プロローグ
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アース歴2880年4月16日。
地球に似た惑星、アース。
この惑星アースを二分している勢力がある。
人類と、魔族。
くだらない、小競り合いから地域的な紛争。
大々的な戦争を含め、200年近く人類と魔族は戦っている。
人類から見れば、魔族は全人類の敵である。
同時に、魔族から見れば人類は全魔族の敵なのだ。
ここ数年は、人類側が優勢。
それは、魔族の罠であった。
連戦連勝で勢い付いた人類側は、勢いを止めることなく魔族軍へ。
長年魔族が支配している土地に入り込む事となる、人類連合国軍の快進撃が始まったのだ。
対して、魔族連合国軍は敗走に次ぐ敗走。
人類連合国軍を魔族連合国内領土のシリウス平野に引き込むことに成功。
突出してきた人類連合国軍を、伏兵を用いて包囲。
罠と気付いて、転進を開始するも遅すぎたのだ。
包囲戦において、退路を残す意味は大いにある。
退路がなければ、覚悟を決めて死兵となり特攻してくる恐れがあるのだ。
また、退路に向かって転進するので行動が読みやすくなる。
当然、殿を務める部隊もいるが。
「魔王様。どう致しますか?」
「敵側の殿を緩く攻撃しつつ撤退させろ。無駄に追わなくて良い」
「逃がす、と?」
「殿は言わば決死隊だ。決死の覚悟を持って挑んでくるからこちらの被害が多くなる」
「はっ。ではそのように……」
魔王と呼ばれた人物は、参謀長を務めるレオナールから見れば彼は人間そのものだ。
レオナールは、女性型の悪魔である。
魔界の地方を治める悪魔族の長の娘に当たる人物だ。
頭には角らしきものが二本生えており、サイドテールの金髪。
背にはコウモリの羽らしきものが生えており、それらを見れば人型であるが人間ではないと分かるだろう。
また、ファッションセンスを疑うような服装で、ハイレグ水着の上に黒のロングコートを羽織った格好にロングブーツだった。
背丈は170センチはあろう。
女性にしては長身だが、本来の悪魔姿から見れば矮小だ。
レオナールと魔王の視線は、ほぼ同じ位置にある。
――だが、視線の先は何を見ているのか。
「殿にちょっかいをだすのは、ゴブリン部隊で良いだろう。アイツらの機敏な動きで的を絞らせずに疲労させ撤退させろと伝えといて」
「承知しました」
レオナールが、水晶に向かって魔王からの指示を述べていた。
この水晶は魔族のみが使用出来る代物で、このアース世界では魔族しか持っていない伝達機器なのだ。
魔王ミシェル。
二百年前に人間として生まれたが、紆余曲折を経て現在は魔族連合国家の魔王を務めている不老不死の人間だ。
「しかし、わざと負けてきたせいか、皆動きが乱暴だったな。まあ、ある程度の秩序ある行動をしてたから文句はないけど……」
「その辺り、魔王様の統制力が行き届いているのでしょう」
魔族はもとより、弱肉強食で絶対強者の言う事しか聞かないと言う悪癖がある。
だが、その悪癖はミシェルに取っては何ら問題無いことであったのだが。
「エルフ部隊みたいに賢く聡明で慎ましやかだと楽なんだがな」
「彼らは……人間を下等生物と見下す癖が無ければ地上を支配していたかもしれません」
知能は、エルフよりも人間の方が高い。
エルフは長寿の為に、長期スパンでの思考をしがちなのだ。
よって、人間などその内勝手に滅びると高を括っていた。
気付いた時には時既に遅しであり数で上回り、知能で並び始めた人間がエルフを追いやっていったのだ。
そういった経緯があるが、未だにエルフは人間を下等生物と見ているし、人間に対しての恨みや憎しみ、敵愾心が強い。
だが、エルフ達も魔族の血を引いているので、絶対強者である魔王に忠誠を誓っているのだ。
また、不老長寿族のエルフに取っても不老不死と言う規格外の存在であるミシェルを、己達の上位存在として敬っているのだ。
