第109話『蛮族の国』
シリーズ第109話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
テラコッタ・ソシアルナイツの奮戦に心を動かされ、“仲間”としてより強く絆を紡ぎ、共に歩む決意をより一層強く固めた一行。互いの心に溝が生じたことで下降していた士気も少しずつ高まり、次の目的地であるビンニー国へ向かう足取りも次第に軽くなっていった。
「よ〜し、今日も快晴ッス!張り切って前へ進むッス〜!!」
「マリー、夜間守衛を頼んでしまいましたが、ゆっくり休めましたか?」
「ああ、心配には及ばない。我らテラコッタ・ソシアルナイツは普段から心身とも鍛えているから、大丈夫だ」
「ふぅ…山道を下っていくのも大変ですね…足が疲れちゃいました…」
「ケイト姉ちゃん、たぶんもう一頑張りやで!だいぶ下ってきたからもうそろそろやと思うんやけど…」
「あっ、建物が見えたのである!どうやらあれは街みたいなのであるな…」
「間違いない…あれが我らを待ち受ける次なる戦いの地、ビンニー国だ!荒々しき武勇を誇る蛮族どもの国か…我が身に宿る邪竜が獲物の匂いを嗅ぎ付けて疼いている…!」
「まあ…それは大変ですわ!どなたかに治癒術をかけていただかないと…」
「大丈夫だ、愛する天使リーベよ…我が胸に住まう邪竜の力、リーベを守るために使わせてもらう!」
「ああ、愛する私の妹ピカンテ…素敵よ♪」
「あんた達ねぇ、遊びに行くんじゃないんだよ!ったく、この姉妹は困った娘達だねぇ…」
「フフッ…ビクトリア、そう目くじらを立てるな。あまり心に余裕がないと足下を掬われるぞ?」
「ヴィオ…言い分は尤もだけどさぁ、あんた随分と丸くなったんじゃないのかい?」
「…そうか?私はいつも通りのはずだが…さて、ビンニー国は間近だ。先を急ぐぞ」
遂に次なる目的地であるビンニー国が一行を迎えようとしており、歩んできた道を振り返る者もいた。真っ直ぐな想いで守り続けてきたフルウム国を離れようとしているドルチェ自警団の面々は愛する故郷に改めて想いを馳せていた。
「いよいよフルウム国を離れるのか…ワクワクするけど、寂しくも感じるなぁ…」
「そうだね、ドルチェ…離れても故郷を想いながら戦いましょう。私達が真摯に戦えばフルウムも元気になるって信じて頑張ろう!」
「怖いけど…大丈夫だよね?みんなと一緒だから…」
「そうですね、セレナさん…私は治癒術くらいしか出来ないですけど、この軍のためにそれぞれ出来ることを頑張りましょう…!」
「…御意。我らが忠義、我らが彩り、この軍に在り」
「うおぉ!小生は闘技場に行きたいでごわす!数多の強者と相まみえるでごわす!」
「そうね、ヴァイン。私達の日々の鍛練の成果を試す良い機会だわ!」
「お前さん達は相変わらずの熱血ぶりだねぇ〜…まあ、あたしも正直なところ少しばかり熱くなってきてるけどね!」
「その意気よ。私達としてもこの軍の一員としても、これまで以上に協力していきましょう。頼りにしてるわ、アルフォンゾ」
一行は蛮族の国であるビンニー国に到着した。山々に囲まれた荒野に築かれた街を血気盛んな屈強な男達が次々に行き交う情景は傍目にも粗野な空気が感じ取れる。都市部の奥には遠目にもよく目立つ赤茶色の煉瓦が敷き詰められた巨大な闘技場が聳え立っていた。
「ほほう、これがビンニー国か…明らかに蛮族の国という風情じゃのう!」
「この肌に突き刺さるような空気は相変わらずだな…蛮族の血が騒ぐってもんだよ!」
「わたくしは肌がピリピリしますわ。あまり心地好い場ではありませんわね…まずは拠点の宿探しから──」
「オラァ!そこの嬢ちゃん達、止まれ!」
「ヒヒヒ…ビンニー国へようこそ!」
「キャッ!や、やめて!」
「ふえぇ…助けてぇ…」
蛮族らしき屈強な男達が集団で一行の前に立ち塞がり、コレットとエーデルを乱暴に捕える。隣国からの客人である一行を出迎える態度は尊大であり、お世辞にも友好的とは言えないものであった。
「貴様、出会い頭にコレット殿とエーデルを捕えるとは、何のつもりだ!?」
「ゲヘヘ…この緑の嬢ちゃん2人を奴隷として俺達に引き渡すか有り金全部払うか、どっちか通行料として支払ってもらうぜ!」
「な、なんですって!?どうしてそんな勝手なことを…!」
