第183話『混沌の魔術師』
シリーズ第183話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
強きを尊ぶ蛮族の国で闘技大会に挑み、各々の色彩を輝かせる一行。闇に潜みながら仇為す者の影を断ち切るヴィオ班が好敵手のリモーネ率いる彩りの傭兵団を撃ち破り、鮮やかな逆転勝利を収めた。戦いの後、リモーネ率いる5人組がヴィオに連れられて一行のもとに姿を現した。
「久しぶりに戦って清々しい気分になれた。互いの成長を実感出来たように思う…良い戦いだったな、リモーネ」
「そうね、ヴィオ。完敗だったわ。約束通りアンタ達の仲間になるわね!リモーネ傭兵団、お世話になりま~す!」
「リモーネ、傭兵として名高い貴女が味方になってくれれば心強いです。お仲間の4人もどうぞよろしく」
「うおおっ!?5人いっぺんに仲間になるッスか!?これはびっくり仰天ッス~!!」
「大袈裟ねぇ。アンタ達の方こそ100人超えてる大所帯じゃない。ま、5人揃ってエースになってみせるから、見てなさい!」
リモーネは試合前に交わした“賭け”の約束を守り、引き連れた4人と共に彩りの義勇軍に加わった。総勢120人となった一行は更に色彩豊かになり、更に輝きを増していった。
「こんなにたくさんの仲間に出会えて嬉しいです。わたくし、頑張りますね!」
「その意気だよ、エスト!アタシだってバリバリのフルパワーでエースの座に登り詰めてやるんだから!」
「たくさんの仲間と切磋琢磨出来ると思うと今からワクワクするわ。どうぞよろしくお願いします!」
「我が武と彩りの力、これからはこの軍のために鍛え、この軍のために振るおう。ガリバルディ国のミネルバ、その身命は汝らと共に!」
「ってことで、改めてよろしく!…さて、そろそろ試合が始まる頃ね!みんな、いくわよ~!!」
リモーネ、ミネルバ、パオラ、カチュア、エストを加えた一行は闘技場の客席に陣取り、アリーナに熱い視線を注ぐ。ビンニー国で出会った面々による即席のグループが戦いに臨もうとしていた。先鋒ラッテ、次鋒アルキヴァ、中堅タンガ、副将ズィヒール、大将ニュクスの布陣で挑む。先鋒を務めるミルキーホワイトの見習い傭兵ラッテは青銅製の剣を振るって果敢に立ち向かい、敵軍先鋒の荒くれ者に臆することなく彩りの力を見せつけた。
「くらええぇぇッ!ハイパーラッテソォォドッ!!」
「ぐああああッ…!」
「そこまで!勝者、ラッテ選手!」
「やったぁ!ししょー、見ててくれましたか~!?」
敵軍先鋒に打ち勝ったラッテは小躍りしながらスタンドの彩りの義勇軍が座る一帯に向けて大きく手を振る。師と仰がれるヴィオは無言のまま大きく頷き、仲間達もラッテの健闘を称えた。
「ラッテ、お見事です!傭兵としての鍛練が実を結んでいますね!」
「ああ、ラッテって聞いたことある名前だと思ったら、訓練生の娘?いつの間にこの軍に入ってたのよ…」
「ああ、彼女自らヴィオを追いかけてこの軍に加わったんだ。出会ったのはつい昨日で――」
「ラッテ、いつまでも浮き足立つな!次が来るぞ!」
ヴィオの言葉でハッと我に帰り、再び戦いの舞台に向き直る。敵軍次鋒の大男がのっそりと巨躯を動かし地鳴りをあげながら歩み寄ると、武器を持たずにラッテの前に仁王立ちした。
「よう、お嬢ちゃん!次はこのゲリバ様が相手だ!」
「ひええっ…デ、デカい…!」
「おいおい、まさか怖じ気付いちまったのか?その剣が飾りじゃねぇならかかって来なよ!」
「そうだ…大きさだけが強さじゃないってししょーも言ってた…負けるもんか!」
ラッテは闘志を奮い立たせてゲリバを迎え撃つが、誰の目にも一目瞭然な体格差は戦局にも如実に影響する。敵軍次鋒ゲリバの巨体から繰り出されるパンチとキックの応酬はラッテを容赦無く追い込んでいった。
「ガハハハッ!そぉら、高い高~い!」
