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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter6:闘技大会篇
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第128話『蛮勇闘技~vol.18~』

シリーズ第128話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

蛮族四天王が支配するビンニー国の闘技大会に挑む一行。持ち前の明るさと真っ直ぐな心で一行を盛り上げるクレア班の面々が戦いの舞台で躍動する。大将を務めるクレアは自らの父である敵軍大将チャールズに相対する。最初は家族として言葉を交わしていたが、戦いの火蓋が切られるや否や、互いに言葉を交わすことなく、力と力をぶつけ合っていた。



「えいやっ!てやあっ!」


「むんっ!はあッ!」


(パパ…やっぱり強いな…あたしはずっとこの力強さと逞しさ、勇敢さに憧れ続けているんだよね…)


(クレア、旅に出る前よりも間違いなく力を着けている…しばらく見ないうちに強くなったんだな…)



クレアは変わらない父の強さに想いを馳せ、チャールズは娘の確かな成長を感じ取っていた。変わらないものと変わりゆくもの――大将同士、親子同士の戦いは一行の心を揺さぶっていた。



「クレア…どんな気持ちで戦っているのでしょうか…」


「うん…闘技大会とは言え、まさか自分のお父さんと戦うことになるなんて夢にも思わないだろうね…」


「そうですわね、エレンさん。運命の巡り合わせとは奇妙なものですわね…あたくしがクレアさんの立場だったとしても、簡単に割り切れる自信がありませんわ…」


「そうじゃのう…現にクレア本人も割り切れておらんようじゃ。どうも動きがいつもより鈍いわい…」



チャールズとクレア――父と娘は戦いで語る。言葉を交わすことなくとも分かり合える。親子の戦いは否応なしに観衆の心を惹き込み、ただ沈黙のうちに注視させる。奇妙な静寂の中、2人はぶつかり合っていた。



「とうっ!えいやッ!」


「行けっ!当たれッ!」


「甘い!もっとよく見ろ!」


「ううっ…あわわ…」


(クレア…父さんはわかっているぞ…手加減するな!本気で来い!)



チャールズは敵軍大将として一心不乱にクレアに向かい合うが、クレアの心の澱みに気付いていた。クレアは彩りの力を使うことなく、チャールズに対し、“敵軍大将”として割り切れない想いを抱いていた。父である自分に本気で向かい合って欲しい――愛娘への募る想いは次第に苛立ちへと変わる。



「それっ!オラァ!!」


「うわわっ…!!」


「くらえっ!でやあぁ!」


「うあぁッ…!」



次第にチャールズの動きに乱暴な色合いが滲み始める。サバイバルナイフで切りつけ、容赦なくその場に蹴倒した。クレアは“父”である敵軍大将チャールズの荒々しさを帯び始めた攻撃に怯み、瞬く間に劣勢に立たされていった。



「クッ…!!」


「クレア、どうした!?これまでの旅で何を見てきたんだ!?まだ父さんには伝わっていないぞ!」


「……」


「一緒に戦う4人の仲間だって、クレアがこの旅で得た絆の賜物じゃないか。素敵な仲間達と歩んできた旅路はそんなに生ぬるいものじゃないだろう!?さあ、立ちなさい!!」


「…パパ…」



熱意のこもった父の言葉と荒々しくも勇猛な父の姿がクレアの脳裏に潜んでいた思い出を揺り起こす。己を奮い立たせる言葉に自然と体が動き、立ち上がる。劣勢に立たされているはずのクレアは何故か表情に微笑みを浮かべていた。



(思い出すなぁ…パパが連れていってくれたマルーン山…いつだってパパはあたしの前にいて、あたしはいつもパパの背中を見ていて…パパはあたしの憧れなんだ!そんな憧れの人が今、あたしと戦っている…勝ちたい!!)



