第146話『彩りの争闘~vol.1~』
シリーズ第146話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
ビンニー国を統べる蛮族四天王と祝福の証の彩りのもとに絆を紡ぎ、魔族七英雄ベガ率いる魔薔隊の魔物達と対峙する一行。荒々しい熱気が立ち上る闘技の舞台に濃紫の防陣が張り巡らされ、辺りに咲き誇る毒の花々が妖しく薫っていた。
「あたくし達の運命を歪めさせはしませんわ!世の平和を脅かす魔界の者達よ、覚悟なさい!!」
「クッ…体が、動かない…!ベガ様…!!」
「これは驚いたな。闇と毒の彩り、これほど集まっていたとは…」
「ふえぇ…紫になってる…ビアリーの力、すっごい…」
「コレット、下がれ!これが毒の彩りの力か…仲間なのに恐怖を感じるな…」
「くぅ~、すっげぇや…この空気だけで肌がピリピリする…」
「うむ、つくづく世界は広いものだ。我らの知らぬ力がまだまだあるということだな」
魔を蝕む彩りの毒氣に蛮族四天王の2柱、ガーリックホワイトの蛮族王ザキハとチャイヴグリーンの蛮族王リューゲルも眼を丸くする。闇の皇女ビアリー率いる毒の戦士が織り成す毒の沼が闘技場のアリーナを瞬く間に紫に染めていった。緑の少女コレットをベガの魔の手から守るべく、毒の戦士が薔薇の貴公子に容赦なく牙を剥く。
「ガルルルゥ…コレット、守ル!」
「天の理に背きし魔界の者よ。祝福の証の彩りのもとに、天の裁きを受けなさい!」
「かわゆいコレットちゃんを拐ってあんなことやこんなことをするつもりだったのかもしれないが、そんな羨ま…けしからんことは断じてさせないぞよ!」
「…ズィヒールの妄想通りにはならないと思うけど…私達の大切な仲間に手出しはさせないわ…」
「…どんな理由があってコレットを狙ってるかは知らないけど、アンタ達の好きにさせない!絶ッ対に負けないんだから!!」
コレットと“友”として絆を紡ぎ、共に戦ったヘリオトロープの毒の彩りの戦士ビアーの叫び声が仲間の心に響き、毒の戦士達は闘志を携えた表情で頷く。毒の沼に堕ちた魔物達は次々に蝕まれていき、草木の体はみるみるうちに萎れていった。
「ほほう、これはこれは…美しい花々には刺が付き物か…実に面白い…」
「ベガ様…そんな悠長なことを言っている場合ではありません…このままでは――」
「隙ありなの~!!」
「なっ!?クッ…!」
ディアボロ7人衆ラストに毒氣を纏った斧が襲い掛かる。真っ先にラストに刃を向けたのは濃紫の鎧を身に纏うテラコッタの毒騎士パンジーだった。毒の防陣を織り成す1人がパンジーパープルの彩りを爛々と耀かせ、主君の直属の配下であるディアボロ7人衆ラストに嬉々として対峙せんとしていた。
「パンジー…僕と刃を交えようというのかい?」
「うん!パンジー、ラスト様と殺り合いたいの!いざ勝負なのよ!」
「フフッ…ま、まあ、死ななければ良いか…パンジー、手合わせだ!相手をするよ!!」
「は~い!振り切って殺っちゃお~!!」
「パンジー!?あろうことかラスト様に向かって行くとは…」
「まあ、ラスト様も手合わせって言ってたし、ベガ様の目もあるから互いに本気出しはしないでしょ。それに単純に燃えるし!」
「ランタナの言う通り!たまになら一興じゃないか?パンジー、ヘマすんなよ~!」
毒騎士パンジーは胸の奥底に燻る狂気を滲ませながら、一切躊躇うことなく毒の刃を降り下ろす。対する邪淫の貴公子ラストは得物の杖を構え、毒氣に蝕まれているとは思えないほど軽やかな動きでパンジーの斧を捌いていった。
「えいやっ!そ~れッ!!」
「甘い、そこだ!」
「殺っちゃうのよ!トキシックスラ~ッシュ!!」
「うああッ…!つ、強い…!」
