第185話『赤き蛮族王』
シリーズ第185話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
強きを尊ぶビンニー国の頂点に立つ覇者――ザキハ、ナダベ、イザサ、リューゲルの4人に挑む彩りの義勇軍一行。試合開始早々に常人離れした怪力を見せつけられ、驚愕するばかりだった。
「これが蛮族四天王の力…4人を一捻りで破るなんて…!」
「しかも片手で投げたもんね…チャンピオンは一筋縄ではいかないってわけね!」
「闇雲にぶつかっても勝てませんわ。まずは戦略を練りましょう!」
「おう!首を洗って待ってろ、蛮族四天王…このルーヴ様が目にもの見せてやるぜ…!」
先陣を切って蛮族四天王に挑んでいったラパン、アイラ、ザラーム、ラッテの4人が軽くあしらわれ、彩りの義勇軍は出鼻を挫かれる。意気を高めた蛮族四天王は挑戦者である彩りの義勇軍を迎え撃つべく臨戦態勢を整えていた。
「おいおい、どうしたよ!?まさか俺様達の圧倒的な強さにビビってるのかぁ!?」
「否。彼女達に限って其はあるまい。知略と武勇を織り合わせ、我らを討つための刃を研いでいらっしゃるのだろう」
「うむ、こういう時こそ油断大敵じゃな。儂らも気を引き締めてかからねばのう!」
「ああ。アタイらもチャンピオンとして、きっちり歓迎してやらなきゃなぁ…そんじゃ、本気でいくぜええぇぇッ!!」
『おおおお~ッ!!』
蛮族四天王は昂る闘志に心身を委ね、左手の甲に印された色彩の紋様を煌めかせる。ザキハのガーリックホワイト、ナダベのヴォニートレッド、イザサのイールブラック、リューゲルのチャイヴグリーン――熱く滾る蛮族王の力を象徴する彩りは力強く猛り、対峙する彩りの義勇軍はもちろん、客席のギャラリーさえも戦慄させていた。
「あわわわっ…し、祝福の証だよ…!」
「クレア、恐れるな。祝福の証を持つのは私達も同じ。ならば私達が勝る絆の力を見せつければ良い!」
「ヴィオの言う通りよ!凄腕のリモーネ傭兵団も一緒にいるんだから、大船に乗った気分でど~んと構えてなさい!」
「おお!頼もしいのう、リモーネ!ワシらも気合い入れて横綱に挑まんとなぁ!」
「ああ、頑張ろうぜ!さて…ルーシー、最初の作戦はどうする?」
「ええ、ですからまずは守りを固めましょう!防衛線を張っていただく方は――」
軍師を務めるルーシーの指揮に従い、守りに秀でた面々による防衛ラインが構築される。サックスブルーのヴィボルグ、カーキ色のティファ、朽葉色のガーベラ、ウォーターメロンレッドのサンディア、ポテトイエローのグラーノ、スイートポテトパープルのセレアル、アイスグリーンのパオラ――厚い鎧に身を包んだ彩りの重装兵達が1列に並び立つ情景は壮観であり、観衆は皆息を呑んだ。
「さあ、みんな!この軍の盾となって、気合い入れて迎え撃つわよ!」
「…私は私に課された務めを果たす。それだけよ」
「蛮族の王者達に真っ向から挑めるなんて…自警団として鍛えた力、蛮族四天王に見せつけてやるわ!」
「私だって負けないわ!リモーネ傭兵団のアーマーナイトとして、この軍の一員として、みんなを守ってみせる!」
「よっしゃ、バリバリ戦うぞ~!セレアル、がんばろ~ね!」
「あいよ!あれだな~、オイラも燃えてるんだな。うん!」
「さ~て、いっちょ気合い入れてやるか!テラコッタの騎士として武勇を挙げてみせるぞ!」
彩りの重装兵が心を1つに合わせ、闘技場のアリーナに堅牢な彩りの砦が築かれる。更にすぐ後方には今にも燃え上がりそうな闘志を燻らせる彩りの戦士達が今か今かと迎撃態勢をとって待ち受けている。
「へぇ、守りを固めたか。こいつぁ面白いや!」
「うむ、我らも一手打たねばな…さて、いかが致そうか?」
「リューゲル、そいつぁ愚問ってやつだぜ。俺様達は蛮族の王…つまりすべきことはただ1つ!」
「じゃのう、ナダベ!いざ、儂らも参ろうぞ!」
蛮族四天王は彩りの義勇軍の挑発に乗り、様々な色彩が紡ぐ砦に真正面から飛び込んでいく。風雲急を告げる様相に会場の緊迫感も一気に高まっていった。
