第113話『蛮勇闘技〜Vol.3〜』
シリーズ第113話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
蛮族の国ビンニー国の闘技場は観衆の熱気で沸き上がっている。モニカ班の中堅ルーティと敵軍の副将ボアが1対1で対峙していた。
「カンタベリーバレット!」
「ゲッヒヒィッ!さすがゴートに勝っただけのことはあるなぁ!ゲヒヒッ、これでもくらえぃ!」
「遅い!そんな攻撃、目を瞑っていても避けられるわ!」
ボアの鈍重な動きはルーティを捉えるには少々遅すぎるようだ。オペラピンクの爆炎は昂るルーティのボルテージと共に紅く熱く燃え上がり、ボアに容赦無く襲いかかっていく。
「燃えろ!チャートウェルキック!」
「ゲヒッ!ブヒヒッ!」
「さ〜て、ポークソテーになる覚悟はいい?こんがりと焼いてやるわ!」
「よっしゃ!ルーティ、ブッ飛ばしてやれ!」
「銃身に強大なエネルギー反応…ルーティ様の戦闘エネルギー、最大値を更新!!」
「ルーティ…!!」
仲間への想い、祖国アザレアへの想い──自らの背を押していく様々な想いがルーティの胸中を熱く滾らせる。銃身に集束させた彩りの力を一気に暴発させた。
「祖国アザレアの炎よ、炸裂せよ!カンタベリーバレット・バースト!!」
「ブヒイイィィッ!!」
「そこまで!勝者、ルーティ選手!」
『うおおぉぉ〜ッ!!』
『いいぞいいぞ〜!!』
『ガンガン燃やしちまえ〜!!』
ルーティの彩りの炎が敵軍副将ボアを黒焦げにして決着となった。ルーティの熱き勇姿に突き動かされてヒートアップしたのか、連勝したルーティへの歓声が熱気を帯びていた。
「よし!ポークソテー、いっちょあがりよ!」
「ルーティさん、すっごい!絶好調だね!」
「お見事です!さすがはルーティ殿…!」
「観衆を味方に着けているわ…この勢いで一気に勝ちたいわね」
「いよいよ大将戦ですね…ルーティ、お願いします!」
「ええ、任せて!」
「…ほう、女だと思って甘く見ていたが…いい目をしてるな。愚直なほど真っ直ぐな、純粋な“戦士”の目だ…」
敵軍の大将は片刃の剣を携えた傭兵らしき男だった。黒い髪と無精髭を無造作に伸ばし、カーキを基調とした迷彩柄の衣装に身を包んでいる。燻し銀のような重々しい佇まいとは対照的な鋭い眼光は彼自身の得物である剣の切っ先のように銀色に鈍く煌めいていた。
「貴方が大将ね…私はルーティ・スアレス。よろしければ貴方も名乗っていただける?」
「…俺はウルフ。女を斬るのは性に合わんが、やるからには本気でいくぞ」
「あら、随分なご挨拶ね。女だからって遠慮はいらないわ。アザレア近衛兵を舐めてもらっては困るわよ!」
「…いいだろう。ならば手加減はしない!全力で叩き潰してやる!」
2人の闘志がぶつかり合い火花を散らす。一気に張り詰め、緊迫した空気が立ち込める。モニカ班はウルフを討ち取れば勝利となり、敵軍は大将であるウルフが討たれれば敗北となる──両軍の思惑が交差する中、ルーティは毅然とした表情でウルフと対峙していた。
「カンタベリーバレット!」
「…フン、甘い!」
敵軍の大将ウルフは目にも留まらぬ速さで斬り付ける。対するルーティは不意を突かれて後退りするも、凛とした眼差しを陰らせることなく食らい付いていった。
「さすがの太刀筋ね…ならば私もアザレア近衛兵として、彩りの戦士として、貴方の闘志に応えて見せるわ!アザレアの炎、食らいなさい!!」
「チッ…!」
「ベルファストブレイズ!」
「ぬうっ…!!」
華やかに燃えるオペラピンクの炎を纏ったルーティの彩りの術はウルフの闘志にも火を点ける。眼光は更に鋭くなり、その名の通り獲物を喰らわんとする狼のような眼をしていた。
