第173話『色彩武勇~vol.11~』
シリーズ第173話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族の国ビンニー国の闘技大会に挑む彩りの義勇軍一行。共に歩む者を慈しむ愛と仇為す者と戦う意思を併せ持つネイシア班が挑むのはフローラルピンクの紋様を持つヴァレンタイン率いる白き聖騎士団の精鋭5人組――ネイシア班のバラキエルと聖騎士団のウルバン――両軍の中堅が闘技の舞台で相対していた。
「よう!神官さんがこんなところで暴れて良いのかよ?」
「私が戦うのは暴れるためではありません。大切な人を守るために戦うのです!」
「へぇ~、そいつは御大層なこった。それなら遠慮なく行くぜぇ!」
「己が力のみを盲信する者よ。我が祝福の彩り、紡ぎし絆、心して味わいなさい…参ります!」
蛮勇を誇る聖騎士ウルバンに対し、ネイシア班の中堅を務めるバラキエルは毒の彩りであるダスティピンクの紋様を妖しく煌めかせて毅然と迎え撃つ。かつてはとある国の従軍の神官であり、暴走した毒の彩りを鎮めるべく毒の戦士達のもとに現れた際に毒の力の刻印であるダスティピンクの紋様が覚醒――毒の戦士達が駆使するそれぞれの毒の抗体を生み出し、浄化を担う“毒の戦士”となる。彩りの義勇軍の一員として、ビアリーの臣下として一行に加わって以降は主に衛生兵として一行を支えているが、闘技の舞台に立つ彼女の胸には“彩りの戦士”として目の前の敵に立ち向かう意思が赤々と燃えていた。
「うおおらああ!」
「させません…はあッ!」
「うがッ…!こいつ、ゲオルグみたいな法力使いか…」
「それだけと思いますか?私に力を与えてくださる毒の精霊の力、身を以て味わうのですね」
「な、何っ!?毒の精霊だと…!?」
毒氣を纏ったアンクを妖しく耀かせ、ダスティピンクの毒の力を練り上げた法力をウルバンに叩き付ける。当のウルバンは最初こそ当惑していたものの、ただ脅かしているだけと思ってさほど気に留めない。聖騎士としてのたゆまぬ鍛練に裏打ちされた自信を見せながらバラキエルに向けて猛々しく刃を振るう――
が、次第にウルバンの動きが鈍り始める。敵軍中堅の勇猛な聖騎士は自身の体に起こった異変に戸惑い、錯乱するばかりである。一方のバラキエルは自身のダスティピンクの彩りの毒が仇為す者を蝕み始めたことを察し、得意気な笑みを浮かべていた。
「フフッ、いかがでしょうか?これが私の彩りの力、毒の力です!」
「グウウ…くっそぉぉ…!!」
「貴方が軽んじていた毒の精霊ウェネーヌに懺悔なさい!はああッ!!」
「ぐえっ…がふうぅ…!」
『おおおぉぉぉ…!』
思わずウルバンは面食らう。バラキエルは不良格闘術を以て蹴倒し、アンクで練り上げた法力のエネルギー弾をぶつける。他の毒の戦士と比べるとやや拙いものの、負けず劣らずの荒々しさを湛えている。聖職者であるバラキエルが不良格闘術を駆使するという絵面は奇妙なものであったが、蛮勇を誇り強きを尊ぶビンニー国の人々は大歓迎だ。
「バラキエルさん、すっごい!不良格闘術もけっこうサマになってるね~♪」
「オトロヴァ、ノリノリじゃん!バラキエルさ~ん!このままのビートでガンガン行けぇ!」
「おう!そのまま白騎士をボコるぞなもし!バラキエルの毒の力、ガンガン暴れてるぞなもし!」
「そうだね~、スラッジ!それにバラキエルさんがウチらの毒の抗体を作ってくれるから、こうしてみんなと一緒に戦えるんだよね~!強くて優しいバラキエルさんさまさまだね~!」
「バラキエル…グルルウウウウゥオオオッ!!」
相棒とも言えるダスティパープルの毒の凶戦士アンブラの遠吠えが胸に響き、ダスティピンクの神官バラキエルは更に闘志を昂らせる。鬼の形相で睨み付けるウルバンに対しても一切動じることなく、毅然とした態度で向き合っていた。
「クソッ!テメェ…神官の仮面を被った化け物だったのか…!」
「フフフ…天の御心に従う聖騎士ともあろう方が…れっきとした神官に対して“化け物”とは随分な御挨拶ですね…さあ、覚悟はよろしいですか?」
「何いいぃぃッ!?こ、これは…!?」
