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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter6:闘技大会篇
162/330

第162話『醍白の少女、沌色の艷女』

シリーズ第162話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

ビンニー国の闘技大会で躍動する彩りの義勇軍一行。自らの彩りの力を司る風の精霊シルフの加護を闘技の舞台で体現してみせたフェリーナを皆が祝福していた。



「フェリーナ、さすがです。貴女が紡ぐ精霊の力、私達も肌で感じましたよ」


「ありがとう、モニカ。共に戦う4人がいてくれて、客席に皆がいてくれたから、私も精霊の力を最大限に発揮出来たと思うわ。やはり精霊の彩りを美しく輝かせるのは仲間との絆なのね」


「うむ、今日も見事な一番が続いておるのう!フェリーナの同門対決、手に汗握ったわい!」


「ええ、とても素敵だったわ。あたくし達と彼ら、それぞれが運命に導かれて――」


「見つけたぁぁ!ししょおおおぉぉぉッ!!」


「うおおっ!?お、お前は…ラッテ!?」



一行のもとにラッテという名の見知らぬ少女が駆け寄ってくる。仲間達の群衆を掻き分け、“師匠”と仰ぐヴィオに飛び付いてきた。艶々した黒髪と健康的な小麦色の肌が眩しい。青銅製らしき剣を鞘に収め、“sale”と記された値引きシールが貼られた盾を背負っている。思いがけぬ人物の乱入にヴィオは渋い顔をしていたが、妹ザラームは嬉々として迎えていた。



「あ~、ラッテ!元気そうでよかった~!」


「うん、ザラームこそ元気そうじゃん!って、ちょっとししょー!わたしを置き去りにして行くなんて酷いじゃないですか~!聞いてるんですか、ししょー!?」


「…やれやれ、弟子をもらった覚えは無いんだがな」



近寄り難い雰囲気を醸し出すヴィオに対して臆することなく早口で捲し立てるラッテの姿に一行はポカンとしていた。一方、ヴィオは傍目には邪険に扱っているように見えるが、その胸中では密かにラッテを気にかけていた。



「こちらがししょーの所属する軍ですか!?うわぁ~、すごい人数ですね~!」


「ああ…私の仲間達だ…ほら、ペチャクチャ喋ってないで挨拶の1つでもしろ」


「は~い!…どもども、ラッテです!アランチョ国の傭兵ギルドの訓練生です!ししょーと同じ…いや、みなさんと同じ印を持ってま~す!」


「おお、ホントッス!祝福の証ッス…!」



元気溌剌といった印象を受けるラッテの左手を優しいミルキーホワイトの紋様が彩る。屈託の無い笑顔を見せる醍白(ミルキーホワイト)の少女は彩りの戦士として戦う意思を一行に示し、再びヴィオに向き合った。



「ししょー、ここで会ったが100年目です!今度こそ逃げないで修行に連れてってくださいね!」


「ハァ…仕方ないな。ラッテ、この軍は手練れ揃いだ。必ずお前のためになると思うから、しっかりと着いて来い」


「やったぁ!というわけで、よろしくお願いしま~す!」


「なんや賑やかな人やな~…こちらこそよろしくやで!」


「もうすぐ日も暮れるな…魔物退治もあったし、今日はもう休もうぜ」


「ああ、そうしようか…やれやれ、いつまであのボロ宿に泊まるってンだい…」



ラッテを加えた一行は拠点としている宿へと歩を進める。粗悪な汚ならしい宿に近付き、一行の中には溜め息を漏らす者もいる。最早馬小屋同然とも言える宿に一行が帰り着いた――覚えのある顔が4人、出入口の前に仁王立ちしている。ビンニー国の王として君臨する蛮族四天王が闘技場の職員を数名引き連れて一行を待ち受けていた。



