第123話『蛮勇闘技~vol.13~』
シリーズ第123話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族の国ビンニー国の闘技場で躍動する彩りの戦士達。彩りの拳や脚を得物とする格闘家の集うテリー班の次鋒ラパンが敵軍次鋒のフリッツを撃ち破り、観衆を沸き上がらせていた。
「よっしゃあ!勝った勝った~!!」
「ラパン、その調子ッス!闘魂燃やしてガンガン戦うッス~!!」
「フン、そいつはどうかな ?次はこのベイダー様が相手だああぁぁッ!!」
立ち上がるや否や、アミィ班の先鋒を務めた巨兵ヴァインの時と同じような地響きが起こる。敵軍中堅はベイダーという名の巨大な男だった。彼も武器は持たず、自身の拳を得物としている。ラパンは目の前に立ち塞がる大男に臆することなく、彩りの格闘術を以て毅然と立ち向かっていった。
「うおおぉぉらッ!!」
「それっ!脱兎脚!」
「あがッ!!」
「イエーイ!こっちだよ~っと♪」
「ぐぬぬ…このチビが!調子に乗るなよ!!」
「やっほ~い!どうしたどうした~!」
ラパンはフリッツ戦の勢いをそのままに、己の脚武術に得意の挑発を織り交ぜてベイダーを引っ掻き回す。が、ラパンの倍はある巨体を誇るベイダーの腕力に次第に押され始めていった。
「ウオォラァッ!!」
「うわわあっ!?つ、強い…痛いなぁ…」
「ガハハハッ!!覚悟しやがれ!踏み潰してやるぞぉ!」
(ま、マズい…こうなったら…これほど体格差のある奴が相手なら…やはり私の必殺技を使わざるを得ない!!)
劣勢に立たされたラパンは石竹色の闘気を練り、ベイダーに向けて解き放つ。彩りの気を高めるラパンの姿は観衆の視線を再び一点に集めており、会場の空気が一気に張り詰めていった。
「いっけぇ!兎神きゃああくッ!!」
「グッ!…あ、あれ…?」
張り詰めていた会場の空気が一気に弛んだ。ラパンが練り上げた闘気はベイダーのもとに到達する前に消えてしまった。ラパンの彩りの闘技で観衆を沸き上がらせるはずが、あろうことか闘技の緊張感とは正反対の爆笑の坩堝と化してしまっていた。
『ワハハハハハッ!!』
「テメェ!さっきからオレのことバカにしてんのか!?ふざけてんじゃねぇぞ!!」
「ひいぃっ…そ、そんなぁ…!」
「オラオラァ!!」
「ぎにゃああッ!」
業を煮やしたベイダーは丸太のような腕を振り上げ、ラパンを乱暴に打ち据える。更に立て続けに喉元を鷲掴みにし、振り回して天に向かって投げ飛ばした。
「うおおぉりゃあッ!吹っ飛べええぇぇッ!!」
「参りましたぁぁ~ッ!!」
「そこまで!勝者、ベイダー選手!」
『ワハハハハハッ!!』
ラパンはベイダーに軽々と投げ飛ばされ、呆気なく敗れてしまった。観衆の笑いが沸き起こる中、テリー班の仲間達は目を回して仰向けに倒れるラパンのもとへ苦笑いを浮かべながら集結していた。
「ラ、ラパン…大丈夫ッスか?」
「あうう…か、完敗です…」
「親愛なる同志ラパンよ!敗れはしたが勇敢な戦い、見事であった!!あとはこの私に任せておけえぇッ!!!」
テリー班の中堅は琥珀色の鎧テラコッタの騎士ランディニ。かつては棍棒を得物としていたが、“同志”として互いを認め合ったテリーに触発されて己の拳を鍛え上げ、騎士でありながら格闘を本分とするようになった。また、テリーの影響は相当強かったのか、愚直なほど硬派な求道者だった性格までも変わり、凄まじいほどの熱血漢になった闘騎士だ。ケイブブラウンの紋様を持つ熱き闘騎士は荒ぶる闘志を携え、己の拳への誇りを燃やしながらベイダーに対峙していた。
「んん〜?鎧を着てるってことはお前、騎士か…?」
「ご名答!私はテラコッタの騎士ランディニ!いざ、尋常に参るぞ!我が祖国テラコッタの誇り、我が祖国テラコッタの拳、心してくらうが良いィィッ!!」
「う、うるっせぇ奴だ…とりあえずブッ飛ばしてやる!!」
