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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter6:闘技大会篇
174/330

第174話『色彩武勇~vol.12~』

シリーズ第174話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

連日世界各国から腕自慢の戦士達が集うビンニー国――その中心地に聳え立つ赤茶色の煉瓦が敷き詰められた闘技場の真ん中で華やかな彩りが真っ向からぶつかり合う。共に歩む者を慈しむ愛と仇為す者と戦う意思を併せ持つネイシア班の副将を務めるテラコッタの冥騎士ヒーザーはリボルバーを構え、敵軍大将の聖騎士ヴァレンタインを迎え撃つ。薄紫の鎧を身に纏う冥騎士はヒーザーパープルの紋様を、純白の鎧に身を包む聖騎士はフローラルピンクの紋様をそれぞれ左手の甲に煌めかせていた。



「そんじゃ、先手必勝っと!シャドウバスター!」


「クッ…これがテラコッタの騎士の力…!ヒーザー様…クリストフを討ちし貴女の武勇、敬意を表します」


「ヘヘッ、そいつはどうも♪テラコッタの騎士として、無様に負けるわけにはいかないんでな!」


「ならば私も同じです。卑しくも聖騎士と呼ばれしこのヴァレンタイン、ブラン教皇国の誇りに賭けて負けません!」


「おいおい、アタシはそこらの荒くれ野郎と同じじゃねぇんだぜ?このヒーザー様には守るべき人がいる!絶対に負けねぇよ!」



ヒーザーが先手を打ち、ヴァレンタインの胸中にも俄に闘志が沸き立つ。刃の根元に十字架の刻印が印された聖なる大剣を振るい、祝福の一閃を見舞っていった。



「はあッ!ええぇいッ!!」


「おっと、危ねぇ!こいつぁマリー様に勝るとも劣らない太刀筋だ…!」


「我が彩りの刃を受けよ…ジャッジメント!」


「うおっ!?こいつは法力の類か…なら距離を取ってバンバンブチ込んでやるだけだ…!」



ネイシア班副将ヒーザーは不敵な笑みを浮かべながら白き聖騎士に銃口を向ける。テラコッタの騎士として積み重ねた鍛練に裏打ちされた自信――かつて戦場や裏社会で恐れられたヒットマンとしての苛烈さ――ヒーザーの二面性が入り交じった奇妙な色合いの表情だ。



一方のヴァレンタインもヒーザーの妖しい笑みに怯むことなく、刃がプラチナ色に輝く大剣を振り上げてフローラルピンクの閃光を叩き付ける。ヒーザーを捉えるや否や赤紫の瞳を妖しく耀かせ、異様なほどに高揚した表情を見せていた。



「フフッ…貴女はこれほどまでに深き業を負って…これなら私の勝ちです!」


「な、何ッ!?」


「我が力は仇為す者の業が深ければ深いほどに増大していく…貴女は私の彩りのもと、自身の積み重ねた(カルマ)の淵に沈むのですよ!」


「クッ…クソッ…!」



自らが積み重ねた(カルマ)の淵――想像を絶する暗黒が突如として迫り、ヒーザーは戦慄する。心当たりが皆無であるならばまだしも、かつてヒットマンとして影に潜みながら数多の命を討ってきた過去が鮮明にヒーザーの脳裏を過った。ネイシアを守る決意を固めた冥騎士が冷や汗を滴らせる中、共に鍛練を重ねてきたテラコッタの騎士達は驚愕するばかりであった。



「こいつは相当ヤバい奴だ…相手の積み重ねた業の深さで強くなるなんて…!」


「うむ…真に恐ろしい輩だな、親愛なる同志グラジオよ。世界とは我らの想像を絶するほどに広きものだ…!」


「…人間は業深き生き物。生き続ける限り業を背負い続けなければならない…誰も逃れることは出来ない…」


「じゃあ、ツィガレの言う通りだとしたら、アイツは人間と常に隣り合わせに在る業を利用してるっていうの!?誉れ高き聖騎士様、随分と潔癖な彩りの力だね…!」


「なんてことですの…ヒーザー様…!」



手練れの揃うテラコッタの騎士達さえも恐怖するヴァレンタインの彩りの力は、ネイシア班副将ヒーザーを追い詰めていく。大将ネイシアは自らを守ると勇んで戦いに踏み出した冥騎士の苦境を誰よりも心を痛めながら見つめていた。



「ネ、ネイシアさん…ますます悲しんでいます…」


「ネイシアちゃん、誰よりも優しいから辛いでしょうに…私も見てて心が痛みます…」


「…このままヒーザー様が討たれてしまったら、ネイシアさんが戦わなければならない。出来るなら避けたかったのですが…どうやら避けられぬようですね。神よ、どうか我らに御慈悲を…」