「貴女達は…蛮族四天王!?」


「よう!見てたぜ、オタクらの試合!さすがの腕前だな!」


「うむ、見事なものよ!して、さっそく儂らの用件じゃが、お主ら全員この宿から今すぐに引き払っていただこう!」


「ほえっ!?や、宿代はちゃんと払ってたで!?なんやわからんけど、ウチら立ち退きさせられるん?」


「否。この宿はGランクの者専用の宿である。強き者である貴女方には相応の宿でもてなし申し上げる…ただそれだけのこと也」


「えっ?えっと…まだGランク勝ち抜いてないグループもいるんだけど…」


「良いって良いって、細かいこと気にすんな!今日の魔物退治でオタクらの実力はビンニー国のみんなに証明済みだし、俺様達からの礼だと思ってくれ!」



一行は蛮族四天王と闘技場職員に促されるがまま、慌ただしく荷物をまとめて馬小屋同然の宿を後にした。強き者が尊ばれるビンニー国の実態を目の当たりにしつつ、一行は蛮族四天王と闘技場職員に連れられて宿を移す。馬小屋同然だったGランク専用宿舎とは打って変わり、ペーシュ国で拠点にしていたホテルを彷彿させる洗練された佇まいであり、歴然とした格差を見せつけていた。



「うわぁ…すっげぇ!めっちゃ綺麗じゃん!」


「おう、なかなかイケてるだろ?この宿はDランクの連中が泊まる宿だから、それなりに設備も充実してるぜ!」


「ふむ…つまり闘技大会で勝って更に番付を上げれば、更に良い宿に泊まれるということかのう?」


「応。高みに至れば至るほどに歓待は厚くなる故、楽しみにして精進なされよ」


「やったぁ!それじゃ、さっそく部屋を見に行こうよ!」



クレアの一声で客室階へ移動し、一行の泊まる部屋の1つを覗く。部屋は清掃が行き届いており、水回りもリネンも綺麗に整えられている。至極当たり前に思えるが、前日まで馬小屋同然の粗悪な宿に泊まっていた一行にとっては感激に値するものであった。



「おお、素晴らしい…昨日までのボロ宿とはえらい違いなのである!」


「うむ、これなら気持ち良く過ごせそうだ。皆の士気も高まることだろう」


「そうですわね、マリー様。ああ、この部屋でリタ様がわたくしを…」


「…むむ?親愛なる同志ラナンよ、顔が赤いぞ…?」



綺麗なホテルに拠点が移り、一行の士気も自然と高まった。が、1つの懸念が浮上する。この日一行に加わったのはニュクス、ズィヒール、タンガ、ラッテの4人――即席のこのグループのみ1人欠員が生じている。ラッテ以外は敵軍大将を務めた手練れ揃いの一団とは言え、さすがに1人欠けていては些か心許ない。



「よっしゃ、それならあたいに任せな!ちょいと酒場に行って仲間を探してくるよ!」


「…ビクトリア姉ちゃん、それ本気で言うてるん?」


「アミィ、真顔に棒読みじゃ可愛いげ無いよ。大人になった時のために教えといてやるけどねぇ、冒険者や傭兵の仲間探しは酒場って相場が決まってんのさ!ってことで、行って来るからね!」


「あ~あ、行っちゃった…ただ単純にビクトリアが酒を飲みたいだけの気もするけど…俺達は酒場には入れないから任せようぜ」


「さっき勝った時にも缶ビール飲んでたのに…ホントにお酒好きよね、ビクトリアったら…」



苦笑いを浮かべながらビクトリアの背を見送るティファの言葉に皆が物言わず頷く。ビクトリアはグラジオ、アルフォンゾ、ポソニャ、ヴァネッサを連れ、街の酒場へと繰り出した。蛮族の国の酒場は明日の武勇を夢見る荒くれ者達で賑わっており、高揚感と熱気が満ちていた。



「うンま~い!やっぱり戦った日に飲むお酒は格別だよね!」


「イエーイ!おじさん、ビールおかわり夜露死苦ゥ!」


「ふいぃ~、いつもは1人でゆ~っくり飲んでたけど、たまにはこうしてワイワイ飲むのも良いもんだな…」


「…なあ、ビクトリア…仲間探しはしなくていいのか?」


「おっと、そうだったね。グラジオが言ってくれなきゃ危うく忘れるところだったよ!さて、啖呵は切ったもののどうしたもんか――」



仲間探しという本来の目的を果たすべく酒場で呑む者達に声をかけようと席を立つ。が、ビクトリアの視線と意識が突如として一点に吸い寄せられる。店の奥のカウンター席で静かにグラスを傾ける1人の女性だった。長く伸ばした美しい銀髪に加え、黄緑と紫を基調とした派手な服装が目を引くのは勿論だが、華美な外殻では隠しきれぬ異様な雰囲気が滲み出ていた。



