第124話『蛮勇闘技~vol.14~』
シリーズ第124話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族の国ビンニー国の闘技場で彩りの力を振るう彩りの戦士達一行。己の格闘術を得物とするテリー班の前に祝福の証を持った敵軍副将ロゼルが立ちはだかる。妖精の名を冠した彩りの力を振るい、テラコッタの闘騎士ランディニを瞬く間に討ち、一手さえ打たせないまま退けた。テリー班の副将を務めるキャロルは敵軍副将ロゼルに対し己の得物である拳を猛々しく振るう。力強くも洗練された美しい拳技は白き貴公子キャロルの誇り高き意思を体現していた。
「はあッ!そぉらッ!!」
「ううっ…い、痛い…!」
「それッ!てやぁッ!!」
キャロルが素早く華麗な拳撃を見せつけ、自らのペースに持ち込む。疾駆の拳閃が闘技の舞台を駆け抜けるが、対するロゼルは必死に念じている。彩りの力は妖精の盾の名を冠し、弱々しくも毅然とした意思でキャロルに抗ってみせた。
「た、助けて…ニュンフェ・シルト!」
「な、何ぃッ!?」
「なんと!?キャロル先輩が吹っ飛ばされたッス!」
「ワハハハ!だからお前達はロゼルには勝てないと言っただろうが!!」
「そうはいかないさ!たとえ勝ち目がないと知っていても、僕だって黙って負けるわけにはいかないんだ!!」
「何ッ!?と、飛んだ…!」
キャロルは虚空を舞いながら疾風の拳を唸らせる。アザレアの白き貴公子の誇りを乗せた拳勢はピュアホワイトの彩りになり、疾風の刃となって具現化していた。
「受けよ、疾風の拳閃!ケンブリッジ・ナックル・ヴェント!!」
「キャアアッ!」
「クッ、小癪な真似を…!ロゼル、怯むな!!」
「ま、負けない…ニュンフェ・リュストゥング!」
「うわああッ!!」
「ガハハ!綺麗な薔薇にはトゲがあるんだよ!やられたらやり返す、倍返しだ!」
「ひょええ…!あの娘の傷に反応して、ビームが飛んできた…!」
「ロゼル…虫も殺さなさそうな顔して、えげつない攻撃しやがる…!」
「なんと恐ろしい御技か…親愛なる同志キャロルよ…武運を祈るッ!!」
「キャロル先輩ッ…!!」
妖精の鎧の名を持ちて反撃するロゼルは攻めにも守りにも隙がない。が、対するキャロルもやられ放題のままで黙ってはいない。忙しなく間合いを詰めようとするロゼルの動きを落ち着いて見通していた。
「貫け…ニュンフェ・ランツェ!!」
「近付いて来る…ならばこちらも倍返しだ…せいやッ!!」
「いやああッ!!」
『うおおぉぉ~ッ!!』
「何ッ!?あの距離からクロスカウンターだと!?小賢しい…!!」
目には目を――倍返しには倍返しを――分の悪い相手にも臆することなく颯爽と拳を打ち込む白き貴公子の姿は観衆を魅了し、客席で見守る仲間達の心も否応なしに熱くしていた。
「…キャロルさん、カッコいい…」
「フフッ…コレット、顔が赤いわよ?でも、いつにも増して動きが格段に良いのは間違いないわね」
「そうね、シェリー。キャロルはあんな金満オヤジの手下に負けるはずないわ!」
「ああ、このビンニー国の闘技の舞台を汚す不遜な輩に負けはしないさ!我らはキャロルを信じるのみ!」
「ジーリョの言う通り。我らアザレアの誇りはあんな無粋な奴に汚すことは出来ない。キャロルなら勝てます!」
「よ~し、いいぞいいぞ!キャロル、そのままぶちのめしてやれ!」
「よし、まだまだいくよ!エアリアル・ペガサス・アッパーカット!」
(痛い…でも、負けたくない…いや、負けない…!!)
ロゼルは宙を舞いながらキャロルの拳閃を辛うじて受け流し、意識を腕輪に集中させる。彩りの力を込めて念じると、腕輪がローズピンクの閃光を放つ。妖精の名を冠した剣、槍、斧――数多の刃の雨が仇なす者に容赦なく降り注いでいった。
「舞え、妖精の刃!ニュンフェ・クリンゲ・コンビネーション!」
「何ッ!?マズい、空中じゃ防げない…!!」
「これが妖精の刃です…覚悟してください…!」
「クッ、しまっ、た…!」
「…そこまで!勝者、ロゼル選手!」
『Boo~!Boo~!!』
『ふざけんな~!!』
『引っ込め、成金オヤジ~!』
キャロルは健闘も虚しく妖精の刃に切り裂かれ、敗れてしまった。ロゼルの彩りという名の虎の威を借り、我が物顔で闘技場を牛耳らんとする敵軍大将ハセに対する不満が充満し、観衆のブーイングが場内を包む。ビンニー国の民の娯楽の場であり神聖なリングでもある闘技の舞台には悲しい負の感情が満ち溢れていた。
「ガハハハ!弱い弱い!お前達を倒し、蛮族四天王を倒し、このハセ様がビンニー国を支配してやるぞ!!」
「テリー、すまない…僕としたことが…」
「キャロル先輩…大将である自分が奴に正義の拳を叩き込むッス。キャロル先輩とランディニさんの敵、絶対に討ってみせるッス!!!」
「フン、その威勢がいつまで続くか見ものだな!ロゼル、コイツを倒して終わらせるぞ!」
「…はい、頑張ります…」
(ロゼル…こんな腐った奴の言うことを聞かされて、かわいそうッス…自分が絶対に救ってみせるッス!)
