第１８７話『２人の王妃』
シリーズ第１８７話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ！
エレンの蛮族王の戴冠式の最中、突如としてマルベリー王国とフランボワーズ王国の彩りの戦士が乱入して火花を散らす。蛍光マゼンタの彩りの邪術士マグノリアによって甘桃の王妃ネイシアが囚われの身となってしまった。更にマグノリアの増援としてマチルダとガンズも姿を現し、風雲急を告げる様相を呈していた。
「ふむ、多勢に無勢だが…正義は我らマルベリー王国に在る！フランボワーズ王国を潰してやるぞッ！！」
「ハッ！あたしゃどっちの王国がどうだか知らねぇけど、コイツらをブチのめせりゃそれで良いのさ！ヒャヒャヒャッ！」
「ウオオオ…グルルウウゥッ！」
蛍光マゼンタのマグノリア、ハンターグリーンのマチルダ、ハンティングピンクのガンズ――３人の彩りの戦士達が禍々しい刃を向ける。が、戦いに飢えた荒くれ者達が黙って引き下がるはずも無かった。
「オラァ！テメェら誰だか知らねぇが、いつまでも調子乗ってんなよ！！」
「ザキハの言う通りだぜ！俺様達のビンニー国で好き勝手しようなんざ、良い度胸じゃねぇか！！」
「他所様の国交に物申す気はござらんが、心優しきネイシア殿を恐怖に堕とそうとするならば容赦はせん！」
「うむ、憎むべき悪に儂らの武を叩き込んでやるぞい！いざ参るぞ！」
「絶対にネイシアは返してもらうよ！アンタ達３人、灰も残さないくらい燃やしてやるからね！」
エレンが蛮族四天王を従え、得物を荒々しく振るう。猛る蛮族王に追従して紅き蛮族ベラハと蒼き蛮族ヤチェが示し合わせていたように続き、幼なじみのエイリア、舎弟の海賊ロビン、山賊姉妹のメリッサとヴァネッサも次々に雪崩れ込む。あっという間に戴冠式のステージは荒くれ者達で鮨詰め状態になり、飽和量の熱気が満ち溢れていた。
「焼き尽くせ！ブルチャーラ・スウォーム！！」
「凍てつきな！アブソリュートブレイド！」
「ぐわっ…！」
「よし、これは効いたな！イザサ、姫様を頼む！」
「うむ、儂に任せい！…よし、姫様救出成功じゃ！」
蛍光マゼンタの戦士マグノリアは彩りの義勇軍の絆の力を見せつけられ、劣勢に立たされる。荒くれ者に取り囲まれた上に捕らえようとしていたネイシアもイザサに奪還され、もはや万策尽き果て為す術が無い。
「ボッコボコにしてやらぁ！スコロドン・ツェクリ！！」
「ガアアアアッ…！」
「チッ、ガンズがやられたか…マグノリア、ここは旗色が悪りぃ。一度ずらかるとしようじゃねぇか！」
「了解…覚えてろよ、フランボワーズ王国め！」
マグノリアが瞬間移動で姿を消し、マチルダは倒れたガンズを担いだまま追従するように姿を消した。義勇軍の王妃であるネイシアが無事に助け出されたことに皆が胸を撫で下ろし、穏やかにフレッサとミルティを迎え入れた。
「よっしゃ、なんとか勝てたのう。ほれ、嬢ちゃん、大丈夫か？」
「イザサさん…大丈夫です。ありがとうございます♪」
「フレッサ、ミルティ、アンタ達のおかげでネイシアを助けることが出来たよ！ありがとね！」
「礼を言うのは我々の方だ。助力感謝する。マグノリアの奴にはほとほと困っていてな…」
「へぇ…何だか訳ありっぽいじゃん。良ければアタシ達に事情を聞かせてくれないか？」
「はい、実は――」
トリッシュに促され、ミルティが一行に事情を説明した。大昔の冷戦の影響で以前よりフランボワーズ王国とマルベリー王国は険悪な関係が続いていたが、ここ最近になって輪をかけて蛍光マゼンタの彩りの邪術士マグノリアによる挑発がエスカレートして関係が更に悪化。今やいつ両国の戦争が始まってもおかしくない状況であり、兵力で大きく劣るフランボワーズ王国は存亡の危機だという。皆がミルティの言葉に黙して耳を傾けていたが、金色の鎧を着た皇騎士マリーが突如身を翻し、一行の前に出て重い沈黙を破った。
「皆、私から提案がある。我らがフランボワーズ王国の防衛に一役買おうではないか！」
「なんと、真か？我々の旗印である姫様が危なっかしい御方なので、そうしていただければ助かるな」
「しかし、私達の国交の問題に皆様を巻き込むのは不本意です。断じて強制は――」
「あたくしはマリーさんに賛成ですわ。祝福の証を悪の道に使おうなど許せません！ましてや国同士の絆を引き裂こうなんて言語道断ですわ！」
「私もビアリーと同じ気持ちです。フレッサとミルティに協力しましょう。みんな、よろしいですか？」
総大将モニカの呼び掛けに皆が頷き、彩りの義勇軍の総意として表される。彩りの義勇軍の１２０人と蛮族四天王の全員が志を１つに、渦中の２つの王国に飛び込む決意を固めていた。
「うむ、決まりだな。フレッサ殿、ミルティ殿、共にフランボワーズ王国に参ろう！」
「ありがとうございます。では、私達がフランボワーズ王国までご案内しましょう。ビンニー国からは山を越えれば遠くありませんので、今から行けば夕刻前には着けるでしょう」
