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Rainbow God Bless  作者: 色彩天宙
Chapter5:彩りの義勇軍篇
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第102話『Holy Sweet Pink』

シリーズ第102話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!

フルウム国から隣に待ち受ける蛮族の国ビンニー国へ歩を進める一行。意気を高める彩りの軍は次なる地へと勇んで向かっていた。



「ビンニー国はフルウム国郊外から少し離れてるから、何日かかかるかも…頑張ろう!」


「ほいほい、了解やで〜。そう言えば、ルーヴ姉ちゃんはビンニー国に行ったことあるん?」


「ああ、アタシも蛮族の端くれだから勿論あるよ。刺激が多くて退屈しない国さ。ただ、荒くれ者も多いからフルウム国と比べて治安が悪いんだ。十分注意してくれよ」


「了解した。コレット、ビンニー国内では私から離れるなよ。私が絶対に守ってみせる」


「うん、わかった!ゼータ、ありがと!」


「やれやれ、ウチの一団は危なっかしい娘も多いから気を付けなきゃいけないねぇ…気ぃ引き締めていくよ!」


「うむ、そこはみんなで協力し合うのである。私達の“絆の力”があれば大丈夫なのである!」


「ええ、私も尽力しますよ。清き乙女の純潔はこのオール・クレメンスがお守り致します!」


「そうね、オール。私もアザレア近衛兵として、荒くれどもなんかには絶対に負けないわ!」



一方、魔族七英雄ベガの居城──薔薇の貴公子ベガと直属の配下であるディアボロ7人衆のラストが静まり返った空間で2人で向かい合う。魔の妖気を纏う2人は自らの理想を体現するという強い意思を静かに燃やしていた。



「ベガ様、あの娘達はフルウム国の拠点を発ち、南のビンニー国へ向かっている模様です」


「ああ、そのようだね。しかし、その地には風流を介さない粗雑な輩が少なからずいると聞く。彼女達の華やかなる美が汚されなければ良いのだが…」


「ええ、確かにそれは懸念されますね。ですが、我らが美しき華、テラコッタ・ソシアルナイツもあの娘達のもとに居りますゆえ、守りは万全でしょう」


「ああ。我がソシアルナイツの娘達なら粗雑な輩には負けんだろう。それに彼女達と共に在ることで、我が家臣達の彩りは更に美しく耀くのだからな…」



その頃、一行はフルウム国郊外の村に立ち寄る。が、のどかな雰囲気とは裏腹に村人達はどこか慌ただしそうに右往左往している。一行に出迎えの言葉をかける余裕もないほど急いだ様子だった。



「あの…す、すみません…」


「あ、あんた達旅の人かい?悪いけど、今はもてなしてる暇無いんだよ!どいたどいた!」


「チッ…何かあったようだな。私達も行くぞ」


「待って、おねえちゃん!…ワタシ達も急がなきゃ!」



先陣を切るヴィオに続いて村人達の後を着けていくと、青ざめた1人の老人が床に伏せていた。苦しそうに魘されながら伏せる姿は相当に痛ましいものだった。



「村長…しっかり!」


「あらまあ、病気なのね…どの薬草が効くかしら…?」


「無駄だよ、旅の御方。コイツは最近村で蔓延してる流行り病なんだ。こんな得体の知れないやつに薬草なんて効かないよ…」


「そんな…こうして目の前で人が苦しんでるのに…」


「エルヴァ様、ここはわたくしにお任せを!村長殿の命、繋ぎ止めてみせますわ!」



前に躍り出たのは美しいブロンドの髪を内巻きカールに巻き、ピンクの鎧に身を包んだテラコッタ・ソシアルナイツの麗騎士ラナンだった。ブルーノ国内でも有名な名高き貴族のお嬢様であり、何不自由無い生活を送っていたが、18歳を迎えた頃に“自分の道は自分の力で切り開きたい”という本人の強い意思で自ら宮廷騎士に志願し、厳しい訓練を乗り越えて加入した異色の経歴を持つ。可愛らしさを感じさせながらも凛と光る淡いピンクの瞳は優しさの内に強さを兼ね備えた彼女の騎士としての有り様を物語っていた。