「覚悟しやがれ!どりゃああぁぁッ!!」
「…!!」
「貴女が水瓶座のヴィボルグ…我ら蛮族四天王の力、篤と味わうが良い!」
「おっと、ヴィボルグ様だけじゃないぞ!テラコッタの騎士ガーベラもお忘れなく!」
「この日この瞬間…待ち焦がれていたわ!フルウム国のサンディア、全力でお相手するわよ!」
「上等じゃねぇか!それなら全員まとめて捻り潰すだけだ!!」
蛮族四天王と彩りの重装兵が正面衝突――いよいよ本格的に戦いが動き始める。小細工無しで真っ向からぶつかり合い、火花を散らす。アリーナに充ち満ちる熱気は満員の観衆が詰めかけたスタンドにも飛び火し、今にも闘技場自体が燃え上がらんばかりであった。
「俺様パ~ンチ!うおおりゃああッ!!」
「甘い甘~い!これでもアーマーナイトとして毎日鍛えてるんだから!」
「あれだな~…オイラ達の守りは簡単には破れないんだな、うん!」
「ぬうぅ…固い守りじゃのう。ちぃと見誤ったようじゃな…」
「なら答えは1つよ!とびきりデカい力を1ヵ所に集めりゃ良いのさ!」
「応。ならば我も共に参るぞ…我が同胞ザキハよ!」
「おう、お前が一緒なら百人力だ!頼りにしてるぜ、リューゲルゥゥッ!!」
ザキハが巨斧を、リューゲルが巨槍を高々と掲げ、荒々しく振るう。2人の左手の甲に印されたガーリックホワイトとチャイヴグリーンが猛々しい彩りの力を解き放っていった。
「2人まとめてブッ飛びな!スコロドン・ツェクリィィッ!!」
「我が武、ビンニー国の息吹、その身に刻め!ポッロチネーゼ・ジャヴェロットッ!!」
「うわあああぁぁぁッ!」
「あれだな…化け物、なんだな…うん…」
ガシャン!ガッシャ~ン!
「グラーノ選手、セレアル選手。以上2名、戦闘不能!」
『おおおぉぉぉッ!!』
「な、なんということだ…グラーノとセレアルが一撃で…!」
「よくもやりやがったな…このリベラ様が黒焦げにしてやるッ!!」
「リベラ、ジェンシア、小生も参るでごわす!皆で結託して戦局を変えるでごわすッ!!」
皆は闘志を奮い立たせるも、2人が倒された僅かな綻びから次第に防衛ラインが崩されていき、ホームグラウンドの空気に後押しされた蛮族四天王に瞬く間に攻勢を許してしまう。総勢120人の彩りの義勇軍は想いを1つに奮戦するも、僅か4人の蛮族王を食い止めるので精一杯だ。
試合開始から5分ほど経過する――120人の彩りの義勇軍は次々に倒され、残るは110人。僅か5分の間に10人を倒され、一行の胸中には少しずつ焦燥が滲み始めていた。
「隙あり、ベノムナックル!」
「ぬうぅおおッ!くらええぇぇいッ!!」
「おおっと、俺様に拳で挑もうなんざ100万年早いぜぇ!オオォラァァッ!!」
「がふっ…つ、強えぇ…!」
「グフッ…テラコッタ領、バンザアアアァァイッ!!」
「ヤート選手、ランディニ選手。以上2名、戦闘不能!」
「クソッ…自分が2人の敵を討つッス!」
「テリー、落ち着くんだ。みんなが次々にやられているこの状況、だからこそ冷静に相手を見るんだよ!」
「キャロル先輩…了解ッス!」
彩りの砦が崩され、前衛の面々が次々に敗れ去っていく。劣勢に陥る中、危地に立たされる前衛を救うべく治癒術を駆使する面々が衛生兵として縦横無尽に駆け回り、仲間達の傷を癒す役割を担っていった。
「良かった、間に合いました…ファーストエイド!」
「助かったぁ~!ペルシカちゃん、サンキューね!」
「うむぅ…我は浅慮であったか…蛮族の王、よもやこれほどとは…!」
「そうね、ミネルバ。あっという間にパオラとエストがやられたものね…リモーネ傭兵団、気を引き締めていくわよ!」
一方、蛮族四天王もただ指を咥えて見ているわけではない。打ち損じた敵が快復して向かって来る状況を打開すべく自身が立たされた戦局を動じることなく見通していた。
「チッ、治癒術で回復してたか…小賢しいぜ!」
「うむ…儂らもこのまま馬鹿正直に突っ込むだけでは、消耗戦に持ち込まれてしまうのう…」
「そんじゃ、そろそろ手分けするか。ナダベとイザサはこのまま手近な奴を倒して、アタイとリューゲルで衛生兵さん方を潰す。OK?」
