機動破暴班ホバイカー 【シナリオ形式】
<解説>
32ページ想定、近未来メカもの…というか、ロボットバトルというか(汗)。
タイトルは誤植ではありません。
またテーマはSFではなく(考証が不適当)、実は「和装萌えモノ」です。(爆)
<粗筋>
多民族国家となった未来の日本の某県。県警「機動破暴班」のコシローとエリックは、ふたたび高まりつつある人種差別の風潮に悩まされながらも職務遂行中。ある日、テロ宣言に対し極秘に「特別警戒態勢」が発令されたが……。
<人物>
コシロー:
コシロー=ヤン。22歳、機動破暴班員。中国人と日本人のハーフ。普段は昼行灯だが、ショーコのこととテロのことに対してだけは強烈な殺気を発する。
ショーコ:
ショーコ=ヤン。28歳、コシローの姉。ファーストフード「Magic's」の店長。実年齢よりやや若く見える。
ルーシー:
ルーシー=メイ=スン。17歳、昔風にいうと「不良少女」。
エリック:
エリクソン=ハフェーカー。23歳、コシローの同僚でアフリカ系(黒人)。
ヤス:
ヤスタカ=サイジョー。29歳、キャリアの署長。キレ者インテリ風の男。
カンロン:
沈香会の一味。テロの請負人。
子分A:
カンロンの子分の一人。
売人:
麻薬の売人。カンロンの子分の一人。
子分たち:
カンロンの子分たち。
店員A:
「Magic's」の店員。
店員たち:
「Magic's」の店員たち
父:
犠牲者。
母:
犠牲者。
息子:
犠牲者。高校生ぐらいの男の子。
<小道具>
ホバイク:
アーマーに変形する大型バイク。重量感のあるデザインでお願いします。
破暴班用特殊バイク。バイク形態を「ホバイク」、アーマー形態を「ホバイマー」と記してます。ホバイマーの腕には小型ロケット弾が仕込まれてます。
モバイル:
小型のモバイルパソコン。旧式だが警察の正式装備。メモリカード排出機能付。
腕コン:
TV電話も兼ねた腕時計型コンピュータ。市販品。
サーモンボウル:
シャケ丼。塩ジャケを、醤油・味噌・酒で味付けし野菜といっしょに炒めてどんぶり御飯に載せたもの。
その他~
*セリフに「ら抜き」等、不適切な表現がありますが「時代考証」です。(笑)
*モブシーン等は、できるだけ多様な人種を取り混ぜていただけるよう希望します。
各種民族衣装とか和服とかもできるだけ。
*イバラキ/トネガワ/イシオカ/チバ等の地名は仮のものです。作画さんにイメージし
易い場所があれば適当に変更してください。
○ 暗い部屋の中。
父・母・息子が、隅に追いつめられて怖がっている。
カンロン「へへへ…」
カンロンとその仲間たちが不気味に笑う。
カンロン「こいつぁ見せしめだ。恨むんなら、盗みをやった息子を恨むんだな。」
ギィィィ…と、迫る、機械的な影。
父・母・息子「ひ…ひぃっ!」
飛び散る血。
○ 新聞記事。
記事「強盗か、無差別テロか?」「一家3人惨殺」
他の記事「5人死亡、8人重症」「地方に広がる暴力の輪」
他の記事「監禁拷問」「犠牲者5人」「警察は打つ手無し?」
他の記事「千葉で外国人排斥テロ」「尊攘派の犯行声明が」
○ 車の中。
ヤスが新聞を読んでいる。エリート臭ぷんぷんの若い男。
ヤス「ふん!」
バン!と音を立てて、ヤス、不機嫌そうに車から出る。
○ そこは警察署の駐車場。
ヤス、車の横で警察署を見上げて。
ヤス「…イナカに来ちまった。」
○ サイバーパンク風の未来の高速道路、昼間。
キャプション「2086A.D. 秋 県=イバラキ」
○ パーキングエリア。
二台のホバイクが止まっていて、その向こう、自販機の側にコシローと
