第130話『蛮勇闘技~vol.20~』
シリーズ第130話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族の国ビンニー国にて闘技大会に挑む一行。痺れるほどの激しいボルテージで躍動するトリッシュ班は楽器を携えた吟遊詩人風の一団と相対する。トリッシュ班の次鋒を務める毒の戦士ペソシャが毒氣を帯びた弓と矢を携え、左手の甲に印されたアーセニックグリーンの彩りを耀かせていた。
「Yeah!!ペソシャ、ナイスファイトだ!Rockだぜ!」
「サンキュー!だんだんノッてきたよ!このまま一気に畳み掛けるぞ!」
「フン、やるな…ペイジ、頼むぜ」
「任せろ、ヘンドリックス。ボッコボコにしてやるぜ!」
敵軍中堅のペイジが荒々しく前へ躍り出る。ドラムスティックを上着の背に収め、得物の斧を携えた血気盛んな男が荒くれ者のような粗暴な形相でペソシャに襲い掛かってきた。
「そぉら!砕けろッ!!」
「させるかッ!ピトフーイスラッシュ!」
「ウラァ!オラオラオラァッ!!」
「何ぃ!?そ、そんな!?」
「見とれてる場合か?ほ~れ、隙ありだ!」
「うげげっ!?」
ペイジは得物の斧を振るってペソシャの毒矢を次々に切り落とす。ペソシャが狼狽えている間に一気に詰め寄られ、有利な間合いを掴まれてしまった。
「そぉら、どうした!?ディランに勝ったっていうから期待してたが、そんなもんかよぉ!?」
「クッ…こうなったら…!!」
「おおっと、ヘタすりゃ弓をひく大事な手が傷付いちまうぜ?さあ、どうするよ?」
「クソッ…!!」
ペイジに懐に踏み込まれ、弓矢を得物とするペソシャは瞬く間に守勢に立たされる。毒の戦士として会得した不良格闘術で一矢報いようと試みるが、ペイジの猛攻に一気に押し切られてしまった。
「吹っ飛べ!オオオラァッ!!」
「クッ…ま、参った…!」
「そこまで!勝者、ペイジ選手!」
ペイジの猛烈な突進を受け、ペソシャは地面に叩き付けられて敗れた。トリッシュ達が駆け寄ると、ペソシャは共に戦う仲間達との“絆”を感じ取り、苦笑混じりの微笑みを浮かべていた。
「あのペイジって奴、強いな…ペソシャ、大丈夫か?」
「ああ…悪い、負けちまったよ…ヘヘッ、やっぱり世の中って広いな…強い人ってごまんといるなぁ…」
「ペソシャ、お疲れさん。あとはアタシに任せておけ!ノリノリでブッ飛ばしてやるぜッ!!」
「テレーズ、頼むぞ!AKロックの熱いビート、見せてくれよな!!」
トリッシュ班の中堅はコーラブラウンの彩りを持つアザレアの闘士テレーズ。身長180センチの大きな体に自らの祖国アザレアへの強き誇りと深き愛を宿す彩りの戦士だ。アザレア・ストリートファイトという自己流の格闘術を以て敵軍中堅ペイジに対峙していった。
「うひゃ~…随分とデカい図体だな…まあ、これなら適当に斧振ってりゃ片目瞑ってても当たるな!」
「おいおい、随分な御挨拶してくれるじゃねぇかよ…アザレアの誇り、たっぷりくらわせてやるぜッ!!オラァ!!」
「ウガアッ!こりゃ強いな…デカい図体は飾りじゃねぇってことか…」
「ボサッとしてんじゃねぇぞ!ライブはもう始まってるぜぇ!!」
「あがががっ!?」
熱く燃え盛るテレーズの心が拳をコーラブラウンに染め、ペイジに容赦なく襲い掛かる。面食らわせたテレーズは得意気に笑みを浮かべながら両掌をビンニー国の大地に突き付け、彩りの力を解き放った。
「アザレアの大地の力、存分に味わえ!リヴァプールビート!!」
「ぐおわっ!?な、なんだコイツは…!?」
「まだまだぁ!エイトビートで揺さぶってやるぜぇ!!オラオラオラオラァッ!!!」
「ぐああっ…あががががっ…!!」
『うおおおぉぉぉ~ッ!!』
ペイジの心さえも荒々しく揺さぶるテレーズのエイトビートは観衆を一気に沸き上がらせる。彼女が心から愛するアザレア王国の熱き魂の体現であるAKロックのリズムのように、コーラブラウンの彩りの力が熱く激しく唸りをあげていった。
「すごいわ!テレーズのビート、お腹まで響くわね!」
「素晴らしい…我らの祖国アザレアの熱い心が全身に伝わってくる!」
