第18話『黄雷の槍、紫電の鎚』
シリーズ第18話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
ガンメタル島の孤高の科学者ラムダ博士と出逢い、魔空間の存在を知らされたモニカ達一行はラムダの娘ゼータを加え、汚染で濁ったアオニビ海の大海原を船で進んでいた。
「トリッシュ、雷の神殿にどんな用事があるのだ?」
「ああ、アタシ、姉貴を助けられる力を付けるために試練を受けるんだ。雷の精霊ヴォルトに会いに行くんだよ」
「そうか、了解した。誰かを想う、とは…美しいものだな。トリッシュにとって姉はどんな存在だ?」
「姉貴は…いつもアタシのことを一番近くで見てくれてて、優しくて、一生懸命なんだけどほっとけないところもあって…誰より一番大事な人だよ」
「ほほう…それは興味深い。私は兄弟がいなくてずっと1人だったから、少し羨ましくもある。守るべきものの存在は能動的行動を喚起するのだな…参考になった。感謝する」
アオニビ海の隅、汚染が比較的薄い海域に建つ雷の神殿に到着した。基調となる黄色の中に紫が挿し色に用いられている。
「ここが雷の神殿…精霊ヴォルトが祀られているのね。素晴らしいわ…」
「そうですね…トリッシュ、鍵を」
「ああ、うん…(姉貴、待ってて…アタシ、強くなるから…)」
トリッシュが鍵を取り出し、扉の鍵穴に差し込む。紋様と鍵の宝玉が目映い煌めきを放つと、扉は大きく軋みながら開いた。一行が中へ入ると大きく開けた広場が待ち構えており、その最奥に小さな祭壇が建っている。
「ふむ…だいぶ古い建物じゃな。人っ子1人おらんわい…」
「そうですね…でも精霊がいるからか、空気がすごく綺麗です。これも神の祝福の力でしょうか…」
「トリッシュさん…あの…試練、頑張ってくださいね。きっと…大丈夫ですよ」
トリッシュはリデルの言葉に黙って頷き、導かれるように祭壇の前に歩み出た。その瞳には祝福の証の使命と愛する者への直向きな想いが渦巻いていた。
「我が名はトリッシュ。雷の精霊ヴォルトよ。我が呼び声に応えよ。我に道を示したまえ!!」
(うん…トリッシュ、教えた通りに出来てるわ。カッコいいわよ、フフフ…)
「フェリーナ姉ちゃん?何をニヤニヤしてるんや…って、あっ!?」
トリッシュの呼び掛けに応えるように黄色と紫の稲光が祭壇から放たれる。その中から1人の男が姿を現した。紫のスーツに黄色のループタイ。紫の髪を少し長めに伸ばし、モノクルをかけている。
「私はヴォルト。神々の子よ。精霊が眠るこの地に何用ですかな?」
「アタシの大切な人を助けたい。精霊の試練を受けさせてくれ!」
「ほう、単刀直入ですね。では、貴女にはその覚悟がありますか?言葉だけでなく貴女の心にも」
「あるに決まってんだろうが!ナメてんじゃねぇぞコラァ!!」
「おやおや、随分と乱暴な物言いだ。果たしてその威勢がいつまで続きますかな?」
「ヘヘッ、能書きはその辺でいいだろ?そろそろ始めようっての!」
「いいでしょう。私に貴女の力を示してみせなさい。では…お連れ様にはお待ちいただきましょうか!」
ヴォルトが指を鳴らすと祭壇の周辺を電気の柵が取り囲む。その中にはトリッシュとヴォルトの2人しか居らず、モニカ達に介入の余地は一切ない。
「トリッシュ!!」
「なんてこった…これじゃ俺達は手が出せないぞ…」
「それが“試練”ってことかい…あたいらはトリッシュを信じるしかないね…」
「ふえぇ…怖いよ〜…トリッシュ、頑張って〜!」
「フフフ…これで逃げ場もなければ邪魔が入る心配もありません。楽しませていただきたいものですね」
「上等!精霊だろうがなんだろうがシビレさせてやるよ!!Rock You!!」
「フフッ、実に面白い。やる気満々だとこちらも迎え甲斐があるというものです。行きますよ!」
ヴォルトがメイスを握り、真っ直ぐに飛び込んでくる。トリッシュも槍を構え、真っ向から迎え撃った。
