第10話『月下の一閃』
シリーズ第10話目です。冬ノ寒サニモ負ケズ、楽しく元気に創作しております♪どうぞお気軽にお楽しみください!!
モニカ達一行は突如ノワール帝国軍の会合の仕事を行うこととなった。帝国軍の宿舎に泊まり、会合当日の朝5時半、太鼓の音が激しく鳴り響く。
「起床!10分以内に準備を済ませ、整列せよ!」
モニカ達も慌ただしく着替えを済ませ、朝礼の列に並ぼうと走る。なんとか時間内に全員揃い、点呼・団体行動の訓練。だが、コレットが機敏に動けず、上官であるトープ軍曹の怒号が響く。
「そこ!遅い!ちゃんと周りを見ろ!!」
「ふえ〜ん…帰りたいよ…パパ〜…ママ〜…」
訓練終了後、モニカ達は軍曹に呼び出され、最初に通された集会所に集められた。
「全員揃ったな。それでは、本日夜の会合における分担を発表する!」
「えっ、マジで!?もう決まっちゃったの!?」
「大佐がお前達の適性を見て振り分けたんだ!ガタガタ文句を言うな!!では、まず要人の護衛は…モニカ・リオーネ、フェリーナ・グリューネ、ビクトリア・スコールズ、リタ・オーウェン、以上。次に配膳補助…コレット・フィオレ、リデル・アールヴェロ、アミィ・ハワード、カタリナ・ランパード、以上─」
「うあぁ…悪い予感、的中しちゃったぁぁ…」
「トリッシュ…どうしたってんだい!?この世の終わりみたいな顔して…」
「うぅ…姉貴ぃ〜ッ!うわあぁ〜ん!」
「…トリッシュ…貴女は強いから、大丈夫だからね。あらら、よしよし…」
カタリナと別行動をとることとなったトリッシュが突然泣き出してしまった。軍曹は勿論、カタリナに甘えるトリッシュを見たことがなかったステラ、ビクトリア、フェリーナも唖然とした様子で見つめる。
「クレア…トリッシュは…いつもこうなのかい?」
「うん…トリッシュってカタリナのことが大好きで大好きでどうしようもないんだって…しかも見知らぬ場所だから、不安なんじゃないかな…」
「そう…ちょっと意外ね。不安なのはわからないでもないけど…」
「なんじゃ…牙を抜かれた獅子のようじゃのう。こりゃ困ったわい…」
「…大丈夫か?続いて、会場設営だが…エレン・シンク、トリッシュ・ランパード、テリー・フェルナンデス、クレア・ブラウン、ステラ・バルデス、以上。会合中の会場内外の見回りは配膳補助の4名を除く全員で交代で行う。各部署にはそれぞれ数名補助の者がつくので、現場で質問等あればその者に尋ねるように。では、1時間後各部署ごとの打ち合わせだ。解散!」
それから、モニカ達は各部署の打ち合わせ、現場の下見に追われ、時間が矢のように過ぎていく。昼食から少し経った頃、トープ軍曹の号令が轟いた。
「これより会合の準備を開始する!各自持ち場に大至急着くように!!」
「さあ、みんな気合い入れるよ!熱く魂燃やそう!」
「あ…あの…あ、あ、姉貴…」
「トリッシュ…そうだ♪ちょっと待って…よいしょっと…」
「ちょっ…カタリナ!?あんた何やってんだい!」
「えっ?だってトリッシュが…」
「それはわかります、けど…でも、あの…」
「わ、私達が恥ずかしいよぅ…」
モニカ達はそれぞれの持ち場へと急いだ。会場設営の一団はエレンをリーダーとして動き始める。
「うおぉ〜!全力パワーで働くッス〜!」
「さあ!みんな頑張ろう!…トリッシュ、聞いてる?」
(このシャツ…姉貴の匂いがする…)
「こりゃ聞いとらんな…ほれ、しっかりせぃ!」
「ハハ…完全に上の空だね…」
一方、配膳補助の一団。リーダーのカタリナを中心に料理の準備を進めていく。
「アミィ…えっと…ビネガーを取って、もらえますか…?」
「はいよ〜!あ、リデル姉ちゃん、黒胡椒パスしてぇな!」
「ああ、コレット!それは調理酒じゃなくてお客様にお出しする白ワインよ!」
「何やってるんだ!しっかり確認しろ!」