エリックが。
コシローは背の高い東洋人、エリックは小柄な黒人。
コシローとエリック、ドリンクを手に休憩中。
エリック「ようやく涼しくなってきたな、コシロー。」
コシロー「ああ…夏場はきつかったもんな。」
エリック「ホバイクもエアコン付にならんもんかね?」
コシロー、紙コップを「再生資源」と描かれた箱にほうり込む。
コシロー「エアコン付バイクなんて聞いたこと無いよ。」
エリック、ホバイクを撫でながら
エリック「これだけごてごて装備がついてるのに、なんで快適性はゼロなんだ、
ホバイクってやつぁ?」
エリックが振り向くと、
エリック「なあ、コシ……あれ?」
コシローはいない。
○ W.C.。
コシローが手を洗ってると……
○ W.C.の外。
ルーシーと、売人が会っている。
ルーシー「持ってきたわ」(現金を見せてる)
売人「……まいど。」
ルーシー「今度はちゃんとしたもの?」
売人「疑うのか? クラシック・ブラックの上物だぜ。」
いきなりルーシーの後ろから、
コシロー「レトロなものが流行ってるな。クラシック・ブラック…19世紀風の
アヘンかい?」
ルーシー「イヌ《スモーキー》!?」
コシロー「おっと!」
ルーシーと売人は逃げようとするが、コシローはルーシーを捕まえてしまう。
売人は走って逃げていく。
ルーシー「は、はなせっ、畜生! なんてあたしだけ捕まえるのよ!」
コシロー「運が悪かったな。楽な方から捕まえるのが効率いいんだ。」
○ パーキングエリア
ルーシーを捕まえ、ホバイクのところへ戻ってくるコシロー。
エリック「なんだ、仕事サボってナンパか?」
コシロー「バカヤロー現行犯逮捕だ。調書とるぞ、エリック。」
コシロー、ルーシーの身分カードを見ながら
コシロー「ルーシー=メイ=スン。東洋人と白人のハーフ…高校生か?」
ルーシー(不服そうに)「そうよ!」
コシロー、モバイルにデータを打ち込みながら
コシロー「親からもらった金をクスリなんかに使うのは感心しないな。スン…
スン、と…」
ルーシー「自分で稼いだ金よ! 何に使うかぐらい自由でしょ!」
コシロー「へえ…自由。何で稼いだ?」
ルーシー、答えられずそっぽ向く。
モバイルから排出されたメモリカードを手に取りつつ。
コシロー「たしかにニッポン帝国は自由の国だ。だけどな、法律っていう
ルールはあるんだぜ。テンノーだって法律破ったら処罰されるんだ。」
コシロー、メモリカードをルーシーの胸に押し付け、
コシロー「クスリをやりたきゃ、法律で禁止されてない国へ行ってやってくれ。
この国でやったら悪い奴が金儲けするだけだから。」
ルーシー渡されたメモリカードを見て。
ルーシー「え? これ、何…調書?」
コシロー、ホバイクにまたがりヘルメットと手袋を装着しながら、
コシロー「初犯みたいだから。」「サインはしといたが、それ持って自首する
なり、再生カゴに捨てるなり、好きにしろ。」
コシロー、エンジンを起動。
ルーシー「いいの?」
コシロー(微笑)「麻薬の取締まりは俺たち機動破暴班の仕事じゃ
ない。点数にならないんだよ。」「ま、深みにはまる前にクスリはやめとくん
だな。」
走り去っていく2台のホバイク。
コシロー(書文字で捨てセリフ)「Zai-Jian《再見》!」
呆然とカードを見てるルーシー。
ルーシー「ホバイカー……楊小四郎《コシロー=ヤン》?」
○ インターチェンジ、夜。
赤信号でホバイクか止まってる。
コシロー「イシオカのマジックスに寄っていっていいかい、エリック?」
エリック「軽く食っていくか。」
青信号。突っ走っていく2台のホバイク。
