第13話『熱き闘魂』
シリーズ第13話目です。ごゆっくりお楽しみくださいませ〜♪♪
アイボリー国にて魔濤隊隊長アルニラム率いる魔物達を退けた一行は船に乗り、アズーロ合衆国のシーニー州に到着した。広大なアズーロ合衆国の東海岸地方の玄関口で、ミロリー海の大海原を抱いた海の都市が中心となっている。
「ここがアズーロ合衆国…こんなに人が多い場所は初めてです。私の故郷のジョーヌ国では信じられない光景ですね。」
「ええ、ここは大きな港もあって国外からの行き来も多いですもの。でも、ブルー州の都市部はもっと賑やかですわよ。」
「うおぉ〜っ!我が故郷であるアズーロの地、久しぶりッス!燃えてきたッス〜!!」
「えっ?テリー…アンタってアズーロ合衆国の出身?」
「その通りッス!だけど自分は内陸部のアクア州の出身ッスから、沿岸地域に来るのは大会のときくらいッス!」
「そうだったのか…じゃあ、早速ブルー州に向かおうぜ─」
「あああ〜ッ!!」
突如、叫び声が響く。その声の主はバイクに乗って一行の目の前に躍り出た。やや短めの黒髪に金髪のメッシュが入っており、着込まれた風合いのライダースジャケットには幾つもの鋲が打ち込まれている。サングラスを外した眼はただ1人だけを見つめていた。
「ようやく見つけた…テリー・フェルナンデス!!ここで会ったが100年目ッ!!」
「むむ、何やら穏やかじゃないッス…自分に何か用ッスか?」
「もう逃げても隠れても無駄だ!ウチと勝負しろ!」
「ふぇ?トリッシュ、どうしたの?いきなりテリーにケンカなんて…」
「おいおい、コレット…アタシ、こっちにいるけど…そもそもバイク乗ってないし。」
「テメェの天下もここまでだ!ギッタンギタンにしてやるから覚悟しろよな!」
「まあ…品が無いですのね。テリーさん、相手にすることありませんわ。ブルー州へはここから北東へ─」
「ルーシー、止めてくれるなッス!その勝負、乗ったッス〜!!」
「えっ!?テリー、勝負を受けるのですか…?しかし、こんな街中で拳闘は如何なものかと…」
「安心しな、絶好の舞台がある!明後日の午後1時、シーニーセントラルホールでシーニー州知事杯という格闘大会がある。そこで白黒着けっぞ!」
「のぞむところッス!うおぉ〜っ!!この旅での鍛練の成果、見せてやるッス〜!!」
「そうこなくっちゃなぁ!さっさと登録して、このジャンヌ・パンサー様に負ける覚悟決めとけよ!グッバイ!!」
ジャンヌと名乗る女性はバイクで颯爽と去っていく。あまりに唐突な出来事は一行を戸惑わせた。更にそれまで堂々とした様子だったテリーの表情が曇る。
「むぅ…みんな、すまないッス。ブルー州へ急がねばいかんのに…」
「ウフッ…よろしくてよ。私はテリーさんの勇ましい姿が見たいわ。」
「うん、ビアリーの言う通り!あたしも応援するよ♪」
「ビアリー様…クレア…」
「逃げるなんてテリーらしくないじゃん?ガツンとROCKなバトル見せてくれよ!!」
「テリー、あんた自身も戦いたいんだろう?それなら自分の気持ちに正直に向き合うのが一番さ。あたいは止めない。気が済むようにしな!」
「…よっしゃ!やってやるッス!会場までランニングッス!燃え上がってきたッス〜!!」
「あっ、ちょっとテリー!…まったく、火が着くとすぐにこれなんだから…」
「そうですね…私達もテリーのために出来ることをやりましょう。ああ、テリー!信号赤ですよ!!」
会場で出場登録を済ませ、宿に荷物を置くや否やテリーは外へ駆けていく。その瞳には熱き情熱と闘志がメラメラと燃え盛っていた。宿の前で繰り返しシャドーボクシングに打ち込む彼女のシルエットが街灯の光に浮かび上がる。
(負けられない…負けるわけにはいかないッス。共に旅路を歩み、共に祝福の使命を背負う我が戦友のためにも!)