「応。しかし、中衛後衛にも手練れが大勢いらっしゃる。十分注意されよ」
「ああ。アタイらの城であるこの闘技場でいつまでも好き放題にさせねぇぜ!」
蛮族四天王は2人ずつに分かれ、ダメ押しを決めるべく駆けていく。ザキハとリューゲルはアヌビスの傷を治そうとしていた神官バラキエルに奇襲を仕掛け、無防備な2人に容赦無く猛攻を叩き付けた。
「…フッ、隙あり!」
「そぉら、やらせねぇぜ!くらええぇぇッ!!」
「何ぃぃッ!?」
「クッ…!そ、ん…な…」
「アヌビス選手、バラキエル選手。以上2名、戦闘不能!」
ダスティピンクの神官バラキエルが討たれたのを皮切りに、非力な衛生兵達は蛮族四天王に為す術なく次々に倒されていく。立て直りかけていた戦局は再びじわじわと劣勢に傾き、一行を追い込んでいった。
「ペルシカ選手、戦闘不能!」
「マジかよ!?こりゃちょ~っとヤバいかもな…」
「皆で結束してもこんなに苦戦するなんて…これがこの闘技場の頂点に立つ蛮族四天王の力――」
「カチュア選手、ミネルバ選手。以上2名、戦闘不能!」
カチュアとミネルバは奮戦及ばず、ナダベとイザサに敗れ去った。既にパオラとエストが敗れており、共に傭兵団として戦ってきた4人を討たれたリモーネは赤黒い怒気を全身に纏い、ナダベとイザサに向かって突進していった。
「よくも私の大事な仲間を…許さないッ!!」
「おやおや、逆上してしもうたか…仲間想いなのは結構じゃが、いささか血の気が多過ぎたかのう」
「1人で突っ込んで来るか…そんじゃ、遠慮なく――」
「アリーヴェデルチ!」
コーヒー色の刃が地に突き刺さり、ナダベとイザサの足を食い止める。熱く闘志を燃やすリモーネの隣に断影の刃を駆使するヴィオが静かに闘志を燃やして並び立った。
「リモーネ、熱いのは良いことだが…本当に負けた4人を想っているなら、無様な犬死にはしてくれるな」
「ヴィオ…それじゃ、アンタが手伝いなさいよね!」
「ああ。共に戦うのは久しぶりだな、リモーネ」
「…そうね…べ、別に嬉しくなんかないんだから…」
一方、ザキハとリューゲルは彩りの義勇軍の中核を担う2人――金色の大剣士モニカと山吹色の皇騎士マリーに相対する。両雄の対峙は一触即発の空気を醸し出し、辺り一帯に異様な高揚感を生み出していた。
「よ~し、いよいよ大将さんのお出座しか!こいつぁ楽しみだぜ!」
「我らの居城でみすみす負けるわけには参りませぬ…いざ!」
「私も騎士の誇りに賭けて負けるわけにはいかん!参るぞ、モニカ殿!!」
「はい!私達の絆の力、貴女達にもご覧に入れます!覚悟ッ!!」
モニカとマリーは想いを1つに、力を1つに立ち向かう。左手の甲に印された祝福の証をキラキラと耀かせる2人の大剣士がビンニー国の蛮族達を統べる両雄に対して臆することなく彩りの力を解き放っていった。
「ブライトエッジ!」
「シャイニングブレードッ!」
「うおっ!?なかなかやるな…さすがは大将さんってことか…」
「恐れるな、ザキハ。我らもこの力をあまねく見せつけようぞ」
対するザキハとリューゲルも想いを1つに、力を1つにモニカとマリーを迎え撃つ。彩りの義勇軍の大将2人と刃を交える堂々たる勇姿はまさしく“王者”そのものであった。
「うおおりゃあああッ!ブッ飛べええぇぇッ!!」
「クッ…なんて怪力…!」
「せぇいっ!はああッ!!」
「グッ…リューゲル殿、見事な槍術よ…恐らく騎士としても名を挙げられるだろうな…」
ザキハとリューゲルは持ち前の怪力とホームグラウンドという地の利を生かし、勇んで飛び込んできたモニカとマリーを瞬く間に押し返していく。その圧倒的な胆力にモニカとマリーが一瞬怯んだ刹那、ザキハがガーリックホワイトの闘気を全身に纏わせ、得物の巨斧を荒々しく振り下ろした。
「騎士様、覚悟しな!スコロドン・ツェクリ!!」
「うああッ…すまぬ、モニカ殿…!」
「マリー選手、戦闘不能!」
「マリー!クッ…このままでは――」
「ぬわあああぁぁッ!!」
「おい、待てよ…今の声、イザサじゃねぇか!?」
「うむ…よ、よもや…そんなことが…!?」