「エルフ部隊、ダークエルフ少数部隊を中心に、シリウス平野に築いたシリウス魔城陣地に撤収させろ。シリウス平野入り口の監視は足の早いケンタウロス部隊に」
「まだ、人間の殿部隊はいますが。相変わらず先を見ていますね」
「敵は今回の罠で痛い目を見た。こちらの地形と地理を詳しく知らないから、これ以上侵入してこない。むしろ、斥候を放って必要な情報を手に入れようと動くだろうからな。まあ、その前にこちらから攻め入るがな」
レオナールは身震いを隠すことに必死だった。
人間界から魔界に現れた、正真正銘の人間が起こした魔界大戦争は記憶に新しい。
魔界統一の狼煙も、1人の権謀術数から始まったのだから。
「どのように攻め入りますか?」
「近場のユーラブリカ地方から攻め入る。まずはユーラブリカ要塞を落とす」
「ご存知でしょうが、一応ユーラブリカ要塞は難攻不落と呼ばれております」
「強力な魔除の結界で、魔族の侵入は難しく、また魔族連合国軍を抑える為の最前線にある要塞のため、強力な魔法使い、対魔族の聖騎士団が揃っているってな」
「常備軍の総数は10万人ですが……」
「所詮、人間10万人程度だ。それに、結界を破壊すればただの要塞に成り下がる」
「魔王様自ら攻め入ると?」
参謀長のレオナールは、魔王ミシェルの考えを見抜く。
魔族ならば侵入が困難ならば、人間である魔王が攻め入れば良いだけの話なのだ。
「ワイバーンを一騎だせ」
「え? 今すぐ攻め入る気ですか?」
「そうだ。何か問題が?」
「……いえ。手配します」
魔王ミシェルは、普段からジャケットにシャツ、ズボンと言うラフな格好をしている。
この格好は、人類側の一般的な格好と言える。
一般人との違いと言えば、腰のベルトには一振りの剣が帯刀されている位だろう。
剣と言っても、魔王ミシェルの前世である日本に存在した日本刀に近い逸品だ。
魔王ミシェルは、地球での死後に惑星アースに、転生した言わば転生者である。
転生者である事実を知るものは誰一人存在しない――。
この世界のごくありふれた一般家庭に生まれ、それなりに幸せな生活を送っていたとレオナールは聞いたことがあった。
だが、それ以外の過去は誰も知らないし、魔王ミシェルも語ろうとしない。
よって、魔王ミシェルの人生には謎が多かった。
――彼が不老不死と言う事実は魔族連合国の上層部ならば誰もが知るところだが。
人類連合国に取っては、魔王の正体は不明である。
噂として、悪魔が魔族連合国軍を動かしていると聞いている程度なのだ。
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魔族連合国が存在する地域は、地図で見れば分かりやすい。
地球で言う北海道程度の大きさの国だが、円状の湖に浮かんでいるような国だ。
湖とは水堀の事であり、国を守るように水堀で囲まれていおり地図上で見ると綺麗な◎《にじゅうまる》になる。
水堀から魔族連合国の土地までは、どこから攻めようとも1キロは離れているし、湖と称される程の水堀には、水族魔獣が棲んでいる。
実質、水堀ではなく本当に湖を魔法的に改造している自然の要塞なのだ。
ただし、湖の生態系は魔族に差し代わっているが。
そして、地図上で見れば綺麗な◎《にじゅうまる》に一本延びる道がある。
道幅2キロはあり、長さは1キロ以上。
湖を埋め立てて作った通路であり、魔族と人間の土地を繋げる唯一の道路となっている。
魔族連合国領土のシリウス平野とは、この道路の先にある魔族の土地だ。
だだっ広いだけの平野であり、この平野の3キロ先に魔族連合国の街がある。
魔族連合国シリウス領土。
シリウス魔城を中心に城下町が栄えており、魔族連合国の最前線軍地基地となっている。
この軍地基地を落とすことが人類側の最大目標となっているが。
魔族連合国にとっては、中心都市から遠く離れた僻地の1つに過ぎないのだ。
また、空からの侵略はほぼ不可能である。
湖を、水族魔獣が守っているように、空もまた空族魔獣が守っているのだ。