「フン、なかなかやるな…ならばこれでどうだ!」
「そんな!?炎が剣で薙ぎ払われた…!?」
「これでカタを付ける…うおらぁ!」
「クッ…不覚…!」
ルーティはウルフの渾身の一閃を受け、健闘虚しく倒れてしまった。場内を包む歓声にはウルフの勝利を称賛する声に入り交じり、ルーティの敗北を惜しむ声も聞かれていた。
「そこまで!勝者、ウルフ選手!」
『うおおぉぉ〜ッ!!』
『ああぁぁ〜…』
「負けた…ルーティが…」
「お客さんも残念がってるのである…でも、善戦したのである!」
「ごめんね…不覚を取ったわ…」
「ルーティ、素晴らしい戦いでした。ゆっくり休んでください…」
「ルーティ、お疲れ様。彼は私が討ち取ってみせる!」
モニカ班、選手交代──副将はバーミリオンの騎士団長ティファ。左手にカーキの彩りを、右手に騎士の誇りを携えながら静かに闘志を燃やし、ウルフに矛先を向けた。
「…騎士か…」
「…ええ。私は騎士であり彩りの戦士、それ以上でも以下でもないわ」
「フッ…ならば正々堂々、力と力をぶつけ合おうか?」
「お望みならば喜んで。いざ、尋常に勝負!」
ティファとウルフが互いに全力で正面から衝突していく。力と力の正面衝突は熱い視線を注ぐ観衆を熱狂させた。
「せいっ、はあッ!」
「アルメハランサー!」
「むぅん!」
「ガードシェル!」
「でぇやぁ!うおおらあッ!!」
(このウルフという人…さすがはルーティに勝っただけのことはある…すごい剣勢だわ!私に勝機は…!)
ティファは怒濤の如く攻め立てるウルフの剣閃を得物の大盾と鎗を以て受け流す。次々に襲い来る連撃をティファが必死に受け止める光景は端から見るとウルフが主導権を握っているように見えるが、ティファは一切動じる様子はない。
「どうした?鍛練を積んだ騎士様でも着いてこられないか?」
「着いてこられないですって?違うわ…自分自身の意思で“着いていかない”のよ!」
「何ッ…?」
「隙あり!アルメハランサー!」
「ぐわっ…!」
カーキの彩りを纏った鎗が急所を捉える。ウルフは大きくよろめき、地に膝を着いた。ティファは表情を引き締め、守勢から攻勢に持ち込もうとしていたが──
「よし、決まったわ…ここで畳み掛けて──」
「これは驚いた…甘く見ていた、か…テメェ!やりやがったな!!」
「なっ!?」
「まさか…ウルフの兄貴が…!」
急所を突かれ立ち上がるウルフは赤黒い怒気を全身に纏う。荒々しい気迫は毅然としたティファでさえも気圧されていた。
「俺に膝を着かせるとは…テメェ、予想以上の腕だな!!」
「ええっ!?いったい何が起きたの…!?」
「おおッ!こいつはついてるなぁ!俺達の勝ちだぜぇ!」
「ウルフの旦那、膝を着かされるとキレるからな…あの騎士の娘、イッちまうかもなぁ…」
「グヒヒッ!ブヒヒヒ…!」
図らずもウルフの逆鱗に触れてしまった。ティファは攻勢どころか反撃する前以上の守勢に立たされ、為す術が無い。敵軍大将ウルフの刃は赤黒い怒りを携え、容赦無くティファに牙を剥いた。
「オラァ!くらえぃ!」
「し、しまった…!」
「消えろおおぉぉッ!!」
「うああぁぁッ!!」
「…そこまで!勝者、ウルフ選手!」
「…フッ…膝を着かされるのは好かん。つい熱くなってしまうな…」
刹那的な憤怒に囚われていたウルフは平静を取り戻す。熱戦の末に勝敗が決したにも関わらず、客席は水を差したように静まり返っている。ウルフの鬼気迫る戦いに観衆も戦慄していた。
「無念だわ…ごめんなさい、みんな…」
「ルーティさんとティファさんが負けるなんて…やっぱり強いなぁ…」
「モニカ殿…御武運を!」