「うあぁっ!そぉらぁ!」
「はっ!たぁっ!!」
「どおりゃ!うおあぁ!」
「ふん!せいやぁっ!」
互いに激しく討ち合うがヴォルトは顔色一つ変えない。それに反比例するようにトリッシュの表情には徐々に焦りの色が見え始めていた。
「チッ、この野郎…」
「ふむ…力は一級品ですが、如何せん隙が大き過ぎますね。ほら、そこがお留守だ!」
ヴォルトの鎚がトリッシュの足元を薙ぎ払う。バランスを崩し、完全に体が宙に浮かんだ。
「うわっ!?グッ…」
「受けよ、紫電の閃光!ダイナモブラスター!」
「うああぁぁっ!」
紫の閃光が四方八方へと弾けて火花を散らす。紫電の鎚に討たれる姿はトリッシュの体から発光しているかのようだ。
「トリッシュ姉ちゃん!負けたらアカンで!!」
「クッ…サンダーストリーム!」
「うおっ!なるほど、なかなかやりますね」
「でぇいや!オラァ!」
トリッシュは雄々しく、力強くヴォルトに槍を振るう。トリッシュの黄色く煌めく雷撃とヴォルトの紫に輝く稲光が神殿の中に溢れている。
「ふむ…力がよく生かされていますね。こちらも面白くなってきましたよ!」
「喰らいやがれ!エレキスターヴ!!」
「甘い!スパークラッシュ!!」
トリッシュの彩りの力がヴォルトに押し込まれている。トリッシュの猛々しい攻めに触発されたのか、ヴォルトの攻撃にも次第に力がこもってくる。
「はああぁぁっ!」
「チッ…オラアァ!!」
「トリッシュ…熱く燃える闘魂を感じるッスね…」
「ええ…カタリナさんを救いたい一心なのですわね。カタリナさんへの愛が彼女の“祝福の証”の源であり、その使命の行き着く先…」
(アタシは…強くなりたい。強くなって、姉貴を救いたい…アルニラムッ!!)
激しく槍を振るうトリッシュの視界にヴォルトの姿はなく、アルニラムの幻覚が彼の動きに重なっていた。裂かれた愛を取り戻したい衝動に突き動かされるがまま、間髪入れず畳み掛ける。
「うおらあぁ!吹き飛びやがれえぇッ!!」
「むっ…せぇいやっ!」
力強い一振りを受けたトリッシュは仰け反り、ヴォルトを睨み付ける。トリッシュを睨み返す彼の瞳には疑念の色が揺らめいている。
「どうしましたか?貴女の武、義が込められた良い力なのに…どこからか雑念が混じっていますよ。殺意にも似た、負の感情…」
「なっ!?そ、それは…」
「憎悪はその彩りを濁らせ、力を鈍らせます。仮初にも神々の子であるならば、貴女の使命は義を以て果たしなさい!」
「義を以て、だぁ…?そんな綺麗事で片付けられると思ってんのか!アタシにはどんなことをしてでも果たさなきゃいけないことがあるんだよ!!」
「そうですか…解らなければ、この試練を乗り越えることなど出来まい!覚悟!」
更にヴォルトの勢いは増していく。トリッシュは必死に食らい付くが、有り有りと疲労の色が見て取れる。
「エレキテルショット!」
「フッ、甘い!」
「何っ!?うああぁぁっ!」
ヴォルトがメイスを振り抜き、黄色く煌めく雷の弾を打ち返した。激しい稲光に討たれたトリッシュはその場に片膝を着く。
「トリッシュ!そんな…負けちゃうよ…」
「クレア!私達が弱気になっちゃダメだよ!まだトリッシュは燃え尽きてない、はず…」
「やれやれ、攻めがあまりにも単調ですね。勢いは最初だけでしたか…では、幕を引きましょう。墜ちよ!プラズマトルネード!」
激しい放電音をあげる紫電の光が渦を巻き、トリッシュの体を包み込む。見守るモニカ達も戦々恐々とするばかりだ。
「ぐあぁあぁあぁッ!!」
『トリッシューッ!!』
(…チクショウ…救えないのか…姉貴…姉貴……そうだ!前に姉貴が…)
『姉貴、何の本読んでるの?』
『電子工学の本だよ♪トリッシュも見てみる?』
『どれどれ…接地基準電位点?なんだこりゃ…』
『電磁波や静電気を遮断して、電子機器の誤動作を防ぐために地面に着ける電磁シールドだよ。これによって安全に電磁波を逃がして…』
(姉貴のあの本…もしかしたら…よし!)
