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悪因悪果

「なんで…この俺がこんな目に遭わなくちゃならねぇんだよ…」

走っても、走っても、どんなに走っても、アイツからは逃げ切れる気が全くしない。

正直、俺は自分のことはとても優れていたと思っていたし、勉強や運動や何かができなくても相手に劣等感なんぞ感じることなんてまったくなかった。

中学生の時からそうだった、自分が中心で世界が動いているとおもっていた。

それは高校生になっても変わらず、リスクをさけて隠れて逃げていただけであったなんて気づくのが今なんて俺には遅かったのだ。

この状況をどうにかできたらなんでもしよう!

そんな気分で生への執着心を燃やし、この状況を打破することを考え続けている。

しかし、現実というのはかなり非情であり、今この俺が死にそうになっているのは紛れもない事実である。

「いい加減逃げるのはやめたらどうだ?」

逃げるのをやめて、止まってもいいかもしれない…のだがこの男が俺を殺そうとしたことは事実であり、それにその言葉を聞いても逃げ続けているというのも事実だ。

単純に、明快に、俺の本能がヤツに怯え、逃げるというコマンドしかのこっていないのだ。

今、自分がどのような立場であり、周りに何か状況を打破できるようなものがないか?

そのようなことですら今の俺には分かることがない。

体中が悲鳴をあげている…

殺されそうになって追いつめられる。

本当に嫌な感覚である。俺が何をした?と神様にでも聞いてみたいほどである。

そういえば俺は人を何人も殺していた、俺が殺した人々もこのような感覚で死んでいったのか?

いや、俺が殺した人間は全員裁かれて当然の悪人ばかりのはずだ。

それに引き替え俺はなんでこんなつらい目にあわなくてはならない?

