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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter6:闘技大会篇
182/330

第182話『色彩武勇~vol.20~』

シリーズ第182話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

蛮族四天王の統べるビンニー国で闘技大会に挑む彩りの義勇軍一行。闇に潜みながら仇為す者の影を断ち切るヴィオ班は奮戦するも、彩りの戦士5人を揃えた新生リモーネ傭兵団を相手に苦戦を強いられている。残るは大将ヴィオただ1人、サラマンダーレッドの副将ミネルバとレモンイエローの大将リモーネの2人を討ち、勝利を掴めるのであろうか?



「汝が将か…汝の戦人(いくさびと)としての意思、確かめさせてもらう!」


「フッ、私はあくまで実益のために戦うまでだ。今、最も優先すべきは“共に戦う仲間の想いに応える”ということか…まあ、いずれにせよ私は貴様に勝つ…いや、勝たねばならない!」


「うむ、背水の心構えを以ちて戦に挑むその意気や善し!ガリバルディ国のミネルバ、いざ参る!!」



まさに背水の陣、自身が負ければ自軍の敗戦が決まる。ヴィオは決然たる意思を抱きながらミネルバに対峙する。断影(かげだち)の疾駆に対し、蝎紅(サラマンダーレッド)の双斧使いは一片の慈悲も見せることなく炎竜の牙を剥いた。



「フッ、はあッ!」


「くらえぇいッ!ぬうぅおおああっ!!」


「フン、大振り過ぎだ!よし、間合いは十分…今だ!」


「ぬうぅっ!?」


「そこだ!てやああぁぁッ!」



ヴィオは足元を蹴り上げ、砂埃を巻き上げてミネルバの視界を遮る。棒立ちになった敵軍副将に対して矢継ぎ早に追い討ちを見舞い、全身に仕込んだ無数の刃を以て切り刻んでいった。



「フッ、どうした?貴様、足が止まって――」


「くだらん!愚策を弄して我を欺こうなど、驕慢甚だし!我が刃の前にひれ伏すが良い!!」


「おっと、逆上したか…まあ、それならそれで策はある。奴の頭に血が昇っている間に仕留めるか…!」



ヴィオは自身の形振り構わぬダーティファイトに激昂したミネルバとは対照的に涼しい表情を見せ、相手の怒りなど何処吹く風とばかりに自身のペースを保ちながら立ち向かっていく。リモーネ班の面々は唖然としていたが、ヴィオと旧知の仲である大将リモーネだけは“然もありなん”という表情を見せていた。



「あっちゃ~…ミネルバさん、ぶちギレちゃったよ…」


「やれやれ、ヴィオのことだから何かやらかすとは思ってたけど…ミネルバって戦いに対して潔癖な所があるのよね…」


「ヴィオさんがミネルバさんの性格を知ってか知らずかはわからないけど、相手の心の隙を突くのが得意なのね…敵に回すと厄介な相手だと思うわ」


「あわわわ…ミ、ミネルバさん…!」



一方、客席で見守る彩りの義勇軍一行も固唾を呑んで戦況を見つめている。ヴィオの戦術に憤怒の炎を燃やすミネルバの鬼のような形相に戦慄する者、後がない戦況に緊迫を滲ませる者、皆がそれぞれにヴィオを案じていた。



「ヴィオ御姉様…ああ、ドキドキしますわ…」


「リーベ、大丈夫ッスよ!ヴィオは簡単には負けないッス!クールな外見に熱い心を秘めているッス~!」


「ヴィオが名うての傭兵なのは自警団の時に噂を聞いただけだったけど、敵として現れた時は驚いたよ…正直あたいも死を覚悟したからねぇ…」


「うむ、あの時は恐ろしい戦いぶりじゃったのう…ワシらの一門に入ってからは心強い味方に――」


「こ、これは…どうなっているの!?ヴィオの精霊の気がミネルバの体に流れ込んでいるわ!」


「ヴィオ…何をするつもりなんだ…!?」



フェリーナとリタの言葉を受け、皆の視線がアリーナの一点に集まる。妖しいコーヒー色のオーラが靄のようにミネルバを包み込み、容赦無く蝕んでいった。



「な、何ッ!?これは…!?」


「何、どうということはない。ちょっとだけ貴様の力を借りるだけだ…貴様を倒すためにな!」


「ぬ、うぅ…姑息な…!」



コーヒー色の闘気がヴィオだけでなく、敵軍副将ミネルバをも包み込む。影に溶け込む珈琲色の闘気はヴィオの背後に集束し、2つの斧を構えたミネルバの姿を象った幻影を浮かび上がらせる。彩りの幻影は主とも言えるミネルバに躊躇いなく襲い掛かった。



