第172話『色彩武勇~vol.10~』
シリーズ第172話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
世界中から腕自慢の猛者が集うビンニー国の闘技場の真ん中で彩りの義勇軍の面々は各々の色彩を美しく耀かせる。ネイシア班の先鋒ケイトが時を駆ける彩りの刃を以て白き鎧の聖騎士団の先鋒ピーターを退け、仲間達の声援を背に受けながら次なる相手に対峙する意気を高めていた。
「ケイトさん…素敵です!天の御加護のもとに、共に歩みましょう!」
「ありがとうございます、ネイシアちゃん。さあ、まだまだ頑張りますよ~!」
「ネイシアの仲間達、予想した以上の手練れのようですね。ゲオルグ、お願いします」
「…承知した。いざ参る!」
聖騎士団の次鋒ゲオルグは静かに闘志を燃やし、得物の杖を構えてケイトに向かい合う。表情を変えることなく聖騎士として戦う意思を携え、戦いの舞台でケイトと火花を散らす。対するケイトも左手の甲に印された紋様を煌めかせ、時を駆ける刃を放った。
「ソニックブーム!」
「クッ…ふむ、ピーターを討った腕、確かなようだな。ならばこちらも遠慮なくいくぞ!」
「フフッ、まだまだ私の力を味わってくださいね…タイムスロー!」
「むうぅ…だが、負けぬ…はああッ!」
再び仇為す者の時を遅らせるラベンダー色の闘気がアリーナを包み込む。が、ゲオルグは動じることなくどっしりと構えており、聖なる法力を練り上げてケイトに向けて放つと、目にも止まらぬ疾駆で仇為す者へと駆け抜けていった。
「キャッ!そ、そんな…遅くなってない…!?」
「我が法力、いかがかな?これも我らブラン教皇国聖騎士団の鍛練の賜物よ!さあ、どこを見ている!?」
「クッ、うううっ…!」
ゲオルグの法力は遅らされた時の流れに干渉されることなく、ケイトを捉える。白き聖壇のもとに集い、真摯に鍛練を積み重ねた白騎士のを見せつけられ、ラベンダー色の彩りの戦士は瞬く間に苦境に陥っていた。
その後、ケイトは奮戦するもゲオルグの法力にペースを掴まれるがまま、追い込まれる一方である。それに加えて次第に仇為す者の時を遅らせるケイトの彩りの力が弱まっていき、じわじわと守勢に立たされていく。
「ぬうぅん!せえぇいッ!」
「ううっ…ソ、ソニックブーム…!」
「ふむ…ケイト殿、だったか…良い戦士だが、疲労の色が見てとれるな…口惜しいものよ…貴女はもう少し体力を着けると良いだろう」
「クッ…!」
体力不足と打たれ弱さという泣き所をゲオルグに看破され、ケイトは詰み目前の危地に陥る。対する聖騎士ゲオルグは仇為す者への慈悲を欠片ほどにも見せず、修行で会得した聖なる法力を叩き込んでいった。
「覚悟なされよ!…せいやッ!」
「キャアアッ!つ、強い…!」
「そこまで!勝者、ゲオルグ選手!」
ケイトは奮戦及ばず、敵軍次鋒ゲオルグの法力に敗れてしまった。ネイシア班の面々がケイトのもとに駆け寄り、健闘を労う。中でも大将を務める甘桃のプリンセス――ネイシアはケイトが負った傷があたかも自分自身が負った傷であるかのように胸を痛め、深い悲しみに表情を翳らせていた。
「ネイシアちゃん、みんな…ごめん、なさい…負けました…」
「ケイトさん…お疲れ様でした。今治療しますので、ゆっくり休んでください…」
「これがブラン教皇国聖騎士団か…やれやれ、こいつは手強そうだな!」
「えっと…私の出番、ですね…怖いけど、頑張ります…!」
「ペルシカさん、お気を付けて。貴女に精霊の御加護がありますように…」