そんなことを思っていると後方から銃声が鳴り響いたのと同時に足に熱い感覚が襲った。

逃ゲロ。逃ゲロ。逃ゲロ。逃ゲロ。逃ゲロ。逃ゲロ。逃ゲロ。逃ゲロ。逃ゲロ。

ハハ…もう無理。

足動かねえんだもん…。






「おーい、葛城ィ。帰ろうぜ。」

おちゃらけた声である友人が俺に話しかけてくる。

正直言うと俺はこいつが嫌いだ。

だが、ひとりぼっちの高校生活を送るというのはとてもつらい。

そんなことを思いながらも教科書やノートをカバンの中に入れ、返事をする。

「おー、今いくー。」

なんでこいつが嫌いかというと…

「俺が思うに、お前さぁ協調性なさすぎだし、友達いなさすぎだし。ありえないっしょマジ。」

こいつは自分を棚にあげて俺を見下し続ける。

こいつも実際は友達はほとんどいない。

しかしこいつは自分が嫌われていることなんて知らないから自分は友達が多いとか思ってるんだろうな。

「―――。でさぁ、っつか聞いてる?」

やばい。聞いてなかった。

「聞いてるぞ。」

「でさぁ俺明日、榊さんに告白しようと思ってんだけど…。」

榊といったらうちの学校で1、2を争う美少女でさらに気立てのいい女の子だ。

しかしコイツ自分の顔見てそんなこと言ってんのか?とふと思ってしまった。

「まぁ…いいんじゃねぇの?つか榊さんって彼氏いないの?」

まぁ、無難に答えておくのが一番だろうな。

「いやいや、それが榊さんこれまで付き合ったこととかないらしいぜ。しかも、俺にすごい親切にしてくれるし。もう絶対これは俺に気がある証拠でしょ。」

すげぇお気楽な脳みそしてんなぁ。榊はぶっちゃけコイツに親切にしているわけではない。

みんなに親切にしているのだ。八方美人と呼ばれてもしかたないほど困っている人を無視できないような存在である。

つまりコイツは表面上は自分を嫌っていない榊を好いたのではないか…。そんなことを考えてしまった。

そんな事実を伝えたら完全に嫌われそう。なので言わずに心の中にしまっておいた。

「まぁ…ガンバレ…」

そうとしかいえなかった。

「おっと。もう分かれ道か、じゃーなー。明日は榊さんと帰ってるかもしれないからお前と帰ることはないかもなぁ。」

得意顔でこっちにそんな夢を語ってくる。ウザイ。

俺はほとんど無視してトボトボと一人で家へ向かっていった。

正直言うと、榊は俺のような男がふさわしいと思う。

ヤツみたいなダメなやつではなく、俺のようにできるけどやらないようなヤツが。

もしも…もしも明日告白に成功して付き合うことになったのなら…。

どうしようか、何もうかばない。

しかし、そんなどうでもいい考えはすぐに改められることとなる。

いきなりものすごい音がしたかと思うと、俺の体が宙にまっているのがわかった。

スゲー。飛んでる。ただ、そんな単調なことしか思うこともできず。地面にたたきつけられた。

「…ィ。カァ…。イ…タ…。」

呼吸ができない。なんか視界が赤くなっていく。死にたくない。死にたくない。死にたくない。

死にそうになると、逆に冷静に物事を考えられるなんて、まったく思わなかった。

どうやら車に跳ねられたらしい。歩道あるいてたのに車に突っ込まれるとか…本当に運がなさすぎる。車はそのまま走って通り過ぎていってるのがよく見えた。

誰も近くにいない。誰も助けてくれない。

死にたくない。死にたくない。死ニタクナイ。シニタクナイ。シニタクナイ。

「お兄さん…平気かい?」

歳は50といったところか…洒落たスーツを着た、若干顔にしわのあるおじさんが死にそうになっている俺に話しかけている。

返事できるはずがない。死にそうなんだから。

「まぁいっか。お兄さんにあったのも運命か。」

といっておじさんはナイフをだし。俺につきさした。

「ッァアアアア!」

焼けるように痛い。このおじさんが何を考えているかはまったくわからないが。とにかく普通じゃない。にしても痛い。

だが数秒後。俺の血の流れがとまった。

「このナイフはねぇ。~~~~~できるんだ。これを使ってキミの血でキミの傷を塞いだってわけさ。」

しかしまだ喋れないしよく聞こえない。流石に痛すぎる。

「このナイフは普通のナイフじゃない。これはキミにあげるよ。」

それ以上に普通じゃないのはこのおじさんだ。

正直すぐにでも逃げ出したいが、今すぐに手に入りそうな普通だが普通じゃないナイフがほしくて体が思うように動かなかった。

「自分で色々ためして自分の思うことを。欲望のままに動いてね。」

優しい口調だが、命令のように俺に指図してくる。こんなに人のことを素直に聞けたのは初めてかもしれない。ようやく体が動くようになった。

「ありがとう…ございます…。」

礼を言うことができたが、これは恥ずかしい。なぜこんなに感謝の言葉がでたのかわからないが…。

おじさんはニコッっと笑うと、いつの間にかどっかにいってしまった。

普通じゃないナイフを残して。



毎日の耳障りな音で目が覚めた。

もう朝か。このナイフでいろんなことをしていたらいつの間にか寝ていたのか。

毎朝、絶対に最初にテレビをつける。

アナウンサーがいつものようにニュースを読み上げていく。

正直、興味はほとんどない。しかし一人暮らしにはテレビなどの音のない生活っていうのは辛いものだ。

しかし、あるニュースが出た瞬間に俺はニュースに食いついた。

「またしても、朔の夜が犯行声明を出したようです。三か月に数名に天誅を食らわせると。」

『朔の夜』今この名を知らないものはこの日本にはほとんどいない。連続殺人犯であり、すさまじい知能犯。無差別に殺人を楽しんでいたり、汚職をしているような表ざたにできないような人間を殺人したりと、そのカリスマ性からインターネットではとても人気がある。

最初に姿を出したのは、汚職の名簿をマスコミやネットに流した時であり。その夜のその時間には月がでていなかった事を自らほのめかしていたため…朔の夜という通り名が付いた。

一週間くらい後に朔の夜を名乗った人間が無差別殺人をおかしたが、こいつはただの頭のくるっただけの人間だった。

まぁ本当の朔の夜はどうしているのかと思ったが、その時ある考えが俺にひらめいた。

「このナイフで朔の夜になればいいじゃないか…」

正直言うと、俺は朔の夜のようなヒーローにあこがれていたのかもしれない。

あのおじさんが普通じゃなく、俺が普通じゃないナイフを手に入れて、普通じゃない人間になったことも事実だ。

やはり、昨日の出来事は神様の御使いとでもいったおじさんが、才能あふれる俺に力を試す機会をくれたのではないのか?という風に自己解釈してしまった。

おっと、もうこんな時間か。

今日は授業の時間をフルに使ってどいつに天誅をくらわせるか考えなくては。

そんなことを思いつつ、生の食パンを口につめこみ学校に向かった。


学校につくのと同時に嫌味ったらしい声が俺を読んだ。

「おっす、葛城ィ。」

「おはよう。」

そう無難に答えると、ヤツは自分の方から舌を噛むのではないか?と思うほどの凄まじい速度で話し出した。

「やっぱ昨日考えたわけよ、告白するっきゃないから何か物でも買ってこようか、花でも買ってこようかとか。でもまぁ実際、学校に花なんて持ってきたらすげぇはずかしいしさ、ありえないっしょ。」

自己解決しているのに、なぜそんなことをわざわざ俺に言ってくるのか…理解に困る。

「でも今日告白するんだろ?」

「声が大きい!もっと小さな声で話そうぜ。」

誰も俺たちの話なんて聞きたくはないだろう。嫌われてんだから。

肝心の榊はというと。

「でね、天ケ瀬君。お医者さんのいう事をちゃんとこなしていけば、覚えてなくてもいつかきっとその病気もどうにかなるわ。」

学校の浮いてるヤツの中でもトップの天ケ瀬に話しかけていた。

天ケ瀬は…ちょっと特殊なタイプであり、一年に一度記憶がなくなってしまう――という奇病の持ち主だ。中学生になってから発症してしまったようで、記憶がなくなるその時期は5月――つまりクラス替えや入学してからそこそこ仲良くなったところで記憶が全てなくなってしまう。――まぁそんなわけだから、率先して友達になろうなんてやつはいない。それもそうだ。一年で記憶がなくなる相手にどんなに仲良くなっても意味はない。ただ……まぁ、顔は10人中9人がイケメンと称するほどによく、身長もあり、運動も平均程度にはできるのだからなんともかわいそうな人だ。