○ マジックス、外装。
「Helthy food "Magic's"」と筆記体がデコレートされたサイン。(ファースト
フードの看板)
○ マジックス、店内カウンター。
そこは和食のファーストフード店。カウンターに二三の客が。店員は大正風
和装。
店員たち「ありがとうございましたー」「ただいま、セットがお安くなって
います」
カウンターに並ぶコシローとエリック。
コシロー「サーモン・ボウル・セット。飲み物はドクダミチャ・ティーの
アイスで。」
店員A「ごいっしょに新発売のキンザンジ・ピクルスはいかかですか?」
コシロー「んじゃそれも。」
○ マジックス、店内客席。
ポットを手にした和装の店員がうろついてる。
店員「入れたてのソバチャ・ティーのお代わりはいかがですかー?」
テーブルに着いて、ドンブリメシをかっこんでるコシローとエリック。
器等は、漆器や竹など、中途半端に日本風の素材。
エリック「サーモンボウル…シャケ丼か。日本食は健康にいいんだってな。」
コシロー「味噌と醤油で塩っぱくしただけの偏ったメニューが健康にいい
もんか!」
コシロー、箸を手に主張。
コシロー「だいたいな、今の時代は、ニッポンで日本食を食うのに、美味くも
ない外資のチェーン店に入らなきゃならないってのが……」
ショーコの声「コシロー」
コシローの後ろに来た、髪を束ね店の制服姿でポットを手にしたショーコ。
コシロー「やあ、姉さん」
ショーコ(苦笑)「ほとんど毎日ウチで食べときながら、えらい言い草ね。」
コシロー(ごまかすように)「いや、感謝してるよ! 姉さんのおかげて学校も
出れたんだし。ただね、日本人として、伝統文化の……」
ショーコ「半分だけでしょう。昔から、都合によって中国人になったり日本人に
なったりするんだから、あなたは。」(溜息)
ショーコ「そんなことより、仕事はどう? 少しは成績上がってる?」
コシローとエリックは首を横に。
コシロー「ダメダメ。」
エリック「俺達の点数になる仕事は廻ってこないよ。」
コシロー「交通取締まりの手伝いばかりさせられて、ぜんぜんさ。」
ショーコ「ま、チバやサイタマより平穏だもんね、イバラキって。」
エリック「今時暴力事件にあいたけりゃ、トネガワ・リバーの向こうへ行か
ないと。」
ショーコ「だからこそ、オマワリさんがこうやってノンビリしてられるわけね。」
コシロー「ひでえ……」
店員の声「店長~、ちょっと……。」
ショーコ(愛想笑いを残して去りながら)「じゃ、ごゆっくり~。」
(書文字)「再見!」
エリック「じゃあまた♪」
○ 駐車場。
ホバイクにまたがるコシロー。
エリック「ショーコさんっていったっけ? いい人だよな、コシローの姉さん。」
「やっぱり中国系日本人なの?」
コシロー(手袋を着けながら)「いや、姉さんは生っ粋らしい。」
コシロー、ホバイクの装備を点検する。
エリック「『らしい』って…?」
コシロー「親父が違うって聞いたことがある。姉さんはサカナの干物からミソ・
スープを作れる天然記念物だ。」
エリック「へえ…ところで、彼氏はいるのかな? もしいなかったら……」
コシロー「姉さんにちょっかい出したりしたらエリック、たとえオマエでも…」
静かに睨み付けるコシロー。
コシロー「殺すぞ。」
エンジンをふかし先に出ていってしまうコシロー。
エリック「お、おい、待てよ!」
○ 警察署。朝。
○ 署内。
誰か「おはようございます」「ニイツァオ」「グーテンモルケン」「サワディー」
「ブェナスタルデス」「ブォンジョルノ」「モーニン」……
様々な言語が飛び交う。
○ タイムカード前。