「あの…私に何か?」


「あ、ああ…あたいはビクトリア。よろしくな」


「…ええ、よろしく…私はアルキヴァ。ただの気まぐれな旅人よ」


(ただの旅人?絶対嘘だね…この雰囲気、そんなちゃちなもんじゃない…おかげで酔いが醒めちまった…)


「何かしら…私の左手が貴女を呼んでるように思うわ…」


「祝福の証!?あ、あんたにも…しかも色が2つ!?」



ビクトリアが吸い寄せられるようなミステリアスな印象を受ける艷女アルキヴァの左手には黄緑と紫の2色が共存している――カオスヴァリーの紋様が妖しく煌めいていた。



「あ…貴女にも…ガーネットのように美しい深紅ね…」


「あ、ありがとう…なあ、同じ印を持って出会ったのも何かの縁だし、あたいらと一緒に闘技大会に参加しないかい?」


「…わかった。一緒に行くわ…」


「…おお、サンキュー!そんじゃ、あたいらと一緒に飲もうじゃないのさ!」



ビクトリア班の5人は酒場で出会ったアルキヴァを引き連れて宿に帰り着いた。ビクトリアは表面上は明るく装っていたが、出会った時から続く奇妙な胸騒ぎを抱えていた。



「みんな、仲間が増えたよ!そんじゃ、みんなに挨拶してくんな!」


「すごい…こんなにたくさん仲間がいるのね…私はアルキヴァ、どうぞよろしく…」


「はい、私はモニカ・リオーネと申します。どうぞよろしく。では、アルキヴァはニュクス達と同じ部屋に入ってください」


「…ええ、わかったわ。この軍の一員として、お世話になります…」



アルキヴァは穏やかな微笑みを浮かべ、自然に彩りの義勇軍の輪に入っていった。皆はそれぞれ部屋に戻っていったが、フェリーナだけはその場に残り、凛とした眼差しをビクトリアに向けていた。



「ねえ、ビクトリア…あのアルキヴァっていう人…」


「ああ…アイツ、やっぱりなんか匂うかい?」


「ええ。彼女の精霊の刻印から奇妙な気を感じたの…他のみんなが持つ精霊の気とは違うんだけど、邪気でもない…不思議な人だわ…」


「そうかい…一目見た時にあの雰囲気に吸い込まれそうになったよ…さっきからずっとドキドキしてるのさ…チッ、どうも奇妙な奴だねぇ…」


「…そうね…でも私は信じるわ。精霊の導きで出会ったアルキヴァを…そして、彼女を私達に引き入れてくれたビクトリアを、信じるわ!」


「…ハッ…サンキュー、フェリーナ。あたいもあんたを信じてるからね!」



妖しき沌色(カオスヴァリー)の戦士アルキヴァを加え、総勢110人となった彩りの義勇軍一行は各グループごとに分かれて5人部屋にそれぞれ入っていった。翌朝に戦いを控えたビアリー班の面々は同じ一室で夜を過ごす。先鋒パンジー、次鋒ナハト、中堅アヌビス、副将ポワゾン、大将ビアリー――月の神と毒の精霊の気高き意志を体現する5人は戦いの時が来たる夜明けを心待ちにしていた。



「もう今からワクワクするのよ!パンジー、早く戦いたいの!」


「…綺麗な満月…私達の闇の力、毒の力も昂る(とき)…きっと勝てるわ…」


「ああ。だが、恐らく激しい戦いになるだろうな。このアヌビス、たとえ大将と刺し違えてでもビアリー様には指一本触れさせん!」


「真面目だねぇ、アヌビス。このポワゾン様が後に着いてるから、安心して暴れなよ!私らの毒の力を見せてやろうじゃないか!」


「ええ、運命は必ずあたくし達に希望の道を歩ませてくださるわ。さあ、みんないらっしゃい…一緒に夜を楽しみましょう♪」



毒の彩りの臣下4人は主君ビアリーに誘われ、ベッドの周りに集い、主君の傍らに寄り添った。次に一行を待ち受ける戦士達は誰か?カオスヴァリーの彩りの戦士アルキヴァは何者なのか?次なる挑戦者となるビアリー班は勝利を掴めるのか?様々に錯綜する中、ビンニー国の夜は静かに更けていった。




To Be Continued…

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