第126話『蛮勇闘技~vol.16~』
シリーズ第126話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族の国ビンニー国にて闘技大会に挑む彩りの戦士達一行。一行を盛り上げる明るさとエネルギーに満ち溢れたクレア班が挑む相手はなんとクレアの父チャールズが率いる探検家の一団だった。思いがけない親子の再会に驚きながらも仲間達と共に父率いる一団に挑んでいく。クレア班先鋒のリンドは己の野生を昂らせながら敵軍次鋒フィリップに対峙していた。
「うおらぁっ!」
「ガウウゥ…!グルルルゥ…!!」
「どうした?かかってこい、ゴブリン!一気に仕留めてやる!」
「ガウウ…ウオオォッ!!」
「な、何いぃッ!?」
『おおおぉぉぉ~…』
「ええっ!?リ、リンド!?」
「これは驚いたな…ま、まさか…穴を掘るなんて…!」
観衆の見つめる前で驚くべき事態が起こる。リンドは闘技の舞台に穴を掘って地中に潜った。砂埃を立てながら瞬く間に地中深くへと潜っていき、土の中へと身を隠す。砂埃が晴れる頃には既にリンドの姿はなく、観衆全員が闘技の舞台にぽっかりと空いた大きな穴を呆然と見つめていた。
「リンド…会場に穴空けちゃったよ…」
「うっひゃ~、こりゃ豪快だね~!どこ行っちゃったんだろう…?」
「審判さん、ごめんなさい…穴空けて大丈夫ですか?後であたし達でちゃんと埋め直しますけど…」
「えっ?は、はあ…戦いの後のグラウンド整備は我々審判団の仕事ですので、その必要はないですよ…しかし、どうやって整備するんだ?土を持ち込んで埋めるか…?」
一方、奇策を見せつけられた敵軍次鋒フィリップは呆気にとられながらも緊張の糸を切らさぬように精神を研ぎ澄ます。いつ何時でも振るえるように得物の警棒を構えながらジッと地面を注視していた。
「クソッ、どこにいるんだ?特大モグラ叩きってわけか…早く出てこい!」
「グルルウゥッ!!」
「うわあッ!?」
リンドは砂埃と共に姿を現し、爪を剥き出しにしてフィリップに飛びかかる。フィリップは間一髪でかわしたものの、リンドは再び穴から地中に潜り、次々に奇襲を仕掛ける。闘技場の舞台はリンドの奇策で穴だらけになっていた。
「グオオォォッ!!」
「来るぞ!フィリップ、後ろだ!」
「そこか!もう逃がさないぞ!もらったぁ!!」
「ガウウゥゥッ…!」
「そこまで!勝者、フィリップ選手!」
見切ったフィリップに捕らえられ、打ち据えられてしまう。奇策も及ばず、リンドは敗れてしまった。クレア班の仲間達がリンドのもとへ駆け寄る。逸早くリンドに駆け寄ったクレアは友である野生の戦士に優しい眼差しを向けていった。
「クレア…ゴメンネ…」
「ううん…リンド、お疲れ様。あとは任せて、ゆっくり休んでね…」
「よ~し、アタシの出番だね!リンドの分も張り切っていっくぞ~!」
リンドが敗れ、クレア班は選手交代。次鋒を務めるのはマジカルゴールドの彩りを持つ太陽の魔術師リヒト。祝福の証の彩りを爛々と輝かせる光の魔法使いは気負いもなく普段通りの軽快な調子でフィリップの前に躍り出た。
「どもども、こんちは~!!フィリップさん、よろよろ~!!」
「あ、ああ…よろしく。杖を持っているということは魔法使いの類か――」
「イエーイ!よろよろ~!あの~、クレアのパパさんのお友達ってことはフィリップさんも探検家なんですか~?探検家って金銀財宝を見つけたり、未知の生き物を発見したり出来て面白そうですよね!それに“世界って広~い!”って実感出来るだろうし、何より仕事で旅行に行けるってなんか得した気分じゃないですか?いやいや、これだとオンオフの切り替えが出来ないから、もしかしたら損してるのかもしれないし、そこは人それぞれ価値観の分かれるところなのかも――」
「な、なんてよく喋る娘だ…あの…そろそろ始めないかい?」
「あっ、は~い!よろしくお願いしま~す!」
敵軍次鋒フィリップは気負いの無いリヒトのマシンガントークに面食らいながらも毅然とした態度で向かい合う。一気に駆け寄って間合いを詰めながらリヒトに向けて得物の警棒を振るっていった。
「せぇやっ!とうっ!」
「いっけぇ~!サンライズシュート!」
「うおっ!?やはり魔法を使ってきたか…!」
「ヘヘン、どうだ~!これが彩りの力、アタシの光の力だよ!この力はアタシの天性の才能と日々の積み重ねの賜物で――」
「隙あり!」
「痛ッ!?ひど~い!人が喋ってるのに遮らないでよね!もう怒ったんだから~!」
(…遮る遮らない以前に、戦いの最中にお喋りに夢中になる方がどうかと思うけど…やれやれ、やりにくいなぁ…)
フィリップはリヒトにペースを乱され、翻弄されるがままだ。沸き上がる観衆の中の一帯、客席で仲間達が見守る中で双子の妹ナハトが呆れたような表情で見つめていた。
「やれやれ、戦う舞台だっていうのに騒がしいったらありゃしないわ…あんなのが自分の双子の姉だなんて到底信じ難い…」
「ナハト、辛辣な言葉と裏腹に随分と嬉しそうな顔をしてるな。やはり血を分けた姉妹の絆は強いということか…」
