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最後の思い出  作者: 蓮里
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惚れ薬

初めてなので至らないところはあると思いますが、少しの間だけお付き合いください。



 最後の思い出に、幼馴染に薬を盛ろうと思い立つ。

 おばあちゃんの魔法書を読んで作った薬。

 言葉にするとなんだかむず痒い気分になるそれの名前は『惚れ薬』



 鍋の中を覗き込み、ホッとした。とりあえずは順調に進んでいるらしい。

 この薬は最後の材料を入れるまでに、顔が映りこむような状態になっていなければならない。輪郭はどこかぼんやりしているが、私が作ったにしてはまあまあの出来だろう。

 カタン、と言う音に驚き、肩を揺らして背後を振り返ると、棚に乗った茶色い縞柄の子猫がじっとこちらを見ていた。思わず胸をなでおろす。

「……なんだ、お前なの。ピルル」

「おばあちゃんの本を開いていると思ったら、何作ってんの?」

 生意気そうな声で喋った子猫が、取ってつけたように「にゃあ」と鳴く。

「見てわかるでしょ」

「わかるよ。惚れ薬なんて生意気」

「あら、悪い? それよりピルル、ずっと見ていたって事は暇みたいね。だったら少しは魔法に使う薬草でも見つけてきなさいな。お前のお母さんのリリファはきちんとおばあちゃんの役に立っていたわよ」

「またそうやってお母さんの話を持ち出す! どうせ僕は未熟な使い魔だよ」

 ぷい、とピルルは顔を背ける。それを眺めてため息をついた。

 使い魔と魔女は互いを映す鏡。ピルルの未熟さは私の未熟さだ。

 こんな状態で、新しい町でやっていけるのだろうか。



 二年前に死んだおばあちゃんはとても力のある魔女で、その使い魔であるピルルのお母さんは私よりもよほど強い魔力を持っていた。

 けれどおばあちゃんの死後、ふらりとどこかへといなくなってそれきり。

 私には彼女が産んだ、まだ小さかったピルルが残された。

 最初は鳴き声だけだったピルルも、あっという間に言葉を覚えて会話が出来るようになっていた。生意気ざかりで憎まれ口も叩くけれど、ピルルがいてくれるおかげで寂しくは無い。

「ところでそれ、誰に飲ませるの?」

「私にそれを訊くの?」

「……ああ、あいつか」

 ピルルは途端に興味を失ったように、くあ、とあくびをこぼす。

「最後だもの。いいじゃない」

「最後だったら薬に頼るなよ」

「だからこそよ。お前だってわかっているでしょう。私がこんなものにしか頼れないことぐらい」

「……そりゃ、そうだけどさ」

 ピルルが身軽な動作で棚から作業机に飛び乗り、鍋を爪で引っ掻いて見上げてくる。

「サーラ。僕じゃ頼りにならないのか?」

 拗ねたようなピルルの声と眼差し。私は思わず笑ってその体を抱き上げた。

「バカね。あいつとお前じゃ役割が違うでしょう」

「でも、あいつはサーラを見てないよ。あいつが見てるのは……!」

「ピルル」

「……ごめん」

 うなだれるピルルの喉を撫でてやりながら、私は小さく息を吐く。


 わかっている。あいつが見ているのは私ではないことくらい。

 本人から何度となく聞かされているのだから、嫌と言うほど理解している。



 あいつと出会ったのは私がまだ小さい時で、おばあちゃんとこの町に来て、雑貨屋を始めて間もない頃のこと。

 お隣に住む一つ上の男の子は、人見知りがちな私に笑いかけてくれた。

 それだけで幼かった私は好意を持った。単純だったけれど、それでよかった。


 外で遊んだり、あいつの宝物だという夕焼けのきれいな景色を見せてもらったり、私はおばあちゃんの手伝いのかたわら、あいつといつも遊んでいた。

 兄弟のいない私にとってのあいつは兄のようであり、時々間の抜けたことをやらかすので、弟のようでもあった。


 それが変わったのは二年前。

 おばあちゃんが死んで、悲しみに暮れ、泣きつづける私の肩を抱いて、ずっとそばにいてくれた。

 ようやくその時に気付いた。ああ、私はこいつのことが好きなのだ、と。

 けれど、それまでは幼馴染の気軽さだけで接してきていたから、ただの友達でしかなく、関係を変えられるとは思えなかった。


 そして一年前。

 あいつは突然お店に飛び込んできて言った。「好きな子が出来た」と。

 聞かされた瞬間の私は、よく泣き出してしまわなかったものだと後で感心したくらい動揺していた。

 私の動揺に気付かなかったあいつは、その相手のどこが魅力的か、ということを頼んでもいないのに聞かせてくる。相槌を打つ私の声は震えていた。

 なんて奴だろう。

 そう思うのに、頬を紅潮させて相手の事を語るあいつの顔に、くやしいほどに惹かれた。

 それから一年。あいつはまだその相手に告白すらしていない。それどころか、挨拶を交わすだけで精一杯なのだそうだ。

 特に口下手、と言うわけでもないあいつにしては、珍しいことだと思った。

 いざとなると言葉が出ない、と恥ずかしそうに話すあいつの姿に、今まで気付かなかった慎重な面を知ることが出来て嬉しいのと同時に、大きな壁を感じた。

 私はあいつに、そんな表情をさせられない。



 カランカラン、と店のほうから聞こえたベルの音にため息をつく。

 思い出していれば、ほら来た。あいつだ。

 幼馴染は今でも時々店へやってきては、私に彼女のことをあれこれと話す。商売の邪魔だと追い払おうとしても聞き入れやしない。

 そして最近はある事を頼みに来るようになった。


「いこうか、ピルル」

 にゃあ、と腕の中でピルルが鳴く。

 作りかけの薬が入った鍋に蓋をして、作業場を出てお店へと戻った。


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