タイムカードとセットになってるモニターに何か表示されてる。
エリック「信じられるか、コシロー? 100年ちょっと前にはイバラキには日本人
しかいなかったって話だぜ。」
コシロー「都市伝説だろ。それより、新任の署長に呼ばれてるみたいだ、俺達。」
○ 署長室。
モニターを前にデスクでふんぞりかえってる、ヤス。
名札に「西條靖浩 / Yasu Saijou」の文字。
ヤス「エリックソン=ハフェーカー。コシロー=ヤン。この署の破暴班は二人
だけか?」
ヤス、書類をデスクに置き
ヤス「資料によれば、ハフェーカーはアフリカ系米国人の二世、ヤンは中国系の
混血だそうだな。」
コシロー「そうです。」
ヤス「やれやれ…警察までガイジンだらけか。これだから外人排斥
なんかが起こるんだ。」
コシロー「お言葉ですが。我々は学歴経歴等、所定の条件を満たし試験に合格して
任務に就いてます。人種は関係ないと思いますが。」
エリック「おい、コシロー」
ヤス「……ああ、そういうことにしとこう。ナニ人だろうと、つまるところは
仕事ができればそれでいい。で、二人は戦争のことは聞いてるか?」
コシロー「戦争? どの戦争ですか?」
ヤス「タイがアフリカの独裁国に軍を送ったあれだ。」
エリック「パックス・アメリカーナが終って、時代はパックス・タイランドです
ねい。」
ヤス「東アジア同盟条約に基づいての国防軍派遣に伴い、抵抗組織から日本国内
での無差別テロの予告があったそうだ。」
コシロー「ニュースで見ました。」
ヤス(コシローを無視して)「この春から施行された破暴法にもとづき、本日より
極秘に特別警戒態勢に入る。」「しかし機動破暴班がオマエら2人しか
いないんじゃ、24時間勤務だぞ?」
敬礼するコシローとエリック。
コシロー(吐き捨てるような小声)「(書文字)…遵命《Zong Ming》!」
○ 地下駐車場。
エリック「ケッ、こっちよりトキオやチバの方が人員は優先、か!」
コシロー「ボヤいても始まらないよ。」
エリック「どうする? 俺みたいな黒い奴を手当たり次第に調べてみるか?」
コシロー「お前まで外人差別か、エリック。」
考えてるコシロー。
コシロー「本気でテロをやるなら、多分、めだたない黄色い奴を使うんじゃない
かな? ジャパニーズ・ヤクザとか、チャイニーズ・パンとか。」
エリック「おいおい…ニッポンに黄色い奴なんか、8千万人はいるぜ?」
コシロー「ま、防止は俺達ホバイカーの仕事じゃない。」
急に目が厳しくなり、
コシロー「出たら潰す。それだけだ。」
地下駐車場から飛び出す2台のホバイク。
○ 盛り場。
アミューズメントや各種のショップでにぎわっている。
埴輪風のデコレーションや、ゴシック風石造物など、文化的にごちゃごちゃ。
その通りを徒歩で歩いてる2人。
エリック「…こんなとこ歩き回ってても意味ないと思うんたけど」
コシロー「意味はないだろうけど…規定だから。」
エリック「破暴班は警邏に出るより、いざというときの為に待機していたほうが
正解だと思うんだよな、俺は……」
コシロー「何が正解か考えるのは署長の仕事。」
エリック「おい、コシロー」
コシロー「ん?」
道端で売人と話してるルーシー。
エリックの声「あれ、こないだのコじゃないか?」
コシローの声「・・・・・。」
エリック、振り向き振り向き
エリック「ぜんぜん懲りてない感じだぜ」
コシロー「点数にならない。去把(行こう)」
背を向けて振り向きもせず行ってしまうコシロー。
○ マジックス。
○ マジックス、店内客席。
ドンブリ飯をかっこみ中のコシローとエリック。