しかし、記憶がリセットされた天ケ瀬には献身的に話しかけてるのに俺たちの方には顔すら見えない。

やはり顔か!?そうかそうか。

「……すまねえな。毎度の事らしいんだが全く覚えてなくて。」

天ケ瀬は右手で髪をかきあげるように頭を押さえながらも答えており、榊の事などどうでもよく心ここにあらずといったところだ。

やっぱ勝率はほとんどゼロじゃないのか?とふと思っていたら。

「やっぱさ、告白の場所はテンプレ通りに、校舎の裏側とかどうよ。」

「いいんじゃねぇの?」

お前の話なんて大して聞きたくなんてない。俺は俺がやるべきことを考えて実行しなくてはならないのだ。

そしてチャイムが鳴り、先生がやってきた。

「おはよー。職員会議長引いちゃって、今日質問に来た子達はごめんね。」

ショートカットの美人の先生がホームルーム開始と同時に謝罪した。

そして授業が始まるのと同時に、勉強するのを辞め、必死にどう朔の夜らしくあれるか、ナイフの限界などを考えていたら、いつの間にか授業が終わっていた。

50分なんてものすごい短さの中に若干の悲しみを覚えつつ、すぐにまた思考をナイフの事に移し替えた。



体育の授業というのは憂鬱である。


「はやく校庭にいこーぜ。」

言われるがままに、校庭にむかった。

正直、俺は運動は苦手である。

しかし、このクラスの数人に劣っている。という感覚はない。

むしろあのナイフのおかげでゾクゾクし続けていた。

「今日はサッカーか。」

こういう経験の差ですさまじい差がつく競技ってのは嫌いだ。

もっと全員初めからやるようなスポーツにすりゃいいのに。

運動のできないグループは自然と消極的な動作だと感じられるディフェンスになる。

もちろん友人もディフェンスだ。

だが、いつも浮いている、天ケ瀬は毎回毎回、運動は平均的でぼっちにも関わらず、フォワードを任されているし、PKで一本外せない状況になったら絶対に決める勝負強さがある。

なにか理不尽なものを感じる。

だがそれが現実であり、天ケ瀬がぼっちなのも事実である。

「葛城!ボールいったぞ!。」

もちろん外した。

いきなり来られてもわかるわけがない。

「ふざけんな。」「ちゃんとやれ。」「なにやってんだ。」

そんな声は無視して、次はとれるように頑張ろう。

「次……頑張れよ。試合は終わってないし――1点入れられたら入れ返せばいいだけだ。」

天ケ瀬は記憶喪失になって数日ほどしかたっていないらしいので今回はディフェンスであった。

そうにも関わらず、相手のシュートを弾いたキーパーのこぼれ球を――自陣のキーパーのとても近い状況から、弾丸かと思えるほどに凄まじい軌道で直線状に相手のゴールに叩きこんだ。

「なんだこりゃ……」

天ケ瀬は自分でこの状況を起こしたにも関わらず自分で驚いていた。

それ以上に俺たちは開いた口がふさがらなかった。

だがこの点を最後に天ケ瀬の動きがとても鈍くなり、ボールも全然飛ばなくなっていた。運がブーストしてるとしてもすごかったなさっきのは…

それでもあの友人は天ケ瀬に嫉妬し続けている。

ありとあらゆる面で勝てるわけないのに。





そして授業も終わり。帰ろうとしたその瞬間。

「告白、いってくる。」

勝率ゼロの戦いにでていく友人の背中を見守りつつも、気になっていたので後をつけていった。

校舎裏の茂みに隠れる俺。

けっこうワクワクしている自分がいるのが少し恥ずかしい。

どうせ榊こねーよ…とか思っていたら信じられないが、来た。

「来てくれてありが…おう。」

すごい緊張しているらしく、噛むところを見るとやはりダメだな。

「ずっと好きだした。付き合ってください。」

言った。マジで言った。スゲー。

単純にこんな言葉しか出てこなかった。人生の中で告白に遭遇したのも初めてであるし。

榊の顔を見てみると。すこし恥ずかしげである。

これは…脈アリ!

