第101話『惹かれ合う彩り』
シリーズ第101話目です。どうぞお気軽にご覧くださいませ!
ブルーノ国バーント平原を舞台とした巨大傭兵団との戦いに勝利した一行。フルウム国の酒場を貸し切っての祝勝会──大賑わいの大宴会が執り行われていた。
「イエーイ!ごちそうだ〜!ナハト、ガンガン食べちゃおうよ〜!」
「やれやれ、騒がしいわね…まあ、今くらいは別にいいけど…」
「プハ〜ッ、美味いねぇ!ビールもう一杯!」
「ウヒョヒョッ!ビクトリア、よく飲むぞなもし!あっしもビールおかわりぞなもし!」
「リタ様〜♪フライドポテトあげるから、あ〜んして!」
「うわあぁ!?イオス、ちょっと待って!モガモガ…」
「ワハハ!リタ、モテモテじゃなぁ!色女は辛いのう!」
皆が宴で盛り上がる中、大将モニカは少し気後れした様子だった。再び刃を交えたクリムゾンの獅子王フレア、強大な邪気を纏った漆黒の凶戦士フィーネ、リタの説得で仲間に加わった滅紫の暗殺者ヒイラギがいつの間にかいなくなっていたのだ。フレアとフィーネには刃を向けた真意を尋ねることが出来ず、ヒイラギには共に戦ってくれたことへの感謝の言葉を伝えることも出来なかった。モニカの胸の内には複雑な想いが燻ったまま残っていた。
「…モニカ、あの娘達のこと、気にしてるの?」
「エレン…はい。形はどうあれ同じ戦場に立った彩りの戦士…何の言葉も交わせないままなのは残念です…」
「あの3人は仕方ないよ。それにまだその辺にいるかもしれないじゃない?そんなに難しい顔しなくても、旅を続けていれば必ずまた会えるから!」
「そうですね…きっとまたこの彩りが導き合う時が──」
「エレン姐さん、グラスが空でございます!お飲み物をどうぞ!」
「サンキュー、リベラ!気が利くじゃない!」
貸し切りの酒場には奇妙な光景が構築されている。敵対勢力の一員だったリベラ、ジェンシア、グラーノ、セレアルが宴会の席に一緒に座っていた。何故に敵として一行に刃を向けた者達が勝利の宴の席を共にしているのか──というのは──
『クソッ…なんて強さだ…この怪力女!』
『アンタねぇ、いい加減にしなさいよ!悪いことしたら自分に帰ってくるんだからね!』
『フフッ…偉そうに御託を並べて隙だらけだ…今だ!ヒートストローク──』
『そうはさせないよ!私が根性叩き直すから、黙って着いてきな!!』
『…はい、すみませんでした…』
エレンが怒りに任せてリベラを無理矢理降参させた頃、リタは鴉の細剣士ジェンシアを追い詰める。ジェンシアは打つ手という打つ手をリタにことごとく切り返され、万策尽き果てていた。同時にリタに対する真摯な想いが沸き上がるのを感じていた。
『あの…リタ、さん…』
『えっ…?ジェンシア、いきなり改まって何だよ?』
『す…好きです!私の大切な人になってください!』
『はあ!?ちょっと待てって!いきなりどういう風の吹き回しなんだよ?急にそんなこと言われても…』
『ずっと近くで見てて、貴女の美しい戦いに惚れちゃいました…私…パートナーとして貴女のお側にいたいです!』
『あ、あのさ…俺、敵なんだけど、その辺は気にしないの?』
『気にしません!お願いします!お友達でも構わないから…!』
『わ、わかったよ…じゃあ、お友達ってことで…』
