第147話『彩りの争闘~vol.2~』
シリーズ第147話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
魔の脅威を退け、再び熱気が戻ってきた満員のビンニー国の闘技場で彩りの力が躍動する。リデル班の先鋒を務める青鈍色の毒の戦士グィフトは静かに闘志を燃やしながら戦いの舞台で祝福の証の彩りを生き生きと煌めかせていた。
「グィフトさん…そ、その調子です…!頑張ってください!」
「はいは~い!ウチに任せといてよね~!」
「うう…が、頑張らなきゃ…タンガたん、行って来るよ…」
「は、はい…カファールお兄様、行ってらっしゃいませ…」
敵軍次鋒のカファールは長めの槍を構え、勇気を振り絞ってグィフトに立ち向かう。先鋒のアヌトンよりは闘志を携えており、グィフトもそれを感じ取っていた。
「い、行くぞ!タンガたんを守るんだ…!」
「おっと、やる気だね~?ウチだって絶ッ対に負けないからね~!」
「うう…この娘、アヌトンに勝ったから強いよな…でも、やらなきゃ…!」
敵軍先鋒アヌトンを討って勢いに乗るグィフトは軽やかな足取りで飛び掛かり、堂々とした姿で敵軍次鋒カファールに相対する。意表を突いたトリッキーな動きで仇為す者を翻弄していた。
「とうっ!はああッ!!」
「ううっ…ま、負けるものか…てやっ!」
「あいたっ!むむぅ…も~う怒った~!ボコる!絶対ボコる!!」
「うう…く、来るのか…?来るなら来い!」
「はいよ~、お望み通り全力でボコってやるからね!タキシンエッジ!」
怒りに火が点いたグィフトは更に闘志を昂らせ、不良時代を思わせる荒々しい攻めを見せる。共に戦うリデル班の面々は青鈍色の彩りの戦士の鬼気迫る戦いに心を躍らせていた。
「グィフト、強いのね!さっきの相手も出玉に取っていたし、勢いを感じるわ!」
「あれだな~…さすがはビアリー様の家臣さんなんだな、うん」
「はい、もちろんそれもありますけど、数多の彩りが集まるこの義勇軍の一員としての誇りもあると思います。これもこの軍の“絆”の力の体現です!」
「そうですね…グィフトさん、その調子です!きっと勝てます…!」
リデル班の仲間達は先鋒グィフトの勇姿に心を熱くさせる。が、敵軍次鋒カファールは簡単には倒れまいと予想外の胆力を見せつけ、なかなか勝敗が決しない。2人は舞台の真ん中で激しくぶつかり合い、疲労困憊という様相だった。
「ハァ、ハァ…キミ、どれだけやれば倒れるんだ…ハァ…ハァ…」
「そ、そっちこそ…すごい体力じゃん…ハァ、ハァ…どこからそんなスタミナが出てくるの?」
「俺には…俺達には…守る人がいるんだよ。俺達4人は妹を守る四つ子の兄弟なんだよ!」
「えっ…ええええ~っ!?よ、四つ子ぉぉ~ッ!?」
カファールに衝撃の事実を突き付けられ、グィフトは驚愕する。敵軍の黒みがかった茶色の衣装を着た4人の男達はあろうことか四つ子の兄弟だった。更に加えて驚いたことには黄緑髪にパステルグリーンのワンピースの少女タンガは彼らの末妹だと言う。
「俺達は…たった1人の可愛い妹を…可愛いタンガたんを守るんだよおぉ!」
「グッ…!ウチだって守る人がいる…負けてたまるかああぁぁッ!!」
グィフトは歯を食い縛り、残る力を振り絞ってカファールに果敢に飛び込んでいく。互いに“守る人”を想いながら毅然とした意思を携えて激しく刃を交えていった。
「グィフト…こりゃさすがにキツいかもしれないねぇ…」
「ヤートの言う通りぞなもし。アイツ、すっげぇ体力ぞなもし…!」
「うん、世の中の広さを痛感するのだ。この闘技場、やっぱり強い奴の坩堝なのだ!」
「そうだな、テメリオ。だが、我々には彼奴らにはない力がある。我々1人1人の左手の甲に印され、我々をこうして導き合い、1つの義勇軍と言えるほどに大きくした、祝福の証の彩りの力だ」
「ええ、アヌビスの言う通りね。それにあたくしはあの娘を信じていますわ。あたくしの可愛い家臣であり、あたくし達の大切な仲間の1人ですもの」
主君であるビアリーの言葉に家臣の毒の戦士達は凛とした表情で頷く。不良時代の荒々しさを織り混ぜた闘志を滾らせるグィフトは闘技の舞台で毒の彩りである青鈍色を妖しく揺らめかせ、得物である毒のブーメランを力一杯に振り切った。
「これでブッ飛ばす…タキシンエッジ・スライサァァァァッ!!」
「あっぎゃああぁぁッ!!」
「…そ、そこまで!勝者、グィフト選手!」
『うおおおぉぉ~ッ!!』
「ハァ…ハァ…ちょ、ちょっと手こずっちゃった…強いなぁ…ハァ、ハァ…」
やっとの思いで敵軍次鋒カファールを退けたもののグィフトは疲れ果てていた。敵軍は相変わらず闘志が今一つ薄いものの、敵対するグィフトの疲弊に好機を見出だしていた。
「カファール、惜しかったなぁ…グ、グリヨン…頼んだぞ…!」