「貴様の猛る力、私が使ってやる!フォウルプレイ・トリックスター!」


「ぐぬうぅ…貴様、ごときに…!」


「そこまで!勝者、ヴィオ選手!」


『おおおぉぉッ!!』



コーヒー色の闘気が紡ぐ幻影を以て幻惑し、サラマンダーレッドの双龍斧のミネルバを撃ち破る。歓声が闘技場を包む中、ヴィオは表情を全く変えることなく静かに佇み、次なる戦いに向けて闘志を燃やしていた。



「やったやったぁ!さっすがおねえちゃん!」


「フフッ…ザラーム、貴女は姉を誇りに思っているのね。その調子で応援しましょうね…」


「ヴィオ殿、見事なものよ。傭兵として名を馳せただけのことはある…だが、リモーネ殿もヴィオ殿に比肩する腕の持ち主…武勇を祈る!」


「ヴィオ…グルルオオォッ!!」



一方、リモーネ班。ヴィオの幻惑の刃を見せつけられ驚嘆しながらも副将ミネルバのもとに駆け寄る。祝福の証という旗印のもとに戦う5人は改めて想いを1つに重ねていた。



「ミネルバさん!だ、大丈夫ですか!?」


「…ぬ、うぅ…なんと狡猾な、輩よ…無念…」


「彼女の技の名前にあった“Foul Play”って“イカサマ”っていう意味よね…したたかな人だわ…」


「まあ、それでこそヴィオだわ。私がミネルバの敵を討ってみせる…みんなの想いに応えるわ!」


「リモーネ、頑張って!アタシ達みんな頼りにしてるよ…リーダー!」



大将を務めるリモーネが鮮やかなレモンイエローの紋様を煌めかせながら相対する大将ヴィオに対峙する。彩りの戦士として相対する以前から刃を交え、互いを高め合った2人は友人と遊ぶ子供のように純粋な眼差しをぶつけ合っていた。



「…ヴィオ、やっと白黒ハッキリさせる時が来たわね!」


「リモーネ…こうして正々堂々と向かい合うのも新鮮だな…私もこの時を楽しみにしていたぞ!」


「フフッ、意地張っちゃって大丈夫?ミネルバとの戦いで疲れたんじゃないの?」


「フン、何を言い出すかと思えば…愚問だな。この刃でお前の影を断ち、切り刻む…それだけだ!」


「そう来なくっちゃ!私だって負けられない!この舞台でアンタを倒して、一緒に戦うみんなの想いに応えてみせるんだから!」


「…変わったな、リモーネ…いや、そういう熱い所は変わっていないか…いくぞ!」



両軍の大将である傭兵2人が左手の甲に印された祝福の証を煌めかせ、雌雄を決するべく正面衝突する。謂わば戦闘のプロである傭兵として鍛え上げた剣術は洗練されており、スタンドから見つめる観衆を熱気の坩堝へと誘った。



「フッ、てやッ!」


「えぇいッ!はああッ!!」


「フッ…さすがだな、リモーネ…くらえ、アリーヴェデルチ!」


「フン、負けないんだから…ツィトローネ・シュヴェールト!」



軽やかに短刀で切り付けるヴィオに対し、リモーネは両刃の片手剣を力強く降り下ろす。闘技場のアリーナの真ん中で激しく刃を交える2人の脳裏には全く同じ光景が浮かび上がっていた――



――数年前、アランチョ国。ヴィオとリモーネは同じ傭兵ギルドに所属し、同じ釜の飯を口にする間柄であった。2人の実力は数多の傭兵の中でも傑出しており、アランチョ国の傭兵達のトップに立つ両翼として広く名の知られた存在であった。ある日、2人は山中にて行商人から売り物を強奪する山賊と戦っていた。



『…今だ、隙あり!』


『おおっと、そこに隠れてんのはバレバレだぜ!?そらよぉ!』


『クッ…しまった…!』


『ヴィオ!ちょっと大丈夫!?…まったく、仕方ないわね…!』



死角からの奇襲を狙ったヴィオは返り討ちに遭い、結局、山賊はリモーネによって退治された。不覚を取ったヴィオは悔しさを押し殺しながらギルドへの帰路に着く。後に着いて歩いていたリモーネは悪戯っぽい笑みを浮かべながら近付き、ヴィオの肩をポンと軽く叩いた。