数百からなるワイバーンや、飛竜に加え、空を飛べる幻獣が飛び回っているのを見れば、誰も空から攻めたいとは言わないのだろう。
魔族と人間の土地を繋げる唯一の道路は人類側に勝手に名付けられた名称が、両国で使われている。
覚悟の架け橋。
橋では無いく、道路であるが。
それでも、覚悟の無いものはこの道路を使わないので、ある意味正しい名称なのかもしれない。
何故なら、この覚悟の架け橋には門番などおらず、またシリウス平野にも何者もいない。
魔族連合国に入国したければ、この覚悟の架け橋の正面から入ればいいのだ。
侵入者に含むところがあるのなら、何か罠が仕掛けられていると言う疑心暗鬼に囚われる。
殆どの人間はこの疑心暗鬼を何百年も抱いている。
実際に、魔族連合国に所属していなかった半人半獣や、半人半魔が正面から入国した歴史もあったし、純粋な人間も何らかの理由で入国してくる場合もある。
現在も、常に地方に生まれた魔族や、異族半人、何らかの理由を含む人間が魔族連合国に所属しようと覚悟の架け橋の正面から入国してくるのだ。
人間が魔族連合国に落ちる理由の多くは、奴隷だったり、貧困層と言う理由だ。
もちろん、人間が魔族連合国で生活するには相当の覚悟が必要だ。
食べられるかもしれないし、問答無用で襲われるかもしれないと言う不安はあるだろう。
だが、シリウス魔城で魔族面接官により悪意や、斥候の疑いが無いと判断されればすんなりと国籍が発行され、晴れて魔族連合国国民になれる。
魔族面接官を務める魔族は、条件が揃えば心を読める魔族や、人の記憶を読める高位の幻獣種であったりするので、この魔族達に間違いはない。
しかし、魔族には人間に良くない思いをしている者も少なからずいる。
よって、入国した人間にはその証明として腕輪をつけることを義務付けられる。
この腕輪をしていれば、国内で襲われたり、人間だからと言った差別も受けない。
過去には些細ないざこざはあったが、現在では皆無と言って良い。
むしろ、入国してきた人間に対して同情や哀れみといった感情が魔族達に生まれ始めていた。
そのためか、近年では異族間での結婚もポツポツとではあるが、出始めていた。
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魔法は本当に面白い。
悪魔の法なのか、魔族の法なのかは諸説ある。
魔法とは、イメージを現実にする奇跡の法である。
魔法は基本四元素の火、風、水、地の4つの属性に分かれるが、あくまでも基本でありその他にも属性はあるし、長い歴史を持つ名家や、王族などでは門外不出の秘伝魔法もある。
しかし、そのどれもに共通する魔法のルールがある。
強力な魔法ほど、使用回数は少なく使用条件も厳しくなるのだ。
いわば、ポーカーのように高い役ほど出る確率が低いように、強力な魔法を使うには厳しい使用条件がある。
よって、基本四元素を極めていくことが、最強の魔法使いへの近道であるというのが共通認識になっている。
ただし、人類のみの共通認識だ。
魔族は種族によって、特別な魔法を使える種族もいるし、生まれつきでそれらの特別な魔法を使えるので、人類のように使用回数、使用条件はない。
人間が息をするのに、使用回数や使用条件が必要ないように、当たり前のように強力で、特別な魔法を使える。
それが魔族である。
しかし、魔族は逆に基本四元素が生まれつき使えない種族が多い。さらに言えば、1つの属性に特化している魔族も多いため、人類のように汎用性の高い魔法運用や魔法の扱いが苦手なのだ。
長い間抗争を続けているために、特定の魔族の弱点情報が知れ渡っているために、魔族側は未だに人類達を征服できないでいるし、人類達は湯水のごとく湧き出てくる魔族達を撲滅できずにいる。
魔族は知性が低い。
それが、今までの人類達の印象だった。
だがそれが、今日を持って劇的に変わったのだ。
魔族の混合部隊、魔族による策略が今日戦った人類連合国軍に大きな爪痕を残したのだ。
