第156話『彩りの争闘~vol.11~』
シリーズ第156話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
ビンニー国の闘技大会で各々の力を勇んで振るう彩りの義勇軍一行。大切に想う仲間を守り戦うことを尊ぶビクトリア班の中堅を務める銃兵アルフォンゾは普段の物臭な印象とは違う戦士の風格を漂わせる。彼女の左手に印されたマンゴーオレンジの紋様が瑞々しい彩りが確かに燃える闘志を体現していた。
「良いねぇ、アルフォンゾ!そのままやる気モードで頼んだよ!」
「やれやれ、ちょ~っと悪目立ちしちまったか…ま、勝っちまったし、とりあえずもうちょい頑張るか!」
「ケッ、ヘラヘラしていられんのも今のうちさ!ウチの秘密兵器でボコボコにしてやらぁ!ガンズ、ぶっ壊してやりな!」
「…ああ、任せろ」
「おお~っと…こいつぁまさか…!」
「し、祝福の証…!?」
“秘密兵器”の正体を容易く物語る刻印にビクトリア班の面々は驚愕する。マチルダ班の副将を務めるガンズという名の荒くれ者は左手にハンティングピンクの紋様を持つ彩りの戦士だった。所々赤黒い痕の着いた銀髪を無造作に伸ばし、骨で造られた鎧に全身を包み、闘志と同時に狂気を纏っている。彼女の携えている両刃の戦斧からは数多の戦いで啜ってきた血の匂いが漂っていた。
「…始めるか。来い!」
「へ~いへい、言われなくても…Fire!」
「クッ…」
「なんだぁ?避けないのかよ…それなら遠慮な~くいくか!Fire!」
「フン…フフフッ…!」
アルフォンゾは怯むことなく引き金を引くが、ガンズは一切避けることなく彩りの弾丸を一身に受け止める。傍目には自殺行為にも見えるガンズの様相は観衆はもちろん、対峙するアルフォンゾさえも唖然とさせる。が、当人はどこ吹く風とばかりに攻撃を受け、ガンズの彩りの力を知るマチルダは不敵に笑っていた。
「お~い、お~い…なあ、ガンズさんよぉ?そんな風にボヤッとしてたら――」
「フフッ…フッハハハッ…グルルゥアアァァッ!!」
「うええっ!?な、なんだってんだぁ!?」
ガンズが突如として本性を現す。理性の箍が外れ、闘争本能と破壊衝動を剥き出しにしたハンティングピンクの戦士は魔物のような凄まじい形相でアルフォンゾに襲い掛かった。
「ガウウゥッ!!」
「ぐおわっ!クッ…クソッ…!」
「ウオオオアアァァッ!」
「グウゥッ…ま~いったなこりゃ…やられる…!」
アルフォンゾは戦慄する。敵軍副将ガンズの魔物のような荒々しい無慈悲な攻めに圧倒されていき、瞬く間に攻守が逆転していく光景は闘技場を蒼白い恐怖の渦巻く坩堝に変えていった。
「コイツはヤバいのである…あのガンズとかいう奴、姿は人間なのに魔物同然なのである…!」
「傷を負うことで芽生える憎しみと敵氣心を糧とする精霊の力が在るなんて、恐ろしいわ…」
「うむ…どうも血生臭い彩りの力じゃのう…あのマチルダとかいう奴、とんでもない輩を連れて来たもんじゃわい…」
「これがガンズの彩りの力…アルフォンゾ…!」
一行の先頭に立ち、誇り高き武勇を見せつける金色の剣士モニカさえも狂える彩りの刃に恐怖するばかりであった。血染めの狂戦士ガンズの妖しい凶刃が唸りをあげ、禍々しい咆哮が闘技場に響く。仇為す者であるアルフォンゾに牙を剥き、贄を容赦なく喰らおうと大きく口を開いていた。
「ヴヴヴオオオッ!!」
「グッ…!ちくしょおおぉぉッ…!!」
「…そこまで!勝者、ガンズ選手!」
「ガルルゥアアアァァッ!!」
アルフォンゾはガンズの禍々しい刃に引き裂かれ、惜しくも敗れてしまった。傷を負うほどに狂気に駆られ、力を増す妖しい牙を剥くガンズのハンティングピンクの彩りの力はビクトリア班の面々を凍り付かせた。
「チッ、コイツはクレイジーだ…ダメージを受けて強くなるなんて…!」
「うっへぇ~、ヤバそうな奴だね…アルフォンゾさん、大丈夫?」
「…ああ、な~んとかな…アイツ…とんでもない、化け物だ…」
「アルフォンゾ、お疲れさん。グラジオ…手強そうだけど、いけそうかい?」
「フッ、愚問だね。いけるかいけないかなんて問題じゃない。やってやるんだ!絶対に勝ってみせる!!」
深紅の鎧に身を包んだテラコッタの剛騎士グラジオがビクトリア班副将としての覚悟を胸に燃やし、得物の長尺棒を携え、狂戦士ガンズが待ち受ける戦いの舞台に踏み出していく。かつては隣国アランチョ国の傭兵ギルドで一二を争う名うての傭兵だったが、更なる高みを目指して自ら騎士に志願――ブルーノ国の各地で傭兵稼業に励むなど地道な売り込みを続け、主君ローザに認められて騎士に推薦された経歴の持ち主である。愚直に武の道を歩む剛騎士の左手にはキールレッドの紋様が煌めいていた。
「さあ、来い!化け物め、このグラジオ様が退治してやるぞ!」
