第176話『色彩武勇~vol.14~』
シリーズ第176話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族四天王の統べるビンニー国で各々の色を耀かせる彩りの義勇軍一行。自らの理想を現実として体現すべく前向きに突き進むリーベ班の先鋒を務めるテラコッタの菓騎士ハイビスが思いがけぬ幸運で敵軍先鋒ベニェを撃ち破り、もたらされた勝利に小躍りしていた。
「ハイビス御姉様!とっても素敵ですわ♪貴女の夢と希望の光でこの舞台を照らしてくださいませ!」
「やった!やったよ!一気にやっつけちゃうから、任せてよね~!」
「これは恐れ入ったのである…神の祝福を受けたドジなのである!」
「ハイビスさん、超ラッキーって感じ!このまま勝ちもいただいちゃお~!」
「フッ、次の仇が来るようだな。美しき騎士ハイビスよ、御前に捧げられた生け贄を喰らい尽くすが良い…!」
一方、敵軍次鋒の男は槍を携え、ハイビスに対峙しようとする。敵軍を率いる2人の彩りの戦士――カスタードイエローの彩りの戦士ズッケロとマッカレルブルーの彩りの戦士ザルツィヒが戦局を見守っていた。
「ベニェさん、激ヤバアンラッキーじゃ~ん…ドジが幸運を呼ぶことってあるんだね~!」
「ん、しゃーないっしょ。ミエーレさん、よろしくお願いしまッス」
「はいよ。まあ、たぶんなんとかなるだろう。頑張ってくるからな!」
敵軍次鋒はミエーレという大柄な男だった。筋骨隆々の屈強な体躯は積み重ねた鍛練の賜物である。ハイビスは相対する大男の威圧感に面食らうものの、騎士の誇りを抱きながら迎え撃つ決意を固めていた。
「うわぁ…でっかい…!」
「よう、ちびっこ騎士さんよぉ!このミエーレ様が捻り潰してやるから、覚悟しろよ!」
「そうはいかないからね!テラコッタの騎士ハイビス、行っきま~す!」
「おっと、活きが良いじゃねぇかよ!そんじゃ、こっちも本気でいくぜぇぇ!」
同じく槍を得物とするハイビスとミエーレは激しいぶつかり合いを見せ、闘技の舞台で火花を散らす。が、誰の目にも明らかな体格差が災いし、ハイビスは次第に押され始める。
「フン、ちびっこはママの所に帰って寝てな!そおぉらよぉッ!!」
「うえっ!?いたたた…これはヤバいかも…」
ミエーレは少々乱暴に槍を振り回し、ハイビスを打ち据える。鎧越しながらも全身に重々しい鈍痛が駆け抜け、テラコッタの菓騎士はじわじわと守勢へと追いやられていったが、負けじとハイビスカスピンクの彩りの力を得物の手槍に込めて立ち向かっていく。
「ううっ、負けるもんか…ポッピングジャベリン!」
「ハッ!おいおい、そんな子供騙しの槍術で俺を倒せると思ってんのか!?ナメんじゃねええぇぇッ!!」
「ひええっ!?そ、そんなぁ…!」
彩りの力を解き放つも敵軍次鋒ミエーレにペースを掴まれ、ハイビスは瞬く間に危地に陥っていく。ミエーレの巨躯を生かした荒々しい猛攻はテラコッタの騎士に容赦無く牙を剥いた。
「ギャハハ!残念だったな、ちびっこ騎士さんよぉ!こいつで吹っ飛びなぁ!!」
「ふぎゃああぁぁッ!」
「そこまで!勝者、ミエーレ選手!」
キャンディピンクの鎧を身に纏う菓騎士ハイビスは奮戦及ばず敗れてしまった。共に戦うリーベ班の面々は心配そうに駆け寄るが、敵軍に傾きかけている戦局を悲観することはなかった。
「みんな、ごめ~ん…ドジっちゃったよ…イタタ…」
「ハイビス御姉様…貴女の気高き御意思は私達が引き継ぎますわ。どうかゆっくりお休みになってください…」
「クッ…やはりこの地に集うのは戦いを欲し、血に飢えた猛者どもか。だが、それでこそ我が邪竜の生け贄に相応しい…我が紅蓮の血が騒いでいる…!」