「あ、ああ…これならなんとかなるかもしれない。やってみるよ…!」
「ええ、きっと大丈夫です。グリヨンお兄様、頑張ってくださいませ!」
「タンガたん…兄たん頑張ってくるからね…!」
敵軍中堅グリヨンは斧を構え、疲労困憊のグィフトに対峙する。グィフトは先鋒と次鋒の2人を討ったものの、既に消耗しきっており、軽快だった動きも次第に鈍っていった。
「ハァ…ハァ…魔物退治もそうだけど、こうして続くとキッツいなぁ~…ハァ…」
「い、行くぞ…てやっ!」
「ううっ…や、ヤバい…」
さすがに連戦のダメージが蓄積していたのか、グィフトは劣勢に立たされていた。敵軍中堅のグリヨンは旗印である末妹タンガのために勇気を振り絞り、得物の斧を降り下ろした。
「い、今だ…くらえッ!」
「うわああっ…!」
「そこまで!勝者、グリヨン選手!」
「か、勝った…よかった…!」
敵軍中堅グリヨンがアヌトンとカファールを倒したリデル班先鋒のグィフトを撃ち破った。が、闘志の薄い敵軍の戦いぶりはいささか盛り上がりに欠けるのか、客席から起こる拍手は疎らだ。呆気に取られた闘技場が静まり返る中、リデル班の面々がグィフトのもとに駆け寄っていた。
「ハァ、ハァ…ゴメン、もう無理~…」
「グィフトさん、お疲れ様です…あの…ゆっくり休んでください…」
「敗れはしましたが、先鋒と次鋒の2人抜き、見事でした。グィフトさんの勇猛果敢な戦いに敬意を表します!」
「あれだな~…あとはオイラに任せるんだな、うん」
「セレアル、お願いね!しっかり頼んだわよ!」
ミリアムに優しく背を押され、リデル班の次鋒を務めるアーマーナイトのセレアルがのっそりと前へ歩み出る。マイペースで穏やかな気性の持ち主であり、およそ戦いには不向きな印象を受けるが、その性格のためかリデルも懐いており、自然と親しくなっていた。リデルを守るという決意を密かに胸に燃やす彼女の左手には彩りの戦士の証――スイートポテトパープルの紋様が確かに印されていた。
「よ、鎧を着てる…強そうだな…」
「あれだな~…!グィフトの敵を討ってやるんだな、うん!」
「うげっ…こ、怖いな…でもタンガたんのためにも、逃げないぞ…!」
セレアルはグリヨンの斧を薄紫とクリーム色の厚い鎧で受け流しながら得物の槍を振るって立ち向かう。戦いの舞台で見せつける勇猛な姿は普段の穏和な佇まいとは正反対と思えるが、スイートポテトパープルの彩りの戦士は破落戸時代に養った粗暴さ混じりの闘志を遺憾無く見せつけていた。
「むうぅん!はあぁっ!」
「うええっ!?」
「あれだな~…これでもくらうんだな…ぬうぅん!」
「うわあぁっ…!」
セレアルは突進でグリヨンを撥ね飛ばし、槍を振り回して重々しい追い討ちを仕掛ける。かつては邪教戦士ジャッロの復讐のために一行に刃を向けたならず者5人組の1人だったが、先の傭兵戦争を機に彩りの義勇軍一行に加わった。一行の仲間達よりも長く共に歩んだ破落戸時代からの同胞達もセレアルの活躍を嬉々として見守っていた。
「やるもんだな、セレアル!これもきっとリデルとの絆ってやつか…」
「だよね、ジェンシアの姉やん!セレアルもリデルと馬が合うみたいで、一緒にいるとホッとするんだってさ!」
「まあ、リデルもセレアルもこの軍のマスコットみたいな存在だからね。マスコット同士、お似合いじゃないか!」
「うん、セレアルが生き生きしててウチも嬉しいよ!…セレアル、行っけえぇッ!叩き潰せええぇぇッ!!」
破落戸時代から重装兵として双璧を務めるポテトイエローの戦士グラーノの声援が相棒セレアルに届き、闘志を奮い立たせる。リデル班次鋒セレアルはスイートポテトパープルの彩りの気を全身に纏い、全力で彩りの力を解き放った。
「オイラ、本気出すんだな~!パタトドゥース・クラッシュ!!」
「おわああぁぁッ…!」
「そこまで!勝者、セレアル選手!」
『うおおおお~ッ!!』
穏やかなセレアルが剥き出しにした闘志が観衆の心に火を点け、地鳴りのような歓声が沸き上がる。セレアルは歓声に応えた後、優しい表情で仲間であり友であるリデルに手を振っていた。
「セレアルさん…!カッコいいです…!」
「エヘヘ、ありがとうなんだな♪あれだな~…このままオイラがやっつけてやるんだな、うん!」
「ク、クソッ…このままじゃマズいんじゃないか…?」
「お、俺がなんとかしてみせる!なんとしてでもタンガたんを守るんだ…!」
「で、デカいんだな…でも、オイラだってリデルを守ってみせるんだな…!!」
四つ子の兄弟の中で一際大きな体躯を誇る敵軍副将ムーシュが得物の大剣を構えてセレアルに立ちはだかる。対するセレアルは息を呑むものの、再び闘志を燃やして槍を構える。果たしてリデル班は黄緑の髪にパステルグリーンのワンピースの少女タンガを旗印とする奇妙な兄弟達に打ち勝つことが出来るだろうか?
To Be Continued…