「ふえぇ…ごめんなさ〜い!」
そして、モニカをリーダーとした要人護衛の一団はバスに乗せられ、空港に到着。各国から訪れる要人達を迎える準備を整える。
「本日お越しいただくのは…どんな方々でしょうね?」
「さあねぇ…国のお偉いさんとかじゃないのかい?国をあげてのパーティーならそうとしか─」
「それもあながち間違ってはいないが、それだけではない。俳優など文化人、スポーツ選手、大手企業の社長…様々な分野で活躍する人物だ。打ち合わせで言ってたはずだが、聞いてなかったのか?」
モニカとビクトリアの間に冴えた青の短髪の兵士が割って入る。その鋭い眼差しはどこか他者を寄せ付けない雰囲気を持っていた。
「あ…そうでした。申し訳ございません…」
「フン…まあいい。私達はお前らを補助するためにいるのだからな…ふむ、お前が皇女様が仰っていた…」
「はあ…私が何か…?」
「いや、なんでもない。それよりもう来るぞ。お前が担当する方はあの飛行機から降りてくる。」
到着した飛行機から降りてきたのは著名なIT企業GRAPE社の社長、ビリー・ゲイトだった。仕立ての良いスーツに身を包んだ彼は穏やかな笑顔を浮かべ、モニカに近付いてくる。
「本日、護衛を担当致しますモニカ・リオーネです。よろしくお願い致します。」
「ああ、よろしく。こちらが家内のナタリー、娘のルーシーです。ルーシー、ご挨拶をなさい。」
父ビリーに促され、ルーシーが前に歩み出る。白を基調とした衣装、ふわりとカールがかかった水色の髪が彼女の物腰柔らかな立ち振舞いを際立たせている。ルーシーは優しく微笑みながらモニカに歩み寄った。
「ルーシー・ゲイトです。お会い出来て光栄です。よろしくお願いしますわ。モニカさん。」
「はい!よろしくお願い致します。」
「護衛の方がルーシーと年の近い方とお聞きしていたので、楽しみにしていたのですよ。」
「ええ。同世代の友人があまり居りませんもので…嬉しいですわ。」
「そんな…光栄です。それではこちらの車へ…」
モニカはゲイト一家と共に黒光りした高級車に乗り込む。馴染みのない雰囲気にそわそわして視線を泳がせていると、ある一点に惹き付けられた。ルーシーの左手である。
(左手が…水色に…まさか…!)
(あ…左手が…モニカさんと会ってから、ずっとだわ。これはいったい…)
その後混乱も無く、要人達が次々に会場に到着。あっという間に開会の時間を迎え、礼服を着用したスレート大佐が壇上に姿を現す。
「これより、乾杯の音頭を皇帝陛下より賜ります。皇帝陛下の御成門!」
盛大な拍手に包まれながらノワール帝国皇帝、エボニー・フォン・ノワールが姿を現す。彼に続き皇女であるビアリーも姿を見せた。前日の黒い衣装ではなく、薄紫のドレスに身を包んでいる。
「うおぉ〜ッ!皇女様萌えッス〜!」
「馬鹿者!静かにしろ!」
(テリー姉ちゃん…なんで皇女様の虜になっとんねん…)
「本日は御多用の中、ノワール帝国特別記念式典に御越し頂き、誠にありがとうございます。此度のリド国との合併により、我がノワール帝国の国力もより強大なものとなるでしょう。それと同時に背負う荷も重くなり、それに伴う力を持ちたいと願う所存にございます。それでは、ノワール帝国の更なる発展と皆様の御健勝を祈念して、乾杯!!」
式典は盛大に始まった。配膳補助のカタリナ達を残し、モニカ達はそれぞれ見回りの持ち場へと急ぐ。会場の外は中の賑わいが嘘のような静けさであり、足音がはっきりと聞き取れる。満月に近付いた月が照らす中、先程の青い髪の兵士が歩み寄ってきた。
「モニカ、と言ったな。先程の話だが…」
「はい。皇女様は…」
「お前の左手…その金色の印を気にかけていらっしゃる。たしか光と闇がどうとか…」
「光と闇…対になる存在が─」
「キャ〜〜ッ!!!」
バリ〜ン!!