「ってか、次ウチの出番じゃ~ん!とりまハイビスの敵討ちに行ってくるね~!」
「トックちゃん、その意気で頼むのである。キミに任せたのである!」
リーベ班、選手交代。次鋒を務める毒の戦士トックがナイトグリーンの彩りを妖しく煌めかせる。かつては毒の戦士としてペーシュ国で好き放題に遊び回る不良少女だったが、他の毒の戦士達と共に闇の皇女ビアリーの臣下として彩りの義勇軍に加わった。何事にも慌てないマイペース且つ楽天的な性格でリーベとは馬が合い、共に歩む中で親睦を深めていた。ナイトグリーンの彩りの毒の戦士は前向きな夢を描き続けるキャンディピンクの彩りの大将と紡ぎ合う確かな絆を抱きながら戦いの舞台に躍り出た。
「トックちゃん参上なり♪よろよろ~!」
「なんだなんだ、また随分とませた感じのガキだな!ここはカラオケボックスじゃないんだぜ!?」
「ちょっとちょっと、甘く見ないでよね!ウチだって超バリバリ戦う気満々本気モードって感じなんだから!」
「ハァ…こいつらのチーム、ガキしかいないのか?面倒だが、さっさと終わらせるか…」
リーベ班次鋒トックは辟易する敵軍次鋒ミエーレに対して軽快な足取りで飛び込み、ブーツで蹴りを見舞う。軽やかでリズミカルな動きを見せるが、その動きは闘志を帯びたものではなく、ミエーレは呆気に取られるばかりである。
「よっ、ほいほいっと~♪」
「フン、片目瞑ってても避けられるな…やれやれ、やっぱり遊び感覚かよ…面倒臭いな…一発で終わらせるか――」
「ヘヘン、隙だらけだよん♪くらえ、モールドスプレー!」
「ぐわああっ!め、目が…痛ってええぇぇッ!!」
ミエーレが“遊び感覚”と侮っていた軽快な動きは間合いを詰めるための牽制だった。トックの得物である毒の催涙スプレーを吹き付けられ、ミエーレは苦悶の表情でのたうち回る。必死に痛みを堪えながら眼を開くと、ミエーレの眼前に信じがたい光景が広がっていた。
「クソッ…よくもやりやがったな…な、何ッ!?このガキ、分身したのか!?」
「キャハハ!分身とか超ウケる~!これがウチの毒の力なんですけど~!」
「ど、毒の力、だと…!?」
敵軍次鋒ミエーレ、茫然自失。“ガキ”、“遊び感覚”と完全に見下して軽視していたトックと全く同じ姿の幻影に取り囲まれていた。ナイトグリーンの毒の彩りを妖しく耀かせるリーベ班次鋒トックは無邪気に笑いながら優勢に立っていった。
「トックの奴、うみゃあことハメたがや!これなら余裕だがや!!」
「おう!このままボコボコにするってことで夜露死苦ゥ!!」
「トック、ガンガン攻めてるね~!仲良しなリーベと一緒だから頑張るって、めっちゃ気合い入ってたもんね~!」
「そうだな、グィフト!やっぱり私達の絆の力に勝るものはないということなのだ!」
「トック、行け行けぇ!そのまま叩き潰してやれぇッ!!」
毒の拳闘士ヤートの熱い声援を皮切りに彩りの義勇軍一行が次々に声援を送る。仲間達の声援を受けたトックは更にテンションを上げていき、敵軍次鋒ミエーレの前に得意気に胸を張って立ち塞がった。
「チクショウ…このクソガキがぁ…!」
「ヘヘン、だから言ったじゃん!戦う相手を甘く見てるからこうなるんだよ~だ!」
「ぐぅああっ!あががっ…!」
不良格闘術で蹴倒し、追い討ちに毒の催涙スプレーを吹き付ける。無邪気さと表裏一体の残酷さを剥き出しにして容赦無い連撃を見舞い、昂る毒の彩りの闘気を解き放った。
「激アツビートで超ノリノリじゃん!モールドスプレー・ミラージュダンス!!」
「うがあああぁぁ…!」
「そこまで!勝者、トック選手!」