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実のところ、有象無象が多い魔族ではあるが、種族別に頂点が存在している。
星の数ほど種族がある魔族。1つ1つの種族に1つ1つの頂点があり、各種族に独自の王が存在している。
そして、その王は種族の絶対強者であり、その王の命令しか聞かないと言う掟がある。
つまり、星の数ほど種族がある魔族に加え、星の数ほど王がいるという事になる。
その全ての王を僅か200年で統一支配したのが、魔族連合国の魔王ミシェルなのだ。
魔族は知性が低いと言われる理由は、王のみが個性と知性を持つためだ。
その王の配下達は、王の命令を聞くが、基本的には己の欲求に従って生きている。
支配する王も基本的には己の欲求に従って生きていた。
そう、人間界から魔界に現れた、正真正銘の人間が起こした魔界大戦争による魔界統一がなされたその日までは。
魔界の全ての魔族に共通している認識がある。
自分よりも強い者には、従う。
それが、誰であってもだ。
今までは、いわば同種族内の生態ピラミッドの頂点に従っていた。
別種族が、別種族を支配することもあったが。
今では魔王ミシェルが全ての魔族を支配している。
正真正銘の人間のミシェルが魔王を名乗ることに、不平不満は一切無い。
何故なら、彼は絶対強者だから。
魔族の世界は、弱肉強食で絶対強者の言う事しか聞かない掟がある。
彼の目的は知らなくとも、従うのが魔族であり、それが魔族の生き方なのだ。
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アース歴2880年4月16日午後2時。
シリウス平野から敗走した人類連合国軍は、出陣時は10万人の兵力であったが現在では6万人まで減っていた。
損耗率4割は、別段問題はなかったが。
問題は別にある。魔族達が策略を使ったことだった。
兵力の充填や、今後の作戦立案の為にはユーラブリカ要塞へ逃げ込もうと軍を動かしていた最高司令官のミンツ元帥は、元は大将の階級であったが、ここ数年の連戦連勝で出世した1人であった。
人類連合国軍は、5つの国からなる連合国軍のため、複数の元帥がいる。
何故複数の元帥がいるかと言うと、魔族は全人類の敵であるが、魔族連合国を落とした後の事を考えている各国の上層部が複数の元帥を作ると物言いをしたのだ。
200年近くこの体制だったため、今更変える事はできないのが、現状だ。
それに、覚悟の架け橋の広さから一斉に、全軍を投入することはできないのだ。
政治的な理由と、立地的な理由から人類連合国軍は、一度の戦争で動かせる人員は10万人から50万人ほどである。
人類連合国軍の総兵力は1000万人にも及ぶが。
しかし、魔族連合国を落とせば、次は人類同士の戦争があると各国の上層部は考えているので、容易に全軍を動かそうとはしない。
今回の戦争も、10万人の兵力を動かしたが、内情は各国が2万人の兵力を出している。
ユーラブリカ要塞の常備軍の総数は10万人だが、それもまた、各国が2万人の兵力を出している。
ようは、各国による合同出資、合同出兵の形態が人類連合国軍なのである。
魔族連合国から一番近い場所に構えているユーラブリカ要塞は、人類連合国軍の最前線基地と言える。
そのため、ユーラブリカ要塞が落とされたとなると、人類連合国軍に取っては多大なる被害と言えた。
シリウス平野から転進して、2時間程。
ミンツ元帥は、そこにあるはずのユーラブリカ要塞が無いことに絶望した。
いや、瓦解した要塞であった瓦礫の山と、炎上する炎。そして、立ち上がる煙。
崩壊したユーラブリカ要塞がそこにあった。
「馬鹿な……」
たった、2時間。
戦線離脱して、秩序と統率を乱さないようにしていたとは言え、その行動は決して遅くはない。
遅くは無かった。むしろ速いと言える。
だが、それよりも速くに敵が――。
魔族連合国軍が――。
