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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter5:彩りの義勇軍篇
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第106話『歪な花園』

シリーズ第106話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

フルウム国辺境の山林地帯にて魔物の大軍勢を相手に苦戦を強いられていた一行。苦しむ一行に救いの手を差し伸べたのは魔族七英雄ベガの配下でありディアボロ7人衆の1人、邪淫のラストだった。主君である薔薇の貴公子ベガの理想の実現のためと称して一行に加担する彼の瞳には一切の迷いがなく、奇妙な共闘が成り立っていた。



「敵将らしき巨大な魔物が迫っていますわね…みなさん、油断なさらず!」


「ファーストエイド!」


「おおお!ラストさん、感謝感激ッス!」


「随分とデカい図体ぞなもし…コイツは手強そうぞなもし!」


「大きさだけが強さではありません。私達には何よりも強い“絆の力”がある…勝てますよ」



フェトルの真摯な言葉に皆が頷き、改めて敵将らしき巨大な魔物に向かって構えをとる。新たに一行に加わったソーダブルーの彩りを持つアザレアの戦士ジーリョも勇んで戦列に加わり、雄々しく斧を振るう。魔物達に向かい合う姿は荒くれ者のように少々粗暴な色合いでありながらアザレアの貴公子としての誇り高き気品を併せ持っていた。



「でぇやぁ!ポーツマスエッジ!」


「ジーリョ、やるじゃない!ガンガン攻めていくよ!」


「そこだ!うおおりゃあッ!!」


「ほう、お見事です。では、僕も本気を出すとしましょう…!」



ラストは得物である杖の宝玉に禍々しい力を込める。彼の左手には禍々しい魔の彩り──イービルピンクの紋様が印されていた。



「精霊の刻印!?貴方にも…!」


「はい。僕も生きとし生ける者ですから、当然です。祝福の証は生命の証…この力、ベガ様の理想のために!」


「敵は残り僅か…一気に仕留めにかかりましょう!」


「ええ。貴女となら共に彩りの陣を紡げるでしょう。参ります!」



ラストとジーリョの紋様が呼応して煌めき、鮮やかな彩りの魔方陣を紡いでいく。妖しいイービルピンクと爽やかなソーダブルー、一見すると相反する2つの色彩は違えることなく馴染み、新たな彩りの力へと昇華していった。



『仇為す者に裁きを!妖艶なる魔手にて滅びの道を歩め!グロッシー・イービルサイクロン!!』



敵将である巨大な魔物は妖しい瘴気に惑いながら一閃され、黒紫の煙になって消滅した。残り僅かとなっていた魔物の軍勢は将を失って四方八方へと散っていき、消耗戦となっていた戦いは無事に決着を迎えた。



「よっしゃ!制圧したぞ!蛮族の国のお膝元で負けてらんないからねぇ!」


「ラスト、ありがとうございます。助かりました」


「いえ、礼には及びません。これも我が主君ベガ様の理想を守るためですから」


「ラスト…貴方はどうして精霊の刻印を…」



フェリーナはラストの瞳をじっと見つめながら慎重に言葉を投げ掛ける。凛とした眼差しを一点に突き刺す涼緑の狩人はラストの力を司る魔界の精霊の気を感じ取り、自然と表情を強張らせていた。



「なあ、フェリーナ姉ちゃん…たしか前に“生きる魂の中に精霊がいる”って言うてたけど…ラスト兄ちゃんに祝福の証があるって不自然なことなん?」


「そうね、精霊は誰の魂にも宿っていることは間違いないわ。でも、男性が覚醒することはまずないはずよ」


「何ッ!?そんな規則があったとは知らんかったわい…」


「確かに我らに男性はいませんね…それにも理由があるのですか?」


「はい、ミノア様…理由はわからないけど、精霊の気は男性の気に触れると著しく弱まってしまうわ。精霊は女性の気によって目覚め、魂に目覚めし力を、左手の甲に彩りをもたらす…それが精霊世界の摂理なのよ」


