第137話『蛮勇闘技~vol.27~』
シリーズ第137話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族の国ビンニー国にて闘技大会に挑む彩りの戦士達。冥紫の旗印のもとに淡い想いを紡ぎ合うリタ班の先鋒を務める毒の槍術士イオスは敵軍先鋒のグロルを討ち取り、想いを寄せる冥紫の王子と共に戦う意気を更に高めていた。
「イオス、なかなかやるな!幸先の良い出だしになったぞ!」
「そうですわね、ジェンシアさん。共に歩むわたくし達の絆の力、イオスさんは見せてくださいますわ!」
「さすがだな、イオス!その調子でガンガンいこうぜ!!」
「ほう、グロルを倒すなんてなかなかやるじゃないかよ?このユーベル様も本気で相手になってやるぜ!」
先鋒のグロルを討ったイオスに挑まんと敵軍次鋒ユーベルが勇んで飛び込んでくる。対するイオスも見守るリタへの想いを胸に、左手に印された灰汁色の彩りを妖しく昂らせていった。
「てやぁ!ジャンクスマッシャー!」
「おおっと、こりゃグロルも負けちまうわけだな…気に入った!同じ槍使い同士、全力同士の正面衝突といこうぜ!」
「もっちろん!手加減無しの100%…ううん、1000%で相手してやるからね!」
「そいつは楽しみだ!わざわざ海を越え、山を越え、アーテル国から来た甲斐があるってもんよ!楽しませてもらうぜ!!」
イオスとユーベル、両軍の槍使いが激しくぶつかり合う。イオスは毒の槍術に不良格闘術を織り交ぜて迎え撃つが、腕力と体格で大きく勝るユーベルに次第に気圧され始める。
「チッ…!」
「ガハハ!オレ達はこの日のために鍛えてきたんだ!そう簡単に勝てると思ったら大間違いだぜ!」
「ふ~ん…その言葉、そっくりそのままお返しするよ!」
「おぉ!?な、なんだ!?この紫の光は…!?」
劣勢に立たされていたイオスの灰汁色の毒氣に薄紫の彩りが入り交じる。毒の槍術士が全身に纏うのは冥の彩り――想い人である大将リタの彩りだった。
「イ、イオスさん!?薄紫の光に包まれてます…!」
「薄紫はリタ様の彩り…イオスさんとリタ様の彩りの同調ですわ!」
「おお、これはなんと羨ましい…じゃなくて、なんと素晴らしい…!」
「イオス…よっしゃ、俺も一緒だぜ!」
リタはイオスと彩りが重なり、微笑みながら想いを重ねていく。イオスは想い人であるリタと紡ぎ合う彩りの力を確かに感じ取り、得意気な表情で槍を地に突き立てる。灰汁色の妖しい刃が冥の紫を纏って這い出た。
「贄を喰らう毒の刃、冥府より来たれ!ジャンクグレイブ・シャドウエッジ!」
「うおっ!?コ、コイツはいったい…!?」
「ヘヘン、ウチには大切な人がいるからね。愛の力がある限り、絶対に負けないよ!」
「へぇ、そいつぁ御大層なこった!それならこっちも気合い入れていくぜぃ!」
イオスの本気を汲み取ったユーベルは意気揚々と槍を振るい、熱い心を更に燃やしていく。互いに全力を以て正面衝突する熱戦は予断を許さない。観衆も次第に2人の戦いに引き込まれ、闘技場全体が赤々と燃える熱気を帯びていく。
一進一退の攻防に観衆が沸き立つ中、お互いの槍と槍とが激しくぶつかり合う。両者は戦いの火花を散らし合い、胸中に燃ゆる闘志を燃やし尽くさんとしていた。
「ハァ…ハァ…つ、強い…でやぁぁ!」
「ぐおっ!ハァ、ハァ…お前こそ…なかなか、やるじゃねぇか…うおぉらあぁッ!!」
「うああぁぁッ…!!」
「そこまで!勝者、ユーベル選手!」
『おおおぉぉぉ~!!』
「ハァ、ハァ…か、勝ったか…でも、コイツら、ただもんじゃねぇ…グロルが負けたのも無理はない…間違いなく戦い慣れしてる…!」