「この優しい光は、ネイシアやカタリナと同じ…!」


「そうだ。ラナンは我らの中でただ1人の治癒術の使い手なんだよ。ラナン、任せた!」


「汝、誉れ高き祝福と共に在れ…レストア!」


「村長…!」



ラナンの彩りの力が妖しき病魔に蝕まれた村長を癒していく。肌に活き活きとした血色が戻り、村長の心身に活力を蘇らせていった。



「た、助かった…ありがとうございます…」


「いいえ、御礼には及びませんわ。わたくしは騎士として当然のことをしたまでです」


「ところで、村長殿の病について1つ尋ねるが、なぜエルヴァ殿の薬草も効かぬ得体の知れぬものと断言出来るのだ?」


「ああ…ちょっと前に村のすぐ近くに魔物が巣を作ってしまってから、同じ症状の疫病が蔓延し始めたんだ。どうもその魔物が変な病原菌を村に撒き散らしていくみたいなんだよ…」


「なんと!それは由々しき事態ッス!みんなで協力するッス〜!」


「ああ、僕達がこの脅威から目を背けてはならない。魔を討たねばならない!」


「そうですね、キャロル。その魔物退治、我々が承ります!」


「本当かい!?助かるよ!もうこんなことで仲間を失いたくない…隣の一家みんな、この病気で死んじまったんだ…」


「なんてこと…その御霊、慰めさせていただければ良いですが…」


「…ああ、せめてお参りだけでもさせてもらおうぜ。お墓に行ってもいいですか?」


「構わないよ。君達は村長を助けてくれた恩人さんだからな。墓所はこっちだ」



村人に連れられた村の片隅に即席の小さな墓所があった。魔物によって死に追いやられた一家を弔う小さな塚が数基築かれており、のどかな村の一端に哀しい空気を醸し出していた。



「この人ら、みんな魔物のせいで死んでもうたんか…可哀想やなぁ…」


「こ、これは…!?ううっ…」


「カシブさん!?顔色が悪いですわ…大丈夫ですか?」


「リーベちゃん、私は大丈夫なのである。しかし、これはなんと痛ましい…これほどの無念を抱えたままの霊魂は初めてなのである…」


「みんな不本意に亡くなったんじゃのう…この方々の想い、無駄にはせんぞい!」


「言われるまでもない。平穏を蝕む魔の根…1つ残らず切り刻んでやる!」



一行は哀しき犠牲を目の当たりにし、魔の脅威に曝された村を救う決意を固める。村の周辺を見回りながら情報収集を行い、体勢を整えた。



「フッ、我が邪竜の贄どもは漆黒の闇に堕ち、影を潜めている…つまり、今は異常なしだ」


「村人さんによると、魔物は深夜から夜明け頃に活動するみたいです。ボク達も夜間に行動しなければなりませんね」


「魔物は村の南東の方角より出でるとのこと。南東を中心に村を守る布陣を一考されよ」


「ピカンテ、シュシュ、ミノリ、ありがとう。必ずやこの村の平和を取り戻しましょう!」



一行は村長の許可を得て村の南東の外れに拠点を設営し、陣を敷く。物々しい雰囲気に訝しがる者もいたが、村の救世主としてすぐに受け入れられた。テラコッタ・ソシアルナイツの面々も意気を高めるが、賊騎士ブライアの心は晴れない。



「ブライア殿…顔色が優れぬが、いかがなされた?」


「ランディニ…我々の…私の、主君は…本当に魔族七英雄ベガなの?」


「そうだよ。迷うことはないさ。ベガ様の理想の実現のため、ブライアさんも熱い魂燃やしてくれよ!」


「ベガ様の理想のため、ブライアさんの力が必要です。再び志を同じく、共に歩んで参りましょう!」


「ランタナ…ヒアシンス…」



拠点で各々が準備を整えるうちに日が傾き始め、農作業に勤しんでいた村人の姿が次第に疎らになり始めた。が、それに反比例するように一行はいそいそと戦いの支度に取りかかる。宵闇に溶け込みながら人々の平穏を蝕む魔物達を討つべく意気を高めていった。



