第159話『彩りの争闘~vol.14~』
シリーズ第159話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
強きを尊ぶ荒くれ者の行き交う蛮族の国の闘技場にはおよそ異質と言える爽やかな闘気が充ち満ちている。彩りの力の根源たる精霊の力を信ずるフェリーナ班はアイビー国の狩猟民族キヅタ族の青年5人組と相対する。フェリーナ班先鋒のグレーの機械少女プロトが敵軍次鋒アイレに対して様々な彩りに染まりながら燃ゆる闘志を体現していた。
「炎の力で飛び上がった!?すごく器用な技を使うのね…」
「プロト、一気に畳み掛けなさい!彩りの力を見せつけるのよ!」
「標的位置確認、玄術式展開!――」
プロトの体がコーヒー色に染まり、妖しい刃を鋭く研ぎ澄ます。凛と煌めきながら何処となく禍々しさを滲ませる玄黒の刃の雨を降らせながら強襲していった。
「アリーヴェデルチ!」
「うわああ!?ナ、ナイフが降って来るなんて…!」
「標的捕捉…てやあぁッ!」
「クッ、クソッ…うりゃああぁぁッ!!」
アイレは少々ヤケクソ気味に周囲を薙ぎ払い、玄術の刃の雨を迎え撃つ。幾つかを払い落とすことに成功するが、降り注いだ刃は容赦なくアイレの体を傷付ける。“標的”である敵軍次鋒が奇襲に錯乱する中、プロトは空中から降下しながら次の一手に備えており、機体はコーヒー色からに若草色に染まっていく。
「虫術式展開――バグズバンプス!」
「おおっと!危ない危ない…って、また色が変わった!?」
「闘術式展開――ガッツナックル!」
「グッ…うおおああぁぁッ!!」
「…!!」
若草色から琥珀色に移ろったプロトが拳を振り上げ、対するアイレは槍で懐を一突き――互いに相手を捉える手応えをその手に感じていた――が、攻勢に立っていたプロトの動きが鈍り、拳に込められていた力が瞬く間に抜けていった。
「クソッ…強い!でもまだ倒れてはいないか…僕だって負けるわけには――」
「動力炉、ダメージ……危険……危険……動作続行、不能…」
「え?え…?動力炉が、なんだって…?」
アイレの突き刺した矛先が急所である動力炉を捉え、グレーの彩りの機械少女プロトは電池が切れたように動きが停まり、それまでの攻勢が嘘のように呆気なく崩れ落ちる。思いがけず早々に訪れた決着は対峙するアイレはおろか審判や観客も唖然とさせていた。
「戦闘モード、継続不能――緊急、停、止…」
「…そ、そこまで!勝者、アイレ選手!」
「あれ…か、勝った…のか?」
プロトを破った次鋒アイレが呆然とする中、時間差で拍手が沸き起こる。フェリーナ班の面々は闘技の舞台に静かに崩れ落ちたプロトのもとに駆け寄り、健闘を労っていた。
「フェリーナ様…マスター…申し訳ありません…」
「プロト、お疲れ様。シェリー、プロトの修理をお願いね」
「ええ、了解よ。う~ん…動力炉付近の装甲が薄かったのかしら…今後はボディの強度を向上しないといけないわね…」
「フェリーナの御友人のキヅタ族、手強いわね…フェトル、次お願いするわ。頑張って!」
「ありがとうございます、バジルさん。私も最善を尽くします」
フェリーナ班、選手交代。次鋒を務めるのはボトルグリーンの彩りの毒の戦士フェトル。かつてはペーシュ国の企業に勤める一介のOLだったが、不良時代のポワゾン達に絡まれた際に祝福の証が覚醒――毒の戦士として一行の前に立ちはだかったが制圧され、ビアリーの臣下として一行に加わった。仲間になって以降は主に一行のサポートを担当していたが、精霊の世界について学ぶうちにフェリーナと絆を紡いでいた。毒の精霊ウェネーヌの加護を信じるフェトルは毒氣を纏った本を携えて闘技の舞台に踏み出していった。
「あ、あの…すみません…失礼ですけど、戦えるんですか…?」
「フフッ…人は見た目が9割、という言葉がありますからね。ですが、残る1割が真逆ということだってあるのですよ?」
「そ、そっか…戦おうと思わないとこの舞台に立とうと思わないもんな…いざ、勝負ですね!」
「その言葉をお待ちしていましたよ。では、参ります…ファンガススポール!」
『おおおぉぉぉ~ッ!!』
観客の驚きの声が包む。フェトルは落ち着いた見た目からは想像もつかない跳躍力で空中に飛び上がり、素早く得物を構える。フェトルの操る武器は毒氣を纏った分厚い本――謂わば毒の魔術書だ。フェトルの左手に印されたボトルグリーンの紋様が妖しく揺らめき、彩りの毒を解き放った。
「さ、さっきと同じか?それならたぶん大丈夫だ…」
「フフッ、果たしてそう簡単に事が進むでしょうか?先ほどとは違うものが降って来るのですよ?」
「ううっ…確かにそうかも…マズいかな…?」
