きな両腕を堂々と誇示し、彩りの戦士の証であるアイスバーグブルーの紋様を左手の甲に煌めかせていた。



「コイツが切り札けぇ…?ケッ、思ったより小せぇぞなもし…」


「スラッジ、油断大敵よ。大きさだけが強さではないわ。あの太い腕で強力な攻撃を仕掛けてくるかもしれないから、気を引き締めていくわよ!」


「あの娘、左手に祝福の証があります…わたし達と同じ彩りの戦士が敵軍に――」


「ん?ソリン、何をグズグズしている!?」


「…ママ…?」


「…えっ?ど、どうしたの…?」



ソリンは打算も悪意も無い澄んだ瞳を輝かせ、カタリナをジッと凝視している。両軍共に暫し時が止まったように呆然と立ち尽くしていたが、ソリンは突然満面の笑顔になり、カタリナに向かって一直線に駆け、無邪気に懐へと飛び込んだ。



「ママ~~~~ッ!!」


「キャッ!な、何!?」


「ま、魔物が…カタリナさんに懐きましたよ!?」


「すっご~い!カタリナさん、まさにメークミラクルだね!」


「ギギッ…このガキ、カタリナに抱っこされてるぞなもし…羨ましいぞなもし…」


「な、何ぃッ!?何故だ…何故だぁぁッ!?」


「祝福の証を悪に使おうとするからよ!さあ、今すぐに帰りなさい!」


「クッ…クソッ!お、覚えてろ…!」



ソリンに悪意無き離反をされ、カチディス小隊はサルビアに言われるがままに錯乱しつつ敗走した。斯くしてアイスバーグブルーの紋様を持つ新雪の幼子はカタリナに保護され、彩りの義勇軍の一員となったのだ。



「…というわけ。ソリンったら私のことをママって呼んで、そのまま着いてきてくれたんだよ」


「そうですか…私達と一緒に歩んでくれるのですね。私はモニカです。ソリン、よろしく」


「…おねーたん!」


「フフフッ、ここにいるみんな貴女のお姉さんですからね。元気に育つのですよ!」



アイスバーグブルーの彩りを持つ小さな戦士ソリンはモニカにも瞬く間に心を開き、純真な笑顔を見せる。カタリナの胸に抱かれる新雪の幼子の姿は国境を隔てて隣り合うマルベリー王国と火花を散らしていることを忘れさせる一服の清涼剤となっていた。



「よしよし…ソリン、可愛いね~♪」


「ママ!キャキャキャキャッ!」


「へえ~、可愛いじゃん!アタシはトリッシュ!姉貴と仲良くしてくれてありがとう…アタシとも仲良くしてくれよな!」


「…パパ!」


「ええっ!?パ、パパぁ!?」



思わぬ不意討ちを受け、トリッシュは頬を紅潮させながら狼狽える。トリッシュとカタリナの睦まじい仲を知る一行にとっては“言い得て妙”といったところであり、一行の輪から笑いが沸き起こっていた。



「ハハハッ、カタリナがママでトリッシュがパパってかい!ソリン、わかってるじゃないのさ!」


「まあ、俺達からしたら“何を今更”って感じだけどな…でも、冗談抜きにお似合いだと思うぜ!」


「だってさ♪良かったね、ソリン。この人がパパだよ~♪」


「そ、そっか…よし!ソリンはアタシが…パパが守ってやるからな!」


「パパ!ママ!キャッキャッキャッ!」



無邪気に笑うソリンとの絆が優しく紡がれていく。もちろんソリンと血縁関係は無いものの、カタリナが母親代わりに、トリッシュが父親代わりになった。



一方、マルベリー王国。パンサーブラックの拳闘士ジャンヌの活躍によって戦乱の引き金を引くことに成功したものの、開始早々に2名離反者が出たこともあり、手放しで喜べる状況ではなかった。



「モリスティアとソリンが裏切ったか…クソッ、ムカつくぜ…」


「ケッ、1人2人裏切ったところでどうってことねぇやい!みんなまとめて潰してやりゃいいのさ!!」


「おう!このジャンヌ・パンサー様が全員蹴散らしてやるぜッ!!」



目の前の戦いに意気を高めるマルベリー王国とは対照的にフランボワーズ王国には穏やかな空気が流れる。両国の正反対な雰囲気は戦争の火蓋が切られようとしているようには思えない。



