第104話『爽青の貴公子』
シリーズ第104話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
緑の少女達4人の強き意思を以て、荒くれの賊達を退けた一行。改めて次なる目的地のビンニー国に向けて行軍を再開した。
「無事に4人を助け出せて良かったわね。でも、今後は注意していきましょう」
「うん、エリスさん。みんなで協力して守り合っていこうね!」
「ああ、ビンニー国は蛮族の国らしいから、これからこういう荒くれ者達と戦う機会も増えるだろうね。気を付けて行くよ!」
「はい、エレン姐さん!私もダテに7つの海を渡ってないですよ!」
「よっしゃ!アタシも蛮族の国で負けるわけにはいかないねぇ!」
「私ももっと強くならないと…ヴァネッサ、頑張ろうか!」
「そうだね、メリッサ!山賊仕込みのパワーでどんな奴でも蹴散らしてやる〜!」
「そんじゃ私も頑張るかねぇ…破落戸ナメんじゃないよ!」
「ハハハ…注意すべき荒くれ者を舎弟に従えているエレンも大概だな…」
「そうだね、ポワゾン。エレンがいてくれればどんな敵が来ても制圧出来そうだね♪」
一行はフルウム国郊外の山林地帯を進むが、その道は平坦ではなく、行軍の足は思うようには進まない。ビンニー国へと歩みを進める一行の前には堅牢な山々が聳えていた。
「ビンニー国はもう少し先だな…なかなかハードな道のりじゃん…」
「うおぉ〜!自分は早く闘技場に行きたいッス!津々浦々の強き戦士達と腕試しがしたいッス〜!!」
「フフッ…テリー殿、その時には共に腕を競おうか!」
「おお!臨むところッス!ランディニと戦うの楽しみッス〜!」
「ああ、私も楽しみにしてるぞ。我々にとっても今の実力を知る良き機会に──」
「みんな、見て!あそこ、青い髪の人が…」
ザラームの呼びかけで皆が一点に視線を移す。魔物の群れの中、斧を携えた1人の戦士が取り囲まれていた。涼やかなライトブルーの髪を肩辺りまで伸ばし、白と青を基調にした衣装を着ている。その姿は傭兵らしいが、身綺麗で洗練された印象を受ける。魔物を相手に戦うにはやや軽装に見えるが、何処となく戦い慣れした手練れの雰囲気を漂わせていた。
「あんな数で1人を囲むなんて…卑怯な輩だわ!」
「そうだな、バジル。あの戦士も素人ではなさそうだが、多勢に無勢だな。よし、加勢するぞ──」
「マリー様、お待ちください!あの姿はまさか…」
「ああ、間違いない…アイツはジーリョだぜ!」
オールとテレーズが驚いた様子で見つめている。ジーリョと呼ばれる蒼き戦士は颯爽と宙を舞いながら斧で魔物を一閃していく。軽やかなバク転で魔物の攻撃を避けながら斧を振るい、頭から叩き割っていった。
「せいやぁ!」
「ガアアァァッ!」
「強い…見事!」
「太刀筋も間違いなくジーリョのものだわ…まさかこんなところで会えるなんて…」
「データに記録無し…マスター、あの方は…?」
「そっか、プロトは知らなかったわね。彼女はジーリョ、アザレアの戦士であり私達の仲間よ」
「オール殿の御一行だったか…ならば尚のこと救援を急がねば!」
「テラコッタの騎士様、ここは我らアザレアの騎士にお任せを!参ります!」
一行が介入する間もないまま、ジーリョは魔物を次々に蹴散らすが、さすがに疲れの色が滲み始める。オール達はそのタイミングを示し合わせていたように増援として戦いに加わる。アザレアの地で共に鍛練を積んだ旧友との再会に嬉々として臨んでいるようだった。
「あれ!?オール、みんなも…!」
「ジーリョ、加勢致しますよ。アザレアの平和を想う同志として、共に参りましょう!」
「元気そうで何よりだ!アザレア魂、見せてやろうぜ!」
「僕の拳も磨きがかかったんだよ。どうか見ていてくれ!」
「後衛は私達に任せて!魔物は1匹残らず焼き尽くしてやるわ!」
「凡庸な魔物だけど、少しはデータの足しになりそうね…やるわよ、プロト」