毒の彩りであるダスティピンクがバラキエルの全身を包み、闘技場のアリーナを妖しく染める。自身の得物である毒氣のアンクに闘気を集束させ、仇為す聖騎士ウルバンに向けて解き放った。
「堕天使の翼よ、仇為す者を包み、虚無へと誘え!ヴェレーノ・ルチーフェロ・ピューマ!!」
「うがああああぁぁ…!!」
「そこまで!勝者、バラキエル選手!」
蛮勇の聖騎士ウルバンを討ち倒し、自身の彩りの力を示した毒の神官バラキエルに暖かい拍手が送られる。バラキエルの背を見つめる大将ネイシアは表情に僅かに安堵を滲ませるが、仲間達の戦いを見守ることへの不安も同時に見え隠れしていた。
「バラキエル様、素敵です!天の祝福を受けた貴女の毒の力、美しく輝いております…どうか御武運を!」
「ありがとう、ネイシアさん。この力、この舞台であまねくお見せ致しましょう!」
「あの神官…毒の力を操るなんて、恐ろしいわね…クリストフ、気を付けて」
「ああ、空恐ろしい一団であるな…いざ参る!」
敵軍副将クリストフは両掌に籠手を構え、聖なる闘気を携えてバラキエルに向かい合う。形の異なる2つの聖なる闘気が正面からぶつかり合い、闘技場のアリーナには清々しい空気が充ち満ちていた。
「ぬうぅん!」
「クッ…はああッ!」
「とりゃあああ!ううぅおおおッ!!」
「ううっ…つ、強い…!これが聖騎士の鍛練の賜物…!」
クリストフの聖なる闘気を帯びた格闘術はバラキエルを圧倒し、瞬く間に闘技場の空気を支配していく。白き鎧を着た副将の勇猛な疾駆が皆の闘志に赤々と燃える火を点け、ヴァレンタイン率いる聖騎士団は一気呵成とばかりに沸き上がる。
一方、劣勢に立たされたバラキエルの背を見守るネイシア班の陣営には重苦しい空気が立ち込めていた。目の前で傷を負い、苦境に立たされているバラキエルを誰よりも沈痛な様相で見守るのは大将ネイシアだった。
「クリストフさん、素早い攻撃ですね…バラキエルさんが苦戦するなんて…」
「ネ、ネイシアさん…とても悲しそうです…なんてお声をかけたら良いのか…」
「チッ、見てらんねぇぜ…このヒーザー様がなんとか食い止めなきゃな…!」
心優しき甘桃のプリンセスが心を痛める中、バラキエルはネイシアの願いも虚しく気圧されていく。聖騎士クリストフの鍛え抜かれた拳勢は荒々しく毒の神官を叩き伏せた。
「貴女自身に恨みはないが、ウルバンの仇を討たせてもらう…せいやああぁぁ!」
「うあああッ…!」
「そこまで!勝者、クリストフ選手!」
毒の神官バラキエルは敵軍副将クリストフの軽やかな猛攻に耐えきれず、奮戦及ばず敗れてしまった。ネイシア班の面々がバラキエルのもとに駆け寄るが、大将ネイシアの歩みが鈍い。心優しきピンクの彩りのプリンセスは既に悲しみに打ちひしがれており、必死に涙を堪えているのが容易に見てとれる。
「バラキエル、様…」
「ネイシアさん…ごめん、なさい…私の弱さのせいで、貴女を悲しませてしまった…」
「…ネイシアさん…えっと、バラキエルさんの傷は私が治します…!」
「ありがとう、ペルシカちゃん。ヒーザーさん、後はお願いします…!」
「ああ…任せろ、ケイト。このヒーザー様がネイシア姫を守り抜いてみせるぜ!」
薄紫の鎧に身を包み、得物のリボルバーを携えたテラコッタの冥騎士ヒーザーが聖騎士クリストフに相対する。かつては腕利きのヒットマンとして戦場のみならず裏社会でも名を馳せる存在だったが、人目を忍ぶ生活に嫌気が差して行方を眩ませ、一度は完全に戦いの舞台から姿を消した。放浪の最中に主君ローザと出会い、行き場の無い自分に居場所を与えてくれたローザへの忠誠を誓って騎士に志願、その熱意をローザに認められて騎士に推薦された経歴の持ち主である。その素性からか仕える者や仲間を大切に想う気持ちは人一倍強く、ネイシア班に加わって以降は大将ネイシアを“姫様”と呼んで自らが守らんと躍起になっている。自身に副将として出番が巡って来るや否や、左手のヒーザーパープルの紋様を耀かせながらクリストフに対して容赦なく敵意を突き刺した。
「テラコッタの騎士ヒーザー…全力でテメェをシメる!」
