第134話『蛮勇闘技~vol.24~』
シリーズ第134話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族の国ビンニー国の闘技大会に彩りの力を以て挑む一行。優しさという名の強さで共に想いを紡ぎ合うカタリナ班はケミカルパープルの紋様を持つ毒の戦士スラッジが敵軍中堅ホーフスとの狙撃手対決を制し、闘技の舞台で共に戦う4人はもちろん、客席の仲間達も沸き上がっていた。
「スラッジが勝ったがや!これもカタリナとの絆の力だぎゃあなぁ!」
「ウイィッス!スラッジの奴がやりましたよ、ビアリー様!」
「ええ、カタリナさんとスラッジが愛し合い、紡ぎ合う絆…ああ、なんて甘美なのかしら…」
「スラッジ、羨ましいなあ…ウチもいつかリタ様とラブラブした~い!」
「次の方も手強そうですね…崇高な愛を知ったスラッジさんに天の御加護がありますように…」
「ふむ、槍使いか…スラッジ、気を引き締めていけ!」
ビアリーの傍らに立つ臣下達――毒の神官バラキエルの祈りの言葉と毒の近衛騎士アヌビスの呼び掛けに表情を引き締めるカタリナ班中堅スラッジに対し、敵軍副将のトゥリフトという男が闘志を携えて向かい合う。身の丈ほどもある大きな槍を振り回し、荒々しく叩き付けるように降り下ろしてきた。
「でやあぁ!ぶっ壊れちまえッ!」
「ケッ、なかなかやるじゃねぇかよ…オラァ!」
「おっと、銃使いか…撃たせねぇぜ!そらよぉ!」
「おっと、そうはいかねぇぞなもし…うおぉらッ!!」
スラッジは毒氣を纏った銃身を槍のように振るい、乱暴にトゥリフトを打ち据える。荒々しい毒の銃剣術を見せつけるが、トゥリフトは軽々と受け流し、ニヤリと笑っていた。
「フン、やるな…だが、所詮はライフル使い…銃剣術は並ってところだな」
「ケッ、言ってくれるじゃねぇかよ…今にボコボコにしてやるぞなもし…」
「おいおい、足が止まってるぜ?…そおぉら!」
「ケッ…コイツ…!」
「うおっと!?」
「くらいやがれ!ヘドロウェーブぞなもし!」
「おおっと、危ねぇ…あらよっと!」
「何ぃ!?さ、避けられたぞなもし…!ぐおわっ!?」
トゥリフトはスラッジの不良格闘術で蹴倒されるも、槍を地に突き刺して飛び上がり、器用に間一髪でヘドロの波を避けてみせる。驚きも冷め遣らぬスラッジは更に続けて空中から蹴りを見舞われ、畳み掛けるような連撃をまともに食らってしまう。
スピーディーな攻撃に翻弄されていくスラッジはペースを乱されていき、次第に焦りの色を滲ませていく。トゥリフトの槍術は力強くも洗練されており、戦局はトゥリフトに大きく傾いていた。
「あわわわ…スラッジさんが苦戦してます…!」
「ホーフスさんも強かったし、こうしてスラッジさん相手でも圧倒する人だっている…強い人って世の中にたくさんいるんだね…」
「そうね、アイラ。私もテラコッタ領の民と主君を守ってきたけど、世界の広さを痛感するわ…」
「そんな…スラッジ…!」
スラッジは大技小技を織り混ぜたトゥリフトの槍術の前にどんどん追い込まれていく。スラッジの劣勢は誰の目にも明らかであり、チェックメイトの時は刻一刻と迫っていた。
「とどめの一突きだ!くらえぇッ!」
「ぐああッ…!」
「そこまで!勝者、トゥリフト選手!」
スラッジはトゥリフトの渾身の突きを受け、健闘虚しく敗れてしまった。カタリナは想いを紡ぎ合うスラッジの健闘を労い、治癒の力を以て優しくスラッジの心身を癒した。
「カタリナ…悪りぃ、負けちまったぞなもし…」
「スラッジ、お疲れ様…今、傷を治すからね…サルビア、次お願いね!」
「ええ、任せといて!テラコッタの騎士として、全力を尽くすわ!」
「テラコッタ領の騎士のみなさん、シュシュみたいに勇ましくて強いですよね…サルビアさんならきっと大丈夫です!」