イオスはユーベルの腕力と気迫に気圧され、奮戦も及ばず敗れてしまった。が、ユーベルもかなり疲弊しており、勝利への足掛かりとしては充分過ぎるほどの健闘だった。
「リタ様、ごめ~ん…あの人、強いよ…イタタ…」
「イオス、お疲れ様…ラナン、イオスの傷を治してくれるか?」
「ええ、承知しましたわ。やはり世の中には強い方が数多いらっしゃいますわね…」
「つ、次は私ですね…ちょっと怖いですけど頑張りますから、見ててくださいね、リタさん!」
「ああ…セレナ、頼むぜ!怪傑カンタループとしての誇り、見せてくれよ!」
次鋒を務めるのはメロングリーンの紋様を持つ覆面の怪傑セレナ。フルウム国の平和を守る正義の“怪傑カンタループ”として活躍していながら内気な性格ゆえに自身の想いを表出することは少ないが、その実、リタに密かな想いを寄せており、今回の闘技大会のグループ分けに於いては真っ先にリタ班に志願していた。他の面々のように露骨に表すことは無くとも胸の内には大将を務める冥紫の王子リタへの想いを確かに抱き、共に歩む確固たる意思を携えて戦いの舞台に踏み出した。
「ハァ、ハァ…なんだなんだぁ?嬢ちゃん、仮装なんてして参加してんのか!?ここはテーマパークじゃないんだぜ!?」
「そ、そんなことは解っています…!それにこれは仮装ではなくて…本物です!」
「本物だぁ!?ハァ、やれやれ…必死こいてようやく勝ったと思ったら、次はごっこ遊びに付き合わされるとはなぁ…」
「ごっこ遊びではありません!わ、私は正義の剣を振るう怪傑カンタループ!貴方には負けません!」
「ほっほう、正義の味方ごっこってか…ハァ、ハァ…疲れさせるガキだぜ…さっさと終わらせるか…」
イオスとの一戦で疲れ果てていたユーベルは覆面の怪傑として現れたセレナの様相を“ごっこ遊び”と軽視し、呆れた様子でいるが、セレナの覆面はごっこ遊びのための道具ではない。怪傑カンタループとして、彩りの戦士として戦う意思の表れだった。
「やあッ、それッ!」
「クソッ、疲れる奴だぜ…うおぉらッ!!」
「そ、そこです…!せいやああぁぁッ!!」
「何ぃぃ!?」
『おおおぉぉぉ~!』
可憐な怪傑セレナは華麗に宙を舞いながらユーベルの懐に飛び込み、メロングリーンの彩りの気を纏った剣を振るって立ち向かう。一行に加わる前からフルウム国で絆を紡いできたドルチェ自警団の面々も心を躍らせながら客席で見守っていた。
「うむ…セレナの華麗なる剣技、見事也!」
「そうですね、ミノリさん。セレナさん、すごいスピードです…!」
「我ら一介の自警団が世界津々浦々の猛者達と相まみえることが出来るとは、感激でごわす!」
「確かアーテル国は夜の領域と呼ばれる一帯にある闇夜の国のはず…本当に世界中から戦士達が集まる場所なのね」
「セレナ、その調子だよ!ガンガン行け行けええぇぇッ!!」
共にフルウム国の平和を守る自警団の仲間達に背を押され、セレナは勇気を滾らせる。メロングリーンの瑞々しい彩りは刃となり、セレナの戦う意思を体現していった。
「フルウムの正義の刃、受けてみよ!カンタループ・ソードクロス!」
「がはっ…油断、したぜ…」
「そこまで!勝者、セレナ選手!」
「ど、どうだ!正義の剣、た、たっぷりと味わったか…?え、えっと…か、怪傑カンタループがいる限り、この世に悪は栄えないッ!」
『うおおおぉぉ~ッ!!』
疲弊したユーベルに対して手を緩めることなく彩りの力を振るい、勝利を掴んだセレナは勇ましい口上を闘技場に響かせる。所々言葉を選びながらの口上だったが、セレナの華麗な技に魅せられて沸き上がった観衆達にとっては些末なことであった。
「素晴らしいですわ!セレナさんの剣閃、誇り高く美しいですわね!」
