第186話『策謀のパレット』
シリーズ第186話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
赤き彩りの戦士エレンがザキハ、ナダベ、イザサ、リューゲルの4人を彩りの炎で撃ち破り、ビンニー国を統べる蛮族王となった。戦士達の頂点に登り詰めた赤き彩りの戦士を共に歩みを進める皆が祝福していた。
「エレン…おめでとうございます!」
「すっごいなぁ、エレン姉ちゃん!荒くれ者達の王様やで!」
「モニカ、アミィ、ありがとね。まさか私が蛮族王になるなんて思わなかったよ!」
「やれやれ、荒くれ者を引き連れるのに飽き足らず荒くれ者の王になるとはな…これは驚いたな」
「私とヴィオでもかなわなかった蛮族四天王をやっつけたもんね!エレンなら傭兵としても食べていけると思うわ!」
皆がエレンを囲み、大きな彩りの輪が紡がれる。が、幼なじみであり親友である空色の戦士エイリアは少しエレンから距離を置き、複雑な表情を浮かべていた。
「エレン、すごいなぁ…子供の頃からずっと一緒だったけど、いつの間にかすごく遠くに行っちゃった気がするよ…」
「エイリア、めでたい時に何を辛気臭いこと言ってんだい。あんたとエレンは今でもこうして一緒にいるじゃないのさ!」
「その通りッス!エイリアからはエレンとの強い絆を感じるッスよ!この軍でもエイリアにしか出来ないことがあるッス~!」
「…そうだよ、エイリア。アンタが側にいてくれるから私も安心して戦えるんだよ!王様だかなんだかよくわからないけど、私はエイリアとずっと一緒にいたい!たまに無茶しちゃう私をこれからも見守ってよね!」
「フフッ、“たまに”じゃない気もするけど…了解!蛮族王様の背中はエイリアちゃんに任せなさい!」
一方、魔族七英雄ベガの居城。彩りの義勇軍が歓喜に沸き上がる中、それとは対照的にベガとラストの2人は静かに佇んでいた。
「ベガ様、後日戴冠式が行われるとのことです。その舞台で最初の一手を打ちたいと存じますが、よろしいでしょうか?」
「わかった。では、君に任せるよ。あの娘達にも伝えておくように」
「畏まりました。ベガ様の理想郷の実現のため、力を尽くします」
数日後、正式にエレンを新たな蛮族王とするための戴冠式が満員の闘技場で執り行われた。厳かな式典のステージが闘技場に設けられ、蛮族四天王とエレンが静かに向かい合っていた。
「では、改めて蛮族王の冠をエレン様に授与致す。我ら蛮族の頂に立つ者として、我らの旗印となっていただきたい」
「…ありがとう!私に蛮族王として何が出来るかわからないけど、全力を尽くすからね!」
「おう!俺様達もエレン様の片腕として暴れてやるから、安心してドンと構えててくれよな!」
「エレン様、蛮族王の冠似合ってるじゃないかよ!アタイらの目に狂いは無いから、きっと良い蛮族王に――」
「キャ~~~ッ!!」
「な、何事じゃ!?おわわわっ!お、お主はいったい!?」
戴冠式の厳粛な空気を悲鳴が引き裂き、新たな王の誕生という歓喜の時間は一瞬にして暗転する。ステージに黒いローブを身に纏った人物が瞬間移動で姿を現した。更に驚いたことには催眠術で深い眠りに静めたネイシアを右肩に担いでいた。
「ネイシア!!どうして…!?」
「フフン、ちょいと邪魔するよっと!」
「テメェ、良い度胸だな!俺様達の闘技場で好き勝手出来ると思ってんのかぁ!?」
「アンタ、ネイシアを拐って何をするつもり!?」
「私はマルベリー王国の導師マグノリア。あんたらをマルベリー王国にお招きするように頼まれたんだよ!」
ネイシアを深い眠りの淵に堕としたのはマグノリアという黒髪の女性だった。目深に被ったフードを脱いで露になった顔立ちはキリリと引き締まっており、切れ長の赤紫の瞳は敵意を突き刺している。左手の甲には鮮やかな蛍光マゼンタの紋様が妖しく揺らめいていた。
「祝福の証!?アンタ、どういうつもりなの?ネイシアを返して!」
「まあまあ、そう目くじら立てなさんなって。この嬢ちゃんをちょっとお預かりするだけさ。手荒には扱わないから安心しな」
「フン、人を招くために人質をとる野郎を信用出来るもんかよぉ!アタイら蛮族四天王がボコボコに――」
「フレーズエペ!」
「ランメイチャンマオ!」