「なるほど…つまりラストさんはその摂理に当てはめると例外なのであるか…?」


「そうですね。僕の紋様はベガ様によって覚醒したものですから、フェリーナ様の仰る摂理とは異なる存在です。言わば生粋の“魔族の彩り”というところでしょうか…」


「魔族の力は人間と精霊の摂理を超越した存在ということか。俺達の知らない世界ってまだまだたくさんあるんだな…」


「ええ。僕達の住まう魔界には魔界の摂理があります。人の世とは違う深遠なる摂理が──」


「ラスト様…我らが主君、ラスト様…」



テラコッタの騎士達はラストのもとへ集い、粛々とした様相で跪く。自らの家臣である彩りの騎士達を見つめるラストの瞳からは慈しみと優しさが滲み出ていた。



「ラスト様、我らの前にお見えになったということは、ベガ様のもとへ戻れということでしょうか…?」


「いや、君達はまだこの軍の一員として皆様と共闘するんだ。ベガ様の理想のためには個々の彩りの力を磨き、更なる高みへ至ることが必要だよ」


「承知致しました。我らが主君ベガ様の御意志のまま、主君ラスト様の仰せのままに…」


「なあ、私らに万が一のことがあっちゃダメだって言うけど…結局おたくらの理想って何なのさ?」


「…まあ、いずれ知ることになりますね…良いでしょう。ベガ様の理想…それは貴女達に永遠の命を与えることなのです」


「永遠の命!?そんなバカな…!」


「天の御心では成せぬ御業を魔界の神は成せるというのですか!?なんということでしょう…」



永遠の命──人類にとって恒久の望みとも言える境地を涼しい顔をして口にする邪淫の貴公子は嘘を言っているようには見えない。しかし、雲を掴むような現実味の薄い言葉の裏を訝しがる者も当然現れていた。



「永遠の命…不老不死は人間には到底達することの出来ない境地、そう易々と口にするものじゃないわ…」


「ナハトの言う通りだよ。あんたねぇ、口で言うのは簡単だけどさ…そんな大それたもん、どうやって実現させるってンだい?」


「簡単なことですよ。貴女達は仮初めの人の姿を捨て、ベガ様の花園に咲く薔薇の姿で生きていただきます。病めることも死ぬことも無く、花園に咲く色とりどりの美しい薔薇として永遠に生き続ける権利が貴女達全員にもれなく与えられるのですよ…フフフッ…」


「人の姿を捨てるですって…!?人の命を弄び、人の世の理を歪めるなんて…!」


「貴様、遂に化けの皮が剥がれたか…切り刻まれる覚悟は出来ているということだな!」


「おっと、少し話し過ぎましたね…では、僕はこれで失礼致します。またお会いしましょう」


「ま、待て!貴様、逃げる気か!!」



邪淫のラストは悪びれることなく優しく微笑み、黒紫の薔薇の花弁に包まれながら姿を眩ませた。ヴィオは苦虫を噛み潰したような表情をが、彼らの家臣であるテラコッタの騎士達は恍惚の表情で佇んでいた。



「チッ、取り逃がしたか…!」


「ああ…ラスト様…我らの身に余る暖かき御慈愛…」


「我らが愛する主君…優しきラスト様…」


「魔族七英雄ベガ…彼の理想とする永遠の命の行き着く先は歪な花園だったのね…」


「そうですね、ミリアム。人命を贄として築かれる理想郷など、あってはなりません!」


「ベガの理想はアタシ達の彩りで花園を築くことだったんだな…祝福の証を持つ人が何人いるかもわからないのに、途方もないじゃん…」


「花に姿を変えて死なずに永遠に生きながらえるということか。私もラムダ博士によって今の姿に蘇生したが、あまり気分の良い話ではないな…」


「魔族七英雄ベガ、なんてことを…生の証人である死を全否定するなど断じて許せんのである!」


「そうね。死ぬことも許されないなんて想像するだけで恐ろしいわ。魂が浄化されず、精霊が精練されなくなってしまうもの。現世の記憶や穢れに囚われたまま、澱んだままの魂では輪廻の輪に戻れず、現世に迷い留まり続けることになる…死は魂の精練にも必要な過程、それを否定するのは全ての生命を否定することと同義よ」