そこへショーコがやってきて
ショーコ「サボリ中のオマワリさん、麦茶のお代わりは
いかがですか?」
ぶっ、と吹き出す2人。
コシロー「ひでえな姉さん。警察だって食事くらい必要だろ。」
エリック「そうそう。」
ショーコ(お代わりを注ぎつつ)「でも、特別警戒態勢とやらが始まってるんで
しょう?」
おどろく2人。
コシロー「な、なんで姉さんがそれを?」
ショーコ、腕コンのモニタを表示させて、
ショーコ「あら? 今時、警察の機密情報なんか、ネットでいくらでもわかる
わよ。」
コシロー、丼を手に溜息。
エリック「知らぬは警察ばかりなり、かい。」
ショーコ、腕コンを操作しながら、
ショーコ「特別予算がずいぶん降りてるようね。残業手当がバンバン付くんじゃ
ない?」
コシロー「姉さん、警察に残業手当はないんだ。」
ショーコ「?」
コシロー「特別予算なんざどこで何に使われてるのか知らないけど」
エリック「俺たち現場にまではまわってこないんですよ。」
ショーコ「やだ…じゃあ今時、サービス残業?」
エリック「お役所のシステムってのは、何年経っても変わらないもので
ね。」(苦笑)
ショーコ「コシロー、あなた、もっと割のいいとこに転職しない?」
コシロー「たとえばどんな?」
ショーコ「シャパニーズ・ヤクザなんかどう? あなたたちならいいところ
行けるんじゃないの。」
吹き出す二人。
コシロー「姉さん、冗談でもそういうことは…!」
店員A「店長、ちょっと…また来たんですが。」
ショーコ(困惑)「また?」
エリック「どうかしたんですか?」
ショーコ「いえ、何も。それじゃ、ごゆっくり。再見!」
コシロー、竹コップのお茶をすすりながら
コシロー「・・・・・。」
○ マジックス、事務室。
子分A「つまりですね。この『マジックス』ができてから、近所の店はあがった
りなんですよ。」
ショーコ「はあ。」
子分A「共存共栄のために、お互いに協力し合おうというお気持ちになれません
かね?」
ショーコ「・・・・・。」(困った顔)
ショーコ、立ち上がり
ショーコ「ちょっと失礼します。」
○ マジックス、厨房。
店員A「店長…」
ショーコ「何が共存共栄だか。『近所の店』とやらも脅してお金を取ってるくせ
にね。」
店員A「でも、払わないとイヤガラセされますよ。」
ショーコ「ええ、わかってるわ。店内をガラの悪い奴らにたむろされたり、
バルブ開いた屎尿処理車にバックで店のウインドーへ突っ込まれたり。」
(嫌なことを思い出す)
店員A「やっぱり、警察を呼びましょうよ。」
ショーコ、困惑。
ショーコ「だめだめ。あいつ、『商店共済組合』を名乗ってるでしょう。
『民事不介入』とか言われるだけよ。前の店でも……。」
子分Aの声「いつまで待たすんだ!!」
○ マジックス、裏口。
ショーコ「……とにかく、本店営業部に諮らないと、私の一存では出せま
せんので。」
子分A「そうかい。よくわかった。」
子分A、車に乗りながら
子分A「店長サンがそのつもりなら、こっちも遠慮はしねえからな。」
去る車を、ショーコ、緊迫感のある顔をしながら見送る。
○ マジックス、事務室。
店員A「やはり警察に届けたほうがいいですよ。何が起こるか……」
ショーコ「ダメって言ったでしょう。被害が出てからでないと動いてくれない
のよ。」
店員A「でも、被害が出てからでは手後れです」
ショーコ「コシローが警察に勤めてくれて、すこしはましになるかと思ったん
だけど。」「ニッポン帝国の警察は融通が利かないのが、いいとこでもあり
悪いとこでもあるのよね。」(溜息)
○ 所長室