『ヴィオ、手を出しなさい!…ほいっと♪』


『金、だと…?リモーネ、なんのつもりだ?』


『何って報酬のお金よ?心優しいリモーネちゃんが負けて惨めな思いをしてるヴィオちゃんにお小遣いをあげるんだから、有り難く思いなさい♪』


『チッ…まあいい。これは借りにしておこう。必ず返してやるから、そのつもりでいるんだな』



2人は互いに冗談を言い合いながら笑い合い、肩を組みながらギルドへと帰り着く。ヴィオとリモーネは互いに信頼を寄せ合い、互いに相棒としても好敵手としても認め合う強い絆で結ばれていた。



ところが、ある日突如として傭兵ギルドに衝撃が走った。ヴィオが依頼主を殺害したという報せが届いたのだ。依頼主が魔物を神として崇拝する邪教信者の回し者であることが明らかになり、危険と判断したヴィオが事故に見せかけて殺害した。が、傭兵による依頼主の殺害として表沙汰となり、ヴィオは立つ瀬を失った。



『ヴィオ!アンタ、依頼主を…本当なの!?』


『…ああ。間違い無く事実だ。邪教信者が後ろで糸を引いていたとはいえ、依頼主を殺したことに変わりは無い。私は傭兵として許されないことをしたんだ…』


『そんな…どんな理由があったとしても、それじゃ賊と何も変わらないじゃない!』


『全くその通りだ。だから私は此処を去る。リモーネ、あとは任せたぞ…元気でな』


『ヴィオ…!バカ~~~ッ!!うわああぁぁん!!!』



ヴィオはリモーネの子供のように泣き叫ぶ声に振り返ることもせず、誰にも行き先を伝えぬまま姿を消した。その後、ヴィオは傭兵ギルドでは行方不明者として扱われることとなった。一時はアランチョ国の民も傭兵ギルドも騒然となったがやがて忘れ去られ、過去の人としてその存在は瞬く間に風化していったが、リモーネの胸中には複雑に絡まったままだった。魔の影が見え隠れする哀しき濡れ衣はヴィオにとってもリモーネにとっても忘れ得ぬ忌まわしき思い出となった――



それから時は流れ、彩りの戦士として再会したヴィオとリモーネは闘技場の真ん中で両軍の大将として刃を交えている。賊仕込みの俊敏な短刀術を見せつけるコーヒー色の戦士ヴィオに対し、レモンイエローの戦士リモーネは傭兵として愚直なほど直向きに鍛練した剣術を以て迎え撃ち、全く互角の様相を呈していた。



「うおおぉぉッ!!」


「てやああぁぁッ!!…ハァ、ハァ…やるじゃない、ヴィオ…」


「ハァ、ハァ…お前もな、リモーネ…次の一手で…お前を切り刻む!」


「フフッ…珍しく意見が、一致したじゃない…アンタを倒すには…あと一振りで十分よ!」



コーヒー色とレモンイエロー、両将の左手の甲に印された2つの色彩が闘技場を真っ二つに分かつ。2人は互いに昂る闘志に委ねるまま、決戦の雌雄を決する一閃を見舞おうとしていた。



「受けてみよ、貴様の影を断つ漆黒の剣閃!オールヴォワール!!」


「私の全力の本気、受けてみなさい!マールム・キトレウム!!」



2人は彩りの闘気を纏った得物の刃を振り抜く。その刹那、2人は一閃した姿勢のまま時間が静止したかのようにピタリと動きが止まる。彩りの義勇軍一行、観客、審判、両軍の戦士達が一斉に息を呑む。2,3秒ほど経った頃、両翼の片割れがフラリとよろめき、その場に俯せに倒れた――



――リモーネだった。傭兵団を統べる大将が熱戦の末に力尽き、遂に雌雄は決した。



「リモーネ…!」


「ヴィオ…アンタに、負けるなら…本望よ…ありがとう…」


「…そ、そこまで!勝者、ヴィオ選手!この試合、ヴィオ軍の勝利!!」


『…うおおおおおぉぉ~ッ!!』



ヴィオがリモーネを撃ち破り、スタンド全体から怒涛のごとき大歓声が一気に押し寄せる。仲間達が歓喜に沸き上がる中、ヴィオはリモーネの手を取って助け起こす。リモーネが大粒の涙を流しながらヴィオに抱き着くと、ヴィオは優しく微笑みながら抱き締め、熱い抱擁を交わした。彩りの義勇軍のコーヒー色、煙草色、ダスティパープル、チョコレート色、栗色――彩りの傭兵団のレモンイエロー、サラマンダーレッド、アイスグリーン、ファウンテンブルー、パステルピンク――10色の彩りが煌めいた戦いはヴィオ班の勝利という結末で大団円のうちに幕を下ろした。




To Be Continued…

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