榊は友人のような変な男でキモい男がタイプなのか?。

しかし、現実は残酷であり。

「私…好きな人がいるの。だからごめんなさい。」

その言葉を口走った瞬間に榊は逃げ出した。

現実なんてそんなものである。

友人は空気が抜けたように地面に座っている。

俺は。本当にいけると思っていたのか?などと笑いたい気持ちを抑えて友人に話しかけずにそのまま下校した。

まぁ、ぶっちゃけそんなことどうでもよかった。

俺はこれから、朔の夜になるために準備をしなくてはならない。

明日からは学校も休もう。

着実に、正確に、殺す人間を探していかなくては。




家に帰ってからはすぐにパソコンを起動して、朔の夜のファンサイトに向かった。

掲示板をみていくとどいつもこいつも馬鹿ばかり。

何が俺が朔の夜かもしれない。だ

何が朔の夜の次回の犠牲者を予告するスレ。だ

しかし、中にはまともなものもあり、汚職をした政治家や死刑を免れた凶悪犯の名前、住所が乗っている。この情報にかけてみるか。もしものことがあっても今の俺は最強だ。

ここから一番近いワルモノは…。

と調べていく。住所はのっているので、そこからの逃走経路、どういう風に襲うか、刑務所に入っていた頃の写真。

インターネットで調べられるだけ調べた。

住所は俺の最寄駅から2駅とそこまで遠くはない。

もしもの場合は徒歩ですぐに帰ることのできる距離だ。

やってやるしかない。

俺が本物の朔の夜だ。

期待に胸を膨らませてすぐにベッドの中にはいった。

もう春だというのに寒い。寒い日は早く寝るのに限る。

しかしワクワクして眠れない。明日のことを思うと眠れるわけがない。

なにかしようかと思ったが、何もする気にはならずにベッドの中に入って眠くなるのを待った。



ハッっと目を覚ますといつもとおかしいことに気付いた。

時間を見てみると、もうすでに午後5時。

学校をさぼってしまったのか、ぶっちゃけ本当に休む気などはなかったのだが。

まだ計画の時間には余裕がある。

そういえばまだメシを食べていないことに気付く。

食べるか…。

たまにはこういう日もありだろうな、と思いつつもテレビのチャンネルを回していくと、ニュースでまた別の朔の夜が捕まった、などというくだらないことをやっていた。

「そいつは偽物に決まってんだろ。俺が本物なんだから。」

朔の夜はだれかを殺した時に遺体の近くに丸を書く。

これもニュースや掲示板から学んだことだ、無論そのジンクスを辞めるつもりはない。

くだらない番組を見ていると、もう10時になっていることに気付く。

「さて…行きますか。」

一人なのに自然に言葉が出た。

電車で向かった場合、もしも自分の体に血がついたのなら確実にバレて刑務所行き確定だ。

それならば、と思い自転車で行くことにした。

フードのある服を着て、ポケットにナイフを入れて。

俺が本当の朔の夜ということを見せつけてやる。

完璧な犯罪で、完璧な殺しで。


自転車で数十分はしっていたらターゲットのアパートの前についた。

ターゲットの家は光がないようで、外出中のようだ。

自転車を近くの電柱の近くに止め、ターゲットを待つ。

ターゲットの家について一時間ほど経ったころだろうか。

いや、実際に立っているのは5分程度なのかもしれないが、俺には一時間ほど待っているように感じられた。

ターゲットが帰ってきた。ラッキーなことにここは人がよらないような脇道であるのですぐにナイフに手を当てた。

ターゲットが俺の近くを通りすぎたと同時に俺は自分左手の指先3本を縦にナイフで切り裂いた。

「…ッ」

確かに痛い、しかしこれも正義のためだ。

自分の指先の血が流れるように下に垂れていくのと同時に固まっていく。

すぐに50センチほどの長さになり血が止まる。

ターゲットは普通に歩いている。

無論、後ろから血の爪で切り裂いた。

「グァ…ァァァアアアアア!」

五月蝿いな。と思ったら既にターゲットの喉を切っていた。

その後は何回切りまくったかわからない。

日頃のうっぷんを晴らすように、切って切って切りまくった。

能力の限界が来たらしく、左手の指の血が元に戻り、普通の左手になってしまった。

ふと辺りを見渡すと辺りは血のプールかと思うくらいに凄まじいほどの出血であることにようやく気付いた。

指紋がつかないような手袋を右手に着け、ターゲットの血で近くにあった電柱に丸を書くと同時にうむをいえないほどの光悦感や達成感が俺を襲ってきた。

その感覚を長く感じているわけにはいかない。

すぐに、フードをかぶり、自転車をこいで逃げた。

明日のニュースや掲示板が楽しみで楽しみでしょうがない。

小学校低学年の時の遠足ようなワクワクした感覚で家路についた。

マンションにつくころには高揚感もなくなり、むしろ人を一人殺してしまったという罪悪感だけが残った。だがこれは俺の正義を証明するため。そう思っているのならば若干罪の意識は軽くなるだろうと感じ取る。

俺は体の疲労からかわからないが、数日ぶりにぐっすりと安眠することができた、なぜかわからないが人を殺しても殺されて当然の人間だからか。何も感じない。

やはり俺は朔の夜だったのだ。

いつもの偽物などではなく、本物の。



耳障りな音でまた目が覚めた。

テレビをつけてニュース番組を見ると、やはりやっている。

「フフッ…ハハハハハッ」

俺の思惑通りに物事がすすんでいくのはとても気持ちがいい。

こんな笑ったのは久しぶりかもしれないってほど笑ってしまった。

「昨夜、朔の夜が出現したようです。しかもいままでのとは違い、長い刃物で異常なまでに切られたようです。現場の田名瀬さん」

メシなんかよりも先にパソコンだ。そう思いすぐにパソコンを起動させてファンサイトに行ったらやはり俺のやったことが書いてあるな。

掲示板を流してみると、昨夜の朔の夜は俺だ。とか、ついに天誅をくらわせた。とか、いうことが延々と書いてある。

これは…気持ちいい。生まれて初めてかもしれないな、こんなに幸せな感覚になるのは。

それにこのナイフがあれば負ける気がしない。やはりあのおじさんは神の御使いだったのだな。

まぁ、さすがに無断欠席二日連続ってのはヤバイ。

すぐに家から出発することにしよう。

次のターゲットを決めているとすぐに学校についてしまった。

いつも通りにクラスへいき、いつも通りに自分の席に座る。客観的に見て今日の俺ほど自信に満ちた人間などいないだろう。

「葛城ィ。おはよー。」

「おはよう。」

振られた日から一日たっているが、ものすごく堪えていないように見える。

結果を聞くのは野暮か?と思いつつもどうだった?と聞いて笑いたい自分がいる。

するとヤツから。

「いやぁ~、告白の件は放課後報告してやるよ!」

などと自信満々に俺に言ってきた。振られたのがそんなに自信満々に笑い話にできるほどヤツは人間性ができていたか?いや無理だ。


授業が始まっても俺は何も集中できずにいた、次のターゲットを決める前にもっともっとこの町をきれいにしていこう。そんな覚悟をきめていたら、すぐに昼になっていた。

いつもの通り、俺は一人でカツサンドに食らいつく。

やはりいつもの通り、天ケ瀬は2人か。ここまで腫物として扱われている理由にはもう一つ理由があった。天ケ瀬の妹が異常なほどにブラコンで近寄れないのである。記憶がなくなる前もなくなってから後も、授業の時以外は基本妹が近くにいる。俺にもああいうかわいい妹キャラが欲しい。

メシを食い終わった時、いつも友人はどっかのグループにいるはずなのにいないことに気付いた。なぜいないのか?などと思っていたら授業が始まるギリギリに帰ってきた。

なぜ?