「ラスト、そこまでにしたまえ。パンジー、どうか武器を収めてくれないか?」
「…畏まりました。パンジー、悪いけど今回はここまでだ」
「むぅ…まだ物足りないけど、ベガ様とラスト様の言う通りにするの…」
ラストはベガに助け起こされ、パンジーは不満そうな表情で斧を収める。その刹那、蛮族四天王の2柱――ヴォニートレッドの蛮族王ナダベ、イールブラックの蛮族王イザサが勇んで闘技場のアリーナに姿を現し、一行の面々もヴィオを先頭に次々と雪崩れ込んでいった。
「オラァ!このナダベ様が来たからには…って、なんじゃこりゃ!?」
「妙な匂いがするが、ザキハやリューゲル、モニカ殿達も平気な顔をしておる…魔物だけに効く毒ということかのう…」
「フフッ、ウチの皇女様はしたたかなことだな。舞台全体を制圧するとは…魔族七英雄ベガ、貴様の企みもここまでだ!」
彩りの義勇軍が全員集結し、彩りの毒に枯らされた魔薔隊を取り囲む。対するベガはさすがに危地を悟ったのか得物の刺突剣を収め、家臣であるテラコッタの騎士――金色の鎧の皇騎士マリーのもとに歩み寄る。表情には穏やかな笑みを浮かべており、瞳からは既に戦意が失われていた。
「我が美しき花々よ、壮健で何よりだ。君達の彩りが更に煌めき、魔薔隊の理想郷が美しく華やぐように、仲間達と一層の鍛練に励んでくれ」
「…我らが主君ベガ様の御意のままに」
「…さて、なかなか面白い宴だったが、今日はこれにて御開きとさせてもらう。ラスト、退かせていただくとしよう」
「畏まりました。皆様、またお会いしましょう」
「何っ!?詫びの1つも入れずに逃げるつもりか!?待て!待ちやがれッ!!」
ベガとラストは一行に向けて爽やかな笑みを浮かべ、赤黒い怒気を纏うナダベの突進を避けるように黒紫の花弁に包まれて去っていった。“主君”を見送ったマリーは安堵と後ろめたさの入り交じった複雑な表情を浮かべ、“敵将”を取り逃がしたナダベはやり場の無い怒りを爆発させた。
「ちっくしょおおっ!!次に会ったらあのスカした顔がぐちゃぐちゃになるまでぶん殴ってやる!」
「まあ、いずれにせよビンニー国の平和は守られたということじゃ。儂らの母なる大地を魔物達から救えたのもモニカ殿方のおかげよのう!」
「皆々様、感謝致す。我らだけでは彼奴らに勝てたかどうか…有り難きことよ」
「この闘技場を、ビンニー国を救ってくれてありがとな!今度はこの闘技場の舞台で会おうぜ!!」
「はい!仲間達と共に鍛練を重ね、必ずや皆様のもとに参ります!」
「ワハハ!俺様達もその日を楽しみに待ってるからな!逃げんじゃねぇぞ!!」
「ウフフッ…あたくし達が貴女達と巡り会うこともまた運命だったのね。貴女達の武勇をまたお目にかかれるのを楽しみにしてるわ♪」
ザキハはモニカと、ナダベはビアリーと握手を交わし、祝福の証の彩りのもとに紡がれた絆を確かめ合う。ビンニー国の平和を守った一行は蛮族四天王と闘技場での再会と戦いを約束して別れた。魔族襲撃の熱りが冷めていくと同時に離れていた人々が次第に闘技場に集まり初め、空っぽになった闘技場は再び熱気に満ち溢れていった。
また1つ新たな武功を挙げ、勢いに乗る彩りの義勇軍は次なる戦いの舞台へと挑む。次に挑むのはリデル班の面々――先鋒グィフト、次鋒セレアル、中堅ミュゲ、副将ミリアム、大将リデル――天に向けて伸び行く若葉のように生き生きと躍動し、成長する5人は戦いの舞台へ踏み出そうとしていた。
「さ~て、邪魔が入っちゃったけど、張り切っていきますか~!」
「あれだな~…やっとオイラ達の出番なんだな、うん」
「私もこの軍の勝利のために頑張ります。テラコッタの騎士として、全力を尽くすのです!」