ランディニとベイダーは互いに重厚な拳をぶつけ合う。ケイブブラウンの彩りの闘騎士の真摯な熱い想いを込めた拳は闘技の舞台で熱く荒々しく躍動していた。
「でやあぁッ!!」
「グフッ!むぅおおぉぉッ!!」
「グッ…くらええぇッ!!」
激しいランディニの拳が唸りをあげ、ベイダーに襲いかかる。武勇を誇る闘騎士の戦いの咆哮は共に歩むテラコッタの騎士達の心も熱く揺さぶっていた。
「ランディニ…テリー殿と出会ってすっかり別人になったな…」
「そうだな、マリー様…人間ってこんなに変わるもんなんだな!」
「ええ、正直驚いたわ。テリーさんとの出会いと絆がランディニの中に眠っていた情熱を呼び覚ましたのね」
「うんうん、前の寡黙なランディニ様もクールで素敵だったけど、今のランディニ様も熱血でカッコいいよね!」
「そうですわね、エーデルさん。ランディニ様の勇猛果敢な戦い、見ているこちらも熱くなってしまいますわ!」
志を共にする格闘家テリーとの絆と共に磨きあげたランディニの燃える闘魂が巨漢のベイダーを相手に炸裂する。熱き闘騎士ランディニは情熱のエンジンをフル回転させ、猛々しく吼えながら目の前の相手に拳を振るった。
「そぉらああぁぁッ!!」
「ぐえっ!つ、強えぇ…!!」
「さあ、いくぞ!!我らがテラコッタの武勇こそ!!!世界一イイイィィィッ!!!!」
ランディニの闘魂がケイブブラウンの彩りと共に燃え盛る。琥珀色の鎧を身に纏う闘騎士の左手の甲から迸る火傷しそうなほどの熱気は彩りの力となって具現化した。
「我が祖国の誇り、受けてみよぉ!テラコッタ・ガッツバーストォォッ!!」
「がああああッ!!」
「そこまで!勝者、ランディニ選手!」
「よっしゃああぁぁァ!!我がテラコッタの武勇こそ!!世界一イイイィィィッ!!!!」
『うおおおぉぉぉ~ッ!!』
ランディニの闘志みなぎる拳はベイダーを一閃した。ランディニの熱き闘魂が飛び火したのか観衆も沸き立っていたが、熱戦に水を差す輩が現れる。敵軍大将を務めるハセという名の男だ。これまでに戦ったカール、フリッツ、ベイダーの3人とは異なり、仕立ての良いスーツに身を包んだ痩身の男で、闘技の舞台にはおよそ似つかわしくない風貌だ。敗れたベイダーに蔑んだような眼差しと口汚い罵詈雑言を突き刺す姿は共にチームで戦う仲間を仲間とも思っていない陰湿な印象を受ける。
「何をやってるんだベイダー!そのデカい図体は飾りか!?この木偶の坊め!!」
「な、なんだって!?お前、仲間に対してなんてことを!?」
「フン、知ったことか。このチームの4人は俺が金を出して雇ってやっているんだぞ?無様な負けをさらすなんて給料泥棒同然だ!」
「テメェ、仲間を金で飼い慣らしてるつもりか?ふざけたおっさんだな!」
「ヤートの言う通りッス!仲間の努力を踏みにじるなど断じて許さんッス~!!」
「フン、なんとでも言うがいい。負け犬はせいぜいそこで吠えていろ!…まったく、どいつもこいつも使えない奴らだ…まあ、脳味噌まで筋肉のお前達はウチの副将ロゼルには絶対に勝てんがな!さあ、ロゼル、蹴散らしてしまえ!」
「…はい、ハセさん。力を尽くします」
仲間達の健闘を踏みにじる陰険な敵軍大将ハセに促され、前に躍り出た敵軍副将はロゼルという名の可憐な少女だった。鮮やかなピンク色の髪を長く伸ばし、可愛らしいラベンダー色の衣装を身に纏い、両腕には可愛らしいデザインの腕輪を装着している。前に登場した仲間の3人と比べ遥かに華奢で小さな左手にはローズピンクの紋様が印されていた。
「な、なんと!?これは驚きッス!!」
「し、祝福の証だ…!」
「ヒヒヒ…驚いたか?“金持ち喧嘩せず”という言葉通り、俺には戦う力などない。だが、ロゼルがいれば大将の俺には絶対に回って来ないのだ!」
「戦う力がないだと!?だったらなんで闘技大会に出てるんだ!?バカにしやがって!!」
