第133話『蛮勇闘技~vol.23~』
シリーズ第133話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族の国ビンニー国の闘技大会に挑み続ける彩りの戦士一行。優しさという名の強さで各々の想いを紡ぎ、体現していくカタリナ班の次鋒を務めるベビーピンクの彩りを持つリボンは勇気を振り絞り、敵軍次鋒ビアフォに向けて勇猛果敢に飛び立っていった。
「んん?なんだよ、また随分とちっこい奴が出てきたなぁ…」
「わたしはリボン!妖精族の誇りを抱き、全力で貴方と戦います!」
「ワハハ!可愛い妖精ちゃんが俺と戦うのかよ!?ワハハハハハ!!」
「笑っていられるのも今のうちです!わたしも妖精族として、みすみす負けるわけにはいかないんです!!」
「ほう、そりゃ御大層なこったなぁ…そこまで言うなら手加減無しだ!ケガしても泣くんじゃないぜ!」
自身を嘲り笑う敵軍次鋒ビアフォに対し、リボンは臆することなく飛び込んでいく。少し気弱な一面も見られるが、ベビーピンクの優しい彩りを煌めかせる祝福の証は確かに戦士として闘技の舞台に挑むリボンの強き意思を体現していた。
「フェアリーシャイン!」
「おおっと、目眩ましか!?そんな攻撃効かねぇよ!」
「す、隙ありです…フェアリーバースト!」
「何ぃぃっ!?」
リボンは眩い妖精の煌めきを纏いながら間髪を入れずベビーピンクの彩りの闘気を炸裂させる。魔幻隊隊長カストルを討つべく妖精族として一行に加わり、前の傭兵戦争を機に彩りの戦士として戦うリボンの姿は一行を盛り立てていた。
「おお…リボンちゃん、抜け目なき攻撃なのである!見事なのである!」
「まあ、素敵!愛と夢と希望が詰まった彩りの力、美しいですわ!」
「そうだな、我が愛する双生の姉リーベよ。これが可憐なる妖精リボンに秘められた真の力か…血が騒ぐな!」
「リボン…キミなら出来る。ボクは信じてるよ!」
一行は果敢に戦う可憐な妖精リボンの姿に確かに心を彩られている。妖精族の誇りを胸に戦いの舞台で躍動するリボンはベビーピンクの彩りを輝かせ、自らの戦う意思を示していく。
「うおりゃああ!くらええッ!!」
「あ、危ない…フェアリーバースト!」
「クソッ…この妖精め…取っ捕まえて見せ物にしてやる…!」
ビアフォが憤りと焦りに駆られる中、リボンは何度も襲い来る恐怖心を跳ね除けて勇敢に戦う。共に戦うカタリナ班の面々は勇気と奮戦を称えており、感嘆するばかりであった。
「うわぁ…すごいスピード!リボン、風のように駆けていくね!」
「ウヒョヒョッ!リボン、ナイスぞなもし!その調子ぞなもし!」
「素晴らしい戦いね…リボンの彩りの戦士としての決意と覚悟…熱い想いが伝わってくるわ!」
「リボンちゃん、一緒なら大丈夫だよ…負けないで!」
仲間達の声援に背を押され、自分よりも遥かに大柄な荒くれ者に果敢に挑む。一瞬の隙を突き、風を切りながらビアフォの足下へと飛び込んだ。
「そこです!えぇいッ!!」
「うがッ…!!」
「これで決めます!覚悟してください…!!」
リボンは背に生えた1対の羽をはためかせ、勇猛な疾駆を以て立ち向かう。勢い良く足下を掬ってビアフォの体を宙に浮かばせ、追従するように華麗に宙を舞うと、小さな手に携えたステッキはベビーピンクの彩りの刃となってビアフォに襲い掛かった。
「これが妖精族の力です!フェアリー・シャトルループ・スラッシュ!」
「何いいぃぃッ!?」
「そこまで!勝者、リボン選手!」
『おおおぉぉ~!!』
小さな挑戦者が勝利を掴み、観衆は驚きと興奮に沸き上がった。最初は“妖精”という種族に対する物珍しさゆえの好奇心から注目していたが、沸き上がる歓声はリボンを1人の“戦士”として認めた高揚感と熱気を帯びており、闘技の舞台は俄然盛り上がりを見せていた。
「リボンちゃん、やったね!その調子だよ♪」
「あ、ありがとうございます…頑張ります!」
「あの妖精、やるもんだな…ホーフス、頼んだ!」