「はぁ!?わざわざ山を越えて来てくださる余所者さんなら手土産ってもんがあって然るべきだろうよ!?」
「なんと身勝手な…私欲を満たすためだけに生きるなど、獣と同じです!」
「知ったことか!嬢ちゃん達、“郷に入っては郷に従え”だぜ!素直に俺達の言う通りにしな!」
「チッ、どうやら話し合う気はなさそうだね…なら力尽くで退いてもらうよ!」
「よっしゃ、さすがはエレンのお嬢!アタシも蛮族の端くれ、やるってんなら相手になってやらぁ!」
「なんだぁ!?俺達とケンカするってのか!?いい度胸してるじゃねぇか!」
「不本意ですが、実力行使しかありませんね!私達の正義のもとに──」
「モニカ、ここは私達に…いや、エレン達に任せて!」
「エイリア…わかりました。ここはお任せします。エレン、武運を祈ります!」
「うん、任せて!言ってわからない奴らはちょっとお仕置きしてやらなきゃね!」
「おいおい、正気かよ?女だから手加減してやろうか?ギャハハ!」
エレンとルーヴが斧を構え、蛮族の手荒い歓迎に臆することなく闘志を燃やしながら向かい合う。蛮族に対峙せんとする2人の全身から迸る闘争本能を汲み取ったのか、誰に言われるでもなくエレンの親友であるエイリアが自然に前に躍り出るのを皮切りに舎弟であるロビン、メリッサ、ヴァネッサ、リベラ──更にはコレットを想う血紅色の戦士ゼータ、テラコッタの紅き宮廷騎士ランタナ、アザレアの爽青の斧戦士ジーリョも次々と並び立ち、程無く臨戦体勢が整っていった。
「女だからってナメないでよね!山賊仕込みのパワーを見せてやる!」
「そうだそうだ!わたし達の斧で思いっきり搗ち割ってやるから、覚悟してよね!」
「エレン姐さんと一緒なら地の果てでも魔界でも、どこまででもお供しますよ!」
「黒焦げにされたい奴はかかって来な!このリベラ様が相手になってやる!」
「覚悟は出来ているようだな…コレットを傷付ける者は始末する!」
「恐れながらこのジーリョも加勢させていただきます。ろくに客人をもてなせぬ粗雑な輩などに負けはしません!」
「その悪の心ごと消し炭にしてくれる!テラコッタの騎士の誇り、その身を以て味わうが良い!」
「…アンタ達…」
「やる気満々とは好都合だ!たっぷりとご挨拶してやるから、覚悟しやがれ!」
「…このエレン・シンク、邪魔する奴は正義の炎で燃やしてやるよ!みんな、気合い入れていこう!」
「任せろ、エレンのお嬢!アタシらは売られたケンカは買うよ!テメェらも蛮族なら白黒ハッキリ着けようじゃないか!」
「おう、話が早い奴らだ!どこからでもかかって来やがれ!」
蛮勇を誇るエレン軍団と荒々しい蛮族の男達がぶつかり合う。荒くれ者達の戦いは粗雑な色合いながらも互いの闘志が赤々と燃え上がり、激しく火花を散らしていき、互いの闘志を昂らせていった。
「スワロースラッシュ!」
「ヒートストローク!」
「エイリア、リベラ、その調子でガンガンいこう!」
「喰らいな、蛮族の刃!ワイルドファング!」
「よし、敵陣が乱れた今が好機だ!ゼータ殿、行くぞ!」
「ああ、仕掛けるぞ!」
ゼータとランタナが宙を舞いながら飛び込み、目にも留まらぬ速さで懐へと切り込んでいく。後方でコレットとエーデルを捕えていた蛮族を薙ぎ払い、程無く2人を救出した。
「コレット、ケガはないか?」
「うん…ゼータ、ありがと♪」
「す、すみません…また助けられちゃった…」
「さて、人質は返してもらったが…悪は罰するのみ!テラコッタの騎士ランタナ、いざ参るぞ!」
「クソッ、カモだと思っていたが、コイツら強えぇ!」
「フン、この国は俺達のホームグラウンドだ!そう簡単には負けねぇよ!」
「に、逃げるつもり!?アンタ達、待ちなさいよ!」
「いや、違う!アイツら、岩の陰から…!」
「何人か飛び込んでくるよ!?うわっ、ひどい砂埃…」
蛮族達は住み慣れたビンニー国の地の利を生かし、形振り構わぬ戦いでエレン達を翻弄する。わざと地面を踏み鳴らして砂埃を舞い上がらせ、視界を遮りながら次々に畳み掛けてきた。
「うわわっ!?奥の方から岩がいきなり飛んできた!」
「砂埃が舞い上がって前が見えない…なんと卑怯な真似を!」
「みんな、落ち着くんだ!…ヒートストローク!」
「リベラさん、闇雲に打ったらダメですって!この砂埃をどうにかしなきゃ──」
ドンッ!