バラキエルの祈りも虚しく、ヴァレンタインの左手の甲に印されたフローラルピンクの彩りが紡ぐ(カルマ)の深淵は無慈悲にヒーザーを飲み込んでいく。劣勢に立たされたヒーザーは焦燥に駆られながらも必死に藻掻いて抵抗を試みるが、リボルバーの照準を合わせることすらままならない。



「クソッ…シャドウバスター!」


「フフッ…数多の血を啜り、罪に穢れた貴女の鎧…貴女自身が紡いだ深き業を繋ぐ枷となる…はああッ!」


「がふっ…マ、マジかよ…さっきより強くなってる…!」


「たとえ騎士としてどれほどの武功を挙げようと、どれほどの善行を積み重ねようと、貴女が殺めた者の魂が救済されることはありません。貴女の深き業を悔いなさい!」


「クッ…コ、コイツ…!」



フローラルピンクの彩りはヒーザーの誉れ高き騎士としての姿の奥底に潜んだ影に光を当て、戦場や裏社会で恐れられたヒットマンとして積み重ねた業を露にしてみせた。テラコッタの誉れ高き冥騎士に聖なる断罪の剣が容赦なく襲い掛かる。



「汝の業と罪を漱ぎ、天の裁きを受けよ!ジャッジメント・セイントキャリバー!!」


「うがあああぁぁ…!」


「そこまで!勝者、ヴァレンタイン選手!」



テラコッタの冥騎士ヒーザーは甘桃(スイートピンク)のプリンセスを守ることが出来ず、ひた隠しにしてきた業に押し潰された。己の歩み続けた道より出でし(カルマ)の深淵は偽ることなく形となり、己自身の良心の呵責と共に襲い掛かった。聖騎士の彩りの力を受けて己の業に蝕まれる冥騎士の姿は観衆さえも戦慄させ、静寂が影を落としていた。



「ヒーザー様!なんということでしょう…神よ…」


「ヒーザーさん!い、今治療しますから――」


「あ…ネイシアちゃん…」



ヒーザーのもとに駆け寄ろうとした3人の足が止まり、視線が一点に集中する。ネイシアの澄んだ瞳から大粒の涙が次々にこぼれ落ちた。闘技場のアリーナという至近距離で共に歩む4人が傷付き倒れる光景に心を痛めながらも必死に堪えていたが、遂に限界だった。騎士として自身を守るという意思を携えて戦っていたヒーザーが己自身の業に蹂躙される姿は見るに耐えかねるものであった。



「酷い…ヒーザー、さん…うう…うっ…」


「…可愛いネイシア姫、様…泣かないで、くれよ…クソッ…守れなかったか…悔しい、なぁ…」


「…ネイシアさん、私も辛いです…ヒーザーさん、私が傷を治療するので待っててください…」


「お願いしますね、ペルシカちゃん…もう私達はネイシアちゃんに任せるしかないって思うと歯痒いですね…」


「…ええ。ですが、やむを得ません。ネイシアさん、恐れ入りますが、どうかお願い致します…」



大将である心優しき甘桃(スイートピンク)のプリンセスは、後ろ髪を引かれる想いで戦いの舞台に踏み出していった。大将として闘技の舞台に歩みを進めるが、戦える状態なのかと問われると疑問符が浮かぶ。加えてフローラルピンクの聖騎士はネイシアに対して厳しい眼差しを向けていた。



「グスッ、グスッ…ヴァレンタイン、様…」


「ネイシア、貴女は本当に私と戦う覚悟があるのですか?仲間が傷を負うのを見て泣くばかりではありませんか?貴女は何をしにここに来たのです!?真に戦う覚悟が無いならば、今すぐに棄権しなさい!」


「……」



目の前で傷を負う仲間達の姿を目の当たりにして心を痛めるネイシアを前にしてもヴァレンタインは容赦ない言葉を浴びせた。が、大将ネイシアはただ心を痛めて泣くばかりではない。



「さあ、どうするのです!?やるかやらないか、今すぐに答えなさい!」


「…やります!大将として、みなさんの想いに応えさせてください!」


「ええ、その言葉を待っていたわ!いざ、尋常に勝負!!」



ネイシアとヴァレンタイン、両軍の大将である聖なる彩りの戦士が固い決意を抱きながら相対する。ネイシアは大将として戦う覚悟を決め、先ほどまでのしおらしい表情とは対照的な毅然とした表情を見せる。大剣を構え直して飛び掛かってくるヴァレンタインに対して慌てることなく、左手の甲に印されたピンクの紋様が紡ぐ聖なる力を解き放つ。



「行きます…エンジェルフェザー!」


「クッ、なんのこれしき…うぅああぁぁッ!」


「キャッ!でも私は…負けません…!」


「せえぇい!てぇやああぁぁッ!!」



ネイシアに対峙するヴァレンタインの様相はヒーザーとの一戦とは違う。得物の大剣を荒々しく振るい、叩き付けるように降り下ろす。フローラルピンクの彩りの法力を駆使していたヒーザーとの一戦とは全く違う戦法はとても同一人物とは思えない。