そんな故あってリベラはエレンの折檻に屈して舎弟となり、ジェンシアはリタの戦いに惚れ込んで自ら仲間に加わった。そしてグラーノとセレアルはドルチェ自警団のアーマーナイトであるサンディアに“アーマーナイト部”の部員として引き抜かれた。一方、1人不参加のマチルダは“コイツらとの馴れ合いは望まない”という理由で断り、巨大傭兵団の有志と共に破落戸としてバーント平原の戦場漁りに勤しんでいた。スプルース国、バーント平原と2度に渡って相対した悪の華である破落戸5人組はモニカ達の“絆の力”に溶け込み、事実上瓦解した。
「よ〜し、ドルチェ自警団アーマーナイト部、これから張り切っていこうか!2人も一緒にフルウムの平和を守っていこうね!」
「は〜い!頑張ろうね、セレアル!」
「あいよ〜。あれだな〜…頑張るんだな、うん」
「よかったね、サンディア!アーマーナイト部作りたいってずっと言ってたものね!」
「そうだよ、エレナ!仲間が増えてもう嬉しくってさ…燃えてきた〜!」
「その意気よ。アーマーナイト部が活発になればドルチェ自警団の拡大にもなるし、フルウム国の治安維持にも繋がるわ」
「そりゃ〜良いや!アタシらも気合い入れて頑張るかねぇ〜!」
ブライアは“家族”と称するテラコッタ・ソシアルナイツと酒を酌み交わす。が、魔族七英雄ベガを“主君”と呼ぶ“家族”を前にしては酒に酔えず、悪夢に酔わされているような気分だった。
「ブライア、壮健で良かった。不謹慎ながら亡くなったと思ってたからな…」
「マリー…貴女達の…いや、私達の主君は…」
「そうだ。私達の主君は紛れもなくベガ様だ。我らを心から信頼し、愛してくださる御方だよ」
「大丈夫よ。きっとベガ様もブライアを歓迎してくださるわ。ベガ様は包み込むような優しさを持つ御方…リール様と同じように私達を心から愛してくださる御方よ」
「……」
「ベガ様、素敵だよね〜…わたし、ベガ様の愛なら喜んで受け容れたいな…」
「そうですわね、ハイビスさん…ああ、愛しの主君ベガ様…」
一方、魔族七英雄ベガの居城。向かい合う配下はディアボロ7人衆のラストただ1人──彩りの戦士達が集い大賑わいの宴会場とは対照的に2人だけがポツンと佇む様相はあまりにも寂しげだ。
「ベガ様、件の傭兵団との戦い、無事に終息致しました」
「それは何より。やはり彼女達の彩りは美しく躍動したということか…」
「はい、戦場には彼女達を支持する彩りの戦士達が大勢集っていました。その規模は僕の予想以上に大きく、僕の手には持て余すほど数多の彩りが…」
「そうか…我ら魔薔隊の理想の実現には少しばかり時間を要するようだね…ラスト、頼りにしているよ」
「はっ、このラスト、ベガ様の理想の為に力を尽くします」
一行は大いなる勝利の余韻に浸りながらも次を見据える。宴を終えた後、モニカ、ルーシー、エレン、アミィの4人が宿の一室で行軍の進路を協議していた。
「ふぃ〜、食べた食べた…で、次はどこに行くん?」
「そうだねぇ、フルウム国からだとこのまま南下して隣のビンニー国を目指すか、北上してガルセク渓谷を越えるかなんだけど…どっちが良いかな〜?」
「では、一度南下してビンニー国を目指しましょう。まだわたくし達を狙う傭兵団の残党がバーント平原に潜んでいるかもしれませんわ。戦いの熱りが冷めるまで態勢を整えましょう」
「そうですね。では、次は南のビンニー国を目指しましょう。アミィ、エレン、いいですか?」
「ほいほい〜、了解やで!」
「うん、私も異論なし!明日からまた頑張ろう!」
目指す地が決まり、フルウム国から発つ日を迎えた。ドルチェは変わらず爽やかに笑っているが、別れを予感していた一行は表情に憂いを帯びさせていた。
「おはよう!モニカ、傭兵団との戦いは終わったけど、これからどうするの?」