「了解しました、マスター。標的確認──戦闘モードに移行します──」
アザレアの貴公子達は戦いの舞台で美しく華やぐ。華やかなる王国で養われた洗練された戦闘は閑散とした荒野に彩りの花を咲かせた。
「オックスフォードブロー!」
「レスタースパーク!」
「カンタベリーバレット!」
「ポーツマスエッジ!」
「ユーストンバースト!」
「プロトビーム!」
「マンチェスタースマッシュ!…よし、とどめは7人全員でいきますよ!」
敵将と思われる一際大きな体躯の魔物に狙いを定める。シャンパンゴールド、コーラブラウン、シェリーシャルドネ、オペラピンク、ピュアホワイト、グレー、ソーダブルー──美麗な7つの彩りが高貴なる虹を天に架けていった。
『天駆ける彩り、我らが祖国のために!レインボー・ユニオンジャック!!』
魔物の将は美しい彩りに溶け込み、消えていった。旧友と久し振りの共闘を果たし、魔物を退けたジーリョという爽青の貴公子は爽やかに笑いながらアザレアの仲間達と健闘を称え合っていた。
「みんな、さすがの実力だね。助かったよ!」
「ああ、ジーリョも腕は落ちてないみたいだな!」
「健闘、お見事でした。私はモニカ・リオーネと申します。貴女は?」
「恐れ入ります。では、私も改めてご挨拶を。私はジーリョ。オール達の仲間…そして、皆様の仲間となる者です」
「それは…祝福の証…!」
ジーリョの左手にはソーダブルーの紋様が彩られていた。清涼感のある爽やかな彩りは洗練された気品と共に凛と煌めく意思が満ち溢れていた。が、一行に向かい合うジーリョの様子が何やら妖しい。
「それにしても…ハァ、これはこれは…」
「ジーリョ…どうしたのですか…?」
(この目は…ジーリョ、まさか…!)
(ああ、この軍は女性ばかりだから選り取り見取りだろうね…)
ジーリョは爛々とした瞳で一行を見つめている。舐め回すように一行を見渡した後、狙いを定めたように双眸を一点に向け、ネイシアの前に跪く。頬を薄いピンクに染めながら赤い薔薇を手向け、甘い眼差しを注いでいた。
「なんと美しい御方…貴女は天より地に舞い降りた天使だ…」
「はあ…あ、ありがとうございます…」
「貴女と私の出会いは天命に定められた運命だ。どうか私の傍らに寄り添い、弱き私を正しき道へと導く女神でいてほしい…」
「そんな…神に導かれる身の私が神の名を謳うなんて、恐れ多いです…」
妖しく迫るジーリョの様相にネイシアは狼狽えるばかりである。オールは仲間に言い寄る旧友の姿に苦笑いを浮かべながらも強く言えない様子で見つめていた。
「やれやれ…ジーリョが女性を口説くのは相変わらずだね…」
「オール、貴女が言えたことではないわよ。まあ、ジーリョも相当な女好きだけどね」
「あの…ジーリョさんは女性ですけど、女性がお好きなんですか…?」
「そうだぜ、ケイト。しかも、女と解れば誰彼構わず見境無しなんだよ…その点オールは好みがあって、守ってあげたくなる可愛い女の子が好きなんだけどな」
「そうそう、更に言えば幼い少女ならもっと良いのよね、オール?」
「テレーズ、ルーティ…誤解を招く言い方はやめてくれ…」
ジーリョはネイシアのみに留まらず、次々に一行の面々に甘い言葉を囁いていく。最初は仲間として受容する心持ちでいたが、初対面にも関わらず遠慮することなく手当たり次第に口説いていく振る舞いを苦々しく思う者が徐々に出始めていた。
「トックさん…貴女の絹のような髪、その緑は碧玉のように美しい…」
「…は?その台詞、さっきエルヴァさんにも言ってたよね?あんた、誰にでもそんなこと言ってんの?バッカじゃないの?」
「ケッ、ごが沸く野郎だがや!蹴られたくねぇならトックに寄るんじゃねぇがや!」
「す、すみません…あ、貴女…ガーネットのように力強くも美しい──」
「いい加減黙りな!そんなチャラチャラした奴の言葉で女の心が動くと思ってンのかい!このスカタン!!」
ボカッ!