「アイツ榊に告白したとかマジ?」

「半端ねー。鏡で顔見たんかね?」

「誰があいつとなんて付き合うかよ。」

ようやくわかった。告白したのが誰かに見られており、居場所がなくどっかで一人で食べていたのだろう。

可哀想に、だがならなぜ放課後に説明するなどと言っていたのだろうか。

まぁそんなことどうでもいいか。

授業を終えるチャイムが鳴り響く。今日もこれで終わりか。

立って帰ろうとするといつものヤツが俺に話しかけてきた。

「帰ろうぜ。」

そして帰宅途中にいきなり大きな声で「重大発表!」などと叫んできた。

「俺さぁ、榊さんと付き合うことになったから。」

正直笑いそうになった。どこまでこの友人は馬鹿なのだろか。俺は実は振られるところを見ていたということを隠して無難に答えるしかなかった。

「やったじゃん。で、いつデートいくの?」

なぜか悪戯心が俺を動かした。

「あ~~、うん、まだ決めてないんだよ。」

まぁそうとしか言えないよな、付き合ってないんだもん。

「なんで教室じゃ一言も話さなかったわけ?おかしくね?」

すると顔をまっかにして怒ったようにも恥ずかしかったようにもとれたがそのまま走って帰ってしまった。

どこまで俺にいじられるのがつらいんだ。

今日は何をしてすごそうか。

街の不良でも狩ってみるか。

いや、そんなチープなことにこの力をつかうわけにはいかない。

早くファンサイトへ行って次のターゲットを探そう。そう思い弾んだ心で家に帰った。

ファンサイトにはやはり汚職をした政治家や闇金の社長などの名前や住所が存在した、やはり次に狙うべきなのは…。

昨日の高揚感が忘れられずに今日も行かざるをえないな。

なんて思いながらすでに準備を始めている。住所も逃走経路も全てが完璧だ。

我ながら自分の才能に怖くなる。

昨日やったことで分かったが、血がつくと本当に精神的に滅入りそうだ。

なので今日も自転車でスイスイと闇金社長の家へ向かう。

ついてみたが、やはり金のありそうな一軒家で、昨日のように簡単にはまずいかないだろうがそれでも俺がやらなくてはならない。

天誅をワルモノに食らわせなくては、これは真の朔の夜としての意地か。

流石に、運転手付きで送り迎えされていたのならばそれは無理かもしれない。

だが、一人の場合は何人切ってでも確実にヤツを殺す。それだけだ。

九時になっても現れる気配がない。

さすがに、自転車をこんなに近くにおいていると怪しいか…と思い数十メートル離れた道の脇に鍵をして置いた。

十時、十一時、十二時。と延々と待っている。

しかし狩るものには待つということは最も重要だ、しかも俺はこの状況を楽しんでいる。

全然苦ではない、むしろ楽しいくらいだ。

一時を過ぎたころ、ようやくターゲットが帰ってきた。運転手はいなく一人っぽいな。などと思いつつ、ターゲットは駐車場に車を止めている。すぐにこの前と同じように左手の指先を縦に5本すべて切った。

待っていたため苛立ちからか、高揚感からかわからないが、まったく痛くはなかった。

無論指先から血の爪が五本もあるというのは警察はもっとわからなくなるだろうな。

と思いつつも車から出た瞬間に後ろから喉をかっ切った。

なにも考えずに一心不乱にターゲットの体を切り裂いてバラバラにしていく、三本で切り裂いていたときよりも数倍楽しい。

血がたくさん出ているため、たくさんの返り血を浴びている。しかし楽しい。

子供の時に泥遊びでたくさん汚れて笑っていた…そんな感覚がよみがえってくるほどである。

また制限時間が来たようで血の泥んこ遊びを辞めた。

朔の夜の義務として、ターゲットの血で今度は車のバックミラーに丸を書いて走って逃げた。

流石に返り血がすごく、このまま帰るわけにはいかないので少し離れた場所でリュックに入れていた替えの服に着替えてすぐに自転車を走らせた。

今が夜じゃないのなら俺は歌って走っていることがわかるほどの恍惚感。最高だ。

そして、今日新たにこのナイフについて分かったことも少しはある。

朔の夜としてこれからももっともっと悪人を裁く上で、自分の武器についての情報を得ておくというのは必須であると感じていたし、もしも今日ターゲットを切っている状態で誰かにあったのならば…たぶん気付かずにそのまま刑務所行きか殺されていただろう。

