第178話『色彩武勇~vol.16~』
シリーズ第178話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
世界中から腕自慢の猛者達が集うビンニー国の闘技場――その真ん中で2つの色彩が交差して煌めく。自らの理想を現実として体現すべく前向きに突き進むリーベ班の副将でありリーベの双子の妹である自称“悪魔の戦士”のピカンテがペッパーレッドの紋様を熱く燃やしながら敵軍副将であるカスタードイエローの彩りの戦士ズッケロに刃を向けた。
「こんちは!ズッケロで~す♪副将さん、お名前は?」
「フッ、軽々しく名乗るのは趣味ではないが…まあ、良いだろう。我が名は紅蓮のピカンテ!貴様を悪魔の牙で切り裂き、我が身に宿る邪竜の餌食にしてくれる!」
「うえっ!?な、なんか怖そうだけど…逃げるわけにはいかないもんね!絶対に勝~つ!!」
「フン、馬鹿者め!我が心の友である漆黒の導師カシブの敵は討たせてもらう!」
ペッパーレッドの剣士ピカンテとカスタードイエローの魔道士ズッケロ、両軍の副将を務める彩りの戦士が真っ向から衝突する。互いに火花を散らしながらも相手の出方を伺っていたが、先手を打ったのはカスタードイエローの彩り――敵軍副将ズッケロだった。
「行っけぇッ!ザバイオーネ・シュータァァァァッ!!」
「…フン、ぬるい!漆黒の導師カシブを討った腕はその程度か?つまるところ、カシブの敗北は堕天使の罠に墜ちただけだった、ということだな!」
「ひええっ!?そ、そんな…ホントに強い人だったんだ…!」
「フン、怖じ気付いたか…邪竜の牙、受けてみよ!うおおりゃああッ!!」
「うわわわっ!?」
カシブが苦しめられたカスタードイエローの気弾をもろともせず、ピカンテは猛々しく片刃の剣を振るう。傭兵として鍛え上げた太刀筋は荒々しさを持ちながらも洗練されており、スタンドで見つめる観衆の眼を瞬く間に惹き付けていった。
「うおおッ!ピカンテ、闘魂燃えてるッスね!その調子でガンガンいくッス~!」
「ああ、あの娘は良い根性してるし、剣の腕も良いからね!たいしたもんだよ!」
「そうね、ビクトリア。ピカンテからも力強い精霊の息吹を感じる…リーベとの絆がピカンテと私達を引き合わせてくれたのね」
「そうだね、フェリーナ。それにピカンテがリーベのことが大好きなのがすごく伝わってくる。私とトリッシュみたいに仲良しだよね♪」
「ピカンテ、そのままブッ飛ばせ!お前の熱いビートを見せつけてやれえぇぇッ!!」
トリッシュの声援を皮切りに仲間達は次々に声援を送る。仲間達からの声援に後押しされ、ピカンテは舞い踊るような軽やかな動きで畳み掛けるような猛攻を仕掛けていく。
「ふ、防がなきゃ…ザバイオーネ・シールド!」
「そうはさせるか!こんな小賢しい防壁、悪魔の牙を振るうまでもない!受けよ、イービルファイア!」
「うええっ!?クッ…負けない…負けたくないッ!」
ピカンテはペッパーレッドの紋様を耀かせ、灼熱の爆炎を放って焼き払う。一方、ズッケロもやられるばかりで黙ってはいない。甘やかなカスタードイエローの闘気を両掌に纏わせ、ピカンテの身体に押し付けるように叩き込んだ。
「てやぁ!くらえぇッ!!」
「何ッ!?ぐうぅッ…!」
「アタシだって負けられないよ。みんなのために…アタシの双子の姉ちゃんであるザルツィヒのために!」
「フッ、甘いな!我が双生の姉リーベへの愛ならば誰にも負けん!貴様の浅慮を悔いるがいい!!」
灼熱の焔を纏った悪魔の牙はピカンテの彩りの力を体現していく。得物である片刃の剣を雄々しく振るい、目の前に立ちはだかる彩りの戦士を焼き尽くした。
「邪竜の炎に焼かれるが良い!パーガトゥリアル・イービルフレイム!!」
「ふぎゃあああああッ!」
「そこまで!勝者、ピカンテ選手!」
『おおおおおおッ!!』