深紅の鉄拳が唸った。ジーリョは傍目にも軽薄に見え得る自身の様相に業を煮やしていたビクトリアに殴り倒されてしまった。遂にはかつて苦楽を共にしてきたアザレアの貴公子の中にも冷やかな視線を投げかける者が現れ始めていた。
「…行動動機、解析不能…レベルC要警戒者として認定します…」
「ジーリョ…前よりエスカレートしてるわね…さすがに嘆かわしいわ…」
「同感。あまりにも酷いし、節操ないよな…正直見損なったぜ…」
「プロト、シェリー、テレーズ、止めないか。ジーリョが皆に溶け込めるように僕達がフォローすべきじゃないのかい?」
「キャロルの言う通りよ。このままだとジーリョが孤立してしまうし、軍全体の士気に関わるわ」
「困りましたね…彼女自身に悪気はないのですが──」
一行に不協和音が鳴り始めた頃、新たな魔物の群れが押し寄せてきた。しかも少数ではなく、次から次へと湧き出てくる。
「何っ!?また魔物…しかも大勢いるでごわす!」
「ええ、この辺りは人の手が少ないから、魔物の巣が多いのかもしれないわね…」
「や〜れやれ、こりゃまたゾロゾロと団体さんでお出ましだなぁ…厄介だねぇ…」
「テラコッタ・ソシアルナイツ総員、聡明なる軍師ルーシー殿の指示に従え!」
『はっ、マリー様の仰せのままに!!』
「そ、そんな…宮廷騎士の方々の指揮だなんて大役、わたくしには荷が勝ち過ぎているように思うのですが…」
「大丈夫。兵の1人1人を大切にする貴女なら出来るわ。私もサポートするから、安心して」
「イレーヌさん…承知しました。では、不肖の身ながらわたくしが指揮を執らせていただきます!」
「その言葉を待っていましたよ。ルーシー、頼りにしています!」
「モニカさん…ありがとうございます♪」
ルーシーの指揮で陣形を整えていくが、魔物達は予想以上の大軍勢だ。総勢100人の彩りの軍を率いる軍師ルーシーは前の傭兵戦争で培った観察力と判断力を遺憾無く発揮していく。
「飛行する魔物も多数いますわね。前衛、中衛、後衛の各陣営を据え、的確に迎撃しましょう!」
「承知しました。では、このジーリョも前衛として共に参ります!」
「う〜ん…あの人、アテにして大丈夫なのか?」
「リタ、先ほどの戦闘から見るに腕は確かだ。用心するに越したことないが、協力していくぞ」
「わかったぜ、ヴィオ。頼りにしてるぜ!後衛は任せろ!」
「フッ…リタ、お前に私の背を預ける。頼むぞ」
モニカがリーダーの前衛、ルーシーがリーダーの中衛、フェリーナがリーダーの後衛に分けて陣形を取り、魔物の軍勢を迎え撃つ。守りを担う前衛が黒紫の群衆にぶつかるのを皮切りに、戦いの火蓋が切って落とされた。
「ひゃああっ!強いよ、この魔物達…!」
「あれだな〜…なかなか強烈な攻撃なんだな、うん…」
「厳しいけど頑張ろう…アーマーナイト部、ファイトッ!!」
「みんな、気を引き締めて!私達の歩む道は…私達が切り開かねばならない!」
屈強な魔物達と火花を散らし、皆がそれぞれの役割を担いながら奮戦していく。ジーリョを加えた一行だが、未だに蟠りが残ったまま静かに燻っていた。ソーダブルーの新たな絆と共にビンニー国への道を切り開け!
To Be Continued…