「クッ…は、離せッ!いたたたた…」
「ワハハ!敵に離せと言われて離すバカがどこにいるってんだよぉ!?オラオラァ!!」
ミルキーホワイトの彩りの戦士ラッテは先鋒戦とは打って変わって瞬く間に劣勢に立たされる。頭を鷲掴みにされて動きを封じられ、一方的に打ち据えられるばかりであった。
「ブッ飛ばしてやるぜ!うおおらああッ!!」
「ふぎゃああぁぁッ!」
「そこまで!勝者、ゲリバ選手!」
荒くれ者ゲリバに片手で投げ飛ばされ、ラッテは惜しくも敗れてしまった。共に戦う4人の仲間達が仰向けに倒れる若き見習い傭兵ラッテのもとに駆け寄り、奮戦と健闘を労った。
「だ、大丈夫ですか?ラッテちゃん…」
「タンガ…ごめんね~…やられちゃったよ…いたた…」
「ふむぅ…やはり簡単にはいかんもんですなぁ…戦いはまだまだこれからですぞ!」
「さて…私の番ね。みんなのため、力を尽くすわ…」
「アルキヴァさん、お願いするわね。貴女の力、楽しみに拝見させていただくわ」
ラッテに代わって黄緑と紫の2色が共存するカオスヴァリーの紋様を持つ混沌の彩りの戦士アルキヴァが戦いの舞台に踏み入る。ビンニー国の酒場でビクトリアと出会い、一行に加わったミステリアスな女性である。黄緑と紫を基調とした衣装に身を包んだ妖しい彩りの戦士は月の光を編んだような美しい銀髪をなびかせながら戦いの舞台へと踏み出した。
「おおっ、姉ちゃん美人じゃねぇかよ!花があった方が戦いも盛り上がるってもんだぜ!ヒヒヒヒッ…」
「フッ、生憎だけど花にはトゲが付き物よ?さあ、始めましょうか」
「おいおい、つれないなぁ。悪いけど、美人だろうが手加減しねぇぜ!」
アルキヴァは上着の背中に収めていた杖を構え、静かに。敵軍次鋒のゲリバは昂る闘志に委ねるがまま、猪突猛進という様相でアルキヴァに飛び掛かってきた。
「そんじゃ遠慮なく…うおおおああッ!」
「…カオスフォース!」
「ぐああっ!!」
黄緑と紫が紡ぐ混沌の力が牙を剥き、ゲリバに襲い掛かる。人智を超越した奇妙な混沌の魔手に囚われたゲリバは錯乱するばかりであり、戦意は既に何処かへと消し飛んでいる。
「な、な…なんだこの術は!?痛いとも違う、変な感覚だ…なんだよコイツは!?なあ、なんなんだよぉ!?」
「フフフフッ…わからないならわかるまで味わわせてあげるわ…カオスシュート!」
「ぐええっ…!」
黄緑と紫が混じり合う奇妙なエネルギー弾が仇為す者を襲う。ゲリバは完全に戦意を失っていたが、思考が停止して降伏することも出来ない。得物の杖が黄緑と紫に染まり、禍々しい狂気を伴って凶襲する彩りの力を紡ぎ出した。
「これで終わりよ…カオスパニッシャー!!」
「ぎゃあああぁぁッ…!」
「あ…えっと…そ、そこまで!勝者、アルキヴァ選手!」
奇妙な混沌の力が敵軍次鋒ゲリバを討ち、闘技場を異様なほどの静寂が支配している。敵軍次鋒ゲリバを討ったアルキヴァは表情を変えることなく静かに佇んでいたが、闘技場のアリーナの真ん中に立つ混沌の魔術師をざわめきが包んでいた。
「やったぁ!アルキヴァさんが勝った~!!」
「…味方ながら空恐ろしい人ね。異様な空気だわ…」
「うむぅ、なんとも奇妙奇天烈な術ですな…でも、その方が研究者魂が騒ぐというもの!解析し甲斐がありますなぁ…フヒヒヒヒィッ!」
「アルキヴァさんの術もズィヒールさんのテンションも怖いです…ア、アルキヴァさん、頑張って…!」
一方、客席で見守る彩りの義勇軍一行もアルキヴァの彩りの力に息を呑む。混沌の魔術が紡ぐ奇妙な空気を感じ取り、戦慄する者も少なからずいた。
「これが…アルキヴァの彩りの力…」
「カオスって原初の混沌のことだよな?それを操るだなんて恐ろしいぜ…」
「彼女の醸し出す雰囲気かしら…あたくし、なんだか胸騒ぎがするわ…」
「あたいが酒場で会った時もそうだったよ…アルキヴァの不思議な雰囲気にぞくぞくしたけど、なぜだか吸い込まれそうになったんだ…やっぱりただ者じゃないねぇ…」