――――魔王ミシェルが動いただけなのだ。
「10万人いたはずの常備軍は……どうした……」
本陣よりも先に到着していた斥候部隊に問いを投げた。
だが、斥候部隊の誰もが俯いた顔をしており、それは言葉よりも明確な答えだった。
「ユーラブリカ要塞……には誰も生き残りはおりません」
「逃げ出した兵はいるのだな?」
「恐慌状態でありましたが、我らを援軍とでも思い込んだのでしょう……。今は落ち着いております」
ユーラブリカ要塞から一番近いのは、パランティ地方にあるパランティ要塞だ。
100キロは離れている要塞で、収容できる人数は5万人が限度だ。
それも、人類連合国が合同出資して作った要塞ではなく、サウロン帝国内の要塞であるため、無許可で国境を超えて助けを求めた場合、国家問題に発展する恐れがある。
何故なら、ミンツ元帥はローハン王国所属の軍人だ。
最高司令官とは言え、所属する国が違う。
人類連合国軍とは言え、足並みが揃っていないのも事実であるのだ。
ミンツ元帥は、そんな事を考えながら部下の報告を聞いた。
「理由は不明ですが、ユーラブリカ要塞の結界が破られ、要塞内部から戦争が始まったそうです。殆どの兵は内部にいた魔族連合国軍の何者かに殺された模様。その後、空から次々に魔族が降りてきて、逃げ出す際に魔族からの追い討ちがあり、潰走。生き残りの兵が何人なのかは不明です」
「逃げた兵は恐らくパランティ要塞に向かっただろうな。……もっとも、サウロン帝国内に無断で入り込むのだから後の問題になるだろうが」
問題にならなかった場合は、サウロン帝国の軍人に鞍替えを強制されたと言う事になるが。
ミンツ元帥は、軍人であって政治家ではない。
しかし、それなりに国家間の政治は知っているつもりである。
先人が政治家達の傀儡軍人の元帥だったために、反面教師として、ミンツ元帥は暇な時間があれば政治を学んでいたのだ。
各国の元帥達もまた、政治家達に足を引っ張られていると感じてはいるものの、軍人が政治に口出しをすると言う事はなかった。
何故なら、人類側が勝手に決めたことだが、魔族連合国は専制政治だと言う話になっているからだ。
よって、愚かなる魔族連合国と同じになりたくない、と言う理由から軍人が政治に口出しすることはないのだ。
もっとも、魔族連合国の統治体制は専制政治と独裁政治の美味しい所を取ったものだが、彼の知るところではない。
「逃げ出した兵を集められるだけ集めろ。人類連合国軍所属のトラーバ要塞へ向かう。パランティ要塞よりも遠くなるが食料はギリギリ持つだろう」
ミンツ元帥の最重要項目は、魔族連合国軍による罠があったことを伝える事と、ユーラブリカ要塞が崩壊したことを人類連合国軍に通達することである。
一番恐ろしい出来事は、今まで策という策を使って来なかった無法者の集まりだと言われてきた魔族連合国軍が策を使って、戦術的な勝利を得たと言う事だ。
それも、ここ数年の人類連合国軍連勝が作られた連勝であったとすれば、戦略レベルで策を用いられたと言う事になる。
「何が魔族連合国軍の衰退だ……。手のひらの上で踊らされていただけではないか」
ミンツ元帥は、魔族連合国軍の最高司令官が恐ろしく知恵のある者だと、考え始めていた。
歴史を見れば、分かる。
質より数な魔族連合国を、数より質の人類連合国軍が、質を持って数を制していた。近年では質と数を取り揃え始めて来たし、連勝によって士気も高まっていた。
だからこそ、魔族連合国軍の衰退が見え始めてきたとなっていた。
それが、今まさに覆されようとしている。
質を高め、数を集めれば勝てると思い込んできたし、それが魔族相手の戦争に勝つ方法だと思って来た、いや刷り込まれてきた人類が今までの価値観を改め無ければ今後の戦争は激化どころか、一方的に人類連合国軍が敗退するだろう。
そんな薄ら寒い恐怖の種がミンツ元帥に芽吹き始めていた。
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