ピカンテの邪竜の炎がペッパーレッドの彩りの力を示し、カスタードイエローの戦士ズッケロを焼き払った。沸き上がる拍手と歓声の中、キャンディピンクの彩りの戦士リーベは双子の妹の健闘に歓喜しながら甘美な夢想に微睡み、ピカンテは双子の姉の喜ぶ姿に安堵しつつも左手の奇妙な疼きを感じて昂っていた。
「ピカンテ…!ああ、私の可愛い双子の妹…とても素敵!輝いているわ!」
「フッ、ズッケロと言ったか…悪くない贄だったな。さあ、次なる仇よ、我が邪竜の糧となるが良い!」
「ん、お疲れさん、ズッケロ。ゆっくり休んでな~」
「ザルツィヒ…あの強いから、頑張って…いたた…」
共に生を受けた双子の妹ズッケロの想いを静かに引き継いだ敵軍大将ザルツィヒがマッカレルブルーの紋様をギラギラと耀かせながら戦いの舞台に踏み入る。黒に近いダークブルーの髪を長く伸ばし、銀白色と水色を基調とした衣装を着ている。彼女自身は“ジャンケンに負けて大将になっただけ”と謙遜しているが、その務めを投げ出そうとする様子は一切ない。マッカレルブルーの彩りの戦士は得物の矛を構えながら気負うことなく淡々と戦いの舞台に踏み出していった。
「フッ、貴様が次の贄か。この紅蓮のピカンテが焼き払ってくれる!」
「ん、ザルツィヒでッス。ま、お互い頑張りましょ」
「クッ…貴様、どういう了見か知らぬが、戦士としての覚悟があるならば向かって来い!もし戦う意思が無いならば今すぐに消え失せろ!」
「ま、そんなカリカリしなさんなって。私だってズッケロが目の前でやられて、久しぶりに本気で燃えてるッスからねぇ…!」
ザルツィヒは静かに闘志を燃やし、ピカンテの懐に飛び込んでくる。試合開始早々に両者激しい鍔迫り合いを見せ、観衆の視線を一点に集中させていった。
「うおおらッ!はああッ!!」
「よっ、ほいっと~」
「…フッ、ザルツィヒとやら、なかなか面白い奴だ。ならば我が身に宿る邪竜を覚醒させてやろう!」
「ん、隙あり。ほれほれ!」
「ぐわぁっ…!」
ピカンテは“邪竜を覚醒させる”という隙を曝してしまい、ザルツィヒの矛の一薙ぎをまともに受けてしまう。先手を取った鯖蒼の戦士はニヤリと笑いながら紅蓮のピカンテに確かな戦意を向けていた。
「ヘヘッ、華麗にヒットッス。大丈夫ッスか?」
「フン、相手を気遣うとは余裕だな。その甘さが命取りよ!イービルファイア!」
「ん、ソルティ・ヒュドール!」
「な、なんだとぉ!?じ、邪竜の炎が…!」
マッカレルブルーの水塊に包まれ、ペッパーレッドの炎が一瞬にしてかき消された。ザルツィヒは彩りの力を封じられて錯乱するピカンテを空笑いしながら見つめていた。
「ん、おたくビビり過ぎ~。炎が水で消されるなんて、火を見るより明らかっしょ!」
「クソッ…これは私の運命を弄ぶ堕天使の罠なのか…!」
「ん、それはわかんないッス。けど、塩水は傷口に沁みるッスよ…ほれ、ソルティ・ヒュドール!」
「なっ…!うぐああぁぁ…!」
飄々とした態度のままのザルツィヒに苛烈な追い討ちを見舞われ、ピカンテは苦痛にのたうち回る。ザルツィヒの戦う意思の象徴である鯖蒼の紋様がギラギラと輝いた。
「んじゃ、そろそろ本気出すッス。ソルティ・ヒュドール・ヴォルティーチェ!」
「うがああああぁぁぁ…!」
「そこまで!勝者、ザルツィヒ選手!」
ピカンテは敵軍大将ザルツィヒに彩りの力を封じられ、為す術無く敗れてしまった。リーベ班の仲間達が敗れたピカンテのもとに駆け寄る中、大将である双子の姉リーベはキャンディピンクの紋様を煌めかせ、戦士としての毅然とした表情を見せていた。
「うっへぇ~…あの術、くらったって想像しただけで痛そう…」
「ね、傷口に塩を塗るみたいな?超ヤバそう…ピカンテ、大丈夫?」
「クソッ、すまない…我が愛する双生の姉リーベよ…我が身に宿る邪竜は蒼き魔術で封じられてしまった…」
「…私の愛するピカンテ…貴女の想い、私がこの舞台で紡いでみせますわ!」