「はい…必ず、勝ちます!」
遂に大将モニカが戦いの舞台に立つ。雌雄を決する一戦が始まろうとしている中、モニカは剣を構えずにウルフと向き合っていた。
「…まず、私は貴方に詫びなければなりません」
「なんだと…?」
「私は仲間達を信じている。仲間達との“絆の力”を信じているのです。だから…私に出番はないと思っていました」
「…ほう、それで?」
「私は…無意識に貴方達を軽視していたことが恥ずかしかったのです。申し訳ありません…」
「…謝ることはない。それはお前が心から仲間達を信頼し、共に歩むことを信条としているからだろう?」
「…!!」
「俺はこの国の生まれではないが、ここは信念のない野郎ばかりでな…とにかく戦えればいいっていう腐った輩がのさばっているんだ…だが、お前達の真っ直ぐな眼…そいつらとは違った。お前の仲間のルーティとティファも素晴らしい戦士だったが…お前ともいい戦いが出来そうだ」
「ウルフ…いい戦いにしましょう。モニカ・リオーネ、参ります!」
「ああ、お喋りは終わりだ…来い!!」
互いに戦いに対する高き誇りと強き信念を抱きながらモニカとウルフは相対する。敗れれば自軍の敗北──大きな使命を負いながらも闘志を熱く燃やしながら刃を交えた。
「せいやぁッ!はあぁッ!」
(モニカ…思った通りの太刀筋だ…面白い…!!)
(ウルフ、速い…!なんとか食らい付いていかなければ…!)
激しい鍔迫り合いで刃と刃が触れ合う金属音が響く。モニカは得物の大剣を金色に煌めかせ、力一杯に振り抜いていった。
「ブライトエッジ!」
「うおッ!?」
「えいやぁ!天陽剣!」
「ぬうぅ…!!」
モニカは闘技の舞台に立つ大将として、旅路を歩む彩りの軍の大将として、全身全霊を賭けてウルフに立ち向かっていく。対するウルフもモニカの真っ直ぐな闘志に全力で応えていた。
「でやぁッ!」
「はあッ!!」
「フッ、やるな…だが、これは耐えられるか?この刃は狼の牙だ…噛み砕いてやる!うおああぁぁッ!」
モニカの剣勢が次第に加速していくものの、ウルフは簡単に引き下がる男ではない。狼の眼をした大将の荒々しい剣閃は地を裂きながら風の刃を紡いでいった。
「クッ…!」
「な、なんと!?剣の風が刃になってるッス!」
「すごいわ…男性だから精霊の刻印はないはずなのに、精霊の力を使ってるみたい…」
「ならば私も全力…いや、全力以上の力でいきます!!」
「いいだろう。狼の牙、もう一度くらわせてやる!覚悟してもらうぞ!」
全力と全力が交わされる2人の闘技に観衆のボルテージは最高潮に達する。モニカとウルフは己の限界を突き破り、真っ向から衝突した。
「うおおぉぉ〜ッ!!」
「リオーネ流奥義!金陽翔天斬!!」
「ぐああぁぁッ…!!」
モニカの刃が金色に煌めき、ダイヤモンドの耀きを放ちながら一閃する。ウルフは太陽の剣閃を受け、仰向けに倒れた。一瞬の静寂の後、審判の声を皮切りに大きな歓声が響いた。
「そこまで!勝者、モニカ選手!この試合、モニカ軍の勝利!!」
『うおおおぉぉぉ〜ッ!!』
「勝った…!さすがはモニカだね!すっご〜い!!」
「モニカ殿…素晴らしい!!」
モニカ班が歓喜を分かち合う中、ウルフは清々しい表情でモニカに歩み寄る。敗れた敵軍の将は負けて悔い無し、という様相を見せていた。
「見事だったぞ。お前達なら更なる高みへ行けるだろう…負けるなよ!」
「はい!ありがとう…ウルフ!」
モニカとウルフが硬い握手を交わす。5人が個々の役割を果たし、モニカ班は見事勝利を納めた。観衆が沸き上がる中、客席で見守っていた仲間達は我も続かんと意気を高めていった。
To Be Continued…




