第188話『Strawberry and Blueberry』
シリーズ第188話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
妖しい策謀が渦巻くマルベリー王国の脅威に戦慄するフランボワーズ王国を守るべく防衛戦を担うこととなった彩りの義勇軍一行。存亡の危機を微塵も感じさせないメルヘンなフランボワーズピンクの王妃ビビアンに面食らいながらも改めて守るための戦いに臨む決意を固めていた。
「ちょっと個性的なお姫様だけど…青国空軍の誇りに賭けて、悪の根を断ち切ってみせるわ!」
「では早速作戦を立てようか。僕達にはあまり猶予が無いし、善は急げというからね」
「アンジュ殿、承知した。では、軍議室へ参ろう」
息つく間もなく彩りの義勇軍が軍議室に集まり、作戦会議が行われる。一行の軍師を務めるルーシーがホワイトボードに貼られた地図に書き込みをしながら陣形の案を皆に示して見せた。
「では、この図面の国境線に建てられた外郭に添って数名ずつのスクラムを組んで防衛しましょう。この地点での守衛なら城下町や王城に危害が及ぶことはないはずです」
「うむ、王国全体を守備するならば問題無い案だな。我はこの案に賛同するが、ミルティは異論無いか?」
「ええ。皆様と王国兵を合わせた人数でも守衛専従なら十分賄えるでしょう。私も異論ありません」
「ありがとうございます。皆さんもこの策でよろしいですか?」
皆も物言わずに頷き、意が1つに束ねられた。全員の同意を得たルーシーは一度表情を緩める。が、間髪入れずに再び引き締め、凛とした眼差しを彩りの義勇軍1人1人に向けた。
「皆さん、ここからが最大重要事項です。わたくし達は守衛専従、絶対に敵軍に手を出してはなりません。全員ご留意ください」
「そうか…アタイらが手ぇ出しちまったら全部パーになっちまうもんな。ちょっとむず痒いけど、我慢しなきゃな!」
「ああ、これはフランボワーズ王国を守るための戦いだ。いつもの仕事とは勝手が違うが、気合いを入れて――」
「よう、会議中に失礼。オタクらがウワサの義勇軍さん?」
「うぇーい!こりゃまた大軍勢じゃん!しかも強そうだね~!」
軍議の緊迫した空気を吹き飛ばすような軽やかな色合いで2人の女性が割って入る。親しげながら落ち着いた口調の女性と幼い印象を受ける軽い口調の女性が笑みを浮かべながら彩りの義勇軍に歩み寄った。
「貴女達2人にも…精霊の刻印が…!」
「うん、アタシらもオタクらの仲間だよ。アタシはフラゴラ、弓使いです。よろしくね」
「スグリで~す!斧の腕は自信あるんでよろしく~♪」
「うむ、フラゴラもスグリも手練れの戦士だ。是非ともこの軍の一員として役立ててくれ」
「おう、そいつは心強いのう!よろしく頼むぞい!」
黒い軽装の鎧を身に纏い、赤紫の髪を肩辺りまで伸ばした弓兵フラゴラと黄色い鎧に黄緑の短髪の斧戦士スグリが彩りの義勇軍の一員として一行の輪に引き入れられる。2人の左手には平和への志を同じくする者の印とも言える祝福の証の彩り――フラゴラにはクランベリーレッド、スグリにはグズベリーグリーンの紋様が煌めいていた。
「私らはマルベリー王国さんが腹の底で何考えてるか知らねぇけど、ご近所さんに迷惑かける野郎は野放しには出来ねぇよな!」
「そうだよね、ポワゾンさん!ウチとフラゴラも頑張るから、一緒にフランボワーズを守ろう!」
「これだけの方々と一緒だって思うと少し安心したよ。みんな、改めてよろしく!」
「うん、共に正義のためにがんばろ~!フラゴラ、スグリ、よろしくね!」
快活で社交的なフラゴラと純真で飾らないスグリを加え、総勢128人となった彩りの義勇軍はフランボワーズ王国で新たな絆を紡ぐ。一方、薔薇の貴公子ベガの居城には黒い策謀が沸々と沸き上がっていた。
「さて、彼女達はフランボワーズ王国に入ったようだね。蛮族どもの蔓延る醜い国と隣り合っているとは思えないほど美しい…」
「ベガ様、次の手はいつに致しましょう?マルベリー王国に控える彼女達はいつでも動けるとのことですが…」
「いや、ここまで来たら何も焦ることはない。もう少し泳がせておくとしよう。楽しみはあとに取っておく方が興も盛り上がるというものだよ」
「承知しました。ベガ様の仰せのままに」
ベガとラストは不敵な笑みを浮かべているが、彩りの義勇軍は目の前の務めに傾倒しており、気付く由も無い。妖しい魔の薔薇は音も無く彩りの義勇軍にヒタヒタと迫り、ベガとラストの理想郷を静かに体現しようとしていた。