「リーベちゃん…キミに任せるのである。武運を祈るのである!」
リーベはフォーク型の手槍を構え、ザルツィヒに向かい合う。その双眸は普段の微睡んだ夢想家の眼ではなく、彩りの戦士としての凛とした眼に変わっていた。
「ごきげんよう。リーベ・グルマン、推して参りますわ!」
「ん、ご丁寧にどうもッス。ザルツィヒ、全力でお相手するッスよ」
「私の愛する双子の妹ピカンテの敵、討たせていただきますわ!御覚悟なさってくださいな!」
「ん、それならお互い様ッスね。私の双子の妹ズッケロの分も全力出すッス!」
両軍大将同士、彩りの戦士同士の一戦が幕を開ける。可愛らしい菓桃の彩りが煌めき、リーベの彩りの力を紡ぎ出す。対するザルツィヒも一切動じることなく、鯖蒼の彩りを耀かせて迎え撃っていた。
「いきますわ…グラッサージュ!」
「ん、危な…ソルティ・ヒュドール!」
「これがピカンテを討った色彩の魔術…恐ろしいわ…!」
「ん、どうしたッスか?ビビってたら押し切っちゃうッスよ~」
双子の妹であるピカンテと討たれた姿がリーベの脳裏に過った刹那、右手の薬指に填めていたピンクサンストーンの指輪が煌めく。菓の精霊アプロディテが指輪を介してリーベの心に直接語りかけてきた。
『リーベ…聞こえますか?』
「貴女は…愛の女神アプロディテ様…!」
『少し脚色がある気がしますが…まあ、良いでしょう。ピカンテの力は分が悪く討たれてしまいましたが、貴女の彩りの力なら彼女に勝てるでしょう!私は信じていますよ!』
「アプロディテ様…愛と夢と希望の物語、共に紡いでくださいませ!」
『承知しました。では、参りましょう!』
自らに加護をもたらす精霊アプロディテと心を合わせ、リーベは得物の手槍を構え直して軽やかに振り回す。共に戦う仲間達への真っ直ぐな想いを携え、戦士としての勇姿を見せつけた。
「てやぁ!ええぇいッ!!」
「おお!?な、なんか…動きが速くなってる気がするッス…ちょっと驚きッス――」
「くらいなさい!メレンダ・ジャベリン!」
「うがっ!こりゃ~ちょいとヤバそうッスよ…!」
キャンディピンクの彩りが闘技場を染め、リーベが攻勢に立つ。が、ザルツィヒも双子の妹ズッケロの想いを無に帰するまいと熱い想いを携え、荒々しく矛を振るって食らい付く。
「絶対に…負けねぇッスよ!とりゃああッ!!」
「キャッ!私だって…メレンダ・ジャベリン!」
「うぐっ…なかなかやるッスね…でも、仲間達のため、ズッケロのためにも負けらんねぇッスよぉ!」
「それなら私の勝ちですわ!私には愛する双子の妹ピカンテが、一緒にこの舞台で戦う友が、客席で見守る数多の仲間達がいてくれるのです!絶対に負けませんわよ!」
リーベは昂る闘志に委ねるままフォーク型の手槍でザルツィヒを切り裂き、打ち据える。リーベの左手に印されたキャンディピンクの彩りは輝きを増すばかりであり、彼女の攻勢は誰の目にも明らかだった。
「いきますわ!コロネトルネード!!」
「うげっ…!」
『リーベ、今です!貴女の描く理想、この舞台で紡ぎ出すのです!!』
キャンディピンクの彩りの戦士リーベは精霊アプロディテと心を1つに重ね合わせ、得物の手槍に彩りの力を集束させる。可愛らしい柔らかな彩りは戦いの舞台には似つかわしくないように思えるが、リーベの戦う意思を確かに体現していた。
「ここに紡がれるは愛と夢と希望の物語!グランローズ・アシェット!!」
「うぐうぅっ…参った、ッスよ…」
「そこまで!勝者、リーベ選手!この試合、リーベ軍の勝利!!」
『うおおおおぉぉッ!!』
リーベの菓桃の彩りが煌めき、鯖蒼の彩りの戦士ザルツィヒを撃ち破った。両軍の大将同士が真っ向からぶつかり合った一戦を称える地鳴りのような歓声の中、リーベ班の仲間達が大将のもとに駆け寄り、歓喜に沸き立ちながら美しい勝利を祝福していた。
To Be Continued…