第144話『蛮族の王、薔薇の貴公子』
シリーズ第144話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
ビンニー国の闘技大会の舞台で躍動する彩りの戦士一行のもとに闘技場が魔物に襲われたという一報が届く。ゼータを修理しているラムダ博士とズィヒールを宿に残し、ビンニー国の中心に堂々と聳え立つ闘技場へと駆けていった。
「魔物か…何故いきなり現れたんだ?」
「ヴィオお姉様、光在るところに闇は在るのです…ああ、神々の気まぐれは私達が輝きを増すほどに過酷な試練を――」
「あ、あれは…!?みなさん、あれを見てください!」
ケイトの呼びかけが皆の視線を闘技場に集束させ、瞬く間に皆が釘付けにされる。赤茶色の煉瓦が敷き詰められた闘技場が黒ずんだ深い緑に染まっている。壁に沿って蛇のように這い回る禍々しい植物の魔物に占拠されていた。
「ビンニー国の闘技場が…なんてことしやがる…!」
「闘技場全体から強い邪気を感じるのである…魔物の巣になっているのである!」
「植物の魔物となると…犯人はただ1人だね!」
「ああ、間違いない…ベガだ!」
エレンとリタの言葉に皆が頷くのを見ていたのか、妖しい魔の影が凄まじい勢いで迫る。外壁を這い回りながら侵食していた魔物が挨拶代わりとばかりに一行に飛び掛かってきた。
『フレイムソード!みんなも続け!』
『フリーズバレット!』
「焼き払え!ブルチャーラ・スウォーム!!」
「来たれ、妖精の剣…ニュンフェ・デーゲン!」
灼熱の剣閃と冷気の銃弾が邪を討ち払い、炎の蟲が魔を燃やし尽くし、妖精の剣が悪を切り裂く。一行の先陣を切ったのは赤青の戦士である双子座のツヴァイ――彼女に続いたのは操虫棍を操る臙紅の蛮族ベラハと妖精の刃を駆る薔桃の少女ロゼルだった。闘技大会の舞台で絆を紡ぎ、新たに一行に加わった仲間達が次々に彩りの力を解き放っていった。
「シャドーアサルト!」
「アブソリュートブレイド!」
「ギターソロいくぜッ!スパークリング・キラーチューン!」
「みなさん…す、すごいです…!」
「ほれほれ、どうしたリデル!ワシらも新弟子達に負けてられんぞい!みんなの作る勢いに乗って――」
「へえ、噂通りだね。なかなかやるじゃあないか!」
一行が後方へ視線を移すと、声の主である女性が腕を組んで仁王立ちしていた。その後ろにも似た風貌の女性が3人追従している。筋骨隆々の上半身に動物の骨の鎧と毛皮を纏い、ボロボロのデニムを穿いた粗野な印象を受ける4人組はただならぬ雰囲気を醸し出しており、皆圧倒されて息を呑んでいたが、蛮族ルーヴはただ1人眼を見開いた。
「ば…蛮族四天王…!」
「ルーヴ!?どうした、また俺様達にボコボコにされに来たか?」
「違う!そもそも今はそんな状況じゃねぇだろ!」
「なんだ、コイツらルーヴの知り合いか?随分と顔が広くなったものだな」
「貴女達が蛮族四天王ですか…はじめまして、私はモニカ・リオーネと申します。どうぞよろしく」
「おっと、ご丁寧にどうも。こっちも挨拶がまだだったな。アタイはザキハ。で、コイツらは相棒のナダベ、イザサ、リューゲルだよ」
「俺様がナダベ様だ!蛮族の国であるビンニー国は強さが全て!歯応えのある奴は大歓迎だぜ!」
「儂はイザサ。手練れ揃いの一団、心強い限りだ!頼りにしているぞ!」
「我はリューゲル。助力、感謝致す。我らもこの紋章の力、惜しみ無く振るおう」
リューゲルの言葉に合わせ、蛮族四天王は左手の甲を――祝福の証を見せる。ザキハのガーリックホワイト、ナダベのヴォニートレッド、イザサのイールブラック、リューゲルのチャイヴグリーン――4人の雄々しく力強い彩りは一行の心を強く揺さぶった。
「祝福の証…あたくし達と貴女達との出会いもつまりは必然、運命だったのね…」
「まあ、そういうことだね。さ~て、お喋りはこの辺にして、化け物退治といこうか!」
「よし、俺様とイザサで都市部を守る!ザキハとリューゲルは闘技場の掃除を頼むぜ!」
「相解った!皆々様も共に参りましょうぞ!」
