第165話『色彩武勇~vol.3~』
シリーズ第165話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族四天王が統べるビンニー国の闘技大会に於いて彩りの義勇軍一行は己の彩りを耀かせている。月の神と毒の精霊の気高き意思を体現するビアリー班の中堅を務める冥黒の近衛騎士アヌビスは敵軍副将フランネルと相対し、静かに闘志を燃やしていた。
「では、始めるか…いくぞ!」
「よっしゃ、捻り潰してやるぜ!うおおぉらッ!」
「グッ、やるな…!だが、ビアリー様に手出しはさせん…ヘルファング!」
「うおわぁっ!?」
冥黒の彩りが容赦なくフランネルを襲う。得物である矛の切っ先が毒氣を纏った魔狼の牙となり、仇為す者を無慈悲に切り裂く。彩りの刃を受けたフランネルは僅かに怯むが、得物である巨斧を構え直し、ギラギラと輝く闘志を瞳に秘めてアヌビスに突き刺した。
「チッ、なかなかやるじゃねぇか…さすがはシャンブレーを倒すだけのことはあるな!」
「フッ、もっと向かって来い!この刃の錆にしてやろう!」
「ヘヘッ、そう簡単にいかねぇよ!返り討ちにしてやるぜぇッ!」
アヌビスの毒の矛とフランネルの巨斧、両者の得物が激しくぶつかり合い、赤々と燃える火花が辺りに散らばる。観衆は息を呑み、2人の鍔迫り合いに引き込まれていく。強きを尊ぶ蛮族の国で闘技場に足繁く通い、戦いに対する目の肥えたビンニー国の人々も舌を巻くほどの猛攻の応酬は感嘆に値するものだった。
一方、客席で見守る彩りの義勇軍一行も冥黒の毒の戦士の鬼気迫る戦いぶりに驚嘆する。日頃から厳しい鍛練を積み重ねる猛者達もアヌビスの実力に圧倒されるばかりであった。
「アヌビス、見事な腕ね…騎士団領にもこれほどの実力の者はそうはいないわ」
「そうだな、ティファ殿。我らテラコッタの騎士にも是非御教示願いたいものだ」
「うんうん、ウチらがビアリー様の臣下になって帝国で訓練してた時もアヌビスに指導してもらったんだよ!鬼コーチだったよね!」
「そうだったね、イオス。でも、アヌビスがビシバシ鍛えてくれたから、こうしてみんなと一緒に戦えるんだよね!」
客席の毒の戦士達がノワール帝国の洗練された戦いを指南したアヌビスへの信頼を口にする中、闘技の舞台の真ん中でぶつかり合う両者に疲労の色が見え始める。互いに守るべき者への想いと闘志を燃やし、仇為す者へと刃を振るった。
「ハァ、ハァ…どうした…もっと、全力で来いってんだ…そぉらよぉ!」
「グッ…断じて…ビアリー様に手出しはさせん!はああぁぁッ!!」
「うぐぅッ…オオオオラァ!!」
アヌビスとフランネル――百戦錬磨の猛者である両者は互いに譲らず、ように見える。が、フランネルの猛々しい巨斧の刃を受けたアヌビスは傷を負い、じわじわと守勢に陥っていく。ビアリーを守り抜くという気力と残り僅かとなった体力を振り絞るが、フランネルの剛力の前には風前の灯火となっていた。
「さあ、覚悟しろ!木端微塵に砕いてやらああぁぁッ!」
「うがあああぁぁっ…!」
「…そ、そこまで!勝者、フランネル選手!」
奮戦の末、アヌビスはフランネルの巨斧に砕かれて敗れてしまった。ビアリー班の4人がアヌビスのもとに駆け寄る中、闘技場は満員であるにも関わらず静まり返っている。2人の鬼気迫る攻防は観衆を驚嘆させ、水を差したような静寂が支配していた。
「ビアリー、様…力及ばず、申し訳ございません…」
「アヌビス、貴女の健闘に敬意を表するわ。あとは任せてゆっくりお休みなさい」
「まさかアヌビスが負けるなんて思わなかったわ…強い人って私達が想像する以上にたくさんいるのね…」