敵軍次鋒アイレが怯える中、瓶緑の毒の粉塵が舞台に舞い降りた。妖しい毒の胞子はフェトルのように静かに毒蛇のようにしたたかに敵軍次鋒アイレを蝕んでいった。
「フフッ、私の毒の力が降って来ましたよ。さあ、お味はいかがでしょうか?」
「体が重たい…な、なんだか眠くなって、きた…」
「あらあら、寝てる場合ではありませんよ!?はああッ!!」
「うぐっ…ク、クソッ…!」
「どこ見てるんです?せぇいやッ!」
「あがががっ…!」
フェトルは毒の胞子を受けて微睡んだアイレの隙を突き、不良格闘術で乱暴に突き倒して毒氣の本で打ち据える。普段の理知的な印象とは真逆の荒々しさを帯びた戦いぶりは一行と敵対していた不良時代を思わせた。
「フェトル、良い調子ぞなもし!青臭せぇガキをボコボコにしてるぞなもし!」
「うん!ノリノリだね~、スラッジ!ウチは難しいことはわかんないけど、これがフェトルが信じてる精霊の力ってやつなのかもね~」
「そうだな、グィフト。えっと…たしか毒の精霊ウェネーヌ、だったか?」
「その通りです、ヤートさん。こうしてフェトルさんが毒の精霊ウェネーヌ様の御加護のもとに生き生きと戦うのもフェリーナさんとの絆の賜物ですね。天よ、お導きに感謝致します…」
「フェトル、遠慮せずガンガン畳み掛けろ!お前の毒の力をキヅタ族の者達に見せつけてやるのだ!!」
毒の神官バラキエルの優しい祈りと毒の近衛騎士アヌビスの力強い叫びがボトルグリーンの毒の戦士の背を押していく。共に歩みを進めてきた毒の戦士達の後押しを受け、フェリーナ班次鋒のフェトルは毒の色彩を妖しく煌めかせる。祝福の証の彩りと毒の精霊ウェネーヌの加護が司る毒氣が容赦なく牙を剥いた。
「片付けます。ファンガススポール・ソーサリー!」
「うぐっ!う、ううっ…!」
「そこまで!勝者、フェトル選手!」
『うおおおぉぉぉ~ッ!!』
フェトルはしたたかな毒牙を以て敵軍次鋒アイレを退けた。大きな歓声に包まれる中、フェトルは平静を保ったまま眼鏡を拭き、次なる戦いに向けて再度気持ちを引き締めていた。
「フェトル、素晴らしいわ!貴女の毒の精霊の力、輝いているわよ!」
「フェリーナさん、ありがとうございます。貴女と一緒なら私の精霊の力が必ず輝くと信じています。どうか見ていてください」
「う~ん、フェリーナの仲間達、なかなかやるな…パラム、頼むぜ!」
「ああ、任せとけ!これだけ手練れ揃いなら腕が鳴るってもんだ!」
敵軍中堅パラムはロープに鉄球を取り付けた狩猟武器を構え、勇んで戦いに挑まんと飛び出してくる。これまでに相対したヴェントやアイレと比べると明らかに好戦的な印象を受ける。パラムが発する熱き闘志をフェトルも感じ取っていた。
「中堅、ですか…残るは3人、私の力がどこまで通じるか――」
「そぉら、くらいやがれってんだよぉ!うおおらあぁぁッ!!」
「クッ…ファンガススポール!」
先手を打ったパラムに対し、フェトルは怯むことなく彩りの毒を解き放つ。敵軍次鋒アイレの動きを封じた妖しい毒氣が再びキヅタ族の戦士に牙を剥く。が――
「むぐぐ…ぬううぅぅっ…気合いだッ!気合いだああぁぁッ!!」
「そ、そんな!?私の毒の胞子で眠らないなんて…!」
「残念だったな!さ~て、アイレの敵は討たせてもらうぜ!賢そうなお姉さんよぉ!」
「クッ…あううッ…!」
キヅタ族の戦士達も同じ手を2度喰わされまいと歯を食い縛り、大自然の中の狩猟生活で養われた胆力を見せつける。フェトルは敵軍中堅パラムの剛力の前に気圧されていき、瞬く間に守勢に立たされていった。
「そらよぉ!吹っ飛びなッ!!」
「ううっ!参り、ました…!」
「そこまで!勝者、パラム選手!」
健闘虚しくフェトルはパラムに力負けし、砂埃にまみれながら仰向けに倒れた。パラムの一閃に撥ね飛ばされたフェトルの吹き飛び方が凄まじかったためか、普段冷静なフェリーナが平静を乱し、慌てた様子で駆け寄っていた。
「パラム、相変わらず凄い腕力だわ…フェトル、大丈夫!?」
「はい、なんとか…すみません、フェリーナさん…負けてしまいました…」
「彼らが狩猟生活と修行の旅で培った力を感じられるわね…これまで以上に気を引き締めていきましょう」
「さて、次は私ね。相手らキヅタ族の戦士達…新しい戦闘データサンプルが採取出来そうだわ!」
「…どうかお気を付けて。いってらっしゃいませ、マスター」
シェリーシャルドネの彩りを凛と煌めかせるフェリーナ班の中堅シェリーが意気揚々と戦いの舞台へと踏み出していった。両軍共に残るは3人、果たして蛮族の国の戦いを見守り続ける勝利の女神はどちらに微笑むのか?戦いはまだまだ続く!
To Be Continued…