「私達はビンニー国へ向かいます。ガルセク渓谷を越えるため、更に習練を重ねて参ります!」
「そっか…じゃあ、あたし達はここでお別れだね──」
「ちょっと待った!」
皆が振り返るとドルチェの父が腕を組んで仁王立ちしていた。別れの寂しさが辺りに滲み始めたところへ割って入るドルチェの父はいつもと変わらずさっぱりとした笑みを浮かべていた。
「お父ちゃん!?」
「ドルチェ、世界はお前が見ているものよりもっと広い。その目で広い世界を見に行って来い!」
「ええっ!?そんな…フルウムの治安維持はどうするの?あたし達がいなくちゃ困るんじゃない?」
「な〜に、心配すんな。ここには腕利きの傭兵達もうじゃうじゃ集まってくるから、用心棒くらいわけないさ!」
「う〜ん…そうかもしれないけどさぁ…」
「ドルチェ、待たれよ。御父上の言い分も尤もな気がするでごわす。小生らは狭い世界しか見ていないでごわす…」
「そうね。傭兵団との戦いで世の中にはまだ知らない強者がいると私も実感したもの。自警団として戦うことが全てではないんだとお父さんは仰ってるんだと思うわ」
「そうそう、ヴァインとヤンタオの言う通りだぜ。それによぉ…自分の娘がこんなでっかい軍の一員として傭兵団と戦ったっていうのが嬉しいんだよ!フルウムのためにもっと強い奴と戦って、もっと強く逞しく育って欲しいって思ったんだ!」
「お父ちゃん…」
「お前も自警団のみんなも目に見えて力を着けているが、まだまだ伸び代がある。こういうでっかい共同体で揉まれて切磋琢磨して、もっともっと強くなって来い!」
「…わかった!ドルチェ自警団、改めてこの軍の一員となります!」
「よ〜し、その言葉を待ってたぞ!自警団のみんなも嬢ちゃん達もみんな俺の家族だ!辛くなったらいつでも来い!」
「お父ちゃん、ありがと!というわけで…ドルチェ自警団、お世話になります!よろしくね!」
「よろしく、ドルチェ。では、行きましょう!」
「うん!お父ちゃん、行ってきます!」
「おう、気を付けてな!良い旅を!」
改めてドルチェ自警団の面々を加え、一行は新たな1歩を踏み出す。次なる目的地ビンニー国を目指し、南へと進路を取っていた。
「フルウム国、良い国で良かった…来られて良かったね♪」
「そうだな、姉貴!次もバリバリいこうじゃん!…なあ、ビンニー国ってどんな国なんだ?」
「ビンニー国は昔は蛮族の国だったんだ。今もその名残で腕自慢の戦士が集う闘技場があるんだよ!」
「そうですか…それなら闘技場で腕試しにも──」
「待ちな!嬢ちゃん達、金目のもん置いてきな!」
筋骨隆々の荒くれ者が徒党を組んで一行の前に立ちはだかる。皆が武器を構えようとするが、テラコッタの騎士達が前に躍り出た。
「薄汚い破落戸め…成敗してくれる!」
「オール、ここは私達に任せてくれないかい?燃やしてやろうじゃないか!」
「は〜い!張り切って殺っちゃお〜!」
「ああ。モニカ殿やマリー様の手を煩わせるまでもない。我々だけで十分だ!」
「ええ〜!?あたし達の出番は…?」
「ドルチェ、宮廷騎士のみなさんの戦いは私達よりずっと洗練されているわ。人の振り見て我が振り直せって言うし、仲間の戦いから学ぶのも一興よ!」
「サンディア…それもそうだね。じゃ、お願いします!」
「承ったぜ。アタシらに任せな!!」
「は〜い!わたしだって頑張っちゃうよ〜!」
パンジー、ランディニ、ヒーザー、グラジオ、エーデルが慣れた様子で陣形を取る。宮廷騎士の統制の取れた動きは戦いでありながら舞踊のように美しい。