「ず、随分とガラの悪い騎士様だな…だが、負けはしない!」
「なんの!このヒーザー様、守るべき人がいる限り、絶対に負けねぇ!何をしてでも姫様を守ってみせるぜ!」
「く、来るか…うおおッ!」
ヒーザーは軽やかな動きでクリストフの強襲をかわし、一気に自身のペースに持ち込んでいく。普段は自信過剰でお調子者な一面が目立つが、それが口先だけではないことを闘技の舞台で見事に証明していた。
「ヒーザー様、お見事ですわ!ネイシア様を大切に想う気持ちが伝わってきますわね♪」
「そうだな、ラナン。やっぱりヒーザーは守る人が近くにいることが原動力になるってわけだな!」
「そうですね、ガーベラ様。ヒーザー様は昔、ずっと孤独で辛い思いをされたと仰っていました。“自分には守るべき人が必要だ”と…」
「そうだったのね、バジル…ラナンがリタ様の軍に入った成り行きでヒーザーがネイシア様の軍に入ったと思っていたけど、案外お似合いかもしれないわね!」
「ヒーザー、頑張って!その熱い闘魂でネイシア様を守って!!」
紅き炎騎士ランタナに続いて皆が次々にヒーザーに向けて声援を送る。甘桃のプリンセスを守る使命を抱きながら戦う冥騎士は闘志を熱く昂らせて躍動していた。
「よっしゃ、ブチ込んでやる!くらえぃ!」
「うぬぅ…クソッ…!」
「隙あり♪シャドウバスター!」
「ぐああッ…!」
「ハハッ!ほら、どうしたどうしたぁ!?特別サービスでもう1発!!」
守るべき人を想うヒーザーの闘志は既にトップギアに入り、誰にも止められない。クリストフは先程のバラキエルとの一戦が嘘のように気圧されていた。
「クソッ!これがテラコッタの騎士か…悔しいが、見事と言わざるを得ない…!」
「ヘヘッ、サンキュー。悪いけどウチの心優しき姫様には指一本触れさせねぇよ!覚悟しな!」
「な、なんだ…紫の光が!?」
ヒーザーの全身を冥の闘気が包み、得物のリボルバーの銃口に集まっていく。薄紫の鎧の冥騎士が思い切って引き金を引くと、銃身に充満したヒーザーパープルの彩りの闘気がクリストフに向けて一気に弾けた。
「我が祖国の御魂の叫び、受けてみな!テラコッタ・シャドウブラスト!!」
「ぬうぅあああッ…!」
「そこまで!勝者、ヒーザー選手!」
『うおおおぉぉぉッ!!』
赤茶色の煉瓦が敷き詰められた闘技場がヒーザーの彩りを受けて華やかな紫に染まり、観衆の心を魅了する。ヒーザーはネイシアの方に振り向くと白い歯を見せてニカッと笑い、無邪気にピースサインを送った。
「フフッ…ヒーザーさんったら、子供みたいです…」
「…よかった…ネイシアちゃんが笑って、ヒーザーさんも安心したように見えます」
「…そうですね。ヒーザー様はネイシアさんの笑顔を守りたいという一心で戦っていらっしゃる…一途な心とは美しいものですね」
「あ…ヒーザーさん、が、頑張ってください…その調子です…きっと大丈夫です…!」
「さ~て、いよいよお出ましだな…聖騎士ヴァレンタインさんよぉ!」
遂に敵軍大将でありフローラルピンクの彩りの戦士でもある聖騎士ヴァレンタインが得物の大剣を構え、赤紫の瞳に闘志を携えてヒーザーの待ち受ける舞台に踏み入る。華やかなピンク色の髪と一点の傷も汚れも無い純白の鎧は砂と土で固められた闘技場のアリーナではよく目立つ。蛮族の国の真ん中で美しく咲き誇る聖なる彩りは目の前の戦いに真摯に挑まんとしていた。
「…ブラン教皇国の騎士ヴァレンタイン、ここに推参!」
「こいつぁ御丁寧にどうも。テラコッタの騎士ヒーザーが謹んでお相手するぜ!」
「ええ…貴女の守るべき人への熱い想い、クリストフとの戦いで十分過ぎるほどに伝わりました。互いに全力で、悔い無き戦いにしましょう!」
「…ああ、悔いは残さない。そのためにもお前を倒し、大切な姫様を守ってみせるぜ!」
ヒーザーは再び決意を固め、フローラルピンクの聖騎士ヴァレンタインを迎え撃つ。果たしてヒーザーはヴァレンタインを討ち、甘桃のプリンセスであり大将であるネイシアを守り抜くことが出来るのか?冥騎士と聖騎士、2人の騎士が相見え、戦いの火蓋が切って落とされた。
To Be Continued…