「何事だ!?…モニカ、お前は現場へ行け!ここは私に任せろ!」
「はい…しかし、もし魔物が来ては…」
「大丈夫だ。この印に誓って…保証する!」
なんと兵士の左手がアヌビスブラックに輝いている。モニカはその煌めきにしばし目を奪われたが、無言で頷き、駆けていった。モニカが現場に到着すると既に仲間達が揃っていた。
「みんな、何事で…クレア!テリー!」
「モニカ…助けて!」
「ぐぬうぅ〜っ…引きちぎれないッス〜!」
中央に目玉が浮かぶ不気味な蔦の塊が壁を這っている。クレアとテリーは触手に巻き付かれて身動きがとれない。
「観葉植物が急に暴れ出したらしい。要人の方々は俺達で避難させたけど、この有り様だ…」
「私の術で燃やしちゃえばいいとは思うけど…ここは屋内だし─」
「下がりなさい。」
後方からの声に一同は振り返る。ビアリーだった。彼女の左手が濃紫に輝き、その力を解き放つ。
「ダークスフィア!」
「ギィアアァアッ!」
闇に包まれた途端に触手が朽ちていき、クレアとテリーは床に叩き付けられた。無防備になった魔物にモニカ達が畳み掛ける。
「ブライトエッジ!」
「エレキテルショット!」
「フロストザッパー!」
「グギギギィッ!!」
魔物は目を血走らせながら抵抗するが、モニカ達に押されていった。更にどこからか澄んだ声が響く。
「ヒールウォーター!」
柔らかな煌めきをたたえた水が降り注ぐと、触手の棘で受けた傷が瞬く間に癒えていく。声のした方へ視線を移すと水色の煌めきが見える。ルーシーだった。
「貴女は…ルーシー様!」
「モニカさん…お友達の皆様も、お怪我はありませんか?」
「大丈夫です。それよりもあの魔物を─」
「神々の子…既にこれ程の力が揃っていたとは…」
突風が吹き、黒い花弁が舞う。その中心に眉目秀麗な細身の青年が立っていた。
「貴方は…」
「私の名はベガ。魔薔隊隊長にして、魔族七英雄の1人だ。富と名声に酔った醜い連中を貴様ら共々葬るつもりだったが…失敗だな。」
「醜い…?貴方に何がわかるというのですか!」
「これは失礼。水色が似合う美しい貴女は澄んだ水面に浮かぶ睡蓮のようだ…」
「何をグダグダ変なこと言ってんだい!さっさと帰りな!!」
「フッ…言われずとも。さらば、美しき人よ…」
魔物は魔薔隊隊長を名乗るベガによって仕向けられたものだった。式典は魔物によって中止に終わったが、大きな被害には至らなかった。─そして翌日、トープ軍曹が朝早くから大声を轟かせる。
「此度の活躍、見事であった。今後も我が軍での経験を忘れず、習練に励むように!」
「はい!それでは、お世話になりました─」
『お待ちになって!』
呼び止める声の主は2人だった。ルーシーと皇女ビアリー、その美麗な佇まいに自然と視線が集まる。
「私たちも…貴女達に同行致しますわ。」
「お…皇女様!しかし、貴女様は─」
「どうか貴女達の旅…その使命の行き着く先を見届けさせて…もちろん、迷惑なら無理強いはしませんわ。」
「いえ!まったく迷惑などでは─」
「よく言った!では皇女様の護衛を命ずる!しっかり務めるように!」
「あ…はい!最善を尽くします、軍曹様!」
「ウフフ…では、便乗するようですけれど、私もよろしいかしら?」
「はい、喜んで。ルーシー様、皇女様、よろしくお願い致します。」
「よし、では飛行機に乗り込め!ブラン教皇国まで御送りする!」
魔族七英雄ベガの策謀により、ノワール帝国での日々は嵐のようなものとなった。世界有数の軍事大国でも魔族の存在は脅威であることは変わらない。ルーシー、皇女ビアリーを加えた一行はブラン教皇国へ送られることとなった。
To Be Continued…