「そういえばソリンって魔物なんだよね。カシブさん、何かわかるかな?」


「ふむ…腕の発達具合と白い体毛から考えるに、恐らくソリンちゃんはイエティの赤ちゃんなのである」


「イエティ…それって雪山に住んでる巨人だよね?」


「ご明察。フランボワーズ王国とマルベリー王国は山岳地帯に囲まれた盆地の国だから、どこかの山から降りてきたのかも――」


「おねーたん!おねーたん!キャッキャッ!」


「はいはい、私はカシブなのである。ソリンちゃん、よろしくなのである♪」



彩りの義勇軍の皆が新雪の幼子ソリンの笑顔に心を彩られ、戦いの疲れを癒す。フランボワーズ王国の彩りの戦士である5人も先ほどまで強張った表情だったが、穏やかな表情に移ろっていた。



「やれやれ…王城も随分と賑やかになったものよ」


「ソリンちゃん、ちっちゃくて可愛いよね~!ウチもキュンキュンしちゃうよ~♪」


「そうだねぇ、スグリ。イエティの赤ちゃんまで仲間になってくれて嬉しいよね!アタシ達も頑張ろ!」


「ああ。オラ達にだってきっと出来ることがあるだ!フランボワーズ王国のために力を尽くすべ!」


「はい。戦争は始まってしまいましたが、こうして出会った1人1人との絆を大切に立ち向かえばきっと――」


「うわあああぁぁぁぁん!!」



突如として猛烈な大音量の泣き声が王城全体に響き渡る。その主は疑いの余地無くソリンであり、カタリナは困り顔を見せていた。



「わああああぁぁん!うわああああぁぁん!!」


「あらら…ソリンが泣き出しちゃった…カシブさん、どうしたら良いかな…?」


「どれどれ…ん~…どうやらソリンちゃんはお腹を空かせてるみたいなのである。ご飯を作ってあげるのである!」


「えっ!?イエティって何食べるんだろ…大丈夫かな…」



ソリンの訴えを知り、突如として及び腰になる。カタリナは彩りの義勇軍一行の中でも屈指の料理上手だが、ソリンはイエティという異種の存在だ。ソリンの好む味は何か――好き嫌いは無いか――深く考え過ぎる余り、カタリナの胸中に迷いが生じていた。



「ほれ、どうした?カタリナならいつも通り作れば何も心配要らんじゃろ!」


「ステラさんの言う通りです。カタリナさんの深き愛があれば必ずソリンちゃんに伝わりますよ」


「そやなぁ、ネイシア姉ちゃん。カタリナ姉ちゃんにわざわざ言う必要もあらへんと思うけど…一番の調味料は愛情やで!」


「ステラ、ネイシア、アミィ…ありがと!私、ソリンのために頑張るね…!」



仲間達に背を押されたカタリナはカシブの助言を受けながらソリンへの愛情を込めて料理を作る。ソリンを喜ばせたい一心のカタリナは子を想う母親の表情を見せていた。



カタリナはゆっくりと時間をかけ、ソリンへの愛情がたっぷりと詰まったシチューを作った。野菜は噛みやすいように柔らかく煮込み、ミルクを効かせて口当たりを優しく仕上げている。ソリンの空腹を満たし、心を満たしたい――カタリナの想いの詰まった一皿がソリンのもとへと運ばれた。



「ソリン、ご飯だよ~。たくさん食べてね~♪」


「…ふあ…?」


「はい、お口開けてね…あ~ん…」



目の前にスプーンを出され、ソリンは大きく口を開く。皆が見守る中、カタリナは緊張の面持ちでシチューを口にするソリンを凝視している。暫しの沈黙の後、ソリンは表情をキラキラと輝かせ、飛びっきりの笑顔をカタリナに向けた。



「…おいしい!おいしい!!」


「本当!?良かった…いっぱい食べてね!はい、あ~ん…」


「もぐ…おいしい!もっと、もっと!」



ソリンは笑顔のまま一皿のシチューをペロリと平らげ、おかわりの一杯もあっという間に胃袋に収める。心も体もカタリナの愛情で満たされたソリンは皆の前で素直に幸せを表現していた。



「おいしい!ママ、ありがと!」


「いっぱい食べてくれてありがとう。ソリン…大好きだよ♪」


「わたちも!ママ、だいすき!キャキャキャキャッ!」



カタリナはソリンを優しく抱き締め、一方のソリンも満面の笑顔で応える。アイスバーグブルーの彩りの戦士である幼子の幸せを想うカタリナは自らの胸に母性が沸き上がるのを感じていた。彩りの義勇軍一行は暫しの安らぎに浸り、戦いの疲れを癒していた。




To Be Continued…

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