第148話『彩りの争闘~vol.3~』
シリーズ第148話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
ビンニー国の闘技場で各々の色を輝かせる彩りの義勇軍一行。瑞々しい若葉のように生き生きと伸び行くリデル班の次鋒を務める重装兵セレアルが巨躯を誇る敵軍副将の大剣士ムーシュと対峙していた。
「あれだな~…勝負するんだな、うん!」
「うええっ…お、俺だって…うりゃあ!!」
「んぐぐ…なかなかやるんだな…とうッ!!」
「がふっ…!やっぱりグリヨンを倒したから強いんだよな…それじゃ、これならどうだぁ!?」
「むうぅん!突進対決…受けて立つんだな~ッ!んぐぬぬぬうぅ~ッ!!」
『おおおおぉぉ~…!!』
リデル班次鋒セレアルと敵軍副将ムーシュ――力と力の正面衝突は観衆を沸き上がらせる。リデルを守る意思を燃やす重装兵セレアルとタンガを守る意志を揺らがせない巨躯の男ムーシュ――互いの力だけではなく、互いの想いも衝突していた。
「タ、タンガたんに手出しはさせないぞ…うおりゃあッ!」
「ぬぅ…負けないんだな~…むうぅん!!」
「ぐえッ!つ、強いな…でも、俺が負けるわけにはいかないんだ…!」
「オイラだって、マジに気合い入ってるんだな!お前なんて、やっつけてやるんだな!」
自分が負けるわけにはいかない――敵軍副将ムーシュは目の前の戦いに毅然と挑む確かな意思を携え、勇猛果敢にセレアルに立ち向かっていく。対するセレアルも闘志を赤々と燃やし、スイートポテトパープルの彩りを輝かせ、力を振り絞ってムーシュの猛攻を受け止めていった。
が、セレアルはムーシュの怪力に押し込まれ、じわじわと体力を奪われていく。鎧の重味だけでは補えない明らかな体格差に気圧され、次第に劣勢に立たされていった。
「今だ!でやああぁぁ!!」
「うああ~…負けたん、だな…うん…」
ガシャン!ガシャン!
「…そこまで!勝者、ムーシュ選手!」
セレアルの鎧が重々しい音を立て、決した勝敗を物語る。敵軍副将ムーシュの負けじという闘志を汲み取ったのか、先ほど疎らだった拍手が少しだけ大きくなっていた。リデル班の面々は仰向けに倒れたセレアルをゆっくりと囲み、彼女の健闘を労った。
「セレアルさん…だ、大丈夫ですか…?」
「リデル…すまないんだな…負けちゃったんだな…うん…」
「セレアル、お疲れ~…けっこういい線行ってたけど、惜しかったね~…」
「理由はわからないけど、あの4人の男達、タンガという娘を…自分達の妹を過剰なほどに守ろうとしている。彼らからは異様な執念みたいなものを感じるわね…ミュゲ、気を付けてね」
「はい!テラコッタの騎士として、この軍の中堅として、全力を尽くします!」
リデル班、選手交代。中堅を務めるのは若草色の鎧に身を包むテラコッタの葉騎士ミュゲ。かつては一介の町娘だったが、年齢の近い草騎士エーデルに声をかけられて訓練の見学・手伝いをしているうちに主君ローザの目に留まり騎士に推薦された異色の経歴の持ち主であり、騎士になるきっかけを作ってくれた草騎士エーデルとは良き親友である。生真面目で礼儀正しく、少し融通の効かない一面があるものの何事もコツコツと取り組む努力家だ。若草色の小さな騎士は右手に騎士の誇りを、左手に瑞々しいスプリンググリーンの紋様を携え、自分より遥かに大きい敵軍副将ムーシュに臆せず相対していった。
「ブルーノ国テラコッタ領より参りました、ミュゲと申します。どうぞよろしくお願い申し上げます」
「ご、ご丁寧にどうも…うわわっ…デカい本だな…ま、まさかそれで殴るつもりか…?」