トリッシュは僅かに残る力を振り絞り、槍を地面へと突き刺す。力の限りに地の深くへ差し込み、歯を食い縛った。
「なんと!何をするつもりだ…!?」
「うおあぁあぁっ!!」
トリッシュの体から紫の電流が放たれ、柵に当たって激しく瞬く。その一端がヴォルトの体を捉えた。
「ぬあぁあぁっ!!」
「わぁ〜!トリッシュすごいすごい!」
「トリッシュさん…槍をアース代わりにしたのですね。素晴らしいわ!」
「む…あぁす…って何ッスか?」
「それは後で説明する。今はトリッシュを見守ることが最優先任務だ!」
「うおあぁあぁあぁ〜っ!!喰らいやがれええぇッ!!!」
彩り溢れる黄色と紫が層を成す。荒々しい電気の束が集束し、ヴォルトへ襲いかかった。
「ぐあぁっ!まさか…私の術が受けられるとは…」
「うおおらああぁぁ!!負けられっかよ〜!!」
「トリッシュ!今こそ精霊の試練を加護へと変えるのよ!!」
「トリッシュ…カタリナのために、世界のために…貴女の為すべきことを為すのです!!」
トリッシュを見守る仲間達の心にも彩りの光が灯る。黄色く煌めく紋様が仲間の言葉をシグナルに更なる輝きを放っていた。ヴォルトは稲光に追い詰められ、一気に防戦を強いられている。
「サンダーストリーム!!」
「なっ!?威力が格段に増している…馬鹿な…!」
「轟雷の槍よ、貫け!!トゥローノ・ランチャー!!!」
「うおおおぉぉぉ〜っ!!!」
稲光が収まる。その中央に俯せに倒れていたヴォルトはゆっくりと体を起こすと、涼やかな微笑みを浮かべた。
「お見事です。まさかここまでやるとは、お見逸れ致しました」
「ヘヘッ、まあ、アタシにかかりゃ当然だよなぁ!」
「フフフ…此処に貴女の力は示されました。その証に、これを貴女に託しましょう」
トリッシュの右手の中指に黄色く煌めく宝石の指輪が煌めいた。左手の紋様と呼応するように彩りを放っている。
「“雷のトパーズ”です。それがあれば貴女の為すべき使命を果たすことが出来るでしょう」
「アタシの為すべきこと、か…ヴォルトの力、ありがたく受け取るよ!サンキュー!」
「私はそのトパーズを通して常に貴女のことを見守っています。貴女方が祝福の使命を全うすることを願っていますよ」
トリッシュを中心に仲間達が輪を作る。その顔には歓喜と安堵が満ち溢れていた。
「トリッシュさん!よかった…神よ、感謝致します…」
「あんた、やるもんだねぇ!いい攻めだったよ!」
「まあ、ちょっとヒヤッとしたけどな…無事でよかったぜ!安心したよ…」
「ありがとう…よっしゃ!アルニラムをブッ飛ばしに行くぞ〜!!」
「うん!それじゃ、早速潜水艦を調達しに行こうか!」
「おお、そうじゃったのう。エレン、アテがあると言うとったが、どこに行くんじゃい?」
「アマラント国!あとは着いてからのお楽しみ♪♪」
雷の精霊ヴォルトの試練を乗り越え、更なる成長を遂げたトリッシュ。愛するカタリナを救いたいという真っ直ぐな想いが試練を加護へと変えた。“雷のトパーズ”を手にし、一行は一路アマラント国へと向かうのであった。
To Be Continued…