「ジーリョの言う通りね。テレーズはいつもアザレアのことを想っている…アザレアへの愛がテレーズの心を熱くするのね」
「そうだね、シェリー。テレーズの拳勢は僕にも参考になる…荒々しくも熱い拳、見事だね!」
「テレーズ、その調子です!我らアザレアの心意気、見せる時です!!」
アザレアの貴公子の声援に応えるように昂る彩りの力を両掌に集束させ、一気に解き放つ。既にテレーズのビートに揺さぶられフラフラになったペイジに向けて躊躇うことなく炸裂させた。
「アザレアの魂、ぶち込んでやる!ユーストンバーストッ!!」
「ぐああぁぁッ!!」
「そこまで!勝者、テレーズ選手!」
『うおおおぉぉぉ~ッ!!』
「よっしゃあ!アザレアの誇り、思い知ったか!!」
テレーズは歓声に包まれながら、己の闘志を昂らせていく。観衆がぎっしりと詰まったスタンドは沸き上がり、戦いの舞台であるアリーナはテレーズの彩りの力が燃え滾っていた。
「テレーズ、ナイスファイト!熱いBeat、ガンガン感じたぜぇ!!」
「おう、サンキュー!アンコールにも喜んでお応えするぜッ!!次、かかって来いッ!!!」
「…ふう。コイツは熱いねぇ…クラプトン、任せた!」
「…ああ。私に任せろ」
両手に籠手を嵌めた敵軍副将クラプトンが静かに闘志を燃やしながら戦いの舞台へと踏み出す。黒を基調とした服に身を包み、寡黙で落ち着いた印象を受けるが、闘技の舞台に立つ戦士としての意思が確かに赤々と胸の内に燻らせていた。
「おっ、アンタも拳で戦うってかい?それに良い目してるじゃねぇか!」
「…ああ。互いに手加減無しだ…フンッ!!」
「うおっと!?良い御挨拶してくれるじゃねぇかよ…オラァッ!!」
「クッ…!やるな…ならば私も…俺も遠慮なくいくぞッ!!」
テレーズと拳を一手交え、寡黙な雰囲気と籠手に秘めていたクラプトンの闘志が露になる。“私”だった一人称が“俺”に変わり、テレーズへの敵意を剥き出しにして襲い掛かっていた。
「フン!はあッ!」
「おお、熱いねぇ…オラオラァ!」
「うらああッ!くらええッ!!」
「クッ…ちょっと効いたぜ…!」
クラプトンの攻勢に押され始め、次第にテレーズは守勢に立たされる。剥き出しの荒々しい闘志をぶつけられ、気圧され始めていた。
「はああッ!!」
「チッ…コイツ、強い…!」
「でやあぁッ!!」
「させるか!ユーストンバースト!」
「チッ…!!」
テレーズの両掌で練り上げたコーラブラウンの彩りが炸裂する。クラプトンは間合いを離すが、今にもテレーズに飛び掛かろうとしている。2人は睨み合い、懐に飛び込むタイミングを伺っていた。
「やるな…アザレア王国の戦士さんよぉ…」
「フフッ、お誉めに預かり光栄だな…アタシは愛するアザレアのために、誇れる祖国のために戦っているんだ!」
「そうかい…誇れるもんがあって良いねぇ…だがな、それに囚われて足下掬われんなよぉ!?」
「グッ…!こンの野郎おおぉぉッ!!」
「ぬうぅっ!!」
テレーズは破壊衝動にも似た闘志を昂らせ、クラプトンに叩き付けていく。気圧されていた戦局はテレーズに傾き始め、釣り合いを取ろうとする天秤のように揺らめいていた。
「クソッ…手こずらせる奴め…たいした根性だ!!」
「…そいつはどうも。あいにくだけど、こっちも簡単に負けるわけにはいかないんだよなぁ…祖国アザレアの誇りに賭けてッ!!」
「フン、御大層なことだ。だが、その方がこちらも燃えるというものよ…!」
2人は燃える心に委ねるがまま、ボクシングのように殴り合う。依然としてクラプトンの優勢は変わりないが、テレーズも負けじと食らい付いていく。対するクラプトンも間違いなくダメージを受け、疲弊していた。
「テレーズッ!て、手強いな…とても格闘技をしそうには見えないのに…!」
「アタシとトリッシュも出番あるかもな…トリッシュ、気合い入れろよッ!!」
「へえ、やるなぁ…ヘンドリックス、お前の出番も近そうだな…」
「…ああ、そうだな。アイツらの力、見てるとこっちも燃えてくるぜ…フフフッ…」
(クソッ…どうするよ…?このまま近付いて殴るか、距離を取ってビートやバーストをくらわすか…)
(コイツ、なかなか倒れんな…もう一息のはずだが…ならば!)