クレアは闘技大会の舞台に追憶の幻覚を見ていた。眼前にマルーン山の山肌さえも鮮明に浮かび上がる。綺麗な景色を見に行こう、と父に誘われ、母の手作り弁当を持ち、父に手を引かれて行った、初めての登山――クレアが4歳の誕生日を迎えたばかりの頃、気持ちの良い秋晴れの青空だった。訳もわからぬまま、楽しそうという単純な理由だけで登り始めたが、4歳になったばかりの少女にとってはそんなに生易しいものではなかった。



『うえぇん…足が痛いよぉ…』


『クレア、泣くな。頂上まであと少しなんだから、もうひと頑張りだぞ?』


『もう歩けないよ…帰りたいよぉ…グスッ…グスッ…』


『ダメだ!途中で投げ出していては何も手に入らないんだよ。父さんはクレアと一緒に頂上まで登りたい。クレアなら絶対に出来るはずだ!さあ、立ちなさい!』


『…グスッ、グスッ…』


『クレア、立ち上がったな…よし、その調子だ!負けるなよ、絶対に!!』



父に促され、足の痛みを堪えながら前へ前へと歩を進める。我慢しながら1歩ずつ力一杯に踏み締め、遂に頂へと到達する。クレアの眼前には絶景が広がり、道中の疲れを瞬く間に吹き飛ばしていった。



『うわぁ~!すっごく綺麗!』


『ああ、綺麗だな。これがマルーン山の頂上から見た景色だ。世界って広いだろう?父さんはこんな風に世界の素晴らしさをみんなに教えるお仕事をしているんだよ』


『すご~い!パパ、カッコいいお仕事してるんだね!』


『ありがとう。父さんはこうして外に出て、マルーン山に登って、クレアにもこの景色を見せることが出来た。それが幸せなんだよ』


『そっか…よし、決めた!あたし、大きくなったらパパのお仕事のお手伝いをする!あたしもパパみたいに強くてカッコいい大人になる!』


『そうか、嬉しいな。クレアが大人になるのを父さんも楽しみに待ってるからね』



幼かった日の少女は訳もわからないまま、父の叱咤激励の言葉に従うがままだった。が、今のクレアには容易に父の真意が窺い知れた。父は自分に諦めずに前に進めば辿り着けるということを教えてくれた――父の言葉、父の想いがクレアの心の澱みを晴れさせた。



(そうだ…パパはいつも前を向いてて、あたしに大切なことを教えてくれた…パパの気持ちに応えなきゃ…いや、応えたい!応える!!)



クレアは眼に確かな闘志を宿し、ライフルの銃口を“敵軍大将”であるチャールズに向ける。左手の甲に印された銀色の紋様が輝き、彩りの力を解き放つ。父と紡いだ過去の思い出が優しくクレアの背を押し、迷いを断ち切った。



「メタルスピナー!」


「うおおっ!?こ、これは…!?」


「クレア…!!」


「迷いを断ったみたいね。精霊の力をお父様に…でも、きっとお父様もこれを望んでいたはずよ」


「Yeah!そうこなくっちゃ!!Rockにガンガンいこうじゃん!!」


「クレア姉ちゃん、その調子やで!ガンガン行ったれ〜!!」



クレアは闘志の燃え盛るがまま、躊躇うことなく引き金を引く。鋼の輝きが閃光となってチャールズに向けて一直線に駆けていった。



「ラスターシュート!!」


「うがっ…!」


「パパ…覚悟してね!!」


「クレア…!?」



クレアは銃口に父の想いに応えるという真っ直ぐな意思と共に彩りの力を込める。クレア自身の彩りである銀色と一緒に琥珀色の彩りも集束していた。



「うおおおッ!あ、あれは自分と2人で旅してた頃に編み出した秘伝の技ッス!!満を持して解禁ッス~!!」


「おお、前にテリーが見せたクレアの力と組み合わせた技の片割れか!良いねえ、燃えるねえ!!」


「クレア!その調子で畳み掛けるッス!お父さんに燃える闘魂を見せ付けるッスよぉぉぉ~ッ!!」



クレアはテリーの熱い言葉に昂り、胸の内の闘魂を滾らせる。眼前に立つチャールズは“父”ではなく、“敵軍大将”である――割り切れずにいた想いを断ち切った彩りの戦士は銀色の紋様を煌めかせ、銃口を向けた。