「よっしゃ、仕上げのストレッチしてくるッス!流行り病の魔物ども、絶対許せんッス!」


「うん…何の罪もない人を殺して、酷いよね…グスッ…」


「ケッ、胸クソ悪りぃ奴らぞなもし…カタリナを悲しませる魔物に好き勝手やらせねぇぞなもし!」


「ああ、1匹残らずブッ飛ばすぞ!スラッジ、頼りにしてるぜ!」


「スラッジ、トリッシュ、相手は厄介そうな奴だ。血気盛んなのは良いことだが、熱くなり過ぎるなよ」


「ああ、アヌビスも無理すんなよ。助け合っていこうじゃん!」


「そうだな。私にも為すべきことが山とある。魔物相手に散るわけにはいかんな」



空が紺碧に染まり、白銀の月光が優しく地に降り注ぐ。宵の闇が深まり、人々が眠りに落ちる刻だが、祝福の証の使命を胸の内に燃やす一行は誰1人として眠っていなかった。



「もうそろそろ作戦開始だね…絶対に負けられない戦いが、ここにはある!」


「そうね、クレア。この地の平穏のため、精霊の力で魔を浄化しなければ…」


「ふわぁ…眠いよぉ…でも、頑張らなきゃ…ふわぁ…」


「コレット、大丈夫か?私も皆もいる。どうしても我慢出来なければ無理せずに寝るといい」


「ゼータ…アンタ、コレットを甘やかし過ぎだよ…やれやれ…」


「怪しい気配…来ますよ!」



獅子座のミノアの号令を受け、臨戦態勢を整える。二本足で歩く獣のような姿の魔物が禍々しく牙を光らせている。宵闇に溶け込む黒紫の肌の両腕には青紫の瘤が幾つも並んでいた。