「おう、任せとけ。どんなに小さい相手だろうが俺が仕留めてやるぜ」
落ち着いた口調ながら自らの腕への自信を覗かせる敵軍中堅はホーフスという名の狙撃手だった。迷彩柄の衣装に身を包み、ヘルメットにガンスコープを備え、ライフルを携えた姿はいかにも狙撃手らしい。フワフワと宙を舞うリボンに対し、“標的”として静かに照準を定めていた。
「そぉら、ロックオンっと!Fire!!」
「痛い…!に、逃げないと…!」
「おっとっと、逃がさねぇぜ?ほれほれ、狙い撃ちだぜ!」
「キャッ!ど、どうしよう…」
リボンは羽ばたきながら必死に逃げ惑うが、手練れの狙撃手らしいホーフスの照準はリボンの姿をしっかりと捉え、簡単には逃がさない。リボンの胸には再び恐怖心が芽生え、瞬く間に守勢に立たされていた。
「リボン、苦戦していますね…それになんだか辛そうな顔をしています…」
「はい、モニカ様…ボク達妖精族は人間が造り出した、所謂“人工物”が苦手なんです…」
「そうなのね、シュシュ…妖精は冷たい鉄を忌避すると聞いたことがあるけど、事実だったのね…」
「大自然の秘境に生きる妖精と人間が造り出す科学は相容れぬということか…私も機械の体だが、哀しいものだな…」
ゼータが悲嘆に暮れる中、ホーフスの狙撃が確実にリボンを捉え、体力を削ぎ落としていく。冷静でありながら強かな狙撃手の銃弾はヒタヒタと獲物に迫る毒蛇のようにリボンをジワジワと追い詰めていく。妖精が忌避する冷たい鉄の塊が熱を帯びて駆けていき、容赦無くリボンを襲った。
「さ~て、そろそろ墜ちちまいな!Fire!!」
「キャアッ…!!」
「そこまで!勝者、ホーフス選手!」
「妖精ちゃん、いっちょあがり!一応急所は外しといたけど、悪く思わないでくれよな~」
ホーフスの銃撃に撃たれ、リボンは静かに地に落ちた。心優しき大将カタリナはリボンが負った傷が自分の傷であるかのように胸を痛め、哀しみに表情を翳らせていた。
「カタリナさん、ごめんなさい…負けちゃいました…」
「リボンちゃん、痛かったね…今、治癒術かけるから待っててね…」
カタリナはリボンを抱き上げ、優しく抱き締める。仲間達を大切に想い、慈しむカタリナの姿は母性を感じさせる。青の紋様を持つ大将が醸し出す優しく柔らかな空気が一帯を包み込む。が――
――相反する猛々しい気を背後に感じ取り、カタリナは振り返る。移した視線の先にはカタリナ班中堅を務めるスラッジが雄々しい闘気を全身に纏いながら立っている。戦いの舞台に踏み出さんという状況だったが、カタリナを前にして頬を僅かにピンク色に染めていた。
「カタリナ…あとはあっしに任せるぞなもし。このチームのみんなは…カタリナはあっしが守るぞなもし!!」
「スラッジ…気を付けてね…」
カタリナに見送られ、いざ戦いの舞台へ赴かんとする状況だったが、スラッジは何故かその場に佇んだままだ。赤いバツ印の描かれたマスクの下の唇を真一文字にギュッと結んでいたが、深く息をついた後、思い切って口を開いた。
「あの、えっと…カ、カタリナ…あ、あっしは…ずっと、あんたのことが好きだったぞなもし!!」
「ええっ!?き、急にどうしたの…!?」
「こんなタイミングですまねぇぞなもし…でも、カタリナへのこの気持ちは間違いなく本当ぞなもし。あっしはビアリー様の臣下じゃけんど、この軍の誰よりカタリナを守りたいぞなもし!あっしの側にいてほしいぞなもし!!」
「…!!」
スラッジは意を決し、カタリナに想いの丈を包み隠すことなく伝えた。カタリナは心の準備を整える間もないままだったが、スラッジの熱い想いを受け止める。眼鏡の奥の瞳を潤ませており、溜まった涙が今にも零れ落ちそうになっていた。
「カタリナ…すまねぇ…やっぱりあっしみてぇな汚ねぇチンピラにこんなこと言われたって、迷惑なだけだよなぁ…」
「ううん…迷惑なんかじゃないよ…ありがとう…嬉しい…とっても嬉しいよ♪」
「ほ…本当けぇ!?」