「煌めけ、閃光の弾丸!耀け、燃える闘魂!メタルシュート・ガッツバレット!!」


「うおおああぁぁッ!!」



銀色と琥珀色の彩りの力が燃え盛り、炸裂する。チャールズは銀色と琥珀色の入り交じった爆風に吹き飛ばされながら、愛娘の力を身を以て味わったことに対する満足感に浸っていた。



(強く、なったな…クレア…)


「…そこまで!勝者、クレア選手!この試合、クレア軍の勝利!!」


『うおおおぉぉぉ~ッ!!』



審判の声が沈黙を破り、歓声が怒濤のごとく押し寄せる。クレア班の仲間達が銀色の彩りの大将のもとに駆け寄る。クレアは仲間達に笑顔を見せているが、少しばかり後ろめたさを滲ませていた。



「クレア!ヤッタ、ヤッタネ!!」


「クレア、超強いじゃ~ん!やっぱり長く旅しているだけあるよね~!大将の意地っていうのも勿論あると思うけど、きっとそれだけじゃなくて――」


「イエーイ!クレア、ナイスファイト!!強いんだね~!!」


「クレア、すごいね!御父上を相手に迷い無き戦い…見事だったよ!!」


「クレア…本当に強くなったね。父さんに本気でぶつかってきてくれて、ありがとう。気持ちの良い勝負だったよ」


「パパ…パパ…!うわああぁぁん!!」


「よしよし、辛かったね…クレアは優しい娘だから、本当は戦いたくなかったってわかっていたよ。大丈夫、父さんはそんなにヤワじゃないさ。大丈夫だからね…」



クレアは父の胸にすがり付き、一頻り泣きに泣いた。戦いの後、チャールズは一行の前に挨拶に訪れる。1つの義勇軍とも言えるほどの大軍勢に目を丸くしていた。



「こんなにたくさんの仲間がいるんだね…驚いたなあ…どうも、クレアがいつもお世話になっております」


「モニカ・リオーネです。私達みんな、クレアの明るさにいつも励まされています!」


「そうか、良かった…クレア、1人1人との絆を大切に、気を付けて行っておいで!」


「うん、行ってきます!ところで、パパ…霊花グラナータって知ってる?」


「霊花グラナータ…?知ってるけど、どうかしたかい?」


「やりぃ、さすがはパパ!出来ればこの辺で採れないかな?」


「ええっ?この辺は乾燥地帯で多肉植物じゃないと生育しないから、ちょっと無理だろうなあ…何かに必要なのかな?」


「はい、私達の仲間のロゼルが秘薬レインボー・エリキシルの材料にと探しているんです。間違いありませんね、ロゼル?」


「…はい。魔物が原因の病気で目覚めなくなった姉を助けたいんです。7つの霊材の1つなんですけど…どこにあるのか見当もつかなくて…」


「7つの霊材!?それなら…!!」



ハッと目を見開いたチャールズはカバンの中から小さな石を取り出し、ロゼルに手渡した。澄み切った緑色をしており、吸い込まれそうな深みが感じられる。碧の石を手渡されたロゼルは訳もわからぬまま、ポカンとしていた。



「これは7つの霊材の1つ、グリーン・オリハルコンだ。小さいけど、薬の材料にするならこれくらいで充分足りるはずだよ。お姉さんの病気、早く治せるといいね」


「あ…ありがとうございます!!いただいて良いんですか!?」


「ああ、良いとも。困ったときはお互い様だよ。娘の仲間が困っているなら、私も出来ることで力になるよ」


「ありがとうございます!なんてお礼を言ったら良いのか…!!」


「やったね、ロゼル!パパ、たしかチョコラータ山に登るんだよね?気を付けてね!」


「ああ、クレアもみんなも気を付けて!良い旅を!!」



チャールズはチョコラータ山に登るべく、一行に笑いかけながら去っていった。屈託の無い爽やかな笑顔は娘クレアとよく似ている。クレア班の勝利で勢い着いた一行はチャールズを見送り、次なる戦いに挑まんとしていた。




To Be Continued…

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