「よし、アタイら蛮族四天王も一緒に行くぜ！お隣さんの危機と聞いて逃げるわけにはいかねぇ！フランボワーズ王国を守りに行くぞッ！！」
『おおおおおぉぉぉ～ッ！！』
蛮族四天王の４人とフレッサとミルティを加え、総勢１２６人となった彩りの義勇軍は一路フランボワーズ王国へと急ぐ。フレッサとミルティはすぐに一行に打ち解け、自然に彩りの義勇軍の一員となっていった。
「ミルティさん、フランボワーズ王国ってどんな国ッスか？」
「王城前の一面に広がる花畑が言葉に出来ないくらい美しいわ。気候も温暖でとても過ごしやすい国よ」
「おお、そいつは素晴らしいのう！ならば是が非でもワシらが悪から守らにゃいかんな！」
「うむ。その志、これほどの大軍勢と共有出来て嬉しく思う。共に我らがフランボワーズの地を守ろうではないか！」
一方、魔族七英雄ベガの居城は妖しい魔の瘴気が満ちていた。薔薇の貴公子ベガと配下であるラストが瘴気の渦巻く中で向かい合い、表情には妖しい笑みを湛えていた。
「…ベガ様、計画は恙無く進行しております。皆様は程無くフランボワーズ王国に到達する手筈です」
「ああ、ご苦労。美しい花々の彩り華やぐフランボワーズ王国こそ我らが理想郷の礎に相応しい…実に楽しみだ…フフフフフッ…」
「ええ、僕も大変楽しみです。ベガ様の理想が実現するその日まで、最善を尽くします…！」
太陽の光はオレンジではなく、金色のまま降り注いでいる。日が傾き始めるよりも僅かに早く、一行はフランボワーズ王国に辿り着いた。街道に数多の店や住宅が軒を連ねる城下町にはズラリと花壇が続き、王城前に辺り一面には広大な花畑が広がっている。色とりどりの花々が優しく薫る王国は彩りの義勇軍を柔らかに迎え入れた。
「うわぁ～…お花がい～っぱい！綺麗だね、ゼータ！」
「そうだな、コレット。これは想像した以上に美しいな…」
「ああ。この美しき地を断じて戦場にしてはならん。なんとしてでも我らで守ろうではないか！」
「貴女方の力を借りることが出来て心強い限りだ。我らの想いを１つに、美しきフランボワーズを守ろう！」
「ええ。私達の旗印である姫様にも一度お目通り願いましょう。王城までご案内致します」
改めてフランボワーズ王国に迫る危機への思いを馳せる中、一行は王城へと通される。内装はパステルカラーを基調としており柔らかい印象を受けるが、同時に王城らしい厳かな雰囲気を醸し出している。加えてストロベリーレッドの剣士フレッサとブルーベリーブルーの槍術士ミルティの凛とした佇まいが厳粛な雰囲気に拍車を掛けていた。
「フレッサとミルティ、只今戻りました！」
「ビビアン様、王国の守衛を行ってくださる義勇軍の皆様をお連れしました！」
「あらら～、こんなにたくさん連れて来てくれたの？それに皆さん、わたくしと同じ印を左手にお持ちなのね♪」
「貴女が王妃様…！し、祝福の証が…！！」
フランボワーズ王国の旗印と称される王妃はビビアンという小柄な少女だった。可愛らしいピンクのドレスを着ており、外巻きカールのブロンドの髪を長く伸ばしている。存亡の危地に陥る王国の大きな命運を握っている小さな左手には瑞々しいフランボワーズピンクの紋様が煌めいていた。
「王妃ビビアン様…私はモニカ・リオーネです。我々は貴国の平和のため――」
「はじめまして！わたくしはビビアンです♪こうして出会えたのも、きっと運命の巡り合わせですのね！皆さん、お友達として仲良くしましょ♪フランボワーズ王国での生活を心行くまで楽しんでくださ～い！」
「いや、ビビアン様…この方々は観光に来たわけでは…」
「あっちゃ～…この姫様はアカンわ…完全に脳ミソお花畑やん…」
「だな…ある意味俺達の姫様よりも危なっかしいぜ…」
一行、唖然呆然。自らが王妃である国が存亡の瀬戸際に立たされているにも関わらず、ビビアンの言動や振る舞いからは危機感はおろか王族としての威厳すら感じられなかった。勇んでフランボワーズ王国を護らんとして訪れた彩りの義勇軍だったが、あまりの温度差に開いた口が塞がらない。
「ちょっと！あんなに緊張感の欠けた人が一国の王族なんて大丈夫なの！？」
「リモーネ殿…すまん。ああいう御方なんだ…」
「つまり王国だけじゃなくて姫様も守らなきゃいけねぇってわけだな！俺様達蛮族四天王もフランボワーズ王国の平和のために全力を尽くすぜッ！！」
「やれやれ…ま、あんたはあたいらが守るからね、ネイシア姫！」
「は、はい？わかりました…ありがとうございます、ビクトリアさん…」
斯くして彩りの義勇軍はネイシアとビビアン、２人の王妃を守るべく彩りの防壁を紡ぐ決意を固める。が、２つの王国の間に渦巻く陰謀の淵で静かに蠢く魔の薔薇の蔓が忍び寄る先はネイシアでもビビアンでもない。その贄を知る者は薔薇の貴公子ベガと配下のラスト、２人だけである。
To Be Continued…
