第111話『蛮勇闘技〜Vol.1〜』
シリーズ第111話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
屈強な蛮族達が行き交うビンニー国に辿り着き、更なる高みを目指す決意を新たにした一行。王者として君臨する蛮族四天王に挑むべく1人1人が団結し、意気を高めるところであった。
「なんだか燃えてきたわね!5人しか出られないと思ったけど、全員参加出来てよかったわ!」
「そうだな、ルーティ。コレットがいいアイデアを出してくれたおかげだよな!サンキュー、コレット!」
「エヘヘ、よかった…みんな、がんばろ〜!」
「では、傭兵団との戦いの時のように編成会議をしましょうか。グループワークも実施して役割分担も熟考していきましょう」
「ああ、大会の参加はグループを登録する必要があるからね。万全の体勢で蛮族四天王に挑むためにもじっくり考えて決めようか!」
コレットの発案をもとにリモーネ傭兵団との戦いに倣い、100人の軍勢を5人ずつ20組のスクラムに振り分けることとなった。一行は拠点である宿に戻り、グループ分けの会議が開かれる。エリス、アンジュ、イレーヌが皆の前に立ち、会議の進行役として向かい合っていた。
「では、まずは各グループのリーダー、大将を決めましょうか」
「うん、大将が決まればグループごとの方針も見えてくると思う。グループごとの特色も考えていきたいわね」
「そうだね、イレーヌ。では、まずは立候補を募ろうかな…リーダーを希望する人は挙手!」
「オッス!!」
「おう、ワシもやるぞい!」
皆に先んじて立候補の手を挙げるのはテリーとステラだった。血気盛んな琥珀色の切り込み隊長と豪放磊落な橙色の角力格闘家は全身から滾る闘志を迸らせ、目前に待ち受ける蛮勇の闘技を待ちきれぬ想いで眼を爛々と輝かせていた。
「よし、テリーとステラは決定だね。他に希望する人はいないかな…?」
「うむ…では、ここは私が…」
「はい、僭越ながら私も立候補させていただきます。よろしいでしょうか?」
「マリー、ミノア様、感謝します。さあ、みんな遠慮しないで!立候補はまだ募るわよ!」
マリーとミノアの手が挙がり、瞬く間にグループリーダーが4人決まる。このまま滞りなく会議が進むと思われていたが、他に立候補しようと名乗り出る者は現れず、皆が集った大部屋は静まり返る。水を差したような静寂が重々しくのし掛かり、イレーヌの呼び掛けも虚しく木霊していた。
「ありゃ…もう立候補は誰もいないのかい?まだ16人決めないといけないんだけど──」
「では、私が指名してしまっても構わないかしら?ここでグズグズ煮詰まっても仕方ないわよ」
「あら、共に絆を紡ぐ友に運命を委ねるのも面白そうね。あたくしは賛成ですわよ♪」
「俺も賛成。誰が選ばれるかわからなくてドキドキするけど…リーダーが決まらないとどうしようもないし、エリスさんに選んでもらおうぜ」
「そうですね、ビアリー、リタ。では、エリス、お願いします」
「ありがとう、モニカ。みんなも異論無しね?それでは私が指名するから、呼ばれた人は起立してちょうだい」
エリスは最初から決めていたかのように躊躇いなく次々と指名していく。一行の1人1人が“自身が選ばれるかもしれない”という緊張感に浸る間もなくあっという間に16人が選び出され、エリスに促されて皆の前に並び立っていた。
「…以上。これでリーダーの20人が決まったわね!」
「エリス、指名に感謝します。身に余る光栄です…」
「待ってくれよ!モニカはわかるけど、なんであたいらまでリーダーなのさ!?」