やはりより完璧により寸分の狂いなく朔の夜になるためにはこのようなことも考えたくてはならない。

その点ではまだ俺は未熟であった。

自転車をこぎながらそんなことを考えていると、すぐに家についてしまった。

すでに4時。さすがにこんなに重労働をしてそのうえ学校に行くとなると辛い。

今日は休もう。そうしよう。

家に付くと同時にすぐに寝てしまった。先生ゴメン。



目が覚めると完全に昼。

流石に連日天誅。というのは俺の体的にも精神的にも辛い。

次からは大物は一週間に一回程度でいいか。

それにこれは俺が好きでやっていることだ。誰にあれそれ言われるわけでもない。

やはりテレビをつけても朔の夜のことしかやっていない。

どっかの局じゃ、犯人はゴリラに剣術を学ばせて日本刀を握らせないとこのような殺人はできない。そんなバカなことを言っている。

「やっぱ俺は天才だな。」

掲示板を開くと同時に驚かざるをえなかった。


『○○を殺してくれ。住所~~~。』

『もっともっと人を殺してくれ。』

『次はもっと金持ちを。』エトセトラ…。


どいつもこいつも自分の事ばかりのクズばかりだな。

しかしこの湧き上がる思いは怒りなどではなく、もっと単純なものであると、俺は感じ取ることができた。

朔の夜となったという完全なる万能感。

ようやく、俺はわき役から主役になることができたわけだ。

そして昨日わかった新事実。

おそらくこのナイフは切る部分が多いほど一撃の強度が増す。そして長時間にも耐えうる。ということだ。

台所からまな板と大根をもってきた。

いつものようにナイフで左手の指先を切る。今回は人差し指だけだ。

そしていつものように50センチほどになったところで大根に向かって上からフルスイング。

すると大根は真っ二つになっているではないか。一本でこの威力。

そして人差し指はだいたい30秒ほどで、元の人差し指に戻ってしまった。

次に五指すべての指先を切る。これもやはり50センチほどで止まった。

そして同じようにまな板の上に大根を置いて大根に向かってフルスイングで血の爪を叩き下ろした。

「想像以上の威力すぎるな…」

大根を見事に切り裂き、その上、まな板をも切り裂き、台所をも切り裂いてしまった。

しまった、これでは自炊が完全にできない。

そしてこのナイフで切られた生物はすぐに超回復を始めるということ。

性質上では二つであるかもしれないが、これはおそらくどちらかひとつの力の応用であると考え付いた。

回復と攻撃を兼ね備えた、まさに主人公のような力を得てしまった。

この力があれば、俺の正義を体現することができる。

そう思い、これからは目に映ったワルモノは狩ることにしよう。と決意をした。

正直、俺個人としては今はそんなことよりも壊れた台所が気になってしょうがない。

「もうメシ作れねぇじゃん。」

ガスコンロは無傷であろうと火をつけようとしてみる、が。

なぜか点かない。

なんど点火しようとしても、一向に点く気配がない。

これは…ガス栓切っちゃったんじゃ…。

もうあきらめよう。

ふと考えたら、俺、返り血浴びたりしたのにまったくシャワーに入ろうとする気配すらなかった。

なんということだ…通りでなんか異様な匂いがするわけだ。

いやむしろ今さっきまで気付かなかったのは、高揚感によるアドレナリンで麻痺していたのだろう。そんな事どっかの漫画にかいてあったような気がしなくもないし。

とりあえず、シャワー浴びよう。メシはそれからだな。



シャワーを浴びた後に裸で鏡をよく見ていると、車に轢かれた時の傷は完全に治っている。

だがしかし、神の御使いが俺にナイフを刺した時に出来た傷は目を凝らせば見えるほどにうっすらとだけ見えた。

あのナイフによって傷をつけたものは完全にはまだ治っていない。いや完全に治らないのかもしれないな…。

若干の不安を抱えつつも、着替えコンビニへ向かう。




「お前さ、なんで最近学校来ねぇの?」

ふと、あるクラスメイトが俺に訪ねた。

「寝坊だよ、朝起きられなくなったんだよ最近。」

「そんな夜までなにやってんだよ。」

ニタニタしながらクラスメイトは踏み込んでくる。

しかし、こんなやり取りも悪くはないな。

別のクラスメイトもやってきて、話に参加してきている。

ふと気づけば周りにはたくさんの男子のクラスメイトが集まって好きなアイドル、AV女優談義に花を咲かせている。無論その話には俺も参加している。高校に入って初めてかもしれない…こんなにたくさんの人と話したのは。