「断じてそんなことはしませんのでご安心を。私はこうするんです…!」
ミュゲは得物の植物事典を構える。美しい表装が施された分厚い本はそのまま鈍器になりそうな重味を備えていたが、スプリンググリーンの彩りの力を纏った術書の類である。本を媒介として練り上げられたミュゲの彩りの力が花火のように鮮やかに弾けた。
「参ります…えいッ!」
「うわああッ!?な、なんだこりゃ…!?」
「これが私の力です。この力は仲間達のため、主君のために煌めくんです!」
「クソッ…や、やってやる…これもタンガたんを守るためだ…潰してやるッ!」
末妹を守るという妄信的な決意に駆られ、刹那的な衝動に身を委ねたムーシュが乱暴にミュゲに飛び掛かる。が、若草色の騎士は一切動じることなく、闘技の舞台を春緑に彩っていった。
「ミュゲさん、危ない…!」
「生きとし生ける碧よ、天へと伸び行け…今です!フォレストガード!!」
「な、なんだって!?こ、こんなことがあって良いのか…!?」
『おおおぉぉ~ッ!!』
闘技の舞台の土を突き破り、鬱蒼と生い茂る樹々が小さな葉騎士の身を守る。ミュゲは瑞々しい色彩を煌めかせ、闘技の舞台一面に広がる碧に観衆の心を引き込んでいく。客席の仲間達は驚くばかりだったが、中でも橙色の鎧を着た重騎士ガーベラはスタンドから身を乗り出し、眼を丸くして眺めていた。
「なんてこった…闘技場のど真ん中に森が出来たぞ…」
「親愛なる同志ガーベラよ!これもこの軍の絆の力!!我らの彩りは日々輝きを増しているのだッ!!!」
「…ランディニに同意するわ。輝きを増す私達の色彩、必ずやベガ様もお喜びになる…」
「ベガ様の理想郷は彩りの花園…ミュゲの力は必ずやその礎となるだろうな」
「ミュゲ、すっご~い!そのままガンガンやっちゃえ~!」
テラコッタの騎士達は若き葉騎士ミュゲの躍動する姿に彩りの力の生長を感じ取り、理想郷を築かんとする主君ベガに想いを馳せる。葉騎士ミュゲは生き生きとした春緑の紋様を煌めかせながら彩りの力を練り上げ、一気に解き放った。
「我が祖国の生命の息吹、受けてみるのです!テラコッタ・エナジーブレス!」
「ぐわああぁぁっ!し、しまっ、た…!」
「そこまで!勝者、ミュゲ選手!」
『うおおおぉぉぉ~ッ!!』
敵軍副将ムーシュを討ち、自らの彩りの力を闘技の舞台で体現した葉騎士ミュゲに熱気に満ちた歓声が降り注ぐ。ミュゲは歓声に対して恭しくお辞儀をして応え、リデル班の仲間達にも穏やかに微笑みながらお辞儀をしてみせた。
「ミュゲさん、すごい!カッコいいです…!」
「リデルさん、ありがとうございます!この軍の勝利のため、このまま邁進して参ります!」
「どうやら草も木も本物みたいね…ミュゲ、その調子で大将も倒しちゃいなさい!」
「あ、ありゃりゃ~?大将さんがなかなか出てこないね…?」
「ん~…あれだな~…様子が変なんだな、うん…」
4人が討たれ、大将を残すのみとなった敵軍の様子がおかしい。黄緑髪の少女タンガは戦う意思を携えて踏み出そうとしているが、周りを取り巻く黒茶色の装束を着た4人の兄達の様相はさながら葬式のようだ。
「ム、ムーシュが…ムーシュが、負けた…」
「も、もうダメだ…き、棄権しようよ…」
「アヌトンお兄様、いけません!私だってお兄様方みたいに立派に戦ってみせます!」
「そんな…もしタンガたんに何かあったら俺達は…!」
「カファールお兄様、もう私は子供じゃありません!それに私はお兄様方の…このチームの大将です!」