ナイトグリーンの彩りの毒が紡ぎ出した幻影が妖しい牙を剥き、敵軍次鋒ミエーレを討ち伏せた。闘技場のスタンドからはトックの健闘を称える大きな拍手が沸き起こる。自らを戦士として称賛する喝采に気を良くしたトックは次なる戦いへの意気を更に高めていた。
「イエーイ!拍手喝采とかめっちゃテンション上がるじゃ~ん!」
「トック御姉様…輝いていますわ!そのまま貴女の美しい毒の彩りの物語を紡いでくださいませ!」
「ん、毒の力か~。強えぇわ、うん」
「ね!毒の力とかマジポイズンじゃん!ザウアーさ~ん、お願~い!」
「ああ。この娘達、ズッケロとザルツィヒと同じような能力を持つ人なのか…油断の出来ない相手だな」
敵軍中堅のザウアーは弓を構え、小躍りするトックに対して静かに向かい合う。血の気の多い次鋒ミエーレとは対照的に冷静沈着で、静かに闘志を燃やしながらトックに相対する。
「やあ、元気なお嬢ちゃん。キミがミエーレに勝ったのか…僕はザウアー、よろしく」
「は~い、よろで~す!トックちゃんは強い娘ですからね~!綺麗な薔薇にはトゲがあるって感じ!」
「フフッ…ズッケロとザルツィヒと同じような能力を持つ人と戦えて光栄だ。互いに悔いの無い、良い勝負にしよう!」
「は~い!トックちゃんはいつでも全力でござる!よろよろ~♪」
リーベ班次鋒トックと敵軍中堅ザウアー、両者の清々しい挨拶が交わされ、戦いの火蓋が切られる。トックはミエーレとの一戦よりも更に軽やかな踊るような足取りで有利な間合いに詰め寄ろうとしていた。
「よ~し、さっきみたいな感じで一気にガンガン――」
「そこだッ!」
「ひゃっ!?」
ザウアーが矢を射った刹那、トックの手元からプシュッと音が鳴る。放たれた一矢はトックの得物である毒氣を帯びた催涙スプレーの缶に命中――内包していたガスが一気に抜け、使い物にならなくなってしまった。自身の彩りの力を媒介する得物が最初の一手で壊され、トックは瞬く間に混乱の淵に陥る。
「ガ、ガス抜けちゃった!?スペアもバッグに入れたまま宿に置いて来ちゃったし、どうしよう…!?」
「おや、僕も随分と見くびられたものだね。何事も備え有れば憂い無しだよ、元気なお嬢ちゃん」
「うええ…この状況、めっちゃヤバいじゃん…」
「さて、正直に言って丸腰の相手を射つのは性に合わないんだけど…ここは戦いの舞台だ。悪く思わないでくれ!」
得物を無くしたトックに対し、ザウアーは“性に合わない”と僅かに慈悲を覗かせながらも次々に矢を射る。思いがけずに訪れた苦境にリーベ班の仲間達も心配そうに見守っていた。
「あっちゃ~…武器を壊されるなんて、ついてないね…」
「…そうだな、誉れ高き騎士ハイビスよ…クッ、ううっ…静まれ、我が身に宿る邪竜よ…!」
「ああ、なんてこと…勝利の女神様、どうかトック御姉様に御慈悲を――」
「な、なんと!?トックちゃん、飛び込んだのである!?」
カシブの言葉を受け、皆がアリーナの中央に視線を移す。得物を壊されてしまったトックは自らが為すべき戦士としての務めを放棄することなく、不良格闘術だけでザウアーに立ち向かい、躊躇うことなく懐に飛び込む。それは悪あがきではなく、トック自身の戦う意思の表明であった。
「これは…な、なんて速さだ!?」
「ザウアーさん、悔いの無い勝負にしようって言ってたじゃん?ウチだってこのまま負けるわけにはいかないもん!ギッタギタにしちゃうよ~!」
「クッ…!」
無邪気さを帯びながらも不敵な色合いのトックの笑みにザウアーは冷や汗を額に流す。果たしてトックはザウアーを撃ち破れるのか?そして、敵軍を統べる彩りの戦士ズッケロとザルツィヒの能力の正体とは?彩りの義勇軍の戦いは続く!
To Be Continued…