「ハッ、さっきと打って変わって肉弾戦ってかい…こりゃ厄介な相手だねぇ…」


「まあ、ネイシアは業なんてものとは無縁だろうからな。私も傭兵としていろんな人間と向き合ってきたが、ネイシアほど優しい人は見たことがない」


「うん、わたしもそう思う!ネイシアってとっても優しいよね!」


「そうじゃのう、コレット。ネイシアはワシらの一門に入る前は魔物と戦うことさえ“無益な殺傷”と言って躊躇ってたからのう…誰よりも他人の痛みを理解出来る人だと思うわい」


「そやなぁ…ネイシア姉ちゃん、ホンマにおしとやかな姫様やもんなぁ…ううう~、心臓に悪い一戦やで…」



深い慈しみの心を持つプリンセスであり、ピンクの彩りの戦士であるネイシアを案じながらも、仲間達は次々に信頼を口にする。ネイシアは両手を胸の前で組んで祈りを捧げるような体勢を取り、聖なる力を臆することなく叩き込んだ。



「フォトン!」


「ううっ!?」


「天よ、どうか私にお力添えを…はあッ!」



ネイシアは華麗に舞いながら両掌にピンクの法力を纏わせ、ヴァレンタインに押し付けるように叩き付ける。ヴァレンタインは鎧越しに聖なる法力を受けて驚愕すると同時に勢いに気圧されて怯む。敵軍の聖騎士達はもちろん、ネイシア班の面々も驚きを隠せない。



「ネイシアちゃん…さっきまで泣いてたのに、すごい…!」


「あ、あんなに素早く攻撃するなんて…私もビックリしました…!」


「そうですね。きっとこの義勇軍の中核と呼ばれる1人としての“覚悟”、大将としての“決意”がネイシアさんを戦士として突き動かしているのでしょう。彼女が示す道、私達も歩んでいきましょう…!」


「行けぇ、ネイシア姫様ァ!聖騎士だろうが誰だろうがブッ飛ばしてやれ!!」



共に戦い、共に歩む仲間達の声援と想いがネイシアに届き、更に闘志を奮い立たせる。心優しきプリンセスの戦士としての堂々たる姿は聖騎士ヴァレンタインさえも驚かせた。



「ネイシア…御見逸れしたわ。貴女がこれほどの戦士に成長していたなんて…!」


「恐れ入ります、ヴァレンタイン様。ですが、これは私1人だけの力ではありません。共に手を取り合い、絆を紡ぎ合う仲間達と共に在る力です!」


「これが、貴女の紡ぐ聖なる力…!」



ネイシアの全身をピンク色の闘気が包み込む。傍目には可愛らしいピンク色だが、主であるネイシアの気高き意思と共に凛とした煌めきを帯びていた。



「紡がれるは誉れ高き天の意思!アークエンジェル・ディバインセイヴァー!!」


「クッ…!!見事、です…ネイシア…」


「…そこまで!勝者、ネイシア選手!この試合、ネイシア軍の勝利!!」


『うおおおぉぉぉ~ッ!!』



ピンクの彩りの大天使の刃がネイシアの祈りに応えて具現し、聖騎士ヴァレンタインを討ち倒した。ネイシア班の仲間達は歓喜に沸き立ちながら大将である甘桃(スイートピンク)のプリンセスを取り囲む。



「ネイシアちゃん…よかった…!」


「私…す、すごく感動しました…!…グスッ…」


「お見事でした、ネイシアさん。貴女の気高き意思、天も精霊も喜ばれたことでしょう」


「やったな、ネイシア姫!今回はドジっちまったけど、これからもこのヒーザー様が守ってやるからな!」


「ありがとうございます♪みなさん、ちょっと待ってください…ファーストエイド!」



ネイシアは両手を胸の前で組み、優しき治癒術を以てヴァレンタインの傷を癒す。ネイシアは仇為す者へ向ける戦士の眼差しではなく、分け隔てなく皆を慈しむ癒し手の眼差しを傷付いた聖騎士に向けていた。



「ネイシア、ありがとう…私の傷まで治してくれたのね」


「はい、戦いで傷付いた人に敵味方という枠組みはあまりに矮小です。傷を負い、救いを求めるならばそこに理由など要らないのです」


「ネイシア…貴女は真に清く優しき心の持ち主ね。貴女の強さの正体はその優しさ…この戦いで確信したわ…どうか私にも貴女のことを守らせてください」



聖騎士ヴァレンタインはネイシアの前に跪くと、ピンクの紋様が印された左手の甲に優しく口付けをする。その光景はさながら互いに愛しく想い合う騎士と姫のようだ。戦いの末に闘技場の真ん中で美しき愛が紡がれ、暖かな空気が一帯を包み込んでいた。




To Be Continued…

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