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最後の思い出  作者: 蓮里
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幼馴染の頼み

「サーラ! なあ、頼むよ」

 この通り、と頭を下げられて、私は閉口するしかない。

 腕の中でピルルが馬鹿らしい、と呟く。魔力の無い目の前の幼馴染には聞こえないことを分かっていても、ドキっとしてしまう。

「……やっぱ、ダメか?」

 顔を上げ、困ったように首をかしげて私を見る幼馴染は、まるで捨てられた小犬のような目をしていた。

 はあ、とため息をついて頷く。

 どこかで罪悪感があった所為かもしれない。私はこの幼馴染に薬を盛るつもりなのだ。

 何よりこれでもう最後だ。いつまでも突っぱねているわけにもいかない。

「わかったわよ。それで、何が欲しいんだっけ?」

「告白がうまくいくようなもの!」

 なんて大雑把な……

 呆れたような表情でピルルが「バッカじゃないの」と悪態を突く。

「あのね、もう少し具体的に。告白がうまくいくって、それはちゃんと伝えられたらそれでいいの? 違うでしょ。付き合いたいとか、そういうことでしょう」

「もちろん」

「じゃあ、指輪かしら。でもそれはあんたを後押しするものだから、彼女に渡す物も何か用意しないといけないわね」

「手っ取り早く、縁を結ぶ指輪、みたいなのは無いのか?」

「あんたね、考えてもみなさいよ。例えばよく知りもしない相手から指輪を渡されたとするけど、黙ってそれを指にはめられる?」

「……確かに、いきなり渡しても引かれるだけか」

 こんなに哀しくむなしいこともないと思いながらも、私の口は動く。

 自分の想いも遂げられないような魔女が、魔法で人の恋の後押しなど滑稽にも程がある。

 もしおばあちゃんがこんな私を見たら、なんて言うのだろう。



 結局、告白する為の勇気をもたらす指輪と、彼女へ贈るための首飾りを作ることになった。

 代金は高いわよ、と冗談交じりに見送った私に、あいつはもちろん、と笑顔。

 幼馴染、友達の気軽さ。だからあいつは屈託の無い笑顔を平気で見せてくる。

 私がそのたびにどんな気持ちになるのか、知っているはずもない。

「今夜は良い月が出そうね」

 空を眺めて呟く。夕日の眩しさに目を細め、振り切るように背を向けた。




 作業場に月明かりが差し込んでいた。

 それに出来上がったばかりの指輪を掲げると、はめ込まれた赤い小さな石が月明かりに反射する。

「ま、こんなものかな」

 あくまでもこれは告白の勇気を出すための物。絶対の成功を保証する物ではない。けれど勇気があいつから言葉を引き出してくれさえすれば、おそらく大丈夫だろう。

 彼女へ贈る首飾りには、同じ赤い石を使う。同じ石を使うことで、それの所有者を引き寄せ合うという効果が生まれる。首飾りに掛けられた魅惑の魔法がそれに作用して、彼女はあいつの告白に興味を持ち、ついでに小さいながらも好意を抱くはずだ。


 それぞれを小さな袋に入れて封をすると、私は鍋の載った作業机へ。

 蓋を開けると、変わらず液体は私の顔をぼんやりと映す。おばあちゃんならきっと、もっときれいに映るように作るんだろうなと考えながら、もう一度私の顔をじっくりと映して、最後の材料を入れる。

 入れた瞬間に波紋を広げた液体はゆらりと赤い煙を立ち上らせた。

「……完成、かな?」

 魔法書の該当ページをめくって指で辿り、頷く。

 問題ない。赤い煙が上がれば、それは薬として成功の合図だ。

 赤茶色の液体を掬い、透明な小瓶に移す。

「完成しちゃったんだ」

 ピルルがいつの間にか作業机に乗って悲しそうに呟く。

「別に一生ものじゃないわよ。せいぜい一週間ぐらい。思い出作りしたっていいじゃない。そしたらもう忘れるわ」

「忘れられるの?」

「忘れるわよ。……忘れるしかないじゃない」

 ふーん、とピルルは信じていないような様子で私を眺め、ぷいと背を向けて作業場を出て行った。


 忘れよう。忘れないといけない。

 この町を出ると決まった時から、覚悟していたことだ。



 おばあちゃんは小さかった私を連れてこの町で魔法の雑貨屋「魔女の道具箱」を始めた。

 とは言っても実は、店名も店舗も別の魔女が営んでいたもので、おばあちゃんはこの町には店を引き継ぐために派遣されて来たのだ。

 前の魔女は別の町へ移った。

 今もどこかの町で同じように「魔女の道具箱」という店を営んでいるだろう。


 この世界で生きる魔女たちには大きなつながりがあって、それぞれ町に派遣されて雑貨屋を営む。

 魔法の雑貨で人々に貢献しながら町で過ごし、また別の町へ派遣され、店を継ぐ。

 期間は短くても三年。おばあちゃんは腕が良かったから、ずいぶん長いことこの町にいて、葬儀には町の人たちも結構来てくれた。

 あれから二年。今の私はあくまでもおばあちゃんの代理で、けれどそれもお終いとなる。

 私自身は、これから別の町で一人の魔女として、雑貨屋を営まなくてはならない。


 あいつとはそれでお別れ。だけど私は町を離れることをあいつには話していない。

 店に来るあいつは想いを寄せる彼女の事を一方的に話すだけで、私の話なんてほとんど聞かないからだ。

 でもそれでいいのだとも思う。別れを告げたら、私が寂しくなってしまう。


 なのに、私はあいつに薬を、惚れ薬を飲ませようとしている。

 告白を考えている幼馴染に対するにはひどい仕打ちだと、自覚はある。

 だけど、もう会えないから。最後に思い出ぐらい、作ってもいいのではないか?

 そんな自分勝手な思いがあった。


 小瓶を月明かりに掲げて、呟く。

「この薬の効果が切れたとき、あいつが私を忘れますように」

 そして私が、あいつを忘れられますように。

 祈りを込めてぎゅっと小瓶を握り締めると、途端に重さが増したように感じた。


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