「サルビアさん、ファイト!4番バッターの貫禄、見せちゃえ~!」
カタリナ班副将を務めるのは青い鎧に身を包み、刀身の細い刺突剣を携えたテラコッタの氷騎士サルビア。トリッシュ班の副将を務めた雷騎士ミモザと共にローザの宮廷の門番である守衛兵から騎士に推薦された経歴の持ち主であり、普段は快活なミモザを傍らで支える役割を担っている。が、戦いの舞台に立つ彼女は騎士の誇りと彩りの力を携え、瞳を凛と輝かせていた。
「テラコッタの騎士サルビア…推して参ります!」
「おいおい、俺に剣で勝ち目があるのか?槍の方がリーチあるんだぜ?」
「それは当然心得ています。私はいつも槍の使い手と訓練していますので、その心配は無用よ。もし疑わしいというならば、その身を以て味わうと良いわ!」
「そうかい…そりゃたいした自信だな。来やがれ!」
カタリナ班中堅のスラッジを討ち、敵軍副将トゥリフトはテラコッタの青き騎士サルビアを前にしても自身の槍術に対する堂々たる自信を見せつける。が、その増長とも言える自信はサルビアの剣捌きによって脆くも打ち砕かれることとなる。
「えぇい!やあッ!!」
「ブッ飛ばしてやる!くらえッ!!」
「クッ!つ、強い…でも負けはしないわ!ていやッ!はああっ!」
「グッ…!!」
『おおおぉぉ…!!』
サルビアは華麗に舞いながらトゥリフトの槍術を巧みに受け流し、目にも止まらぬ突きの応酬を見舞う。華麗な剣捌きは観衆はもちろん、仲間達も魅了していた。
「サルビア、いいぞぉ!ガンガン行けぇッ!!」
「ミモザ、超ノリノリじゃん!やっぱ相棒が活躍するってテンションアゲアゲだよね~!」
「サルビアさんって綺麗だよね…普段の姿はもちろんだけど、戦う姿も見入っちゃうもん!」
「ハイビスの言う通りだな!まあ、綺麗な薔薇にはトゲが付き物か。前に言い寄ってきたゴロツキ達を全員返り討ちにしてたもんな!」
「そうだな、ヒーザー。サルビアの見事な剣捌き、力強さと美しさが共存した洗練の境地だよな!」
「その通りだッ!親愛なる同志グラジオよ!!親愛なる同志サルビアの美しさは我らの誇り高き騎士道精神を体現しているのだッ!!!」
共に歩みを進めるテラコッタの騎士の声援に背を押され、青き氷騎士サルビアは彩りの力を昂らせる。サルビアブルーの紋様を煌めかせ、決然とした意思を以て臆することなく力を振るった。
「我が祖国の氷雪の剣閃、くらいなさい!テラコッタ・フリーズラッシュ!!」
「がああッ…!」
「そこまで!勝者、サルビア選手!」
『おおおぉぉぉ~!!』
美と洗練を兼ね備えた剣技で敵軍副将トゥリフトを退け、サルビアは熱い歓声を一身に受ける。一気に盛り上がりを見せる闘技の舞台はカタリナ班を後押しするかのような奇妙な高揚感に満ちていた。
「サルビア、すっご~い!大将戦もその調子でお願いね♪」
「ええ、任せといて!このまま一気にカタを付けるわ!」
「すまねぇ、ヤチェの親分…あとは頼むぜ…」
「ああ。女ばかりと思ってオレもいささか油断していた…それに向こうの銃使いのチンピラと青い鎧の騎士、氷の力を使ったな…よし、いっちょ気合い入れてやるか!」
敵軍大将を務めるのはヤチェという長身の人物だった。厚手のコートを身に纏っているのに加えてフードを目深に被っており、真っ青な頭髪は確認出来るものの顔が隠れている。更に中性的な口調と声色も相俟って男性か女性か判別し難い。
「…おい、お前…サルビアとか言ったな。お前の氷の力…」
「はあ…私の力が何か?」
「いや、独り言だ。互いに戦士であるならば、言葉ではなく、力で語ろうか!」
「…?これも作戦のうちなのかしら…?それに大将だから腕も立つでしょうし、油断ならない相手ね…」
