第136話『蛮勇闘技~vol.26~』
シリーズ第136話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族の国ビンニー国の闘技大会に挑む彩りの戦士一行。優しさという名の強さを闘技の舞台で示したカタリナ班に相対していたサファイアブルーの彩りの戦士であり、氷の大剣を振るう蒼き蛮族ヤチェを迎え入れていた。
「ヤチェ、これからは仲間としてよろしく。セルシウス様のこともたくさん教えてね♪」
「ああ、迎え入れてくれてありがとうな。オレもこの軍の一員として、力を尽くすよ!」
「よろしく、ヤチェ。貴女との絆、これから紡いでいくのが楽しみです!」
「さて、今日は1日中闘技場にいたけど、もうすっかり夜だね…そろそろ宿に戻って休もうか!」
蒼き蛮族ヤチェを加えた一行は宿に戻り、戦いの疲れを癒す。その頃、魔族七英雄ベガとその配下ラストは居城である魔空間で静かに佇んでいた。
「ベガ様、件の闘技大会に皆様が参加され、本日は順調に勝利を重ねております」
「ふむ、それは何より。それで…コレットは戦いに出向いたのかな?」
「は、はあ…本日は同行の皆様と共に客席で観覧しておりましたが、恐らく明日にはコレット様の順番が回ってくるかと存じます…」
「…そうか。野蛮な輩が蔓延る彼の地に可憐な彼女が立つと思うと気が気ではないな。我らの理想郷の依り代たる彼女の無垢なる美が汚されてはならない。より一層気を引き締めて臨むとしよう」
「…畏まりました」
魔薔隊ベガの策謀が静かに蠢く中、ビンニー国の夜は更けていく。魔界の貴公子から“理想郷の依り代”と称されている当のコレットは知るよしもなかった――
――翌朝、一行は再び闘技場へと集結する。初日にベラハ、ツヴァイ、ロゼル、ヘンドリックス、ヤチェを加えた総勢105人の彩りの義勇軍の戦士達が次々と集っていく待ち合わせ場所にはネイビーブルーの彩り――イレーヌが一番乗りしていた。
「さて、今日は俺達のチームからだな。朝から緊張するぜ…」
「ねえ、いきなりで恐縮なんだけど、リタさんのチームの前に私のチームが先に出ても良いかしら?」
「ん?確かイレーヌ殿はミノア殿のチームだったはずでは…?」
「ええ、そこは大丈夫よ。ミノア様のチームには私の代わりにツヴァイさんに入ってもらって、私はここで出会った4人と組むわ。みんなもそれでいい?」
「いいぜ!オレもこの軍の力になりたいと思っていたところだ!」
「即席のユニットってことか!なかなかRockで面白そうじゃないか!」
「はい。みなさんより頼り無いかもしれませんけど、私も頑張ります♪」
「よっしゃ!どんな奴が来ようが炎の虫で喰らい尽くしてやるよ!う~ん、早く戦いたくてウズウズしてきた!頼む、アタシ達に先に戦わせてくれ!」
「わかりました。リタさえよろしければそうしましょう。リタ、大丈夫ですか?」
「ああ、構わないよ。俺もイレーヌ達の戦いから学んで、イレーヌ達が作ってくれる勢いに乗って勝ってみせるぜ!」
かくして闘技大会の2日目が幕を開ける。イレーヌが闘技場で出会った面々を引き連れ、即席のチームを結成して参戦する。先鋒イレーヌ、次鋒ロゼル、中堅ベラハ、副将ヤチェ、大将ヘンドリックスの布陣で挑む。が――
「Slash!ファルコン・サマーソルト・スライサー!」
「ぎゃあああッ!!」
「…そこまで!勝者、イレーヌ選手!この試合、イレーヌ軍の勝利!」
『おおおぉぉ~…!』
「あ~ら、大将さんももう終わり?Easy Operation.所謂朝飯前っていうやつね!」
即席チームのリーダーを務める先鋒イレーヌがネイビーブルーの彩りの力とマーシャルアーツを同時に駆使し、敵軍の5人を1人で一蹴した。イレーヌは人差し指を真上に突き出して得意気な表情を見せる。勝ち誇ったような表情は少女のように無邪気でありながらも己の技能に対する揺るぎ無い自信を覗かせていた。
「ヒュ~♪コイツはすげぇや!イレーヌ、Greatだぜ!」
「動きに全く無駄が無いもんな…大将だったオレ達でも敵わないかもしれないな!」
「え、えっと…すみません…私は副将ですよ?」
「細かいこと気にするなって。それにロゼルも実質大将みたいなもんだったろ。しっかし、強いな…これが青国空軍のマーシャルアーツか…」
イレーヌの戦いは洗練されており、かつて敵軍の大将格を担っていた4人も舌を巻くほどだった。その勢いに続かんと息巻くのはリタ班――先鋒イオス、次鋒セレナ、中堅ジェンシア、副将ラナン、大将リタ――想いを紡ぎ合いながら心を合わせて歩みを進める5人はイレーヌの洗練された華麗な戦いに真剣に見入っていた。
「イレーヌさん、超強~い!やっぱりリタ様に戦術が似てるもんね~♪」
「リタさんも強い人ですから、きっと私達も勝てますよね…はい、勝てます!」
「ああ、容貌も戦いも美しいリタ様が大将なのだ。負ける気がしないな!」
「そうですわね、ジェンシアさん。さあ、わたくし達の正義を共に体現しに参りましょう、リタ様♪」
「そ、そうだな…よし、俺達もイレーヌ達に続こうぜ!出陣だ!」
「は~い、リタ様~♪」
「さあ、行きますわよ、リ・タ・さ・ま♪」
「ええっ!?ちょっ、ちょっと待って!」
当人が戸惑う中、イオスが右腕、ラナンが左腕に組み付き、リタの両脇を固める。後ろに追従するセレナとジェンシアもリタに対して淡い想いを抱いており、何処と無く浮き足立っている。リタを想う4人が愛しの王子を取り巻く姿は戦いの直前とは思えない奇妙な空気を醸し出していた。
「リタさんは聡明な方ですから、きっと大将として立派にチームを統率してくださると思いますわ。安心ですわね♪」
「そうだな、ルーシー。リタは旅に出た時に銃を使い始めたとは思えないほど戦い慣れしているからな。徒党を組む4人も手練れ揃いだし、心配は要らんだろう」
「おっ、リタの一門が出て来たぞい…って、なんじゃなんじゃ!?イオスとラナンがリタと腕組んでおるぞ!?」
『おおおおぉぉ~!』
『ヒュ~ヒュ~!』
『羨ましいな、黒髪の嬢ちゃん!』
「エヘヘ~♪どれだけ羨ましがってもリタ様は渡さないもんね~!」
「ウフフ、愛し合うわたくし達をたくさんの方々が祝福してくださっていますわ…リタ様…」
(は、恥ずかしい…どうしてこんなことになってるんだろう…?)