ネイシア班、選手交代。次鋒を務めるのはピーチピンクの彩りの癒し手ペルシカ。フルウム国のドルチェ自警団の一員として人々を守り癒す役割を果たしており、彩りの義勇軍に加わってからも衛生兵として仲間達の戦いの傷を癒す役割を担っている。その役割と控え目な性格から普段は前線に立つ機会はほとんどないが、瑞々しいピーチピンクの彩りの癒し手は彩りの義勇軍の一員として、ネイシア班の一員として戦う決意を胸に抱きながら闘技の舞台に踏み入っていた。
「えっと…フルウム国より参りましたペルシカです。よ、よろしくお願いします…」
「ふむ…虫も殺さなさそうな姿と物言いだが、我らと戦う覚悟は出来ているか?」
「…はい!私だって仲間のために、ネイシアさんを守るために戦うんです!」
「フフッ、よかろう。ならばかかって来い!」
ペルシカとゲオルグ、両軍次鋒が火花を散らし、両者共に得物の杖を構えて向かい合う。ペルシカは聖騎士ゲオルグに先手を許すものの目の前の戦いに臆することなく、毅然とした態度と彩りの力で迎え撃った。
「いくぞ!ぬうぅおおッ!」
「ま、負けません…ペルシークシールド!」
「な、何ぃぃ!?」
「あ、危ない…守れた…!」
ペルシカは柔らかく甘やかな彩りの力を以て聖なる法力を包み込んで打ち消し、ピーチピンクの色彩の防陣を織り成す。敵軍次鋒の聖騎士ゲオルグの法力に立ち向かう意思を示し、普段の穏和な佇まいからは想像も着かないほど凛とした表情を見せていた。
「フッ、虫も殺さぬお嬢さんかと思っていたが、撤回しよう。だが、身を守るばかりでは勝てはせんぞ?」
「…はい!私だって、立派に戦ってみせます…ラペーシュフォトン!」
「ぐおお!?」
聖なる光の帯がゲオルグを包み込むように集束し、ピーチピンクの閃光となって一気に弾ける。普段の控え目で淑やかな“癒し手”たる姿とは全く異なる“戦士”としての姿を見せるペルシカの躍動に客席で見守る仲間達の心を躍らせていた。
「ペルシカ、すっご~い!あんなに戦えるなんて、ちょっとビックリかも…」
「そうだな~、ドルチェ。ペルシカはいつも後で治療してくれるから、自分で戦うってイメージはちょ~っとないもんな~」
「そうね、アルフォンゾ。でもペルシカは自警団として戦う決意を持ってて、いつも自分に出来ることを一生懸命に取り組んでいるわ!」
「応。ペルシカの治癒士としての務め、真に尊きものよ。其も戦への決然たる意の象徴也」
「うおおぉぉッ!小生、猛烈に感動しているでごわす !!行けぇ、ペルシカァァァァッ!!!」
ドルチェ自警団の仲間達の熱い声援が控え目なペルシカの背を押していく。グレープパープルの巨兵ヴァインの腹の底から轟く大声が闘技場全体に反響して木霊すると、ペルシカはクスッと笑いながらも誇らしげに胸を張った。
「ゲオルグさん…私の仲間達の声、聞こえますか?私には共に歩む仲間がこんなにたくさんいてくださるんです!」
「ぬうぅ…ペルシカ殿、恐れ入った…これほどとは…!」
「私は弱くて、頼り無くて…皆さんに助けてもらってばかりです。だからこそ、私は皆さんの想いに応えたい…負けたくないんです!」
ペルシカは得物の杖の先端に飾られたピンク色の宝玉にピーチピンクの彩りの闘気を集束させ、聖なる力として具現化させる。仲間達の想いに応えたい――ネイシアを守りたい――ペルシカの胸の内には確かな熱い想いが赤々と燃えていた。
「勝たせてください…!ペルシカ・セイクリッド・ホーリーブレス!!」
「ぬうっ、うぅ…!」
「そこまで!勝者、ペルシカ選手!」