一行は二手に別れ、闘技場外壁周辺の魔物討伐と都市部周辺の警備に急行する。一方、先ほどまでコレットとズィヒールが戦っていた闘技場のアリーナでは薔薇の貴公子ベガと配下であるディアボロ7人衆のラストが静かに佇んでいた。
「蛮族の国…やはり醜いな。粗雑な輩の行き交う国など、この世に在る価値も無い」
「ベガ様、この闘技場を制圧すればビンニー国を征したも同然です。この地を我ら魔薔隊の理想郷の礎と致しましょう」
「ふむ…あまり気は進まんが、美しい花々を育む肥やしくらいにはなるだろう。ラスト、我らの理想が形となる日は近い。君なら心配は無用だと信じているが、より一層気を引き締めて取りかかってくれ」
「はっ、ベガ様の仰せのままに!」
熱気に満ちていた闘技の舞台の真ん中で魔薔隊の野望が燻り蠢く中、モニカ、ザキハ、リューゲルが中心となった一団が魔の緑の巣窟となった闘技場を取り囲む。闘技大会とは異なる緊迫した空気が辺りに充ち満ちていた。
「神聖な戦いの舞台を汚すなんて…絶対に許せません!」
「モニカ…嬉しいことを言ってくれるじゃないか!アタイ達のホームグラウンドを絶対に取り返してやる!」
「我ら蛮族四天王と貴女達が結束すれば百人力。力を1つに、必ずや魔物を――」
「ファルコンカッター!…さあ、来るわよ!」
すっかり人の気配が消え失せてしまった闘技場を巣窟とした妖しい碧が牙を剥く。モニカ率いる一団は彩りの力を勇んで振るい、緑の魔物の群れに勇猛果敢に立ち向かっていった。
「ファイアボール!ガンガン行こう!」
「シャドウバレット!…ヤンタオ、そっち頼むぜ!」
「了解!…よし、討ち取ったわ!」
「アミィ様、危ない!マンチェスタースマッシュ!」
「オール姉ちゃん、おおきに…やれやれ、気ぃ抜けへんわ…」
「みんな、気を付けて!ケガしたら私達で治療するから、無理せずに下がってね!」
「心配すんなって、姉貴。アタシらのMAXボルテージでみんなブッ飛ばしてやるよ!」
「うんうん、カタリナさんとアミィちゃんとペルシカがいてくれれば心強いよ!ドルチェ、いっきま~す!」
「あっ…ド、ドルチェさん…気を付けてくださいね…!」
彩りの義勇軍は各々の役割を担い、手を取り合って同じ脅威に立ち向かっていく。全員が毅然とした意思で戦いに挑み、心を重ね、色を重ねていった。
一方、もう一方の一団は都市部に駆ける。ヴィオ、ナダベ、イザサが中核を担う一団が街に蔓延る魔の根を断ち切るべく、逃げ惑う人々の波を掻き分けて前へ前へと繰り出していた。
「この辺りが都市部か。なんとかして守らなければな…さて、気合い入れて仕事するか」
「俺様達の許可も無しにビンニー国で我が物顔しやがって…全員ボッコボコにしてやるぜ!」
「ビンニー国は儂らの母なる大地。魔物などに牛耳らせるわけには…むむ、邪気…!?」
「おっと、お出ましみたいだね…ビンニー国の大地は僕達が守ろう!…オックスフォードブロー!!」
キャロルが先陣を切り、緑の魔物の蠢く一帯に疾風の拳を叩き込む。純白の貴公子の疾駆がもたらした勢いに乗り、彩りの戦士達が次々に各々の色彩を輝かせた。
「ポーツマスエッジ!」
「ガッツナックルッス!」
「メタルスピナー!おっとっと…リベラさん、援護して!」
「任せろ、クレア!…ヒートストローク!」
「ついでに私も!ミラースラッシャー!」
「へえ、なかなかいい連携してるじゃねぇかよ!まあ、俺様達の次くらいに冴えてるんじゃねぇの?」
「うむ、見事なものよ。これほどの手練れが闘技大会で活躍していると思うと儂らも浮か浮かしていられんぞ」
「ああ、それもそうかもしれねぇけどよ…今はそれよりも先に目の前の心配をしようぜ?」
「…確かにそうだな。儂らのビンニー国を守らなければなぁ!」
「そう来なくっちゃ!みんな、俺様に続けぇぇッ!!」
ザキハ、ナダベ、イザサ、リューゲル――蛮族を統べる王である4人も彩りの戦士として愛するビンニー国の平和を守るべく躍動する。蛮族四天王を加えた一行は突如として襲い掛かった魔薔隊の脅威に毅然と立ち向かっていく。彩りの義勇軍よ!力を1つに、想いを1つに、勝利を掴め!!
To Be Continued…