「グルルルゥ…ウオオオォ…!」
「チッ、やっぱり話は通じないようだな!それなら実力行使するだけだ!」
グラジオは意を決し、魔物同然と言わしめるほどの狂気に駆られたハンティングピンクの狂戦士ガンズに毅然と立ち向かっていく。騎士としての誉れ高き一面と傭兵としての武勇を尊ぶ一面を併せ持つキールレッドの剛騎士は己の誇る力を勇んで振るっていた。
「オラァ!どおぉりゃああッ!!」
「グルルゥ…ガアアアアッ!」
「チッ…この化け物がぁ!吹っ飛べぇぇッ!」
「グギギィ…ギギギィッ…!」
グラジオは得物の長尺棒を猛々しく振るい、ハンティングピンクの彩りの狂戦士を相手に奮戦するが、その胸中にはガンズの凶刃に自身も喰われるかもしれないという恐怖が戦士として眼前の戦いを避けてはならないという覚悟と一体になって渦巻く。グラジオの覚悟と決意をテラコッタの騎士達は戦う姿から汲み取っていた。
「グラジオ様…堂々たる武勇、お見事です…!」
「そうだね、ミュゲちゃん!グラジオ様、あんなに怖い相手なのにガンガン攻めててカッコいいよね!」
「エーデル、油断は禁物よ。あのガンズという戦士、傷を負うほどに力が強くなっている…本当に恐ろしい人だわ」
「バジルの言う通り…グラジオの攻撃で奴の力が昂るのを感じるわ…」
「うむ、ツィガレも感じていたか…奴は狂戦士、俗にバーサーカーと呼ばれる輩だな。間違いなく一筋縄ではいかない相手だろう…アイツの闘気を感じるだけで肌がピリピリする…」
「ああ、なんてことですの…グラジオ様…御武運を…」
グラジオは同胞であるテラコッタの騎士達でさえ恐怖を覚える彩りの狂戦士ガンズに対して沸き立つ恐怖心を胸の奥底に無理矢理押し込み、闘志を奮い立たせる。騎士としての武と彩りの力を以て妖しい刃を迎え撃とうとしていた。
(チッ、これはヤバいな…さっきアルフォンゾがやられた状況を考えると、チャンスはもうない…!これで必ず仕留める!!)
「グヴヴウウゥッ!」
「そこだ!くらえ、ストーンスマッシュッ!!」
「グオオッ…!」
「さあ、覚悟しやがれ、化け物!このグラジオ様が成敗してやるぜぇッ!!」
「グラジオ様…負けないで!頑張れぇぇッ!!」
「行けぇ、親愛なる同志グラジオよ!今こそ禍々しき悪の戦士を討つのだああぁぁッ!!」
菓騎士ハイビスと闘騎士ランディニの熱い声援がグラジオに届き、闘志を熱く滾らせる。共に歩みを進めるテラコッタの騎士達の後押しを受けた深紅の剛騎士グラジオは左手の甲に印された彩りを昂らせ、キールレッドの彩りが司るテラコッタの大地の力を解き放った。
「我が祖国の母なる大地よ、我に力を!テラコッタ・アースブレイク!」
「ガギャアアアァァァッ!!」
「そこまで!勝者、グラジオ選手!」
『うおおおおお~ッ!!』
ハンティングピンクの狂戦士ガンズを撃ち破り、長尺棒を突き立てて大きく息を着くグラジオに大歓声が降り注ぐ。一方、ハンターグリーンの敵将マチルダは苦虫を噛み潰しており、相対するビクトリア班への憤りを剥き出しにしていた。
「ふぅ…なんとか勝てたか。これ以上長引いたら正直危なかったな…ガンズ、正真正銘の怪物だぜ…」
「さすがは騎士様だねぇ、グラジオ!良い腕前じゃないのさ!!」
「チッ、まさか秘密兵器のガンズまでやられちまうとは…クソッ、図に乗りやがって!!」
「マチルダ、あたいの仲間達のパワーの味はどうだい!?降参するなら今のうちだよ!」
「ケケケッ、馬鹿言ってんじゃねぇやい!あたしゃテメェを泣かす前におめおめと逃げる気なんざねぇよ!」
マチルダは劣勢に立たされながら尚もビクトリアを嘲り笑い、軽やかに闘技の舞台に飛び出して来る。ハンターグリーンの彩りの戦士は目の敵にしているビクトリアと共に戦うテラコッタの剛騎士グラジオに対し敵氣心に満ちた眼差しを突き刺していた。
「まあ、ビクトリアを泣かす前にお前が泣きを見ることになるだろうよ。このグラジオ様の前にひれ伏す覚悟はいいか!?」
「ケッ、よく言うよ!テメェこそ返り討ちにされたって泣くんじゃねぇぞ!」
「望むところだ!テラコッタの騎士グラジオ、テメェをぶっ潰す!!」
グラジオとマチルダ、キールレッドとハンターグリーンの彩りの戦士が闘技の舞台で相まみえる。ハンティングピンクの狂戦士ガンズを撃ち破ったテラコッタの剛騎士は迷い無き堂々たる姿でマチルダを迎え撃った。
「いくぞ!うおおらぁぁ!!」
「フン、ガンズを倒した騎士様の腕前は伊達じゃねぇってかい…でも、あたしゃ負けねぇよ…そぉらッ!」
「な…何ぃッ!?」
マチルダの彩りの力を目の当たりにしたグラジオは驚嘆し、絶句する。果たしてハンターグリーンの彩りの力の正体とは?ビクトリア班は彩りの敵将マチルダを撃ち破り、勝利を掴めるのだろうか!?
To Be Continued…