しかし俺の友人はそんな俺が気に入らないようだ。

俺はお前の全てにおいて勝っているのだから当然だろう。

しかも俺は朔の夜という本当の姿を隠しているのだから。

「お前も誰か好きなAV女優とかいねーの?」

俺は慈悲の心からか、余裕という表れからか、友人に話しかける。

「あ…いや…いいよ…」

お前とは住む世界が違ったな。そんな言葉が今の俺たちの関係には相応しい。

そうだ…これを機にもっともっと友達を作ろう。

俺は今、朔の夜という新しい姿を、居場所を、力を得たのだ。

悪いが…友人よ。

お前がなりたいような人間に…お前が一生懸命築こうとしていた立ち位置も、全てこの俺が一瞬で作ってお前を圧倒してしまった。

だが、お前の方がどんなに俺を嫌っていようが、俺は友人と思っているぞ。

まぁ…覚えていたらだがな。




「チーッス、葛城ィ。」

「おう。朝練とは…ご苦労なこった。」

既に俺は何人も自らの手で天誅を行ってきた。

それは既に、自分が朔の夜であるという証明…などではなく、使命のような…日課のような。

しかし、このような日常というのは実に退屈ではない。

朔の夜ではなかった時には全く考えられなかったほどに、この高校生活が楽しい。

既に何人もの友達もできたし、クラス全体として立ち位置も悪くない。

まぁ…相変わらず全く人が寄ろうとしないやつもいるわけだが…。

「よ…よぉ…」

「おーっす」

コイツは何にビビッているんだ…。

毎朝毎朝。俺のご機嫌取りみたいなことしやがって。

挨拶なんてしなくたっていいってのに。

つーか誰だっけコイツ。



「葛城。今日ゲーセン寄ってかね?」

「あーー。わり、今日ちょっと家の方で用事があってな。また誘ってくり。」

「OK。また明日なー。」

十数日前には考えられなかったほどの感覚だな。

確かにいつもならば付き合いとして数人でゲーセンに行ったり、バッティングセンターに寄ってくなんてことも日常茶飯事である。

が。今日は天誅を下す日だ。

そんな遊びなんかよりも俺にはもっともっと崇高な使命があるのだよ。朔の夜という。

早く家に帰ろう。

そんな事を思いつつも、いつもよりも速足で家へ向かった。

しかし、歩いていると思いもよらない人間が俺に話しかけてくるではないか。

「葛城ィィィ、助けてくれよォ。」

こいつは…またしても俺に何かさせようというのだ。

無視して通り過ぎようとすると。いきなり右頬に痛みと熱が突き抜けた。

「オイオイオイ。友達無視してそのまま帰ろうとするなんてひどいお友達だなァ。」

「とりあえずお前もこっちこいや。」

見るからに、THE・不良みたいなヤツらがこの俺に絡んできやがる。

つかアイツ俺を巻き沿いにしやがった…。友達だと思ってたのに。

そしてこの異様な雰囲気の中、5名の不良と朔の夜と裏切り者がトボトボと歩き続ける。

ずっと着いて行くとそこは誰もいない廃ビル…いや廃墟といったほうが正しいのかもしれない。

このままいくと恐らくカツアゲだろうな、リンチにもあいそうだ。

ヤツら不良は自分の気の赴くまま動く赤ん坊のような存在であると俺は考え続けている。

「とりあえずジャンプしてみろや。」

不良の一人がニタニタしながら俺に向かって命令してくる。

しかたない…するか。

音はしない、普通財布の中に入れているからな。それに俺は小銭は持ち歩かない。

対して裏切り者のユダは思いっきり音がなっていた。

「金、出せよ。ここまでの運搬料、三万円ずつな。」

リーダー格のような男がユダと俺に向かって話しかけてくる。

「なんで俺が出さなきゃならねぇんだよ…」

ボソッと本音が出てしまった。

何ということだ。

しかしそれを聞いたリーダーのような男は笑いながら俺に向かって。

「そりゃあ…コイツが友達といえるのがお前しかいなかったからだろうが。」

「それにコイツはお前ならどうなってもいいから助けてくれってお前の事売ったんだよ。」

…やっぱ…そんなもんか。

昔、唯一の友達であった人間は俺をとても簡単に裏切った。

「お前が…お前が友達たくさん作るからいけないんだろうが!」

子供のような主張を続ける。

「お前みたいなヤツはもう俺の友達じゃねェ! やっぱ助けてくださいよ~。コイツからお金取って下さいよ~。」

あぁ…そうか。

言ってしまったな。俺は友達であると思っていたし、お前がユダでなかったならば、俺はお前を助けたはずだ。しかし、言ってしまった。

もうコイツらどーでもいいや。

俺は朔の夜――貴様ら下等な人間ではない。なのだからクズどもを裁く権利ってものがある。

「お前らグダグダ言わずかかってこいよ。力ずくで俺から金奪ってみせろ。」

「んだと。ブッ殺すぞテメェ!」

「コイツ早くしめちゃおうぜ。うぜーし。」

バカだなコイツら。

語彙少なすぎてウゼーとか殺すとかそんな事しか言えてねえ。

ナイフで自分の左の指先全てを縦に切り裂いた。

「お前ら。死ねよ。」

そう言った頃には既に血は刃となっていた。

切り裂こう。全てを。掃除しようか。ゴミどもを。

俺の指先の刃にビビッて動いていない最も近くにいるゴミを一瞬で五枚に卸した。

「うわぁああああああああああああああああああああッ!!!」

「逃げろォ!!」

勝手なヤツらだ。自分たちは仲間を見捨てて逃げようとしている。

「誰も逃がさねぇよ…」

一瞬指先の血の刃触れるだけで難なく部分的に分解していく。

ゴミどもは全て赤い肉片に変貌を遂げた。

掃除終了…かと思ったらまだ裏切りモノのユダがいた。

こいつは楽しもう。

「なんで裏切った?」

すんなりとこんな言葉が出るとは…自分に驚く。

それにさっきその答えは聞いたではないか。

しかし、自分の中には認めたくないという甘ったれた考えが残っている。

「…え…いや…嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない!!!」

今だこの状況を理解できないのか、ユダは唖然とした表情でつぶやき続けている。

もうコイツはダメだな。

俺にも慈悲の心はある。一瞬で楽にさせてあげよう。

「あっそ。」

頭に刃を叩き下ろそうとした瞬間、ユダがギリギリ避けたせいで両足を切断してしまった。

痛かろう。辛かろう。

だが俺の負った裏切られた苦しみってのはこんなもんじゃない。

「気が変わった。お前はいたぶり殺す。」

「嫌だ!嫌だ!なんで俺だけこんな目に遭わなくちゃならねぇんだ!!!」

涙を流しながらユダは俺に同情を集めるように続けた。

「なんでお前は俺と一緒だったのにお前だけ認められるんだ!なんでお前にだけ友達があんなにできるんだよ…。」

しかし現実は無慈悲だ。俺はコイツを殺す。

「自分の非を俺のせいにしてんじゃねえよ。」

裏切りモノの右手を掻っ切った。

このユダは人生最大に輝いているだろう、この『朔の夜』に殺されるのだから。

ギリギリ死なない程度に…と思っていたら、既に動かなくなっていた。

「根性ねーな。それだから嫌われるんだよ。」

今回の出来事では朔の夜という証拠を残したくない、ならば丸は書かないのが一番だな…と考えていると、ふと自分の体が真っ赤に染まっていた。

血のせいで制服も完全に使い物にならない。

どうやってこのまま家に帰ろうか。

リスクを最小限に抑えるには。深夜までここで待つか。




肉片やゴミの処理をしていたらもう既に辺りは真っ暗。

どうせ俺がやったって事なんてわかるわけないんだ。

しかも俺はゴミ掃除をしただけだ。むしろ褒められるべき事だろう。

「帰るか。」

「よう。」

驚いた事に入口から誰かが入ってきて俺に向かって話しかけてくる。

これは…まずい。

「逃げるなよ。葛城拓斗。」

名前まで知られている。何故だ。今までの犯罪は全て完璧だったはず。

頭で理解できない。ただ名前を知っている人物がいる場合、コイツを殺すしかない。

「酷く血の匂いがするな。6人か。だいたいそれぐらい殺したろ。」

殺した人間の数さえも当たっている。コイツは何者だ。

ただヤバイということだけが俺を冷静にさせていく。

とりあえず、答えてはだめだ。居場所がばれた場合、確実に殺される。そのような感覚しか正常に働かない。これはマズイ。

コツコツとこっちに正確に向かってくる。相手はこっちの場所を理解しているのか?