“癒し手”の1人であるペルシカは勇気を振り絞り、“彩りの戦士”としての戦う意思を以て聖騎士ゲオルグを撃ち破った。闘技場のスタンドからピーチピンクの彩りの戦士を祝福する拍手が沸き上がる。と、同時に――
『うおおお~ッ!いいぞいいぞ~ッ!!』
『ペルシカちゃん、可愛い~!こっち向いてくれ~!』
『ペルシカちゃ~ん!愛してるぞ~!!』
清楚で淑やかな佇まいはビンニー国の男達の琴線に触れるのか、荒くれ者達はペルシカに熱心に声援を送っていた。当のペルシカは衆目のもとに注目されることに恥じらい、頬をピンク色に染めていた。
「はわわわ…は、恥ずかしいです…」
「フフッ…素敵ですよ、ペルシカちゃん。貴女の祝福の力、遠慮なさらずに見せてくださいね♪」
「へぇ、人気者なんだな、お嬢ちゃん!このウルバンが相手をしてやるぞ!」
「に、人気者だなんて、とんでもないです…よろしくお願いします…!」
敵軍の中堅は両刃の戦斧を構え、白い鎧では隠しきれぬ闘志を全身から漲らせる聖騎士ウルバン。傍目には虫も殺さなさそうな清楚で淑やかな佇まいのペルシカに対し、荒くれ者が行き交うビンニー国の群衆に紛れていても全く違和感の無さそうな印象のウルバンは抑えきれぬ闘志に身を委ね、勇んでペルシカの懐に飛び込んでいった。
「うおおおらああっ!」
「キャアアッ!い、痛い…!」
「おいおい、どうしたよ?ゲオルグに勝ったんだから手加減なんてしねぇからなぁ!?」
戦斧を振るう聖騎士の荒々しい戦いに観衆は静まり返る。押しの一手という様相のウルバンの猛攻の前にペルシカは瞬く間に守勢を強いられていく。大将ネイシアが静かに祈る中、ネイシア班の面々は固唾を飲んで見守っていた。
「ペルシカちゃん、苦戦していますね…やっぱり聖騎士の皆さんも簡単に勝たせてはくれないということですね…」
「そうだな、ケイト…チッ、なんとかしてネイシア姫に回る前に終わらせたいんだけどなぁ…」
「ええ、可能ならばそれが理想ですね。毒の精霊ウェネーヌよ、どうか我らに御加護を…」
大将に回る前に決着を着けたいネイシア班の面々に焦燥が滲む中、ペルシカは聖騎士ウルバンの剛腕に為す術なく傷を負っていく。ウルバンは聖壇に集いし者とは思えないほど粗野な色合いの笑い声をあげながらとどめの一閃を見舞った。
「ヒャハハハ!こいつで終わりだああぁぁッ!!」
「キャアアァァッ!!」
「…そ、そこまで!勝者、ウルバン選手!」
『Boo~!Boo~!!』
『ペルシカちゃんをいじめるな~!』
ペルシカを贔屓にする男達から敵軍中堅ウルバンにブーイングが浴びせられる中、ネイシア班の面々は敗れたペルシカのもとに駆け寄る。大将ネイシアの表情は再び悲しみに翳り、今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「うう…い、痛い…ごめん、なさい…」
「ペルシカちゃん…貴女の強さと優しさ、とても素敵でした。今、傷を治しますからね…」
「…では、次は私が参ります。毒の精霊ウェネーヌの導くままに!」
「バラキエルさん…お願いします!」
「マジで頼むぜ、バラキエル…なんとかして姫様を守らねぇと…!」
ネイシア班の中堅を務める毒の神官バラキエルがダスティピンクの紋様を妖しく耀かせながら闘技の舞台に踏み入る。容赦なく襲い掛かる白き聖騎士団の刃、大将であり旗印である甘桃のプリンセスを守り抜くという彩りの戦士達の決然たる意思――両者の力と想いがぶつかり合う一戦は中堅同士の戦いに突入していく。彩りの義勇軍の戦いは続く!
To Be Continued…