ベールに包まれたままの敵軍大将ヤチェは得物である大剣を両手で構え、サルビアに飛び込んでいく。細身の刺突剣を操るサルビアとは異なる形の剣士だ。ガラスのように澄み切った透明の刀身が特徴的な大剣で雄々しく討ち伏せるヤチェに臆することなく、サルビアは女性的でありながら凛とした刃で迎え撃っていた。
しかし、柔剣の使い手であるサルビアはヤチェの剛剣に次第に押され始める。手練れ揃いであるテラコッタの騎士達も俄にざわつき始め、騎士達の心の揺らぎは波紋となってじわじわと広がっていく。
「ふむ、あの大将…何者か知れんが、かなりの手練れだな…」
「ああ、我らテラコッタ・ソシアルナイツも苦戦を強いられる猛者が集うこの大会、サルビアと言えど油断の出来ない相手であることは間違いないだろうよ」
「えっと…大剣士ということはマリー様に似た剣術を使うということですかね…?」
「ミュゲさん、そうとも限りませんわ。大剣にも様々な流派があるでしょうし、あるいは祝福の証を持つ“彩りの戦士”であるならば…」
「しかし、あんな厚手の外套を着たまま戦うとは…動きにくくはないのだろうか?」
「ガーベラ様の言う通りね。でも、これも策のうちなのかも…まさかとは思うけど、サルビア様と同じ…」
ラナンとヒアシンスの予感は図らずも的中することとなる。次第に辺りを冷気が包み始め、闘技の舞台に霜が降りるほどに冷え込む。
「し、霜!?それにこの冷気…いったいどうなっているの…!?」
「おいおい、今頃気が付いたのかよ?このオレの…真の力に!」
「ま、まさか…貴女は…!?」
ヤチェがおもむろに手袋を外す――サルビアは1つの確信に辿り着き、戦慄する。ヤチェは1人称が“オレ”であるが、女性であり、彩りの戦士だった。手袋に隠されていた左手が蒼々と煌めき、闘技場の空気を凍てつかせる。本性を現した敵軍大将の左手にはサファイアブルーの紋様が印されていた。
「この力、我が命を救ってくださった氷の精霊セルシウス様より賜ったものだ…貴様と同じくな!」
「な…なんですって!?祝福の証…!!」
「セルシウス様の加護のもと、貴様を討たせてもらう!覚悟!!」
「なんですって!?か、体が…動かない…!?」
時既に遅し――サルビアが気付いた頃には両足が氷に捕らえられていた。為す術なく立ち尽くすサルビアにヤチェの絶対零度の剣が容赦なく襲い掛かる。
「氷雪の精霊セルシウス様の裁きを受けよ!アブソリュート・ゼロ・コンヴィクション!!」
「うあッ…!そ、ん、な…」
「サ、サルビアァァ!!うわああぁぁッ!!」
「ミモザ、しっかりするの よ!サ、サルビアがカチンコチンにされちゃったの…!」
「…そ、そこまで!勝者、ヤチェ選手!」
テラコッタの氷騎士サルビアはヤチェの彩りの力に凍てつき、一瞬のうちに氷漬けにされてしまった。カタリナは憤りを露にしており、ヤチェに対して明確に敵意を突き刺す。温厚なカタリナがこれほど怒りに囚われる様相は見たことがない。つまりヤチェはそれ相応の業を負いながらカタリナに向かい合っているのだ。
「へえ…セルシウス様には及ばないが、なかなか美しいじゃないか…オレの故郷に持ち帰って、一生愛で続けてやるからな…」
「酷い…私の大切な仲間を…サルビアを返して!」
「フッ、そう言われて返すと思っているのか?そんなに返してほしいなら、力尽くでやってみろ!オレをぶっ壊すくらいに激しくなぁ!!」
「…わかった。そっちがその気なら、私だって本気でいくよ!絶対に許さないんだから!」
(青い紋様…それにこの気の流れ…この女もまさか…!)
カタリナは己の感情に委ねるがまま、サファイアブルーの彩りを持つ敵軍大将ヤチェに飛び込んでいく。果たしてカタリナは絶対零度の剣士ヤチェを撃ち破り、氷の牢に囚われたサルビアを救い出すことが出来るのだろうか?
To Be Continued…