「うん…エリスに任せるとは言ったけど、まさか私も選ばれるなんて思わなかったな…」
「そうですね、カタリナさん。これも天が我らに課した試練なのでしょうか…」
「ふえぇ…わたし、リーダーなんて出来るかな…?」
エリスに指名され、皆の前に起立したのはモニカ、エレン、アミィ、クレア、トリッシュ、カタリナ、リタ、コレット、リデル、ビクトリア、フェリーナ、ビアリー、ルーシー、ネイシア、リーベ、ヴィオ──エリスが各グループのリーダーに推したのは立候補したテリー、ステラと共に一行の中核を担う面々だった。テラコッタの騎士団長を務めるマリー、天駆ける星座の軍の首領である獅子座のミノアの2人は一団のリーダーとして先頭に立って戦ってきたが、エリスの指名した面々にはそうした経験が浅い者も少なからずいた。
「私が中心になって愛と夢と希望の物語を紡ぐのですわね…私に出来るかしら…?」
「エリスさん、あたし達を選んだ理由って何かあるんですか?」
「簡単なことよ、クレア。貴女達がこの軍で一番長く、そして一番強い意思を持ってこの旅路を歩んでいるからよ」
「何…?まさか、たったのそれだけか…?」
「ええ。一番長く旅路を歩み、深く絆を紡いでいる貴女達がこの旅の目的、この旅の意義を一番よく理解しているはず。この軍の中心に立って皆を牽引するメンバーとして、今以上に自覚と自信を持ってほしいの」
「う〜ん、そうは言うてもなぁ…ウチ、リーダーシップなんてとれへんのちゃうん?」
「あ、あの…私も、リーダーなんて…全然自信ないです…向いてないです…」
「いや、アタシはそうは思わないな。アミィは前に1人でコーネリアを倒してたし、リデルだってスプルース国で魔物相手に勇気を出して頑張って戦ったじゃん?」
「トリッシュの言う通りよ。アミィにもリデルにもそれぞれの力を司る精霊が宿っているわ。それに1人だけで戦うわけじゃない、グループの皆が一緒だから、大丈夫よ」
フェリーナの言葉に皆が次々に頷く。リーダーを務めることになったモニカ達の前には数多の仲間達が向かい合っている。旅路の中で巡り会った仲間の1人1人、全員が寸分違えることなく同じ思いでいた。
「その通りさ!ビアリー様やモニカ達を支えるために私らヴェレーノ・ノーヴェがいるんだよ!」
「うんうん、あたし達ドルチェ自警団もこの軍のために出来ることを頑張るからね!」
「君達が困ったときは私達が助けるのである!一緒に頑張るのである!」
「大丈夫。全う出来る見込みの無い人を指名なんてしないわ。貴女達なら出来る!」
「我々も皆様をお守り致しますよ。アザレアの誇りのため、この身は主君と共に参ります!」
「我らテラコッタ・ソシアルナイツも全力で加勢させていただく。皆で歩みを進めるために、共に戦おう!」
「…みんな、ありがとう。私達はリーダーとして、戦います!」
新たなる決意のもと、リーダーとなる20人が決まった。メンバーの振り分けが進む中、魔族七英雄ベガと邪淫の貴公子ラストが居城に佇みながら一行の動向に眼を光らせていた。
「…ベガ様、件の闘技大会、コレット様の妙案により全員が参加する運びと相成りました。コレット様の純粋な心遣いは皆様の心を癒しております」
「ああ、そのようだね。コレット…容貌だけに留まらず心まで美しいとは…」
「そうですね…コレット様の御心は幼い少女のように穢れがなく純粋です。疑念の無い真っ直ぐな想いを向け、行動に悪意や打算が一切ありません」
「素晴らしい…我が理想を体現するに相応しい器を持ち合わせている。我ら魔薔隊の理想の象徴として彼女の存在が絶対必要であると確信したよ」