コシローとエリックが報告中。
ヤス「成績が上がってないな。」
エリック「はあ。いまのとこ、平穏です。」
ヤス「まずいな。なんとかならんかな。」
エリック「は?」
ヤス「いや、いい。行け。」
コシロー&エリック「ハッ!」(敬礼)
二人が出て行く音。
ヤス「・・・・・。」
ヤス「田舎まわりは金にはなるが、地位にはならないんだ、クソッタレ。」(溜息)
○ 安アパートの一室。
電気の消えた部屋、かちゃっ、ピーンと鍵が開けられてしまう。
ピンを手に入って来てのはルーシー。
ルーシー、ペンライトで開けた引き出しを照らす。
ルーシー「あった、あった。白いのも黒いのも。へへへっ。」
粉の袋をポケットに仕舞いながら
ルーシー「いちいちお金払うのは馬鹿馬鹿しいもんね。」
突然、ぱっ、と明りが点く。
おどろいて振り向くルーシー。そこには、カンロンと子分たちが。
カンロン「よくいるんだ…お前みたいに、金を払う気がなくなる奴が。」
○ 路上、夜。
ホバイクで走っていたコシローとエリック。
無線「事件発生、事件発生! 数人が人質を取ってファーストフード店に
立て篭もった模様。犯人は小火器で武装しており、外国語を話してる。
テロの可能性あり。現場は…」
コシロー「エリック」
エリック「行こうぜ!」
○ マジックス。
シャッターが下ろされてる。
○ マジックス、店内。
隅に集められてる店員や客たち。ショーコやルーシーもいる。
カンロン「ふふふ、一回でいろんな用事が終っちまう。」
売人「上部組織から命令の派手な人質テロ、裏切り者の処罰、逆らう店の
みせしめ。こいつは効率がいいですね。」
ぶるぶる震え出すルーシー。
が、そっと抱きしめるショーコ。
ショーコ(強い表情で)「希望を失ったら、あいつらの思うツボ。」
ルーシー(ショーコを見上げて)「・・・・・。」
ショーコ「助けは必ず来るわ。諦めたら負けよ!」
ルーシー「・・・・。」
ルーシー、コクッ、とうなずく。
○ マジックス、駐車場
周囲に非常線が張られはじめている。
エリック「よりによってマジックスか!」
コシロー「・・・・・。」
コシロー(通信機に)「…破暴法に基づき、破暴班、突入します。」
通信機「許可します。」
ホバイクで突っ込む2人。
コシロー「行くぞ!」
エリック「オウ!」
○ マジックス店内。
大音響と共にシャッターを破って突入した2台のホバイク。
驚愕するカンロンたちと人質たち。
2台のホバイク、店内の床の上で停止。
コシロー「機動破暴班だ! おとなしくしろ!」
ショーコ「コシロー!」
ルーシー「え、コシロー!?」
コシロー(冷たく)「抵抗した場合、破暴法…破砕暴力活動法第9条に基づき……」
子分A「畜生!」
発砲。
置きあがり変形を始めるエリックのホバイク。
すでに変形完了して、ホバイマーとなり、銃弾を跳ね返すコシロー。
子分A「何!」
コシロー「破暴法第9条に基づき」「現行犯処刑する!」
ホバイマーの腕から小型ロケット弾が。
爆発に巻き込まれる子分Aや売人たち。
人質をかばってるエリックのホバイマー。
ショーコの腕の中で、驚いて目を見開いてるルーシー。
ホバイマーと似たようなアーマーがカウンターの向こうから現れる。
それはカンロンのアーマーだった。
カンロン「こういうのを持ってるのは警察だけじゃないんだぜ!」
ギリギリと機械音を響かせながら対峙する両者。
突如始まる格闘。店内を壊しながら戦いが続く。
一時はカンロンが優勢となるが、最後はコシローが上に乗り、
コシロー「おまえらみたいのがいるから、尊皇攘夷テロ《ソンジョー》なんて
ものが復活しちまったんだ!」