「ここは任せろ、親愛なる同志ヤートよ。戦いを侮辱するとどうなるか、このランディニが分からせてやるッ!!」
「フン、とことん頭の悪い奴らだ…ならばその身を以て味わうが良い!ロゼル、あとは任せたぞ!」
「なんの!何をするつもりかは知らぬが、このランディニの敵ではないッ!!道を誤ったロゼルという名の可憐で薄幸な少女よ!今、このランディニがお前を悪の呪縛から救い出し、正しき道へ導いてやるぞぉぉッ!!」
敵軍副将ロゼルは小さく頷くと、両手を胸の前に構える。可愛らしい装飾の腕輪が煌めき、小さな両手がローズピンクに染まるや否や、柔らかな煌めきを帯びた彩りの刃がランディニにいきなり襲いかかった。
「参ります…!ニュンフェ・ランツェ!」
「ぐおっ!?な、何いいぃぃッ!?」
「ワッハッハッハ!そぉら見たことか!!」
虫も殺さなさそうな可憐な容貌とは裏腹に、その彩りの力はテリー班にとっておぞましいほどの脅威となっている。ロゼルは体に触れることなくランディニを妖精の槍の名を謳う彩りの術で打ち伏せ、蹂躙してみせた。己の格闘術を得物とするテリー班は相手に近付けなければ何も打つ手がない。敵軍大将のハセが自信を持って送り出すのも頷けるほどに闘騎士ランディニを手玉に取っていた。
「だから言っただろう!?やれやれ、やはり愚か者は痛い目を見ないとわからんようだな…ロゼル、遠慮するな!お前の力をもっと味わわせてやれ!」
「はい…切り裂け!ニュンフェ・デーゲン!」
「うぐあッ…がはッ…!!」
ロゼルは躊躇うことなく彩りの力――妖精の剣を振るい、一方的に畳み掛ける。自らに近付くことも出来ないまま苦境に立たされたランディニを一閃する刃は妖精の斧の名を冠して具現化するローズピンクの彩りの力だった。
「これで決めます…!ニュンフェ・アクスト!」
「ぐああッ!!最早これまで…み、見事だ…!」
「そこまで!勝者、ロゼル選手!」
あまりにも一方的で呆気ない決着に観衆は全員唖然としていた。自らの目の前に倒れるランディニを決まりの悪そうな表情で見つめるロゼルを尻目に、後方で高みの見物を決め込んでいた敵軍大将ハセは下品な笑い声をあげながらランディニを指差して嘲り笑っていた。
「ガッハッハッハッ!弱い奴が這いつくばるのを見ているのは気分がいいな!いい気味だなぁ、テラコッタの騎士め!せいぜい俺が世界一の億万長者になるのを指を咥えて見ているんだな!ギャハハハハッ!!」
「クッ…敬意を払うべき仲間と相手を踏みにじり、神聖なリングを汚し、彩りの力を私利私欲のために利用するなんて…なんて卑劣な奴だ!絶対に負けるものか!」
「キャロル先輩…自分達で奴を成敗するッス!!アイツは絶対に許せんッス!!」
「ああ、任せてくれ。僕もアイツの酷い態度にハラワタが煮え繰り返っている!ロゼルを倒し、ハセを倒そう!!」
テラコッタの闘騎士ランディニが敗れ、選手交代――テリー班副将を務めるのは純白の拳闘士キャロル。テリーの先輩であり、プロの格闘家であり、アザレア王国の平和を守る彩りの貴公子の1人でもある。闘技場という神聖なリングで向かい合い、敬意を払うべき対戦相手に対して負の感情を抱くことは不本意ではあったが、自らの誇りを汚す敵軍大将ハセへの怒りを胸の内に燃やしていた。
「行きます!ニュンフェ・ランツェ!」
「遅い!オックスフォードブロー!!」
「キャッ!い、痛い…!」
「…すまない。僕は君に恨みはないが、君の雇い主には心底腹が立っているんだ。悪いけど、本気でいくよ!」
「いやっ…い、いじめないで…!」
普段は紳士的で爽やかな白き貴公子キャロルはロゼルが目に涙を溜める姿を一顧だにせず、珍しく怒りを露にして拳を振るう。果たして妖精の力を操るロゼルを相手に勝算はあるのか?テリー班は正義の拳で卑劣な敵軍大将ハセを討つことが出来るのだろうか?
To Be Continued…