「セレナ、やるじゃないか!その調子だぜ♪」
「リ、リタさん…ありがとうございます!あ、あの…私、リタさんのこと――」
「おっと、カッコつけていられるのも今のうちだぜ!正義の覆面ヒーローさんよぉ!」
想いの丈を乗せていたセレナの言葉を遮り、敵軍中堅のシュルトが躍り出る。セレナはリタに想いを告げんとしていた意思を挫かれ面食らうが、すぐに対峙するシュルトに向けて居直った。
「わ、私は…正義の戦士であり彩りの戦士、怪傑カンタループ!悪は成敗する!」
「イキが良いな、正義の覆面ヒーローさん!それならこっちは悪役らしくいくぜ!」
「こ、怖い…けど、負けません!」
「そう来なくっちゃなぁ!根性出して悪役を倒してみろ!」
『うおおおぉぉ~!』
正義の怪傑であるセレナに相対する敵軍中堅シュルトの“悪役”としてのパフォーマンスに客席が沸き立つ。シュルトは得物の金属バットを振るい、正義の怪傑セレナを相手に“悪役”らしく振る舞ってみせた。
「うわっ…あわわわわ…」
「おいおい、どうしたよ?正義の覆面ヒーローさんよぉ?お前が負けたら物語がバッドエンドになっちまうぜぇ!?オラオラァ!」
「うあわわ…でやあぁッ!」
「ヒャッハハ!正義の剣はそんなもんかよ!?そんなんじゃ世界が真っ暗闇に閉ざされちまうぜ!?」
『負けんな~!怪傑カンタループ~!!』
『頑張れ~!黒装束をやっつけろ!』
客席からセレナに声援が送られる。さながら子供向けのヒーローショーのような雰囲気になり、闘技の舞台としてはいささか異様な雰囲気を醸し出していた。
「オラァ!ぶっ壊れろぉぉ!!」
「そこです!カンタループ・ラッシュ!」
「おおっと!?なかなかやるみたいだな…だが、その程度の攻撃じゃ悪の怪人は倒せないぜ!?」
「ええっ!?そ、そんなぁ…!」
「ギャハハハ!もらったぁ!」
「キャアアァァッ…!」
「そこまで!勝者、シュルト選手!」
『Boo~!Boo~!!』
覆面の怪傑セレナが敗れ、客席からシュルトに対するブーイングが沸き起こるが、以前にテリー班に立ちはだかった陰険な大将ハセに対して起きたような憤りを帯びたものではなく、セレナに対して“悪役”として向かい合ったシュルトの戦いぶりに対するオマージュ的な色合いのものであった。ブーイングに混じってセレナの健闘に対する拍手が疎らに聞こえる中、リタ班の面々がセレナのもとに駆け寄った。
「うう…リタさん、ごめんなさい…負けちゃいました…」
「セレナ、お疲れ様。負けちゃったけど全力で戦ってくれて、カッコ良かったぜ!」
「セレナさん、すぐに傷を治療しますわ。アーテル国の戦士達、侮れませんわね…」
「よし、次は私の出番だな。セレナの敵、私が討ってやる!」
「ジェンシアさん、頑張れ~!一気にやっつけちゃえ~!!」
リタ班、選手交代。中堅を務めるのはインクブルーの彩りを持つジェンシア。かつては邪教戦士ジャッロの仇討ちに現れたならず者集団の一員だったが、巨大傭兵団に加担した際にリタの洗練された戦いぶりに魅せられ、自ら仲間に加わった。リタを想うインクブルーの彩りの戦士は得物であるメイスを構え、矛先を仇為す者へと向ける。
「さて…セレナの敵は私が討たせてもらうぞ。来い!」
「ほう、なかなか飢えた目をしているな…楽しもうぜ!」
「ああ、本気でいくぞ!リタ様のため、仲間達のため、お前に勝たせてもらう!」
ジェンシアは左手に印された彩りを昂らせ、勇猛果敢にシュルトへ立ち向かう。両軍の中堅同士の戦いが始まり、共に残り3人――勝利に向けて想いを紡ぎ合うリタ班はアーテル国より来たる黒装束の一団に打ち勝つことが出来るのだろうか?
To Be Continued…