カンロンのアーマーの胸に拳を当て、
コシロー「現行犯処刑する!」
カンロン「うわ!」
ノドに至近距離からロケットを撃ち込む。
大爆発。
ショーコ(ルーシーを抱きしめて守りながら)「コシロー!」
やがて煙が晴れてくる。
煤がこびりついたボバイマー。
それが変形してホバイクに戻る。
コシロー、ヘルメットを脱ぐのももどかしくホバイクを飛び降り、
コシロー「怪我はないか!?」
涙目で走り出すルーシー。
ルーシー「コシローさんっ!」
すかっ、とすれ違ってしまうルーシー。その後ろで、
コシロー「怪我はないか、姉さん!」
ショーコ「え…ええ、私は大丈夫よ。」
呆然としてるルーシーとエリック。
○ 修復されたマジックスの店内。
そこそこお客さんが入ってる。
食事中のコシローとエリック。その側にショーコも。
コシロー「よかったね、姉さん。店が再開できて。」
ショーコ「ええ!」「今度ばかりはコシローたちに助けられちゃったかな。」
コシロー「…まあ、ホバイカーの仕事だから。」
ショーコ(腕コンを見せ)「ところで、かなり報奨金が降りたみたいね。何に
使うの?」
エリック「それが……」
コシロー、目の前の丼を指差す。
ショーコ「は?」
コシロー「まさか、シャケ丼一杯分しか廻ってこないとは
思わなかったよな。」
エリック「途中でいったい何人がピンハネしたんだか。」
ショーコ「何でもっと要求しないのよ!」
コシロー(困惑)「事務処理は俺たちホバイカーの仕事じゃない。」
ショーコ「困ったわね…それじゃ、デートにも誘えないじゃない。」
エリック&コシロー「え?」
そこへ、店員姿の和装のルーシー、ポットを手に現れる。
ルーシー(照れながら)「あ、あの、コシロー、さん?」
コシロー「あ、ホージチャ・ティーのホット? お願いします。」
ルーシー、コシローにお茶を注ぐ。
ショーコ「この娘、今度うちで働いてもらうことになったの。」
コシロー「そうですか。よろしく。」
ルーシー(汗、汗)「それで、あの…この間はありがとうございました。
コシローさんに会ってから私も心を入れ替えて、真面目になろうと……」
コシロー「この間? …どこかでお会いしましたっけ?」
3人、驚く。
テーブルに置いたコシローの左手の上へ、ルーシーがポットをどんっ、と
置いて、つかつかと去ってしまう。
言葉が言葉にならず痛がるコシロー。
ショーコ「今のはあなたが悪いわ、コシロー。自分が守ってあげた女の子を
忘れたの?」
コシロー「守った? 俺が?」
ショーコ「そうよ。女の子は、守ってくれた男の子を頼りにするんだから。
あの娘、あなたのこと……」
コシロー「俺、姉さん以外の女の子は、別に守る気ないよ。」
驚いて真っ赤になるショーコ。驚いて真っ青になるエリック。
コシローの右手の上に、ショーコがポットをどんっ、と置いて去って
しまう。
またも涙を流して痛がるコシロー。
エリック(呆れて)「現行犯処刑…ですな。」
○ ロッカー室
ルーシー「もう一回グレてやるっ! (書文字)クラシック・ブラックで
トリップっ」
泣きながら、19世紀風の古風なパイプで阿片を吸ってる。
○
コシロー「(書文字) 再見《Zai-Jian》!」
手を振りながら走り去っていく2台のホバイク。
キャプション「2086年…多民族社会となり、暴力犯罪がエスカレート
したニッポン帝国に破暴法が施行され、機動破暴班が誕生
した。」
「当初は物議を醸し、形式的に置かれるだけのことも多いホバイカー隊だっ
たが、その真価が発揮されるようになるまでたいして時間はかからなかっ
た。」
-----終