そうだ、分かってないとこっちに向かってくるのは不可能なはずだ。

とりあえず、ここから全力で逃げよう。できるだけ音を立てずにできるだけ早く上の階に上がって行こう。

と思った途端。

俺は思いっきり音をたてて走り出していた。

恐怖心が理性に勝った。

とりあえず、上の階に逃げよう。

このままマズイ状況にいるよりかは、不意打ちやらなんやらで来たやつを殺すしかない。

殺るしかない。殺るしかないんだ。

全速力で階段を上っていく。人生の中で最も速い速度で階段を上がって行く。

殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

俺は『朔の夜』だ。ヒーローはこんなところで負けるわけない。

一つ上の階に上がり、上がってきた階段からある程度離れた場所で一息つく。

慣れた手つきで左手の指を縦に切り裂き血を刃に変えていく。

いや…このままじゃダメだ。

右手も同じようにしないと…勝てる気がしない…。

左手にナイフを持とうとしたが、既に刃が完成しているため物を持とうとしても上手くできないのは追いつめられて初めて分かった。

口に咥えるか、それが一番安全で早いだろうな。

コツコツとまだ下の階であるが、確実にこっちに近づいてきている。

まだ大丈夫、まだ大丈夫。

そう思い、口に咥えたナイフで器用に、そして冷静に右手の指先を切り裂いた。

切り裂いた途端ナイフをすぐに地面に落とし蹴り飛ばしていた。

こんな物が近くに有ってもそんなに役にはたたないだろうし、既に両手は塞がっているためナイフを持つことなどできるわけがなかったのだ。

よし、いつでも来い。この朔の夜に逆らおうとしていることがお前は間違えなのだ。

コツコツと靴音がだんだんと近くに感じるように鳴っていく。

いままでの人生の中で最高の高揚感だ。こんな気持ち味わったことがない。

ただ単にビビっているだけなのかもしれないが。

ただ、すぐにこんな考えは崩れた。

撃ってきたのだ。

銃を。

この俺に。

腹にすさまじい熱を感じる。

確実に、やばい。

「さっさと逃げたらどうなんだ?まだ上はあるだろ?」

というかさっきどうやってこの俺に気付かれずにこの階に入ってきたんだ?

そのような頭で考えつかない事ばかり考えながらも必死必死に逃げるしかあるまい。

今は痛みなんかよりもヤツを殺す事だけが重要だ。

それにヤツを殺せばすぐにでもナイフで俺の体は回復する事ができる。

走り出そう。と思った途端に何故か肩に重い感覚が襲う。恐らくまた発砲したのだろう。

どこを撃たれたのかは良くわからない、それでもこの場は上の階へ行くしかない。

何も考えられなくなり足が上の階段を目指す。

体は重い。しかし正義の味方はこんなところでへこたれるわけにはいかない。






「やめておけよ、お前じゃ俺には勝てねぇ。いい加減逃げるのはやめたらどうだ?」

誰だお前は……。目がかすんで見えない。人型がいるという事は確実にわかる。

つーか普通に考えておかしいだろ、なんでこの俺がこんな目にあってるんだ。まともじゃない、きっとこれは悪夢なのだろう。

朝目覚めると同時に冷や汗がダラダラ出ながらもシャワーを浴びて毎日のように学校に登校しているはずだ。

「葛城拓斗。質問だ。」

誰だ……これは誰か知っている。いままであったことのある誰かだ。

俺は戦う事をあきらめていた。体に鉛玉が入った時点で不可能ということを身体が悟っているのだ。

「下の階のナイフはどこで手に入れた。いや誰から貰った?」

何を言うかと思ったら……コイツの目的はなんなんだ?いや、そろそろ意味の分からない夢は醒めてくれ。

「………神様がくれた。」

いや、正確には神様の御使いだろうか。この夢はおそらくただの神様の信仰を確かめる試験のような物なのだ。

それだから俺にこんなに不気味な夢を見せさせて信仰心を確かめているのだ。

「面白いな。こんな状況も救ってくれない神様にわざわざ貰ったて言うのか?」

なんだこいつ……夢の中の人間のくせに生意気で意味がわからない。

これが夢じゃなかったとしても……俺は主人公なのだからあと数秒すればかわいい女子高生の子がこの状況を打破してくれるはずだ。

そうでないとありえない!いや、本当に。

前にいる人間のシルエットは右手で髪を掻くように額に手を当てながら口を開く。

「おまえ……もしかしてこれ夢かなんかだと思ってて、自分は主人公だと思ってるのか?」

「なんでそれを……」

なら一体この状況は何なんだ!ありえないだろ!この俺が死ぬ!?神に選ばれし人間なんだぞ!?

「まぁいい……あと一つ質問がある。この質問にちゃんと答えられたのなら俺は帰る。悪くないだろ?あのナイフの能力は何だ。ちゃんと答えないと今すぐ殺す。」

銃がこちらにむいているのが分かる。答えない選択肢は存在しない。

「ま…ぁ…ナイフで手を切り血を出すと、その血が刃になる。後は自分の体の回復が起こるんだ……。だからあのナイフをここに持ってきてくれ……このままじゃ、死んじまう!!」

そうだ!ナイフを持ってきてもらえばいいんだ!どうせナイフを持ってきてくれなくても、俺は主人公なのだから美少女が俺の事をなんとか救ってくれるはずだ!!

「おいおい……もしかしてお前この状況で平気そうだとか思ってるのか?さすがにここまでくると道化として一生を生きていくことをオススメするぜ」

銃口がこちらを向きながらもコツコツと音を叩きながらこちらへと男が歩いてくる。

誰だ……これは……。いやこいつは……ッ!

「おま…天ケ瀬ッッ!!!」

瞬時に脳内?に轟音が鳴り響き俺は身体の制御を失った。ウソだろ……?こんなは、ずじ、ゃな、か……。

「こいつは褒美だぜ?一応ちゃんと答えてくれたからな。」


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