鮮やかな赤い閃光と凛とした青い閃光、2つの彩りが背後からマグノリアを襲う。マグノリアは瞬間移動で避けるや否や、瞳に帯びた敵意をエレン達から閃光の主である2人へと移した。
「待てぃ!今こそ貴様を細切れにしてくれるわ!」
「マルベリー王国の邪術士マグノリア、貴女の企みもここまでよ!」
「チッ、フランボワーズ王国からノコノコと出て来やがったか…なまくら剣士フレッサ!へっぽこ槍術士ミルティ!」
「し、祝福の証…あの2人にも!」
ネイシアを救うためかマグノリアを討つためか、フランボワーズ王国より来たる刺客2人が颯爽と姿を現す。緑の髪を短く切り揃え、赤い衣装を身に纏った剣士フレッサにはストロベリーレッドの紋様が――青紫の髪を長く伸ばし、薄いピンクの服を着た槍術士ミルティにはブルーベリーブルーの紋様が印されていた。
「貴女という人は、また悪行を重ねようとしているのね!許さないわ!」
「悪因悪果という言葉をその身を以て知るが良い!成敗してくれる!」
「フン、弱っちいテメェらにみすみす負けねぇさ。私の力で2人まとめて…ぐああっ!?」
フレッサとミルティに気を取られていたマグノリアを冥紫の銃弾が捉える。冥紫の王子リタは甘桃の王妃ネイシアを妖しい魔の手から救うべく、得物の2丁銃をマグノリアに向けていた。
「フレッサさん、ミルティさん、俺も一緒に戦うぜ!ネイシアを悪者なんかに渡すものか!」
「…勇敢なる少女よ。助力感謝する!」
「頼もしい人ね。では、お願いするわ!」
「みんな、リタに続くぞ。ネイシアを奪還する!任務開始!!」
「アタイら蛮族四天王も一緒に戦うぜ!力を合わせて姫様を助け出すぞ!」
彩りの義勇軍がマルベリー王国の邪術士マグノリアを取り囲み、一触即発の熱気が闘技場を包み込む。蛍光マゼンタの彩りの戦士に対して皆が次々に彩りの力を解き放っていった。
「行けぇ、飛車で一閃ッ!」
「マーシレスバレット!」
「ベスティヨル・バースト!」
「今だ、俺がネイシアを助ける…デスサイス・サマーソルト!」
リタは冥紫の闘気を両足に纏わせ、宙を舞いながら蹴りを見舞う。マグノリアは一瞬にして姿を消してリタの背後に回り込み、蛍光マゼンタの闘気を両掌で練り上げて叩き付けた。
「ヒヒヒッ、サイコブレイク!」
「うああああッ…!」
「リタ様ッ!なんというおぞましい力ですの…!」
冥紫の王子リタを一蹴する禍々しい彩りの力を見せつけられ、一行は戦慄する。が、ネイシアを救うという志は皆同じであり、誰1人として仇為す者に対して慈悲を向けることはなかった。
「シャドーアサルト!」
「ヴェネーノスパイク!」
「ザバイオーネ・シューター!」
「ん、ソルティ・ヒュードル!」
「くらええぃ!スパークリング・キラーチューン!!」
「みんな…これが共に戦う絆の力…」
「モニカ、大将のアンタがボサッとしてんじゃないの!アンタの力が必要なんだから、しっかりしてよね!」
「リモーネ、すみません…力を1つに、共に戦いましょう!」
モニカの言葉にリモーネはウィンクで応え、共にマグノリアに刃を向ける。蛍光マゼンタの彩りの術士マグノリアが立たされている戦局は傍目には四面楚歌という様相だが、どういうわけか慌てる様子も無かった。
「マグノリア殿…我らはどういう事情かはわからぬが、大人しく観念して投降なされよ」
「うむ、フレッサ殿の仰った悪因悪果という言葉はまさにお主に振りかかるぞ。儂らとて無用な戦いはしとうないのじゃ」
「フン、そう言われると余計に引き下がりたくなくなるんだよ…それに私達には――」
「ウガッ…!」
「ザキハ!だ、誰だ!?」
姿を消した何者かがザキハを襲い、地に膝を付かせる。皆が当惑する中、奇襲の主が姿を現した。闘技場でビクトリア班に対峙したハンターグリーンの狙撃手マチルダとハンティングピンクの狂戦士ガンズだった。
「ヒャヒャヒャッ!蛮族王様だかなんだか知らねぇが、めでてぇ奴らだこと!」
「グルルウウゥ…!」
「マチルダ!ガンズ!」
「チッ、なんだってあんた達が…!」
彩りの戦士同士が火花を散らし、闘技場の舞台で刃を向け合う。フランボワーズ王国とマルベリー王国の間に渦巻く策謀とは何か?果たして彩りの義勇軍はマグノリア、マチルダ、ガンズの3人から甘桃の王妃ネイシアを救うことが出来るのだろうか?
To Be Continued…