甘い雰囲気を醸し出しながら登場したリタ班の様相に観衆も異様な盛り上がりを見せる。が、客席で見守る仲間達は反比例するようにトーンダウンしていた。
「むむ…リタ殿の一団、妙に浮わついている気がするのだが…何故ラナンもリタ殿と腕を組んでいるのか…戦いの前だというのに頬が緩んでいるぞ…?」
「うん、これってアレやな…ただのリタ姉ちゃんファンクラブやん…」
「チーム分けもけっこう時間がかかったけど、この5人だけは真っ先に決まったからね。なんか勘違いしてる気がするんだけど…」
「だよなぁ、エレンのお嬢…大丈夫なのか?このチーム…」
大将であるリタの脇を固める4人が浮き足立っている中、待ったなしで戦いの火蓋は切られる。リタ班に敵軍として対峙する怪しげな黒装束の5人組は既に臨戦態勢を整えており、開戦の時を今か今かと待っていた。
「Gランク勝ち抜き戦を開始します!両軍先鋒、前へ!」
「はいは~い!リタ様、ウチの活躍、ちゃ~んと見ててね!愛する王子様のために頑張っちゃうんだから~♪」
「あ、ああ…イオス、頼んだぜ!」
リタ班の先鋒を務めるのは灰汁色の紋様を持つ毒の槍術士イオス。滅紫の暗殺者ヒイラギと相対した際にリタに救われて以来、自身を救ったリタを“王子様”と呼び、恋慕うようになった。リタを想い、毒氣を昂らせながら戦いの舞台を生き生きと踏み締めた。
「おっすおっす!イオス、いっきま~す!」
「ほう、イキが良いな。なら、こちらも名乗っておくか…俺はグロル、良い勝負にしようぜ」
「OK!手加減無し、手抜き無し、手抜かり無しの本気でいくよ!!」
両軍の先鋒が挨拶を交わし、リタ班の戦いが始まる。短刀を得物として素早く懐に飛び込んでくる敵軍先鋒グロルに対し毒氣を纏った槍を振るって堂々と迎え撃っていた。
「せいやっ!てえぇいっ!」
「フン、ぬるいぜ!オラァ!」
「今だ!足下がお留守だよ~!ジャンクグレイブ!」
「何っ!?しまった…!」
灰汁色の刃が地から這い出てグロルを足下から強襲――イオスは彩りの力を惜しみ無くグロルに叩き付けていく。彩りの義勇軍に加わる以前から共に歩みを進めてきた毒の戦士達の心にも火が点き始めていた。
「イオス、腕を上げたねぇ!あんなに機敏に動けるなんて知らなかったよ!」
「リーダー、イオスには秘訣があるんだよ。恋する乙女は強い、ってね!」
「ビアーさんの言う通りです。誰かを愛しく想う気持ちは人を強くする…人の心とは未だ底知れぬ境地ですね」
「イオス、その調子だがや!ガンガン攻めて攻めて攻めまくるがや~!」
沸き上がった毒の戦士達は熱くイオスの背を押していく。勢いの着いたイオスは毒の槍術に不良格闘術を織り交ぜ、一気呵成とばかりに畳み掛けていった。
「ナメてんなよ!そおぉら!」
「げえぇっ!?バ、バカな…!」
「でやぁ!オラオラァッ!!」
「が、がふっ…!」
蹴り倒して無防備になった敵軍先鋒グロルに槍と踏みつけの応酬を躊躇うことなく見舞う。闘志に火が点き、昂るイオスの左手に印された灰汁色の紋様が妖しく毒氣を放っていた。
「ウチの毒の力、受けてみろ~!ジャンク・スマッシュランサー!!」
「ぐわあぁッ!!」
「そこまで!勝者、イオス選手!」
『うおおぉぉ~!』
毒氣を纏った渾身の一突きが決まり、敵軍先鋒グロルを退けた。イオスはリタにウィンクをしてみせ、再び正面へと向き直る。果たしてリタ班は俄に沸き起こった仲間達の心配を跳ね除け、無事に勝利を掴むことは出来るだろうか?
To Be Continued…