「そうね、ゼータ。口では悪く言ってるけど、ナハトにとってリヒトはとても大切な人なんだと思う。貴女とリヒトの間で強い心の結び付きを感じるわ…そうでしょう?」
「フェリーナ…そうよ、わざわざ言うまでもないわ。あのお喋り娘の眩しすぎるくらいの明るさに何度も助けられてる…火傷しそうなほどに熱くて目が眩みそうほどに明るい、私の太陽よ」
ナハトは消え入りそうな声で呟きながらも双子の姉リヒトを愛しく想う言葉を口にしていた。言葉は辛辣だが、その実リヒトを大切に想っていることは容易に窺い知れる。共に生を受けた双子の妹が見守る中、リヒトはマジカルゴールドの彩りを耀かせ、躍動していった。
「そ~れ、隙ありっと!」
「し、しまった…!」
「勝利に向かってシュートッ!サンライズストライカー!!」
「うおわああぁぁッ!!」
「そこまで!勝者、リヒト選手!」
金色の光を球体を足下に煌めかせ、サッカーボールのようにフィリップへ蹴りつける。リンドを破った敵軍次鋒に打ち勝ったリヒトは太陽のように晴れやかな笑顔を見せていた。
「やったね、リヒト!その調子だよ~!行け行け~!」
「イエーイ!クレア、ありがと~!勝っちゃったよ~!リンドに勝った人だし、強そうだと思ったけど、なんとかなるもんだね~!案ずるより産むが易しってやつ?それともやっぱりこうしてクレアをリーダーにして5人で一緒に戦うことがアタシにとってエネルギーになっているのかも――」
「アハハ…よく喋る娘だなぁ…エドワード、頼むよ!」
「……」
敵軍中堅はエドワードという寡黙な印象を受ける仏頂面の男だった。手斧を携えながら前に歩み出ると、言葉もなくいきなり斧を降り下ろしていった。
「でやぁ!オラッ!!」
「うわわっ!こりゃまたパワフルな戦いですね~!やっぱり険しい山を越えるにはこれくらい筋肉を鍛えて――」
「うるせぇ!俺はテメェみたいなガキがペチャクチャ騒いでるのを見るとムカつくんだよ!ここは喫茶店じゃなくて戦う場所なんだから戦いに集中しやがれってんだ!」
「うう…そんなぁ…」
「やれやれ、エドワードは血の気が多いし、神経質なきらいがあるからな…確かにあの娘は苦手なタイプかもしれないけど…」
「うわわ…怖そうな人だなぁ…リヒト、頑張って!」
エドワードにけんもほろろに突っぱねられ、リヒトは意気消沈。荒々しく斧を振るうに瞬く間に守勢に立たされ、後手に回るばかりだ。太陽のような明るさのリヒトのいつもの晴れやかな表情は焦りと落胆と不安に翳っていた。
「…サ、サンライズシュート!」
「ケッ、そんなへなちょこ球、当たるかよぉ!」
「うえぇ…ヤ、ヤバい…!」
「くらええぇッ!!」
「うわああッ!!」
「…フン、魔法を使うからちょっとは出来るかと思っていたが、ただのお喋りなガキじゃねぇかよ!とっととお家に帰って、ママとお喋りしてな!」
「ど、どうしよう…これ、めっちゃピンチじゃん――」
「うおわぁッ!?だ、誰だ!?」
リヒトの後方から紫の球体が駆けていき、エドワードの得物を弾き飛ばす。その術の主は客席にいたはずのナハトだった。物音さえ立てずにいきなり現れた闇の魔術師の姿は敵軍中堅エドワードと観衆を騒然とさせた。
「えっ…ナ、ナハト!?」
「リヒト…まったく、いくつになっても騒がしいし落ち着きがないわね…でも、私にとってかけがえのない家族で、同じ日に生を受けた双子の姉…私にとって誰より大切な人であるリヒトを否定する奴は絶対に許さない…!」
「か、家族…!?こんな根暗なガキがこのお喋りなガキの妹かよ…!」
「根暗なガキとお喋りなガキで結構よ…リヒトを馬鹿にするなら私が相手になるわ――」
ピピピピッ!!
鋭く笛の音が響き、ナハトを現実に引き戻そうとする。が、ナハトの視野には敵対するエドワードしか入っていなかった。強張った表情の審判に少々強引に引き離され、ようやく事態を把握する。だが、時既に遅し――
「第三者の介入により、リヒト選手を反則負けとします!勝者、エドワード選手!」
――リヒトの反則負け、非情な宣告がナハトの思考を停止させ、呆然とさせる。ナハトの表情を黒き落胆に染め、影を落としていった。
「リヒト…ごめんなさい…私のせいで負けてしまったわ…」
「…ううん、ありがと。アタシのこと、大切だって言ってくれて嬉しかったよ!アタシもナハトのこと、だ~い好き!!」
「や、やめなさい…こんな公衆の面前で抱き着くなんて、恥ずかしいわ…」
「リヒト、ナハト、お疲れ様。あとはあたし達が頑張るから、みんなと一緒に見てて!」
「クレア…リヒトのためにも、負けないで。頼りにしているわよ」
「ナハト…うん、任せて!グラーノ、次お願い!」
「オッケー!力合わせて絶対クレアのお父さん達に勝とうね!」
姉妹の想いをクレア達に託し、リヒトは後ろへと下がり、ナハトは客席へと戻っていった。クレア班の面々は毅然とした意思でチャールズ率いる一団へと立ち向かっていく。中堅を担うグラーノが勇んで前へと飛び出していった。
To Be Continued…