「うん、本当だよ。スラッジ、ありがとう…私への想いを、勇気を出して言葉にしてくれて…」
「ありがとう…!…あっしの戦い、カタリナに一番近くで見ててほしいぞなもし!」
「…うん!スラッジのカッコいいところ、見てるからね…頑張って!」
ケミカルパープルの彩りを持つ毒の戦士スラッジはカタリナと紡いだ暖かい想いを胸に戦いの舞台へと踏み出す。ビアリーの臣下として一行に加わり、最初は旅の仲間という程度の認識だったが、何時からかカタリナの優しさに惹かれ、想いを寄せるようになっていた。スラッジの想いを周知していた毒の戦士達は優しく柔らかくスラッジの想いに応えたカタリナの姿に安堵していた。
「ヒュ~♪こんな場面で告白しちまうなんて、Rockじゃねぇか!!」
「そうだな、ヘンドリックス。スラッジもなかなか隅に置けない奴だねぇ…」
「そうなのです、ベラハさん。スラッジさんがカタリナさんに想いを寄せているのは我々毒の戦士の間では以前より確実視されていましたが、やはり既成事実だったようです」
「やっと言ったね~!しかもカタリナも嬉しいって言ってたし、良かった良かった~♪」
「グィフトの言う通りだがや!カタリナは料理上手でべっぴんさん、スラッジの奴、まっと幸せだぎゃあなぁ!!」
「おい、トリッシュ…先ほどから表情が優れんが、大丈夫か?」
「あ、アヌビス…だ、大丈夫だよ。リボンが負けちゃって、姉貴達が心配なだけだから…気にしないで…」
「何故かしら…トリッシュから怨毒みたいな禍々しい気を感じるわ…」
「ナハト、たぶんそれマジだよ…トリッシュはカタリナラブだからね~」
客席の仲間達が沸き立つ中、スラッジは敵軍中堅ホーフスと対峙する。同じくライフルを携えた2人が向かい合う光景は静かな緊張感を辺りに漂わせていた。
「よう…テメエもライフル使いけぇ?」
「ああ、見ての通りだ。ま、広い世の中旅してりゃ、同じ武器を使う奴の1人や2人出会えるだろうよ。なら、何が勝ち負けを決めるかねぇ?」
「それは…想いの強さぞなもし!守るべき人がいる限り、あっしは負けねぇ…負けられねぇぞなもし!」
「ほう、それは御大層なこった…そんじゃ、始めるか!」
スラッジとホーフス、両軍の中堅は互いにライフルを得物とし、互いを獲物として狙いを定める。見る者を緊張感の坩堝に引き込む。張り詰めた空気の中、一歩先に引き金を引いたのはホーフスだった。
「いくぜ…Fire!」
「ケッ、ノロい弾ぞなもし!オラァ!!」
「うおっ!?な、なんだこりゃ…?かすっただけなのに、傷が痛む…!」
スラッジの弾丸は妖しい毒氣を帯びており、ホーフスを僅かな掠り傷から静かに蝕んでいく。ケミカルパープルの彩りを妖しく煌めかせながら荒々しく毒の力を解き放った。
「くらいやがれぃ!ヘドロウェーブぞなもし!!」
「何っ!?」
「うらぁ!ボコボコにしてやるぞなもしッ!」
「うごっ…!クソッ、ライフルだけじゃねぇのか!?がふッ…!!」
スラッジは毒のライフルだけでなく、不良格闘術も織り混ぜて形振り構わず畳みかける。ヘドロの波に飲み込まれた敵軍中堅を乱暴に打ち据え、休む暇さえ与えなかった。
「あわわ…ヘドロで動けない相手を殴り倒してます…!」
「スラッジさん、ワイルドだね~!すっごいカッコいい!」
「見て!スラッジの体に青いオーラが…カタリナの色が包んでいるわ!」
「スラッジ…私と一緒に…!」
スラッジは熱い想いを燃やし、カタリナと心を同調させる。カタリナの青い彩りの気がスラッジに流れ込み、ヘドロと氷の彩りのコンビネーションが形になっていった。
「零度の毒に凍てつけぃ!!ヘドロウェーブ・アブソリュート!!」
「グッ…がはあッ…!」
「そこまで!勝者、スラッジ選手!」
毒の氷塊を以てホーフスを討ち倒し、毒の戦士スラッジが勝利を掴んだ。スラッジは親指を立ててカタリナに勝利を示し、カタリナも笑顔で応えた。共に想いを紡ぎ合い、体現するカタリナ班の戦いはまだまだ続く!
To Be Continued…