ザキハとリューゲルの予感は的中していた。蛮族四天王の1柱であるイザサが彩りの義勇軍の前に倒れ伏し、敗れ去っていたのだ。同胞を討たれ憤怒に打ち震えるナダベの前にフォレストグリーンの蛮族ルーヴが得意気な表情で立っている。が、蛮族王イザサを討ったのはルーヴではない。
「…お、王者イザサ、戦闘不能…!」
「イ、イザサが…黒焦げだ…よくもやりやがったなああぁぁッ!!」
「フン、アタシ達の絆の力は絶対に負けねぇさ…なあ、エレンのお嬢!?」
「その通り!私達の力は1人だけのものじゃない。この軍に集まった120人全員のものなんだからね!」
蛮族王イザサを撃ち破ったのは赤き炎の戦士エレンだった。得物の斧は赤々と燃える炎を纏っており、持ち主の戦う意思を体現している。エレンは舎弟の荒くれ者達を従え、相対する蛮族王を撃ち破る刃を振るわんとしていた。
「イザサの敵だ!うおおぉぉああぁぁッ!!」
「させない!ミラースラッシャー!」
「くらいやがれ、ワイルドファング!…エレンのお嬢、任せた!」
ロビンとルーヴの援護を受け、エレンは赤き一閃を振り下ろすべく熱く闘志を滾らせる。赤い闘気がエレンの全身を包み込み、猛々しく燃える灼熱の炎となって具現化した。
「舞い上がれ、真紅の爆炎!舞い踊れ、灼熱の業火!ロアッソブラスト・ファイアダンス!!」
「ぐああああッ!この俺様がああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
「…お、王者ナダベ、戦闘不能!」
イザサとナダベの悲鳴を聞き付けて駆け付けたザキハとリューゲルは愕然とする。赤き斧戦士の彩りの力に焼かれたナダベとイザサが本拠地である闘技場のアリーナに倒れていた。が、2人の脳裏には憤りではなく、戦慄が影を落としていた。
「な…なんということだ…!」
「マジかよ…イザサ…ナダベ…!」
「今だ!隙あり!」
「くらえッ!でやああぁぁッ!!」
愕然とするザキハとリューゲルに休む間も与えず、山賊姉妹のメリッサとヴァネッサが襲い掛かる。彩りの荒くれ者達は自らを導くエレンと同じように熱い心の赴くままに我武者羅に戦っていた。
「メリッサトマホーク!」
「ヴァネッサアックス!」
「クッ…!」
「がはあっ…この野郎ッ!」
「さ~て、覚悟はいい?アンタ達に負けて倒れた仲間達の分も思いっきり行かせてもらうからね!」
エレンは先程よりも更に力強く燃える炎に心身を委ね、舞い踊るように軽やかに斧を振るう。炎に包まれながら休み無く彩りの力を叩き込むエレンの姿は勇闘士のように力強く、狂戦士のように荒々しい。
「舞い上がれ、真紅の爆炎!舞い踊れ、灼熱の業火!猛り狂え、我が闘志!!ロアッソブラスト・ファイアダンス・バーサーカー!!」
「何いいぃぃッ!?」
「う、ああッ…無念だ…!」
「王者ザキハ、王者リューゲル、戦闘不能!試合終了ッ!!」
試合開始時と同じ銅鑼の音が再び響く。その音は試合終了と同時に新たな蛮族王の誕生を告げるものだった。驚きに満ちたざわめきの中、最も武勇を挙げたエレンのもとにザキハが冠を持って歩み寄った。
「おめでとうございます!蛮族四天王を撃ち破り、最も活躍したエレン選手には…栄えある蛮族王の称号が授与されます!!」
『うおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!!』
「…おめでとさん。今日からはアンタがアタイらの頭目だ!しっかり頼むぜ、エレン様よぉ!!」
「ザキハ…ありがとね。それじゃ、景気付けに声出そうか!みんな、これからも気合い入れていくよッ!!」
『おおおおおおぉぉぉ~ッ!』
止む気配の無い大歓声の中、彩りの義勇軍と共に蛮族四天王も鬨の声をあげた。荒くれ者達を従える赤き戦士エレンは蛮族四天王を撃ち破り、遂に蛮族を統べる王にまで登り詰めた。彩りの力と絆の力を蛮族の国の戦いの舞台で存分に知らしめた一行は新たな船出を迎えようとしていた。
To Be Continued.The Story Goes To Next Chapter…