「うん、私達の絆の力があればきっと大丈夫よ!ね、リデルちゃん?」
「…はい!きっと、きっと大丈夫です!みんなで、勝ちましょう…!」
リデル班が戦いの舞台へと踏み出すと、観衆から暖かい拍手が沸き起こる。先ほどまで魔族に脅かされていた闘技場が再びビンニー国の人々の娯楽の場となり、闘技場に集いし誰もが刺激的な日常に対する喜びと幸せを噛み締めていた。
「Gランク勝ち抜き戦を開始します。両軍先鋒、前へ!」
「は~い!よ~し、いっちょやるかな~!」
「グィフトさん…が、頑張ってください…!」
「うん、頑張るよ~!とりあえずウチに任せといてね~!」
リデル班の先鋒を務める毒の戦士グィフトが左手の甲に印された青鈍色を妖しく煌めかせながら闘技の舞台に躍り出る。他の毒の戦士と比べテンションが低く、普段は気の抜けた言動が目立つが、内気なリデルにも気軽に声をかけており、自然と親しくなっていた。グィフトは得物である毒氣を帯びたブーメランを携え、戦いの舞台に躍り出る、が――敵軍の様子がおかしい。黒みがかった茶色の衣装を着た4人の男達が黄緑の髪を長く伸ばし、パステルグリーンのワンピースを着た小柄な少女を取り囲んで挙動不審な様子を見せていた。
「よろしくお願いしま~す!…って、あれれ?あの~、先鋒さんは…?」
「ほら、アヌトン!早く、早く行って来いよ…!」
「あ、ああ…行ってくるよ…タンガたん、寂しい思いさせてゴメンね…」
「アヌトンお兄様…私は大丈夫ですから、早く行ってくださいな。ほら、相手の先鋒さんもお待ちですよ?」
「う、うん…わかった…タンガたん、兄ちゃん行って来るからね…」
黄緑の髪のタンガという少女に声をかけ、敵軍先鋒アヌトンがおずおずと前に踏み出す。戦意の薄い表情と申し訳程度に棍棒を携えた佇まいは闘技に挑む戦士の姿とは思えず、客席からは失笑が漏れていた。
「ど、どうも…アヌトン、です。お手柔らかに…」
「あ、はあ…グィフトです…よろしく…」
出会い頭に調子を狂わされたグィフトだったが、すぐに闘志を奮い立たせてアヌトンに挑みかかる。毒のブーメランは風を切りながらアヌトンに襲い掛かり、青鈍色の毒氣でじわじわと蝕んでいった。
「いっくよ~!タキシンエッジ!」
「ひいっ!あ、危ない…!」
「まだまだッ!そらそらああぁ!!」
「ぐえっ!あ、あうあぁ…!」
『おおぉぉ~…!』
青鈍色の戦士グィフトは敵軍先鋒アヌトンを乱暴に蹴倒して容赦なく追い討ちを見舞う。毒のブーメランに不良格闘術を織り混ぜたグィフトの戦いぶりは観衆はもちろん、仲間である毒の戦士達も沸き立たせていた。
「グィフト、その調子だがや!ガンガン畳み掛けるがや!」
「マジ超イケてるじゃ~ん!グィフトってリデルとも超仲良しだし、絆の力全開って感じ!」
「絆の力…私達毒の戦士達だけでなく、たくさんの出会いと戦いが今までもこれからもあります。人と人、心と心、祝福の証と祝福の証は互いに導き合い、更に互いを輝かせるのですね」
穏やかに微笑むフェトルの言葉に仲間達は笑みを浮かべて頷く。闘志を昂らせるグィフトは周りの空気に青鈍色の彩りの氣を纏わせ、勇んで毒のブーメランをアヌトンに向けて構えた。
「とどめだよ~!タキシンエッジ・スライサー!!」
「うわああぁぁ…!」
「そこまで!勝者、グィフト選手!」
『うおおおぉぉ~ッ!!』
先ほどまで魔物の巣になり、空っぽだった闘技場に割れんばかりの歓声が戻ってきた。敵軍先鋒アヌトンを撃ち破ったグィフトは小さく拳を握ってガッツポーズを見せた後、ニコリと微笑みながらリデルに向かってピースサインを送る。熱気を取り戻した戦いの舞台で伸び伸びと躍動するリデル班の戦いはまだまだ続く!
To Be Continued…