「ああ、ナハトの言う通り…アヌビスを倒すとは相当の腕だな…私もいっちょ気合い入れてやるかねぇ…!」
「ポワゾン、ガンバなの!張り切って殺っちゃえなのよ!」
ビアリー班、選手交代。副将は紫の紋様を妖しく煌めかせる毒の戦士達の首領ポワゾン。ヤート、スラッジ、アンブラと共に毒の彩りのギルド“ヴェレーノ・ノーヴェ”を創設し、ペーシュ国を牛耳る札付きの不良として恐れられる人物だったが、邪教戦士ジャッロ共々一行に敗れてビアリーの臣下となった。一行に加わって以降はビアリーの親衛隊長を務めるようになっており、そのリーダーシップと実力ゆえ主君ビアリーからの信頼も厚い。毒氣を帯びたメイスを構え、敵軍副将フランネルに向かい合った。
「さ~て、アヌビスの敵討ちといくか!かかって来やがれってんだ!」
「そう来なくっちゃなぁ!テメェもボコボコにしてやるよ!」
「フン、自分で言ったその言葉、よ~く覚えとけよ!返り討ちにされても泣くんじゃないぜ!?」
「ギャハハハ!そんなこと言っても泣くのはお前の方だ!いくぞ!」
挑発合戦を終え、両軍副将が相まみえる。ポワゾンの後にはビアリー、フランネルの後にはベルベット――厚い信頼を寄せる大将が見守る中、激しく火花を散らしながら己の武を見せつけんとしていた。
「うおおぉりゃああぁ!!」
「フッ…アヌビスを倒したからちょっと期待してたが、随分と大振りだな。隙だらけだぜ!」
「うおおっ!?クソッ、このチンピラが…!」
ポワゾンは軽快な動きでフランネルの巨斧を避け、メイスで薙ぎ払う。敵軍副将が怯んだ隙を逃すことなく、荒々しい毒の凶氣に委ねるがままに紫の彩りの力を解き放った。
「くらえ、ポイズンラッシュ!オラオラオラァ!!」
「がはッ…!」
「ヘヘッ、まともにくらったな?さてさて、ゆっくり楽しむとするか!」
「チッ…グチャグチャとほざくな…!」
ポワゾンの彩りの毒に冒され、フランネルは次第に焦りを募らせていく。先ほどのアヌビスとの一戦で消耗していたのも重なり、ポワゾンの攻勢がフランネルを容赦なく飲み込む。毒氣が仄かに妖しく薫る中、ビアリー班の面々も目の前の戦いに吸い寄せられるように見入っていく。
「ポワゾン、良い調子なのよ!毒の力で殺っちゃえなのよ!」
「…リーダー、さっきまでどんどん攻めてたのに、毒が回ってからじっくりと間合いを読んでる…したたかな攻めだわ…」
「そうだな、ナハト。さすがは親衛隊長ポワゾンといったところか…見事なものだ」
「ええ。彼女の強さ、統率力、毒の力…全てがあたくしを悦ばせてくれるわ…ポワゾン、とっても素敵よ♪」
主君ビアリーと仲間達の熱い視線を背に受け、ポワゾンは静かに闘志を燃やしていく。一方、全身に毒が回ったフランネルは早めにカタを付けるべくポワゾンに向かって駆けていった。
「ぐぬぅ…うおおぉあぁッ!」
「ハッ、近付き過ぎだ!そぉらよ!」
「うげっ…ぐはっ…!」
ポワゾンは自身が編み出した不良格闘術で迎え撃ち、蹴倒したフランネルを毒氣のメイスで打ち据える。邪教戦士ジャッロの刺客として一行と敵対していた不良時代を思わせる粗暴な攻めは客席の毒の戦士達も熱狂させた。
「よっしゃあ!リーダー、その調子ぞなもし!ウヒョヒョッ!!」
「ポワゾン…グルウゥオアアァァッ!」
「アンブラ、周りのお客様が怖がります。猛り狂うのは程々になさい。まあ、貴女もリーダーとは長いお付き合いですもの。想うところがあるのでしょうね」
「その通りさ、バラキエル。ウチも創設メンバーの1人だけど、リーダーはいつだってチームのことを考えてて、誰より仲間思いなんだよね。ビアリー班の親衛隊長になって、この軍に入って、より一層生き生きしてる気がするよ!」