「ええ。今後もコレット様の動向を適宜確認し、危険が及ばぬように身辺にも注視して参ります」
「ああ、任せたよ。ハァ…美しい我が理想の依り代たるコレットよ…我が願いに応える刻を心待ちにしているぞ…」
祝福の証の彩りに導かれ合う戦士達が意気を高め合う中、魔の野望は人知れず静かに蠢く。一行は妖しき黒紫の影が純粋な緑の彩りの少女を狙って潜んでいることを察するよしも無かった。
「よし、グループも決まったな!俺も気合い入ってきたぜ!」
「では、これからは各グループでの活動を行いましょう。それぞれ作戦の話し合いや訓練を──」
「よっしゃ、テリー班、トレーニング開始ッス!闘技場の外周をランニング10周ッス〜!」
「ウイィッス!張り切っていくぜ〜!」
「ハハハ、テリーもヤートも元気だなぁ…では、僕も行ってくるよ!」
「やれやれ、随分と血気盛んなグループだな…では、我々ヴィオ班は役割分担を決めるとしよう」
「は〜い!お姉ちゃん、ワタシもがんばるよ!ミノリさんもよろしくね〜!」
「…御意。ザラーム殿、お頼み申す」
各グループでまとまって思い思いの時間を過ごし、ビンニー国の夜を明かす。翌日、一行は闘技大会への出場登録をすべく勇んで闘技場へと赴く。次々に押し寄せる100人もの大軍勢の姿は受付を担う男を驚愕させた。
「失礼します。私達、闘技大会の出場登録に伺いました」
「おおお!?随分と賑やかな団体さんのおでましだなぁ!それに見たところ、揃いも揃って上玉の女だな…あんたらが出たら盛り上がるぞ〜!」
「ハッ、あたいらは客寄せパンダに成り下がる気は毛頭無いよ!蛮族四天王に勝つのが目標なのさ!」
「ワハハ!今からやる気満々ってわけか!それならちょうどGランク大会の参加を受付してるけど、出てみるかい?」
「はい、私達は今からでも戦えます!是非お願いします!」
「いいねぇ、気合い入ってるねぇ!まあ、せいぜい頑張ってくんな!健闘を祈ってるぜ!」
出場登録を済ませ、闘技場の屋内へと踏み入る。戦いを目前に控えた闘技場の空間に立ち込めるピリピリとした緊張感が肌に突き刺さる中、一行の先陣を切るのはモニカ班の面々──先鋒ドルチェ、次鋒シュシュ、中堅ルーティ、副将ティファ、大将モニカ──直向きに真摯に戦いに向き合う5人は眼前に待ち受ける戦いにも臆することなく挑まんとしていた。
「うう〜、たくさんの人が観に来てる…緊張するなぁ…」
「アザレア近衛兵としての力とこの彩りの力がどこまで通用するか…楽しみだわ!」
「正々堂々の戦いが我ら騎士の誉れ…こんな大きな闘技場で1対1で勝負出来るなんて、とても嬉しい!シュシュ、私達騎士の誇りを見せつけるわよ!」
「はいッ!ボクの妖精騎士としての誇り、蛮族どもに見せてやる…見ていてください!」
「ドルチェ、シュシュ、ルーティ、ティファ…私達なら勝てると信じています。私達の絆の力、1対1の真剣勝負で見せつけてやりましょう!」
「これよりGランク勝ち抜き戦を開始する!両軍先鋒、前へ!」
「はいッ!!」
審判の呼び掛けにドルチェはハキハキとした返事で応える。先程まで緊張に強張っていた表情がキリリと引き締まり、凛とした闘志を帯びて輝いていた。
「よ〜し、燃えてきた!モニカ、頑張ってくるよ〜!」
「ドルチェ、お願いします。貴女との絆の力、信じていますよ!」
「…うん、ありがと!いってきます!!」
遂に蛮族四天王挑戦への第一歩、闘技場Gランク大会の戦いの火蓋が切られる。高揚感と緊張感が充ち満ちる中、モニカ班の先鋒を務めるドルチェはバナナイエローの彩りを左手に煌めかせ、荒々しい熱気が沸き上がる蛮勇の闘技へと飛び込んでいった。
To Be Continued…