「これが件の魔物か…なんと醜い…」


「確かに凶悪そうなツラしてやがるな…かかってきやがれ!」


「テレーズ、不用意に突っ込むのは危険よ。相手は未知のウイルスを操る魔物…戦いながら解析するしかないわね」


「強いエネルギー反応を感知…警戒レベルAAA!」



プロトの警告と同時に魔物達が荒々しく両腕を振るう。腕に蠢く瘤から青紫の妖しい粉塵が飛び散り、前衛の者を妖しい病に冒した。



「し、しまった…!体が、痺れる…」


「お、重い…武器も盾も、着てる鎧も重く感じる…立っていられない…」


「キャロル、ティファ、大丈夫!?すぐに治癒術をかけなきゃ…」


「これがこの村を襲う病魔の正体か…なかなかヤバそうじゃん…」


「接近しての肉弾戦は危険ですわね。全軍後退、遠距離より攻撃ですわ!」


「了解だぜ、ルーシー!遠距離戦…クレア、フェリーナ、俺達が撃ち抜いてやろうぜ!」


「オッケー!あたしだって頑張る…負けられないもん!」


「ええ、精霊の戦士として、この地を救ってみせるわ!」


「私も加勢するわ。ドルチェ自警団の弓兵として、フルウムの地を守る!」


「や〜れやれ、また骨の折れる仕事だねぇ…ま、いっちょやりますか!」



リタ、クレア、フェリーナ達が中心となり、距離をとりながら迎撃する。守るべき村を背にして奮戦するが、一向に有効打を与えられずに消耗し始めていた。



「シャドウバレット!」


「メタルスピナー!」


「ウィンドカッター!…つ、強い…このままでは──」


「ここはわたくし、このラナンにお任せを!」


「ラナン…何をするつもりだ?」


「わたくしが聖なる力を使い、魔物達ごと浄化致します。どうかわたくしを前衛にお出しくださいませ」


「そんな…正気か!?無理をすれば死ぬぞ!?」


「はい。我らの正義を貫く戦い、誰かが為さねば成らぬのです!」


「ラナン!よせ〜〜ッ!!」



ラナンは危険を顧みず、ウイルスの中へと飛び込む。一行は戸惑いを隠さなかったが、とりわけソシアルナイツの面々は焦燥に駆られていった。



「キャ〜ッ!ラ、ラナン…!!」


「病原菌の中に1人で…だ、大丈夫かよ…?」


「ど、どうしよう…ラナンが死んじゃうよ…!」


「ラミウム、危ないぞ!クソッ、どうすりゃいいってんだ…!」



ラナンの傍らに柔らかなピンクの彩りが現れる。聖なる力を司るネイシアが寄り添うように彩りの力をラナンの彩りに重ねた。



「ネイシア様…!?」


「ラナンさん…私も助力致します!天の御心のままに!」


「恐れ入りますわ。わたくしと貴女の聖なる力、互いに引力があるかのように導き合っていますわね──」


「おい、ネイシアが…!トック、援護を頼むがや!」


「ヤバッ、遠すぎ…!これじゃ援護出来ないじゃん!」


「そんな…あたくし達は…あの娘達の運命を変えられないの…!?」



一行は歯痒い想いで魔を浄化せんとする2人を見つめる。黙って2人を見殺しにするのは憚られるが、迂闊に近付けば自身や仲間──ひいては守るべき村の人々まで巻き込んでしまう危険性がある──皆が凍結したようにその場から動けなかったが、モニカ、リタ、マリー、ツィガレの4人が示し合わせたように2人のもとに飛び込んだ。



「モニカさん、リタちゃん…!?」


「マリー様、ツィガレ様!?ここは危険ですわ。わたくしに任せてお下がりください!」


「そんなことが出来るか!私は…お前を失いたくない!」


「ラナン…貴女は私が守る。死なせはしない…」


「そうだよ!もしネイシアが死んじゃったら、誰が俺達の傷を癒してくれるんだ!?」


「大丈夫です…治癒術ならカタリナさんやアムール様もいますし、アミィちゃんもたくさん傷薬を──」


「それじゃダメだ!ネイシアがいなきゃダメなんだよ!俺は…ネイシアを愛しているんだ!」


「リタちゃん…!!」


「私も…共に旅する皆もリタと同じ想いです。私達に貴女を守らせてください…ネイシア!」


「ネイシア様、互いの彩りが呼び合うのを感じますわ…共に参りましょう!」


「ラナンさん…!」



ネイシアの彩りとラナンの彩り──聖なるピンクの紋様と優しきピーチコーラルの紋様が呼応して煌めく。美しき愛と優しき慈しみの彩りが辺りを包み込み、平穏を脅かす魔の息吹を祓っていった。



『聖なる慈しみの衣、邪を浄め祓わん!アフェクション・ホーリーヴェール!!』



魔物の群れは浄化され、聖なる法衣に包まれて消えていった。一手誤れば2人は亡き者となっていた──僅かながら最悪の事態が過っていただけに皆が安堵したが、山吹色の皇騎士マリーの表情は強張っていた。



「…ラナン、ネイシア殿…此度のような真似は2度とするな。命を粗末にするなど愚か者のすることだ」


「マリー様、申し訳ありません…勿論、主君ベガ様の理想を無下にするつもりはありませんわ。ですが、わたくしも1人の騎士、戦いから目を背けることは出来ません!」


「しかし…!」


「マリー様、私もラナンさんと同じく、覚悟は出来ています!どうか共に戦わせてください!」


「…その覚悟、しかと受け止めた。が、くれぐれも命を棄てるような真似はせぬように──」


「ラナン…無茶すんなよな…全くよぉ…」


「ネイシア…グスッ…無事で、良かった…」


「ヒーザー様…申し訳ありません…」


「リタちゃん…貴女の想い、とても嬉しいです。私も…お慕いしています…」



ラナンをヒーザーが、ネイシアをリタが瞳に涙を溜めながら抱き締め、ラナンとネイシアもその想いに応えた。ラナンとネイシアは慈しみを得物とする戦士としての覚悟を左手の紋様に煌めかせていた。強き意思と覚悟を秘めた癒しの戦士2人の彩りは夜の闇を優しく照らしていた。




To Be Continued…

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