「でやあぁッ!」
「ぬぅん!そりゃあ!」
「むむ…遅れちゃったの…はわわ…」
彩りの騎士が勇んで破落戸達を迎え撃つが、濃紫の鎧を着たパンジーが少し出遅れる。少し焦りの色を滲ませるパンジーを見つめていた皇女ビアリーが妖しく微笑みながら、艶かしく纏わりついた。
「ひゃああ!?ビアリー、どうしたの…!?」
「ウフフ…誘ったのは貴女よ?この左手の彩りがあたくしを受け容れたいと誘うから…悦ばせてあげるわ…」
「キャッ!…あああッ!」
「ビアリー、すっげぇ刺激的だな…エロいぜ…」
「テレーズさん、それどころじゃないッス!ビアリー様とパンジーが変ッスよ!?」
「パンジー…!!」
ビアリーの彩りに触れ、パンジーの得物である斧が妖しく煌めく。濃紫の彩りに導かれた濃紫の宮廷騎士の刃は禍々しい毒氣を纏っていた。
「これが闇の力、毒の力か…パンジー…!」
「私らと出会ったアヌビスが覚醒した時と同じように、祝福の証が耀いてる…!」
「パンジーの狂気が増している…無邪気さと表裏一体の残酷さが燃え滾っているわね…」
「パンジーはかつて凶悪なシリアルキラーだったからな…その戦いぶりをローザに見込まれて宮廷騎士になった。謂わば成り上がりというやつだからな」
「そうなのであるか…つまり宮廷騎士は実力主義なのであるな!」
「可愛い娘…さあ、イかせてあげなさい…」
「は〜い…この力でみ〜んな殺っちゃうよ〜!」
戦慄する破落戸達を尻目にパンジーパープルの彩りを持つ狂気の闇騎士パンジーは毒氣を纏った斧を荒々しく振るう。禍々しいほどの狂気を纏う様相に破落戸は命の危機を感じ取っていた。
「クソッ!このガキ、強すぎる…!」
「ひいぃ…い、命だけはお助けを〜!」
「フン、覚悟するのだな…パンジー、仕留めろ!」
「は〜い♪死んじゃえ〜!キャッハハハ〜!!」
パンジーは内なる狂気を暴走させ、破落戸達を退けた。かつて殺戮でテラコッタの地を戦慄させた狂乱の戦士はビアリーの彩りのもとに毒の戦士として覚醒した。
「楽しかった〜♪それに気持ち良かったの〜♪」
「む、惨いわね…プロト、応急手当をして差し上げなさい…」
「了解しました、マスター…闇の力のエネルギー反応、継続中…警戒レベルAを維持します…」
「なあ、ウチらもそうだけど…アヌビス、ナハト、パンジー…毒の力を持つ奴がビアリー様のもとに自然と集まっているような気がする…」
「その通りよ、ヤート。これは母なる精霊が同じ力を欲して呼び合うからなのよ」
“母なる精霊”という聞き慣れない言葉を発したフェリーナに皆の視線が集まる。ミントグリーンの彩りを持つ疾風の狩人は祝福の証の彩りのもとに精霊が集う様を凛とした瞳の奥に見ていた。
「ポワゾン達が毒の力のもとに集い、闇を司るビアリーの配下となり、アヌビスも毒の力を目覚めさせ、こうしてパンジーも毒の精霊の祝福を受けた…同じ力のもとに生まれた精霊同士が呼び合い、惹かれ合うのは精霊としての本能であり大自然の摂理なのよ」
「ほう…ならばこうして我らがモニカ殿一行に加わり、共に戦うのも必然というわけだな」
「へぇ〜!じゃあウチらもこれからパワーアップ出来るかも!超楽しみじゃ〜ん!」
「そうですね、カメリア。私達もその時が楽しみです!」
テラコッタ・ソシアルナイツの濃紫の闇騎士パンジーの覚醒により立ちはだかる破落戸を退けた。これからの旅路、どのような彩りと惹かれ合い、導き合うのか?一行は次なる目的地ビンニー国へと歩を進めていた。
To Be Continued…