4人の兄達の制止を振り切り、敵軍大将の少女タンガが前に踏み出す。兄達は口々に退くように騒ぎたてるが、当のタンガは背後からの騒音を断ち切るようにミュゲが創り出した彩りの森に踏み入り、戦士としての決意を胸に燃やしていた。
「ご、ごきげんよう…謹んでお相手致します…」
「騎士さん、そんなに畏まらないでくださいな。兄達はあのように言ってますけど、私も1人の“戦士”なのですから、ね」
「そ、それは…まさか…!」
タンガの戦意の証を見るや否やミュゲは眼を見開き、息を呑む。タンガの左手にはライムグリーンの紋様が印されていた。
「そういうことだったのですか…タンガさんも私達と同じ…」
「はい。お兄様からは止められていましたけど、早くこの力を使ってみたくてワクワクしているんです!」
「フフッ、生憎ですけど、手加減は致しませんよ。恐れながらこのミュゲ、貴女を討たせていただきます!」
「それなら相手に不足はありません!私もお兄様の戦いに報いるためにも本気でいきますね!」
リデル班中堅の葉騎士ミュゲとライムグリーンの彩りを持つ敵軍大将タンガ、瑞々しい碧の彩りの戦士同士が森林となった闘技の舞台で相対する。ミュゲは闘志を滾らせてるが、一方のタンガは少しばかり浮き足立っているような印象だ。
「ずっと立ちたかった戦いの舞台…ドキドキします…」
「どうしました?参りますよ…はあぁッ!」
「来る…でも、負けない…!」
タンガは背に収めていた小さな盾を両手に構え、ミュゲの彩りのエネルギー弾を弾き飛ばす。跳ね返されたスプリンググリーンのエネルギー弾は防御体勢の整わないミュゲに一直線に飛んでいき、得物の植物事典を持っていた手元に直撃した。
「キャッ!こ、これは…!?」
「隙あり…そこです!」
「うああッ…!」
タンガはライムグリーンの紋様を煌めかせ、闘志を昂らせる。両手に携えた盾を籠手のようにして振るい、我流の格闘術でミュゲを打ち据える。傍目には後手に回ったように見えていたが、タンガは主導権を確かに握っていた。対するミュゲは得物を吹き飛ばされて一方的に殴られ、為す術無く守勢に立たされていったが、テラコッタの葉騎士としてやられるばかりで黙ってはいない。
「行きます…えぇい!」
「近付いてくる…今なのです!」
「うああッ!?」
ミュゲは奇襲に出る。周りの樹々からエネルギーを借り、手元で練り上げた彩りの気弾を炸裂させてタンガを懐から引き離す。得物の植物事典を拾い、体勢を整えることが出来た――と思われたが、タンガは離されるだけでは黙らなかった。
「これが…私の力です!ベスティヨル・バースト!」
「キャアアッ!不覚、です…!」
「そこまで!勝者、タンガ選手!」
葉騎士ミュゲは敵軍大将のライムグリーンの気弾を真正面で受け、健闘も虚しく敗れてしまった。リデル班の面々は辺りに広がる草むらを掻き分けながら葉騎士ミュゲのもとに慌てて駆け寄っていった。
「ミュゲ~!だ、大丈夫!?」
「グィフトさん…申し訳、ございません…」
「あれだな~…さすがは大将さん、簡単には勝たせてもらえないんだな…うん」
「近付いたら格闘、離れたら魔法…厄介な相手ね…でも、力を尽くすわ」
「ミリアムさん…き、気を付けてください…」
リデル班の面々は敵軍大将が秘めていた彩りの力を見せつけられて戦慄するが、退くことは許されない。リデル班の副将を務めるエメラルドグリーンの戦士ミリアムが凛とした表情で戦いの舞台へと踏み出す。果たしてリデル班はライムグリーンの彩りの戦士である敵軍大将タンガを討ち倒し、勝利を掴むことは出来るだろうか?
To Be Continued…