「テリー、お疲れ様!」
「うおっ!カタリナ…どうしたッスか?」
「ご飯出来たよ。テリーが元気にトレーニング出来るように、ネイシアと私で腕にヨリをかけて作ったからね♪」
「なんと!?腹が減っては戦は出来ぬッス!早速食べに行くッス〜!!」
テリーはカタリナに連れられ、食卓に着く。何時間にも及ぶトレーニングで空腹だったのだろうか、料理を次々に口に運んでいった。
「ぬうおぉおぉッ!うまいッス!五臓六腑に染み渡るッス〜!!ムシャムシャ…ガツガツ…」
「お口に合ったみたいで何よりです。しっかり食べて頑張ってくださいね。」
「うおおっ、ネイシアの暖かな慈悲…感謝感激ッス!ムシャムシャ…ガツガツ…」
「いつもながらテリーはいい食いっぷりだねぇ!見ていて爽快ってもんさ!」
「うん…それはいいことだけど、ちゃんと噛んで食べるんだよ!どうも危なっかしいなぁ…」
テリーは夕食を平らげると、すぐに部屋に戻る。シャワーで汗を流すと、あっという間に眠り込んでしまった。夜の9時を少し過ぎた頃である。余りにも早い就寝に一行は驚きを隠せない。
「なあなあ、テリー姉ちゃんもう寝てるで?熟睡しとったわ…」
「そう…きっと明日も全力でトレーニングするのね。私達も出来ることを手伝いましょう。精霊よ、我らにご加護を…」
翌日の朝6時半、テリーは宿の周りをジョギングで駆ける。クレアが自転車で先導する後を黙々と走る。言葉を発することなく走る姿は静かに闘志を燃やすかのようだった。
「テリー、あと少しだよ!頑張って〜!」
(…我が戦友皆が自分を支えてくれる。この友情に応えるにはただ1つ、勝利あるのみッス!)
その後もテリーは鍛練に汗を流す。モニカ達も彼女の鍛練を親身に支えた。
「ほれ!腰が入っとらんぞ!しっかりせぃ!」
「むぅ…くあぁあッ!!」
朝も──
「これ以上重り足して大丈夫か?100キロ超えるぜ…?」
「構わないッス…うあぁあぁあっ!!」
昼も──
「はい!生卵買ってきたよ〜!」
「おお、コレット、感謝するッス!んぐ…んぐ…」
「これも…どうぞ。バナナと苺を…牛乳とミキサーにかけました。」
「うおおっ!リデルの特製ドリンク、うまそうッス!感謝感激ッス〜!」
夕方も──
「897、898、899、900…あと100回ですよ!」
「ハア…ハア…ぬうおぉあぁ〜っ!!」
夜も──
「テリーさん…よく鍛えられて素敵ですわよ。逞しいわ…ウフフッ…」
「むぅ…ビアリー様のマッサージ…体が…ほぐれるッス…zzzzz…」
「あら…きっと疲れていらしたのね。ゆっくりお休みになって、貴女の勇ましい姿を見せて…」
シーニー州知事杯当日。テリーは無言で闘志をみなぎらせている。セコンドにエレンを連れ、会場入りの時を迎えた。
「テリーさん、御武運をお祈りしますわ。」
「貴女ならきっと勝てます。これまでも、これからも共に歩み続ける私達が保証しますよ。」
「ルーシー、モニカ、みんな…行ってくるッス。」
「あとは私に任せといて。みんなは客席でテリーの勇姿を目に焼き付けるんだよ!」
リングインの時が来た。詰めかけた観客の熱気が波のように押し寄せる。
「青コーナー、テリー・フェルナンデス選手!!」
「テリー!頑張って〜!」
「負けんな〜!ぶちのめしてやれ〜!!」
「えっ…まさか…あのテリー・フェルナンデスかよ!?」
「うおおお!テリー・フェルナンデスだ!本物だ〜!」
「すごい…テリーって有名人なんだね♪」
「ああ…あのジャンヌって奴も知ってたよな。すげぇROCKだなぁ!」
凄まじい歓声がテリーを包む。一回戦とは思えない盛り上がりだ。観客の熱気がアリーナ全体に沸き上がっている。
「さあ、頑張ろう!…って、いつも通りで充分か。テリー、みんながついてるからね!」
「エレン…勝つッスよ。」
「ファイッ!!」
カ〜ン!