先に意を決したのはクラプトンだった。勢い良く駆け出し、懐に飛び込もうとする。テレーズは迎え撃とうと彩りの力を両掌に練り上げる――だが――
「来るか…ブッ飛ばしてやる…ユーストンバースト――」
「うおおっ!?」
(し、しまった!遅かった…!)
「フン、自滅か…ならば、引導を渡すまで!そぉらッ!!」
彩りの闘気を至近距離で放ち、炸裂がテレーズ自身も巻き込んでしまった。クラプトンは爆風を掻い潜りながらとどめの一撃を見舞う。テレーズは表情に悔しさを滲ませながら、地面に叩き付けられて倒れた。
「クソッ…間合いが、近すぎたな…しく、じったか…」
「そこまで!勝者、クラプトン選手!」
「はあ…はあッ…クソッ…手こずったな…」
クラプトンも消耗する中、トリッシュ班中堅テレーズが奮戦の末に倒れた。トリッシュ班の面々がテレーズのもとへ駆け寄る中、2人の健闘を称える暖かい拍手が会場を包んでいた。
「悪りいな…トリッシュ、ミモザ、あとは頼むぜ…」
「テレーズ、ナイスファイトだったよ!アザレアの熱い心、ガンガン伝わってき たぜ!!」
「さ~て、アタシの出番だな!テレーズに負けないくらい、テラコッタの誇りを見せつけてやる!張り切っていくぜ!」
「…ミモザ、頼んだぞ!アタシらの熱いビート、アイツらに叩き込んでやろうじゃん!!」
トリッシュ班の副将を務めるのは黄色い鎧に身を包んだテラコッタの雷騎士ミモザ。かつては氷騎士サルビアと2人でテラコッタ領主廷の門番を務める一介の兵士だったが、ある日、自身が守る宮廷に住まう主君ローザによって突如として騎士に推薦された経歴を持つ。ミモザイエローの彩りを左手に耀かせ、目の前の戦いに挑まんとしていた。
「でぇやぁ!そぉらッ!!」
「うがっ!ク、クソッ…!」
「騎士たる者、仇為す者には手加減無しだ!くらええぇぇッ!!」
「ぐおおおっ…!」
ミモザは得物の槍と騎士の誇りを携え、疲弊していたクラプトンに一気に畳み掛ける。如何なる時も真剣勝負――何事も全力で向かい合うことを信念とするミモザの彩りの具現である雷の唸りが槍の矛先から駆け抜けていく。たとえ疲弊した相手でも手は抜かない――ミモザがいつも心に決めていることだ。
「我が祖国の迅雷の猛り、轟けえぇッ!!テラコッタ・サンダーファング!!」
「がはッ…!!」
「そこまで!勝者、ミモザ選手!」
「やりぃ!テレーズさんの敵を取ったぞ!!」
雷の牙でクラプトンを一閃したミモザは槍を振り上げて高らかに勝利を謳う。共に歩み続けるテラコッタの騎士達もミモザの勝利を嬉々として見届けていた。
「ミモザ…良かった…」
「サルビア…お顔が赤いのよ?お酒でも飲んだの?」
「パンジー、違うって…ホントにサルビアとミモザってアツアツだよなぁ…」
「さてさて、敵軍大将さんのお出座しだよ!気合い入れて行け行け~ッ!!」
「あっ、大将さんがコートを脱いだ…ええっ!?ま、まさか…!?」
「…ああ、奴も我らと同じ…祝福の彩りを持つ戦士だ!」
濃紺の外套を脱ぎ捨て、姿を現した敵軍大将に一行は驚愕する。左利き用のエレクトリックギターを携えた敵軍大将ヘンドリックスは女性だった。モノトーンのロックファッションに身を包み、ダークブラウンの髪を長めに伸ばし、左の頬には薄紫の稲妻模様のペイントを施している。ピックを構える左手の甲にはエレクトリックパープルの紋様が妖しく爛々と煌めいていた。
「よお、テラコッタの騎士さん…ほら、アタシも持ってんだぜ?」
「し、祝福の証…!!」
「その通り…さっきからコイツがウズウズして仕方ないんだよなぁ…楽しませてくれよおおぉぉ~ッ!!!」
「ううっ!?な、なんて恐ろしい奴…来るなら来いッ!!」
ミモザは突如として狂気を露にする敵軍大将ヘンドリックスに戦慄するが、すぐに己を奮い立たせて毅然と立ち向かう。トリッシュ班は狂える紫電の彩りの詩人ヘンドリックスを打ち倒し、勝利を掴むことが出来るのだろうか?
To Be Continued…