初期配置
青き国は、北の果てにあった。
凍てつく風に晒された民の頬は青白く、吐く息は白く凍る。それでも彼らの胸には、青い炎が燃えていた。
自由。
それだけを求め、彼らは戦った。
白き国は、巨大な城壁に囲まれていた。
陽光を浴びることすら許されない貴族たちは、真珠のような肌を誇り、平民たちは灰白色の城壁を見上げて暮らしていた。
同じ白でも、生まれによって輝きが違う。
だから彼らは戦った。
平等。
それだけを求めて。
赤き国は、南の灼熱の大地にあった。
皇帝の気まぐれな寵愛ひとつで運命が変わり、気に入らぬ者には容赦なく鞭が振るわれる。
夕暮れになると、大地は血のような赤に染まった。
だから彼らは戦った。
博愛。
誰もが等しく愛される国を求めて。
三国は、何十年も戦い続けた。
世界の果てには、断崖絶壁のような黒い枠線が続いていた。
青の旗と、白の旗と、赤の旗が、同じ戦場で翻り、泥と血に汚れて色を濁らせながら落ちていく。
青は蒼黒く沈み、白は薄汚れた灰白色に成り果て、赤だけが乾いて黒ずんだ赤褐色となって地面にこびりついた。
「もう何年目だ、この戦争」
一人の兵士が、倒れた旗を見つめた。
「さあな」
隣の兵士が答える。
「自由も平等も博愛も、結局手に入った試しがない」
「……疲れたよ、俺は」
兵士たちの愚痴が、戦場の隅々に溜まっていく。
それでも戦いは終わらない。
やがて赤き国が青き国を降し、白き国も膝を折った。
三つの旗が、血に濡れた大地に並んだ。
その瞬間――
盤面が、無造作にひっくり返された。
「ハーッ、また負けかよ」
間の抜けた声が響いた。
「このボードゲーム、兵士の士気を高めるのめんどいんですけど…」
卓上に転がった青と白と赤の駒が、照明を浴びて艶やかな原色を取り戻す。
戦場で濁った色は、盤上に戻ればすぐに蘇る。
「はい、初期配置」
青き国は北へ。
白き国は中央へ。
赤き国は南へ。
自由も、平等も、博愛も。
すべては駒とともに、初期配置へ戻された。
「じゃ、もう一回」
三色の旗が、再び盤上に立った。
青は自由を求める。
白は平等を求める。
赤は博愛を求める。
そして――
また戦争が始まった。
窓の外では、夕陽が赤く燃えていた。
空は徐々に白み、やがて夜の青へ沈んでいく。
盤上の三国は、今日もまた始まる。
青は渇望し、白は断絶し、赤は燃え上がる。
誰かが盤をひっくり返す、その日まで。