罵声を浴びる大将ハセに対し、副将ロゼルは文句を言うこともなく愚直に従い続けている。テリーは敵軍副将であり彩りの戦士の1人であるロゼルを悪の呪縛から解き放つべく、熱い想いを込めた己の拳を叩き込んでいった。
「そぉら!根性の右ストレートォ!!」
「クッ…」
「うおおぉ!チェストッ!!」
「ううっ…!!」
テリーは胸中の闘志を赤々と燃やし、一気呵成の勢いで琥珀色の闘気を纏った拳を叩き込む。対するロゼルはキャロルとの一戦の疲れもあってか、テリーの猛り狂うような闘志を前に受け止めるのが精一杯だ。
(やはり…思った通りッス。この娘は自分自身の意思で戦っていないッス!これなら自分は負けないッス!!)
「……」
「どうした、ロゼル!?動きが鈍っているぞ!?こんな脳味噌まで筋肉の奴、さっさと倒してしまえ!!」
「ガッツナックルッス!」
「クッ…!」
テリーは拳で練り上げた琥珀色の闘気を叩き付けるが、ロゼルは顔色1つ変えない。テリーの表情に焦りが滲み始めるのを見るや敵軍大将ハセは見下した眼差しを突き刺し、嘲り笑ってみせた。
「なんと!?き、効かないッスか…!?」
「ガハハハハハ!お前の暑苦しい技などロゼルには効かん!!さあ、ロゼル、仕留めろッ!!!」
「妖精の、刃…その名を持ちて出でよ…!」
(ま、マズいッス…キャロル先輩がやられた技が来るッス…!)
目の前でキャロルが討たれた彩りの刃が自らに向けられる。副将キャロルに牙を剥いた彩りの力が否応なしに脳裏を過り、一気に焦燥に駆られていった。
「さあ、覚悟するが良い!このハセ様の前に跪くのだッ!!」
(こうなったら…“アレ”を使うッス…奥の手ッス!)
テリーは琥珀色の闘気を一点に込めて練り上げる。熱い想いを集中させる両掌には琥珀色と同時に銀色の彩りが入り交じって練られていた。
「あっ…あれはまさか…!?」
「クレア、知ってるのか?俺は初めて見る技なんだけど…」
「うん…あたしと2人だけで旅していた時に一緒に編み出した技なんだ!ここぞという時に使う“とっておき”にするって言ってた…」
「素晴らしいわ…クレアとテリーの精霊の力と絆の力が生み出した技なのね」
「うん!だからきっと大丈夫!テリー、頑張れぇぇ!負けないでぇぇッ!!」
クレアの声援が耳に届き、テリーは一気に闘志を昂らせる。燃え盛る琥珀色の闘気と爛々と煌めく銀色の闘気はテリーの真っ直ぐな意思を体現するように敵軍副将ロゼルに向かって一直線に飛んでいった。
「昂るは鋼の魂、唸るは鋼の拳、受けてみるッス!ガッツバースト・メタルナックル!!」
「キャアアァァッ!!」
「…そこまで!勝者、テリー選手!!」
『うおおおぉぉぉ~ッ!!』
テリーの意思を体現する鋼の魂がロゼルを吹き飛ばした。切り札とも言える副将ロゼルを撃ち破られた敵軍大将ハセは憤りに顔を赤く染め、怒りに任せて罵詈雑言を投げつけた。
「くうぅ~ッ!!役立たずどもめ!!カール、フリッツ、ベイダー、ロゼル!お前達全員クビだ!!クビッ!!!!」
「そ、そんな…!ハセさん、ごめんなさい…!」
「謝って済むなら警察は要らん!お前など――」
「兎神脚ッ!!」
「あぎゃっ!?」
石竹色の闘気がロゼルを打ち据えようとハセが振り上げた杖を弾き飛ばした。勢い余って転んだハセが砂埃を払って辺りを見回すと、テリー班の5人が全身に怒気を纏って取り囲んでいた。
「さ~て、副将が倒れたなら大将の出番ッス!降参は絶対無しッスよ!!」
「ひっ、ひええ…お、俺が悪かった…か、金ならある…いくらでもやるから、許してくれぇ…!!」
「ケッ、テメェなんかに貰った金なんて、一文の値打ちにもなりゃしねぇよ!」
「悪は絶対に許さないんだから!ラパン流の正義のキック、た~っぷりと味わわせてやる!!」
「貴様の海よりも深き業、金品などで精算されるものではないッ!!覚悟するが良いッ!!!」
「よくもビンニー国の神聖なリングを私利私欲で汚してくれたね…ご退場願おうか!」
「とどめ行くッスよ!覚悟するッス~!!」
テリーが先陣を切るのに続いて、仲間達もそれぞれの武を惜しみ無く振るう。ヤートの荒々しい毒の拳、ラパンの軽やかな蹴り、ランディニの唸る剛拳、キャロルの華麗な疾風の拳、テリーの燃え盛る闘魂の拳――5人それぞれの色を正義の鉄槌として敵軍大将ハセに叩き込んでいった。
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!オラァァッ!!!!』
「ふぎゃあああぁぁッ!!」
「…あ…えっと…ゴホン、こ、この試合、テリー軍の勝利!!」
『うおおおぉぉぉ~ッ!!』
テリー班の5人が猛ラッシュを叩き込んで陰険な敵軍大将ハセを遥か彼方に吹き飛ばし、会場は一層の大歓声に包まれた。テリーは悪しき呪縛から解き放たれた敵軍副将ロゼルの手を引き、自らの輪に引き入れる。勝利の象徴と言える歓喜の声と爽やかな笑顔が闘技場の舞台を彩っていた。
To Be Continued…