「うわああぁぁッ!!」
『エレン!!!』
投げ込まれた巨大な岩が防御の体勢が整わないままのエレンを直撃した。エレンは赤茶色の大地に叩き伏せられ、傷付きながら荒々しいビンニーの地に俯せに倒れていった。
「よっしゃあ!リーダーの姉ちゃんに大当たりだぜ!」
「おいおい、さっきの威勢はどこに行っちまったんだよ!?ギャハハハ!」
「嬢ちゃん達を助けて油断したってか?いい気味だなぁ!」
「おい、姉ちゃん…まさか嬢ちゃん達の代わりにお前が俺達の奴隷になってくれるってか!?」
「確かにそうだな!ヘソ出しの服なんて着て、誘ってたんじゃねぇかよ!!」
「なんて下品で卑劣な奴らだ…許さん!」
「ジーリョ殿、待て。興奮しては奴らの思うツボだ。なんとかしてこの状況を打開しなくては…!」
俯せに倒れ、蛮族達から下品な罵詈雑言を浴びせられるエレンの胸の内に赤黒い焔が沸々と沸き上がる。自らの正義と誇りを汚され、踏みにじられた怒りだった。
「黙って聞いてれば…好き勝手言ってくれるじゃないの…いつまでも調子乗ってんじゃねぇぞ!この腐れ外道がああぁぁッ!!」
「な、なななっ!?何だと!?」
「エレン姐さんの激怒キター!!これは…やっぱり何度見ても恐ろしい…」
「ああ、エレンのお嬢に火が点いたら終わりだな…テメェら、覚悟しな!」
ルーヴの宣言通り、赤々と燃える憤怒の炎を全身に纏ったエレンは自らにぶつけられた巨大な岩と眼前を遮る砂埃を怒気だけで吹き飛ばし、蛮族達を戦慄させる。一気に形勢が逆転し、皆が呆気にとられるばかりであった。
「この炎で焼き尽くす…エイリア、手を貸して!」
「はいはい、私も頑張らなきゃね!」
エレンとエイリアの紋様が呼応して煌めく。エレンの赤とエイリアの空色、一見相反する彩りだが、幼馴染みとして他の誰よりも多くの時を共に過ごした“絆”が彩りの魔方陣を美しく紡いでいた。
『吹き荒べ、真紅の爆炎!舞い上がれ、赤き不死鳥!フェニックス・レッドブレイズ!!』
「ひいぃ…お、お許しを〜!」
蛮族達は散り散りに逃げ去っていき、無事鎮圧するに至った。一行は安堵の表情を浮かべるが、ルーヴの瞳は爛々としたままだった。
「フッ、さすがはエレンのお嬢だ。これなら蛮族四天王にも一泡吹かせられるかも…」
「蛮族四天王、ですか…?」
「ああ、ビンニー国の蛮族どもを束ねる4人組さ。長きに渡り闘技場のチャンピオンで、蛮族の界隈で知らない奴はいない強者なんだよ」
「そうかい…ならいずれソイツらとも戦うことになりそうだねぇ…」
「まあ、そうなるだろうね。それじゃ、気を取り直して宿を探そうか!」
エレンの怒りの炎が燃え上がり、蛮族達の手荒い歓迎を退けた。蛮族の国では戦いが待ち受けているのか?そして、ビンニー国を牛耳る蛮族四天王とは何者なのか?一行は遂にビンニー国へと踏み入るのであった。
To Be Continued…