「リーダー!そんなだだくさな野郎、毒の力でズタズタにしちまうがや!」
彩りの義勇軍に加わってからも変わらず自身を“リーダー”と呼ぶ仲間達からの声援が響き、ポワゾンは紫の彩りの毒氣と共に胸の内に赤々と燃えるボルテージを昂らせていく。闇の皇女の親衛隊長を務める毒の戦士は自分自身と自らが統べる仲間達の力を司る毒の精霊ウェネーヌの息吹を確かに感じ取っていた。
「毒の精霊に代わってテメェにヤキ入れてやらぁ!レイジ・オブ・ウェネーヌ!!」
「ぐうおあああぁぁぁッ!!」
「そこまで!勝者、ポワゾン選手!」
『おおおおおおぉッ!!』
猟奇的とも言えるポワゾンの熱い戦いに観衆は沸き上がる。歓声が降り注ぐ中、毒の親衛隊長ポワゾンが後方へ視線を移すと、主君ビアリーが優しく微笑みながらその健闘を拍手で称えていた。
「ポワゾン、素晴らしいわ…そのまま貴女の美しい姿をあたくしに見せて…」
「ビアリー様…有り難き御言葉、謹んで頂戴します!…さあ、私の毒でぶっ壊してやるよ!大将さんよぉ!」
「チクショウ…悪りぃ、ベルベット…あとは、頼むぜ…」
「ええ。ゆっくり休んで、フランネル。私が貴方達の分も戦い、勝ってみせる!」
敵軍大将ベルベットは凛とした佇まいに仲間の分も戦うという気高き意思を携え、闘技の舞台に踏み入る。ビアリー班副将ポワゾンは待っていたとばかりに挑発的な態度を見せるが、標的であるベルベットは全く動じる様子が無い。艶やかな青紫の髪を長く伸ばし、薄紫と藍色を基調とした衣装に身を包み、スカイブルーの瞳に熱い想いを秘める敵軍大将は静かに闘志を燃やしていた。
「よう、大将さん!このポワゾン様の毒にギタギタにされる覚悟を決めたみたいだな!ハハハハッ!」
「フフッ、随分と血気盛んなご挨拶ね。私はベルベット。謹んで貴女にお見せするわ…この力を!」
「何ッ!?し、祝福の証、だと…!?」
敵軍大将の左手に印されたベルベットパープルの紋様が妖しく輝き、ポワゾンの視線を釘付けにする。織紫の彩りが妖しく煌めく左手に剣を逆手に握り、ポワゾンへ静かに戦意を向けた。
「自己紹介はここまでよ…始めましょうか!」
「…ああ、臨むところだ!ズタボロにしてやるぜ!」
「果たしてそう簡単にいくかしらね?ベルベット、参ります!」
ビアリー班副将ポワゾンと敵軍大将ベルベット――紫とベルベットパープルの彩りが真っ向からぶつかり合う。ポワゾンは毒氣のメイスを構え、ベルベットが逆手に構えて素早く振るう刃を必死に受け止めた。
「せいやッ!はああッ!!」
「チッ、速いな…ひとまずここまで離れりゃ――!?や、刃が…飛んで来た!?」
「フフッ…逃がさないわ。フランネルに打ち勝った貴女の力、そんなものではないでしょう?さあ、もっと近くへいらっしゃい!」
ポワゾンが息つく間もなく、離れたはずの切っ先が不意に眼前に飛び込む。ベルベットの得物は剣は剣でも鞭のようにしなる蛇腹剣だった。舞い踊るような動作でポワゾンの懐に飛び込むベルベットだったが、ポワゾンはすぐに体勢を整え、矢継ぎ早に禍々しい毒の凶撃を以て襲い掛かった。
「チッ…吹っ飛べ、ポイズンラッシュ!」
「フフッ、動きが硬いわよ。もっとしなやかに、もっと軽やかに…もっと熱く舞いましょう!」
「クッ…クソッ…!」
織紫の彩りの戦士ベルベットの妖しい舞いに翻弄され、余裕綽々だったポワゾンの表情に焦りが滲んで翳りが見え始める。果たしてビアリー班は妖しく舞い踊る敵将ベルベットを打ち倒し、勝利を掴めるのだろうか?その運命の導く先は…?
To Be Continued…