そんな中、フランボワーズ王国の平穏は突如として内側から裂かれる。城下町の警備兵が酷く慌てた様相で軍議室に駆け込み、手練れのフレッサとミルティに救援を求めてきた。
「ご、強盗です!城下町北西の装飾品店から宝石数点が奪われました!」
「…承知した。ミルティ、参るぞ!」
「ええ、フランボワーズ王国の平和を守りましょう!」
兵の報せを受け、フレッサとミルティが城下町へと駆けていく。フラゴラ曰く、マルベリー王国との関係が悪化して一触即発の状況となって以降、自棄になって悪事に手を染める者が現れ始めたらしい。通報が早かったのが功を奏し、程無く現場近くに犯人の2人組を発見。フレッサとミルティは即座に臨戦態勢を整えた。
「待てぃ!盗人め、成敗してくれる!」
「チッ、王城の連中だ!こりゃヤバいぞ…」
「フン、それなら強行突破しかねぇな。力尽くで退いてもらうとしようぜ!」
「そう簡単にはいかないわ。フランボワーズ王国の平和は私達が守る!」
城下町の景観を損ねぬように注意を払いながらも悪を討つ刃を振るう。軽やかに片刃の剣を駆るフレッサと巧みに長尺の槍を操るミルティは息の合った連携を見せ、泥棒2人を薄暗い路地裏へと追い込んでいく。
「ぬうぅん!てやあッ!」
「うぐっ…つ、強い…」
「隙ありよ!ええぇい!」
「がはっ!クソッ、こうなったら…そぉらッ!!」
泥棒の1人が道端に落ちていた石ころを数個掴んで放り投げ、路地裏の建物の窓ガラスを割って破片をフレッサとミルティに降らせた。もう1人の泥棒も続いて石ころを窓に向けて投げ、鋭く光るガラス片の雨を辺りに降らせていった。
「よし、これは効いただろ…さあ、どうだ!?女なんかに負けるかよ!!」
「残念ですが…いずれ悪は裁かれる定めなのですよ!私達を女だからと甘く見たのが貴方達の運の尽きです!!」
「さあ、覚悟しろ!貴様らを悪の心ごと細切れに刻んでくれるわ!!」
「何ッ!?な、なんだよ…左手が光ってるぞ!?」
ストロベリーレッドとブルーベリーブルーの闘気を見せつけられ、泥棒の2人は戦慄する。美しき花々が薫るフランボワーズの地を守る紅き剣と蒼き槍が美しき彩りの力を紡いでいった。
「受けてみよ!必殺、フレーズエペ・ダンツェ!!」
「私も本気でいきます!ランメイチャンマオ・バイラール!!」
「ぎゃあああッ!」
「ぐあああッ…!」
フレッサとミルティの活躍が悪を討ち、フランボワーズ王国の平穏は守られた。盗品は無事に全て店に戻り、泥棒2人組は程無く拘束されたが、祖国フランボワーズの民が悪に道を過つという由々しき事態を目の当たりにさせられ、手放しでは喜べない。
「あの…ミルティさん、大丈夫ですか…?」
「リデルちゃん…大丈夫よ。これが今のフランボワーズ王国の現実だから…目を逸らすわけにはいかないわ」
「そういや、王様や女王様はどうしたってのさ?いくらなんでもビビアンは危なっかしいったらありゃしないよ!」
「うむ…王はこの状況に心を痛めながらも王の務めを全うされていたが、つい先日限界を迎えて病床に伏せられ、女王は自らの御意志で付きっきりで王を看ておられる。それ故に今はビビアン様に玉座を任せておられるのだが、いかんせんビビアン様はあのような御方でな…」
「なるほど…そういう事情でビビアン姫が旗印、ってわけか…」
フランボワーズ王国の危地を改めて告げられ、一行は襟を正す。隣国マルベリー王国の脅威が間近に迫る中、平和への想いを更に強め、それを実現したいと彩りの義勇軍1人1人が願った。
「マルベリー王国の脅威がこんな形で襲ってくるとは…皆で平和への願いを1つに束ね、悪を退けるぞ!」
「いつもとは違う形の戦いだけど…アタシ達がやることは同じ、みんなの絆の力を見せれば良いんだよね!」
「世界平和を実現させるためには国々の足並みが、想いが揃わなければなりません。この事態は謂わば世界の平穏を乱す行為、断じて捨て置くわけにはいきません!」
「そうですね、ミノア様。想いを1つにフランボワーズ王国を守り、マルベリー王国の侵攻を止めましょう!」
悪の花が蔓延る実情を目の当たりにし、改めてフランボワーズ王国を守る決意を固めた彩りの義勇軍一行。隣国に容赦無く牙を剥くマルベリー王国の影に潜む薔薇の貴公子の妖しい策謀が静かに迫る中、一行は再び王城へと戻っていった。
To Be Continued…