「そうね、ビクトリア…混沌の力を司る精霊…もしいるとしたら創造神と同じ時代に存在していたことになるわ。その加護を受ける魂が存在するなんて…!」
「うむ、精霊にもいろんなもんがあるんじゃなぁ…世界っちゅうもんは驚くほど広いのう…」
その後、アルキヴァは敵軍を全く寄せ付けず、中堅と副将を軽くあしらい、大将も瞬く間に追い詰める。カオスヴァリーの紋様が妖しく輝き、混沌の彩りの力を解き放った。
「消し飛びなさい…カオスパニッシャー!!」
「ぐああああッ!!」
「そこまで!勝者、アルキヴァ選手!この試合、ニュクス軍の勝利!!」
仇為す一団の荒くれ者達を瞬く間に蹴散らし、アルキヴァは息を着いて得物の杖を上着の背部に収める。異様な静寂が影を落とす中、仲間達も驚愕するばかりであった。
「うわぁ~…アルキヴァさん、強い…」
「フヒヒッ!こいつぁグレートですな…さっそくアルキヴァさんの力をデータ解析してみますぞ!」
「あわわ…アルキヴァさんの力、なんだか怖い…胸騒ぎがします…」
「そうね、タンガ。相手のゲリバという方が言ってた“痛いとも違う変な感覚”…どういうことなのかしら…?」
戦いを終えたアルキヴァ達が闘技の舞台から一行のもとに帰り着いた。が、混沌の力を目の当たりにした彩りの義勇軍の皆は手放しで喜べず、渋い表情を見せていた。
「只今戻りました。良い戦いが出来たと――」
「アルキヴァ…貴女の精霊の力、私達とは違うものでしょう?」
「…そうね。私の力は混沌を司る力…原初の宇宙の摂理を使って戦うのよ」
「や、やはり…!アルキヴァさんはわたくし達の知恵を超越した力を…!」
原初の宇宙の摂理――人間の叡知の遠く及ばぬ存在を見せつけられ、一行は驚嘆する。が、精霊の世界を知る疾風の巫女フェリーナの目の色が変わる。常に冷静で落ち着いた普段の姿とは別人のような形相でアルキヴァに迫っていた。
「アルキヴァ!貴女の精霊の根源は何!?貴女の生まれた国は何処!?貴女の知る精霊の摂理、わかる限り教えて!!」
「…わからない。実はね、私、記憶喪失なのよ。家族が誰かも、何処で生まれたかも、何をしていたかもわからない。混沌の力のこととアルキヴァという名前しか覚えていなかったの…ごめんなさい…」
「そんな…原初の精霊の摂理、アルキヴァの力の根源は――」
「フェリーナさん、これは私の推論の域を出ないけど…もしかしたらアルキヴァさんは混沌の精霊そのものかもしれないのである」
思いがけぬ一言で皆の視線がチリアンパープルの彩りの戦士カシブに集中する。アルキヴァに縋り付いていたフェリーナは標的を変え、カシブに詰め寄った。
「カシブ!?どういうこと!?」
「うん、私が考えるに…魔族の脅威が迫っていることを神々は案じたのである。そこで世界の理の乱れを補完し、修正する役割を担う混沌の神の遣いである精霊が人の姿で現世へと降臨された…それがアルキヴァさんなら人としての記憶が無いのも説明がつくのである!」
「アルキヴァが…混沌の精霊…まさかそんなことが…」
「うん、精霊がどうとか私にはよくわかんないけど、そういうことにしておきましょうよ。アルキヴァだって私達の仲間でしょう?たとえアルキヴァの正体が何であったとしても、絆を紡ぐことを拒む理由にはならないわ!」
「リモーネ…そうね。共に歩み、共に戦えばアルキヴァの精霊の摂理も見えるかもしれない。一緒に絆を紡ぎましょう…よろしくね」
「フェリーナさん…ええ、よろしく」
フェリーナとアルキヴァは穏やかな表情で向かい合い、握手を交わした。アルキヴァの混沌の力が紡ぐ黄緑と紫が入り交じる深淵は世の平穏を脅かす魔の脅威を退け、世の理の不和を正す正義の鉄槌となるだろう。混沌の魔術師アルキヴァと新たな絆を紡いだ一行は次なる戦いに挑もうとしていた。
To Be Continued…