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初期配置

作者: 藤紫
掲載日:2026/08/15

青き国は、北の果てにあった。

凍てつく風に晒された民の頬は青白く、吐く息は白く凍る。それでも彼らの胸には、青い炎が燃えていた。


自由。

それだけを求め、彼らは戦った。


白き国は、巨大な城壁に囲まれていた。

陽光を浴びることすら許されない貴族たちは、真珠のような肌を誇り、平民たちは灰白色の城壁を見上げて暮らしていた。

同じ白でも、生まれによって輝きが違う。

だから彼らは戦った。


平等。

それだけを求めて。


赤き国は、南の灼熱の大地にあった。

皇帝の気まぐれな寵愛ひとつで運命が変わり、気に入らぬ者には容赦なく鞭が振るわれる。

夕暮れになると、大地は血のような赤に染まった。

だから彼らは戦った。


博愛。

誰もが等しく愛される国を求めて。


三国は、何十年も戦い続けた。

世界の果てには、断崖絶壁のような黒い枠線が続いていた。

青の旗と、白の旗と、赤の旗が、同じ戦場で翻り、泥と血に汚れて色を濁らせながら落ちていく。


青は蒼黒く沈み、白は薄汚れた灰白色に成り果て、赤だけが乾いて黒ずんだ赤褐色となって地面にこびりついた。


「もう何年目だ、この戦争」


一人の兵士が、倒れた旗を見つめた。


「さあな」


隣の兵士が答える。


「自由も平等も博愛も、結局手に入った試しがない」

「……疲れたよ、俺は」


兵士たちの愚痴が、戦場の隅々に溜まっていく。

それでも戦いは終わらない。


やがて赤き国が青き国を降し、白き国も膝を折った。

三つの旗が、血に濡れた大地に並んだ。



その瞬間――


盤面が、無造作にひっくり返された。


「ハーッ、また負けかよ」


間の抜けた声が響いた。


「このボードゲーム、兵士の士気を高めるのめんどいんですけど…」


卓上に転がった青と白と赤の駒が、照明を浴びて艶やかな原色を取り戻す。

戦場で濁った色は、盤上に戻ればすぐに蘇る。


「はい、初期配置」


青き国は北へ。

白き国は中央へ。

赤き国は南へ。

自由も、平等も、博愛も。

すべては駒とともに、初期配置へ戻された。


「じゃ、もう一回」


三色の旗が、再び盤上に立った。


青は自由を求める。

白は平等を求める。

赤は博愛を求める。


そして――

また戦争が始まった。


窓の外では、夕陽が赤く燃えていた。

空は徐々に白み、やがて夜の青へ沈んでいく。


盤上の三国は、今日もまた始まる。

青は渇望し、白は断絶し、赤は燃え上がる。

誰かが盤をひっくり返す、その日まで。

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