「うおぉらあぁっ!」
「ぐうおおっ…」
ゴングが鳴り響いた刹那、テリーの鉄拳が雄々しく唸る。対戦相手の男は為す術もなくマットに倒れ込んだ。
「KO!勝者、テリー・フェルナンデス選手!」
「テリーさん…輝いてるわ。素敵…」
「そうですわね、ビアリーさん。素晴らしかったですわ!」
その後、テリーは二回戦、準々決勝、準決勝と順調に勝ち進む。そして挑戦状を突き付けたジャンヌも口だけではなかった。
「KO!勝者、ジャンヌ・パンサー選手!」
「ヘヘッ、ウチに勝とうなんざ100万年早えぇんだよ!首を洗って待ってろ、テリー・フェルナンデス!!」
遂に決勝戦。奇しくもテリーとジャンヌが決勝の舞台で対峙することとなった。
「赤コーナー、テリー・フェルナンデス選手!」
「テリー…ここまで来たら優勝して欲しいわね。」
「大丈夫。きっと勝てます。天よ、我らに祝福を…」
(…絶対に勝つ。勝たねばならぬッス!負けられない…!)
「青コーナー、ジャンヌ・パンサー選手!」
「よく逃げずにここまで来たな。だがな、お前はウチの足下に這う運命だ!」
「………」
「チッ、だんまりかよ。まあ、いいや。このジャンヌ様が叩きのめしてやらぁ!」
「ファイッ!!」
ゴングが鳴り響き、2人を歓声が包み込んだ。テリーは歯を食い縛って真っ直ぐに左の拳を打ち込む。
「うおおああっ!」
「チッ、さすがだな…おらよぉ!」
「クッ、ううっ…」
ジャンヌの拳勢はテリーに勝るとも劣らないものであったが、どこか粗暴で粗雑な色合いだ。怒涛の勢いで荒々しく乱暴にテリーを討ち据える。
「テリー!慌てずによく見るんだよ!相手は力任せだから──」
「うおおらあぁ!」
「グウッ…!」
ジャンヌの拳がテリーを捉え、リングロープまで吹き飛んだ。しかし、テリーの闘志は失せておらず、烈火の如く飛び込んでいった。が、ジャンヌの拳勢に押し切られていく。
「ぐうっ…うあぁあぁあっ!」
「ヘヘッ、ハッハァ!!」
「うおあぁあぁっ!」
テリーは一度仰向けに倒れ、膝をついて立ち上がる。息も絶え絶えだが、その瞳に燃える闘志は消えていない。
「ハッ…まだ闘志を失わない眼…上等!本気出してやるよオラァ!」
「えっ、ジャンヌの左手…まさか…」
「ああ…間違いないぜ…!」
ジャンヌの左手がパンサーブラックに輝く。祝福の証の紋様だ。テリーは大きく眼を見開き、拳に強く力を込める。
(祝福の証…自分はこの力を、正しき武のために振るうッス!!)
「ヒュー♪お前もその印あるんだな!さすがはウチのライバル──」
「ぬうおおあぁ!」
テリーの左拳の一閃を受けたジャンヌの体が吹き飛ぶ。紋様を琥珀色に煌めかせるテリーの全身から凄まじい闘志が立ち上る。瞬く間に形勢が逆転し、ジャンヌは着いていくのがやっとだ。
「この身砕けようと!我が闘魂は不滅ッス!!これで決まりッス〜!!どりゃあぁあぁあッ!!」
「ぎゃあぁあぁッ!!」
「KO!勝者、テリー・フェルナンデス選手!」
リングに生まれた歓喜の輪にモニカ達も加わる。テリーの熱き闘魂がジャンヌの荒々しい拳勢に勝ったのであった。
「テリー、おめでとう。これでブルー州に気持ち良く迎えますね!」
「みんなに感謝ッス!さあ、いざブルー州へ──」
「テリー・フェルナンデス!これで勝ったと思うなよ!」
「またあんたかい!負け惜しみはいいから、さっさと帰りな!」
「グッ…ちくしょう!覚えてろ〜!」
「ふえ…あの人…結局だったんだろうね…?」
「まあ、テリー姉ちゃんが勝ったからええやん♪ほな、ブルー州に出発や〜!」
テリーの熱き闘魂はその焔を力強く燃やした。一路ブルー州に向かう一行。その絆を以て先に待ち受ける脅威にも打ち克つのだろうか…?
To Be Continued…