「生命を否定して成り立つ理想郷…なんとしてでも止めなければ!」


「ふむ、ベガ様とラスト様は我らの主君…今、こうして貴女達と共に歩むことは吝かではないが、やがて道を違えることになるだろう」


「マリー…」


「我らは主君の命に従うまでだ。騎士としてこの身とこの彩り、主君と共に!」


「フン、貴様ら騎士とやらはただ主君に尻尾を振っているだけか?随分と楽な仕事で羨ましいな」


「なんだと!?お前、騎士を冒涜するつもりか!!」


「そうだよ!そんな言い方しなくたって良いじゃん!!」


「ヴィオ…!アンタ、どうして余計なことを言うの!?」


「そうだよ…おねえちゃん、やめてよ!」


「真実を言ったまでだ。ただ命令に従うだけなら犬でも出来る。自らの意思のない木偶の坊など相手にもならん」


「……!!」


「チッ、やる気か…来るなら来い!」


「…排除する…!」


「ツィガレ、やめろ!クソッ、せっかく魔物を退けたのに、これで万一のことになってしまってはベガ様に申し訳が立たん…!」


「ヴィオ…そ、そんな…!」



騎士の誇りを踏みにじる非情な言葉をぶつけたヴィオに食らい付くヒーザーとエーデルの間を縫い、煙草色の紋様を持つ凶騎士ツィガレが躊躇いなく飛び込んでヴィオに刃を向ける。ヴィオとツィガレの意思表示はあまりにも非情で苛烈なものであった。互いに激しく短刀で斬り込み合いながら目にも止まらぬ早さでぶつかり合う。双方共に標的である者の殲滅に一切の迷いがなく、敵対者として斬り殺さんとしていた。



「フッ…ツィガレとやら、やはりなかなか歯応えのある奴だ…さて、何処から切られたい?」


「……」


「だんまりか…ならば必要ないらしいその喉元から──」


「ムーンライトバインド!」


「ビアリー!?何をする…!」


「不毛な争いなどお止めなさい!道を違える運命も絆の力で変えていけるとあたくしは信じています。今は仲間として、共に歩む時です!」


「ああ、私もビアリー殿に同意だ。ツィガレ、すぐに戦闘を中止しろ!」


「…チッ、いつか必ず決着を着ける。首を洗って待っていろ…」


「…任務中断…」



ベガの理想を目の当たりにし、一行とテラコッタの騎士達との間に蟠りが生じる。やむを得ないとは言え共に旅路を歩み、共に戦う仲間との不和は皆の胸中を澱ませていく。モニカ以外の面々は知らず知らずのうちにテラコッタ・ソシアルナイツの面々と距離を置いていた。



「マリー…すみません。どうか悪く思わないでください…」


「気にしていない。そちらがどう思っているかは知らんが、我々から危害を加えることはないからな」


「…それもベガの理想を叶えるため?」


「ご明察。やはりモニカ殿は話が早い。さすがはこの軍の総大将だ」


(私が、総大将…軍を統べる君主たる資質が私にあるでしょうか?しかし、それが私の為すべき務めなのか…)


「…まあ、これからまたよろしく頼む。我らテラコッタ・ソシアルナイツ、この軍の力になろう」



ディアボロ7人衆の1人、邪淫のラストの助力を受けて魔物の大軍勢を討ち倒して道を切り拓いたものの、軍の一帯に溝を生じることとなってしまった。辺りを澱んだ空気が包む中、一行は蛮族の国ビンニー国へと歩を進めていった。




To Be Continued…

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